映画って人生!

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「午前4時にパリの夜は明ける」’80年代のパリ。時を経て再生される家族の物語!

 

2022年度フランス製作作品1980年代のフランス。深夜放送を聞いていたことが切っ掛けで、人生を取り戻す話。

日本の1980代も同じような環境にあったように思う。深夜放送ではなく深夜TVの方でしたが。(笑)

ストーリーがとてもシンプルで、フィーリングで観る作品だった。乳癌で失意の主人公ロット・ゲンズブールが人生を取り戻していくところを観るだけでも、この作品を観た価値がある。やはりフランス映画だ!(笑)

監督:「アマンダと僕」「サマーフィーリング」のミカエル・アース、脚本:ミカエル・アース モード・アメリーヌ マリエット・デゼール、撮影:セバスティアン・ビュシュマン、美術:シャルロット・ドゥ・カドビル、編集:マリオン・モニエ、音楽:アントン・サンコー。

出演者:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、エマニュエル・ベアール、他。

物語は

1981年、パリの街は選挙の祝賀ムードに包まれ、希望と変革の雰囲気に満ちていた。そんな中、エリザベートは夫と別れ、子どもたちを1人で養うことに。深夜放送のラジオ番組の仕事に就いたエリザベートは、そこで家出少女のタルラと出会い自宅へ招き入れる。タルラとの交流を通し、エリザベートや子どもたちの心は徐々に変化していく。(映画COMより)


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あらすじ&感想

冒頭、1981年5月10日、フランソワ・ミッテランが大統領に就任。パリ市街は改革気分に溢れていた。そこに家出の女性・タルラ(ノエ・アビタ)がやってきた。

夜、タワーマンションが立ちパリ市街。深夜放送の番組“夜の乗客”パーソナリティ・ヴァンダ(エマニュエル・ベアール)の囁き。「皆さん5月11日になりました。今夜も朝4時までヴァンダがお供します。この特別の夜の話を聞かせてください。電話番号は・・・先ずはパルバラの“ごらんよ”です」。

ここから一気に1984年に移る。これがミカエル・アース監督の時の進め方らしい。(笑)

1984年、主人公のエリザベートは40歳の専業主婦

高校3年の娘ジュディット(メーガン・ノーサム)と高校1年生の息子マチアス(キト・レイヨン=リシュテル)と共に市街が望めるタワーマンションで暮らしている。ジュディットは政治デモに参加する学生。マチアスは思春期真っ只中。

夫が女性のところに居つき戻らなくなり、エリザベートは離婚を決意し、父親の支援を受けながら自立することにした。これまでの苦しさを深夜放送で癒していた。ということで、子供たちの後押しもあり、ラジオフランスの番組“夜の乗客”の臨時採用試験を受けた。

面接はパーソナリティのヴァンダ。電話の受付係を勧めた。

「リスナーと繋がるだけでなく共有に値する言葉を受け止め電波に乗せられる人が欲しい、どうやってみる?」といきなりテストして採用された。もうこのことだけでエリザベートには革命だった!

ある夜、タルラから番組に電話があった

エリザベートがヴァンダに取り次いだ。タルラはゲスト出演することになった。

ヴァンダの問いに答えるタルラ。18歳、ホテルとか空きビルに住んでいるという。(笑)放送室はまるで戒告室のようだというのが受けた。声のいい子だった。

放送が終り、帰りがけのエリザベートが公園で休んでいるタルラを見つけマンションに連れ戻り、空き部屋を与えた。

朝食時、家族にタルラを紹介。一番興味を示したのはマチアスだった。(笑)

早速、マチアスとジュディットはタルラを誘い映画を見に行った。ちょうど入れ替え時で、タルラの機転で“タダ観”した。(笑)映画はパスカル・オジェ主演の「北の橋」(1981)だった。この映画は後述するようにこの作品にとって特別な意味がある。

夜、マチアスはタルラを誘って屋上に出て。ここからパリの夜景を眺める。「9時だから、じゃ行く」と去って行くタルラ。マチアスは彼女が何ものかを知らなかった。

“夜の乗客”スタジオ。エリザベートがロバンと名乗る男の電話をヴァンダに繋いだ

この男はヴァンダが嫌がる男だった。番組が終って、エリザベートは激しく叱責された。エリザベートが泣いていると男性スタッフのアレクシーに「彼女は強いが、泣いていることがある」と慰められた。ことのはずみでエリザベートはアレクシーとベンチの上でセックスに及んだ。いかにもフランスらしい。(笑)

ある日、スタジオが引けて、アレクシーをマンションに誘うと「仕事が残っている」と断られた。エリザベートは大きなショックを受けた。

マンションに戻って「男性はひとりしか知らない」と涙でタルラに話した。タルラは「男はクズ!」とエリザベートを庇った。エリザベートはタルラよって癒された。

夜、マチアスはタルラとデートしていた。タルラがセーヌ河の橋で見知らぬ男に「クリスティーヌ!」と声を掛けられた。マチアスが「クリスティーヌって良い名だ」と揶揄ると、タルラに押され河に落ちた。タルラは慌ててマチアスを追って河に飛び込んだ。

びしょ濡れでマンションに戻ったふたり。成り行きで結ばれた。マチアスにとっては初体験だった。翌朝、タルラの部屋を覗くとタルラは消えていた。

エリザベートとマチアスの失恋でこの年は終わった。(笑)

 1988年、パーソナリティのヴァンダの囁き「今日は少し特別な日です」から物語が続く

エリザベートの誕生日。以前から電話を受け付けつけています。彼女に手紙を“親愛なるエリザベートに」。

“夜の乗客”スタジオ一同、ディスコで派手に踊る。ヴァンダは煙草を吹かせながら、この時代を代表するスタイルで踊る。

マチアスは大学中退?マンションの管理をしながら小説を書いていた。ジュディットは大学生となり、マンションを出て学友とシェアーハウスに住んでいる。

エリザベートは昼間図書館で働き、“夜の乗客”の方はアルバイトとなっていた

そこで週3回、本を借りにくる男性ヒューゴと恋に墜ちた。

ベッドインで手術した乳房を気にしていると、ヒューゴは「繊細な人だ」と一蹴する。このことがエリザベートを女性に回帰させた。

エリザベートはマチアスと娘のジュディットのシェアハウス尋ねた。エリザベートはマンションを売る話をした。姉弟エリザベートに彼氏ができたことを知った。マンションに戻るとエントランスにタルラが倒れていた。

タルラは薬に冒されていた。別室に閉じ込めて介護した。マチアスの希望でしばらくマンションで面倒見ることにした。

タルラが回復したところで、マチアスが映画に誘った。パスカル・オジェは麻薬事故で無くなっていたが、彼女の出演作「満月の夜」(1984)を観た。

エリザベートはタルミに2度と薬をやらないことを誓わせ、“夜の乗客”スタジオに誘い自分がパーソナリティを務めている姿を見せた。ヴァンダは体調不良で、その代役を務めていた。タルミに仕事を持つことを勧めた

大統領選挙の投票日エリザベート一家は選挙を終えて、タルラが勤める映画館で映画を観た。その後、タルミを家族の一員に加え、食事会を持った。エリザベートは「一緒に過ごせることがうれしい。これもヴァンダのお陰!」と喜んだ。4人でダンスを楽しんだ。

タルミは女優として映画「破滅の日“にセリフのない役で出演。

これにエキストラとしてマチアスを誘った。マチアスはスタッフの男性と親しく話すタルミの姿に嫉妬し「これは不健康な仕事だ、辞めて欲しい、君を愛している」と告白した。タルミは「今の私の姿ならそう思うのは理解できるが、そんなに弱い女性ではない!家族の皆さんには感謝している」とこれを断った。

マチアスにとって2度目の失恋だった。

 エリザベートはマンションを処分してヒューゴのアパートに引っ越すことにした

 引っ越しの日。エリザベートはマチアスには、夫が出て行った日から書き始めた日記を、ジュディットには多産の像のお守りを渡した。

マチアスは自分のアパートに戻り母の日記を読み始めた

ヴァンダが番組で紹介したある詩人の言葉「他者は過去の私たち、他者が垣間見せるのは、私たちの破片や断片、彼らは私たちの夢を見る。でも他人同士だ、私たちはいつも、素晴らしき他人」と書かれていた。マチアスはタルミを思い出しながら、これまでの家族のことを思い出していた。

まとめ

ストーリーはシンプルで淡々と進む。とりとめのない話のようだが終ってみるとエリザベートは結婚し仕事をふたつも持つ人生を歩んでいる

 1980年代のフランスは喪失と再生の時代。これに合わせるようにエリザベートの家族も新しい時代を迎えていた。長い時間尺で観る、時代を感じる作品だった。

 エリザベートの再生物語乳癌による乳房の切除が大きなトラウマになり人生を失いかけたがたが、深夜放送である詩に触れ、人との出会い、性を取り戻していく。ここにシャルロット・ゲンズブールを持ってきてセックスシーンをたっぷり見せるという粋な計らい。これは受ける!

息子のマチアスは思春期、タルラとの性体験と失恋で詩人になる。

姉のジュディットは改革の中で政治に目覚める

1980年代という時代性をもっとも表しているのが、パーソナリティのヴァンダの引退。エマニュエル・ベアールが演じるヴァンダはまさにヌーヴェル・ヴァーグ時代を彷彿させる。

タルラは劇中映画「北の橋」「観月の夜」の主演女優パスカル・オジェがモデルだと言われ、彼女は25歳で薬により急逝している。まさに時代の人だった。

この作品でのタルラはエリザベート家族と出会い、薬を止め、真っ当な道を歩む、いい話だった。(笑)

まとめると、フェニミズの台頭を描いた作品だとも言える、劇中映画シーンはセクハラシーンでまさにこのとこを示している。

深夜放送という懐かしい作品のようで、新しさを感じる作品だった

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「異人たち」(2923)ゲイの孤独と愛、華族の絆を描く! 沢山泣いて、生きる力を貰った!

 

LiLiCoさんが“王様のブランチ”で涙しながら「見て欲しい!」と訴えた作品。これで観ることにしました。(笑)

日本を代表する名脚本家・山田太一の長編小説「異人たちとの夏」を、「荒野にて」「さざなみ」のアンドリュー・ヘイ監督が映画化。1988年に大林監督によって映画化されています。しかし、その記憶は極めてあいまい。こんな状況での鑑賞。

主人公は脚本家。12歳で父母を交通事故で亡くし、亡き父母と邂逅・・と同じ設定でありながら、1980年代の“ゲイの孤独と愛”“青族の絆”を描き、このテーマが今の時代に繋がるという、原作とは別物の作品になっている。沢山泣いて、生きる力が貰える作品だった。「自分が生きている限り親は生きている、また会いたい!」と体感させてくれました。

監督・脚本アンドリュー・ヘイ、原作:山田太一脚本:アンドリュー・ヘイ、撮影:ジェイミー・D・ラムジー美術:サラ・フィンレイ、衣装:セーラ・ブレンキンソープ、編集:ジョナサン・アルバーツ、音楽:エミリー・レビネイズ=ファルーシュ。

出演者:SHERLOCK シャーロック」のアンドリュー・スコット、「aftersun アフターサン」のポール・メスカル、「リトル・ダンサー」のジェイミー・ベル、「ウーマン・トーキング 私たちの選択」のクレア・フォイ

物語は、

12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を歩んできた40歳の脚本家アダム(アンドリュー・ヘイ)。ロンドンのタワーマンションに住む彼は、両親の思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいる。

ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で暮らしていた。それ以来、アダムは足しげく実家に通っては両親のもとで安らぎの時を過ごし、心が解きほぐされていく。

その一方で、彼は同じマンションの住人である謎めいた青年ハリー(ポール・メスカル)と恋に落ちるが……。(映画COMより)


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、夜明け前。アダムが脚本を書き始めるワープロの手が進まない。そこに火災報知機が鳴り出し、アダムが部屋を飛び出て、タワーマンションを見上げる。古いタワーマンションで、残っているのは5階のアダムとその上のハリーだけだ。

部屋に戻りレコードを聴いているとハリーが日本のウイスキーを持って「飲まないか、ゲイでないならやらなくてもよい」と誘う。アダムは断った。

アダムは両親との思い出を基に脚本描くために古い写真を持って故郷を訪ねた

電車で4~5時間かかるサンダー・ブラッド駅近くの田舎町に着き家を捜していて夜になり、若い父親(ジェイミー・ベル)に出会った。父の案内で見覚えのある邸宅に着いた。母(クレア・フォイ)が暖かく迎えてくれた。父母はアダムがロンドンで脚本を書いていることにことのほか喜んだ。この夜はこれで「また来る」と別れた。

マンションに戻ったアダムはエレベーターでハリーに出会った

その夜ハリーは脚本を書き始めた。朝、マンションの外で手を振ってアダムを見て、彼の部屋を尋ねた。アダムは「ゲイなんだ」と告白。これにハリーは「それは古い!今はクイアだ」という。アダムはゲイという言葉で禁欲していたが、アダムはクイアという新しい言葉でセクシュアリティを捉え「クイアは上品でフェラはやらない」と誘った。同性愛に対する感覚が違っていたふたりが、アダムのリードで結ばれた。「今夜止まっていくか」とハリーが聞くが、アダムは断った。

アダムは雨の中、両親を訪ねた。所用で父は不在だった

雨に濡れていて、父の衣類を借りることにした。着替えするアダムを見て母は「大きくなった。父親にそっくりだ」という。母の「恋人はいるか」に「いない、自分はゲイだ」とカミングアウトした

母は「世間はどう思うか」「子供を作らないのか」「エイズになったらどうする」とゲイに対する古い考えで聞いてくる。アダムを全て問に「今の世界では問題ない」と答えたが、母は納得しなかった。「帰って!」という母の言葉でアダムはマンションに戻った。

マンションに戻ったアダムは雨に濡れたせいか発熱した

尋ねて来たハリーが介護してくれ、「風呂に入って温まれ!」という。ハリーが何でセックスを避けたんだと聞く。アダムは「セックスの先は死だった(エイズ)。君の時代には考えられないだろう」と答えた。このあと「ハリーには許せる」と話し、ふたりはセックスをした。

ハリーが「クイアだと父親に話したことで勘当された。身体が悪いわけではない」と嘆く。この話にアダムは泣いた

時代が変わってもこんな偏見が消えないことに痛みを感じ、ふたりは精神的に深く結びつくようになっていった。

アダムが両親を尋ねると、母は買い物で、父しかいなかった

父は母親から聞いたと言い、アダムに「知っていたら嫌だった」と言う。アダムが「クリスマスツリーの飾りつけで女の子の気分を味わった」と話すと父が「悪かった!」と泣いた。

アダムとハリーはナイトクラブに出掛けゲイカップルとしで飲んで踊った

ナイトクラブの雰囲気に浸り、ふたりは踊り、キスをしてゲイカップルであることを隠そうとはしなかった。ハリーがアダムにケタミン薬を与え、アダムは酩酊状態に陥った。

ふたりはアダムの部屋でともに過ごす。アダムは脚本書き、ハリーはTVを観る、食べて、セックスをして、ナイトクラブに出掛ける。

ハリーに異変が出て来たハリーは一人でクラブに出掛ける。アダムがこれを追う。電車で出かける、アダムが追う。ハリーの孤独はアダムと一緒にいるだけでは開放されなかった。

アダムがクリスマスツリーを飾る両親の部屋にいた

両親は「抱き締めてやれなかった君が寂しいときに・・」と歌いながらツリーを飾りつける。アダムが手伝う。三人で写真を撮った。「これ現実?」と聞くと母が「そうよ!」と言う。「いつまで?」と聞くと「分からない、隣の部屋で寝たら」という。

アダムは大人でありながら赤いパジャマを着てベッドに寝ていた

そこに母はきて添い寝してくれる。母が「とっくに死んでいる、新しい場所に行きなさい、ごめんね!」と言い、父が「お前なら大丈夫だ」という。アムはこんな夢の中にいた。

アダムがベットで目覚めると、そこにハリーがいた

ハリーが「クラブで母の名を叫ぶから連れ戻った」と言い、「俺がついているから大丈夫だ」とアダムを抱き締めた。アダムは両親が亡くなった交通事故について喋った。父は即死、母に病院に運ばれた。母の失った目玉を必死に探したと。これにハリーが「怖い経験をした」と同情した。アダムは「このときの寂しさが年と共に固まってしこりになり、ゲイであることに悩み、自暴自棄になった」と打ち明けた。ハリーがこれに同情するので、アダムは両親にハリーを合わせることにした。

アダムはハリーを伴って両親の家を訪ねた

アダムが幾らドアーを叩いても誰も出てこない。アダムはハリーにロンドンに帰ってもらった。

アダムはベットに寝かされていた。両親が「あの人はハンサムだね」と褒める。アダムは「愛かどうかわからない」と言うと父が「彼は君を愛している」と言い「ここにいてはダメだ」という。アダムが「少しでも長くいたい」とせがむと「三人でお前が好きな世界に行こう」と提案した。

アダムはショッピングセンターに行きたいと言った

ファミリレストランに寄った。父が「俺は即死だったか?」と聞く。「そうだ」と答えると「私に言ってもらいたいことはないか?」と聞く。父は「今はっきりとわかる。家族がひとつになった」と言った。父と母はジュースを飲んで意識が遠くなりながら「ハリーと仲良くしろ!」と声を残していなくなった。

アダムはマンションに戻り、ハリーの部屋を訪ねた

ハリーの姿がない!異臭がする。衣類がソファーにある。風呂を覗くとウイスキー瓶がありハリーは亡くなっていた!衝撃的な幕切れだった!

すると後ろからハリーが現れた。アダムが「両親と別れて来た」と言うと「あの夜は辛かった!君の部屋にいったときだ」という。

アダムは「怖かったんだ」と謝った。「死体を見つけただろう。腐った匂いだ。誰も見つけてくれなかった。俺の親はどこだ!」と喚く。アダムはここにいる」とハリーを自分の部屋に誘った!

アダムが「両親は君を見た」と伝えると、「ちゃんと別れたか?」と聞く。「別れた」と言うと、ハリーは「怖いんだ!」と言い寄った。アダムは「俺がついている。しこりが大きいんだ」とハリーの頭髪に触った。

まとめ

ゴーストストーリーと言うよりゲイの孤独と愛、家族の絆を描いた物語だった。

 アダムは両親の事故死でゲイであることカミングアウト出来ず深い喪失感と孤独の中で生きていたが、異人となった両親に出会い、両親の愛でゲイであることが認められ、ゲイとしての人生を掴んだ。

一歩のハリーはその振りをして家族から放りだされ、酒に溺れ深い孤独の中にあった。ゲイという差別の痛さを知るふたりは痛みを分かち合うように恋に落ちたが、親の愛が得られないハリーの痛みが癒されることはなかった。

最期、ハリーは孤独に耐えられず亡くなっていた。アダム”がハリーを「俺が死神から守る」と抱き締める衝撃的なシーンで終る

ゲイとして親にカミングアウトして愛を得ることが如何に重要か、親は子をどう生かしてやるかを説いた作品だった

最初のふたりのセックスにいい感じを持たなかったが、ドラマの進展でこれが全くなくなったことに気付いた。多分に1980年代にゲイたちの制作曲が用いられていて、これがシーンによく合っていたことにもよる。

これこそが本作の製作目的だろう

アンドリュー・ヘイ監督自身の体験から出た結論だと言い、とてもリアリティがあり、今の時代に繋がるテーマだと思う。

ゴーストストーリーとしても面白かった

死界への出入りが自然で違和感がない。夢か現実か分からなくなる。生死の境界が分からない感覚になった。妖しい幻覚を見ている感覚で、暖かさを感じた。35mmフィルムを使ったというのも頷ける。

あの世で同年齢の両親に会い、喜ぶ姿をみたり、一緒に寝たり、クリスマスツリーを飾ったりする。これは癒される。褒められるというのは最高の喜びかもしれない。そして「あの人と一緒になりなさい」という言葉はアダムの力になる。ミステリアスでホラーっぽいところも良かった。

アンドリュー・スコットとポール・メスカルのゲイカップルとしての繊細な感情表現がすばらしかった。アンドリュー・ヘイ監督の最高傑作かもしれない!

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「The Son 息子」(2022)息子とは何者か、鬱症の子を持つ父親の苦闘を体験!

 

監督が「ファーザー」(2021)で第93回アカデミー脚色賞を受賞したフロリアン・ゼレール。ヒュー・ジャックマンアンソニー・ホプキンス:アンソニー出演ということで、事前情報なくWOWOWで観ました

これがよかった「ファーザー」と同じく擬似体験できる演出で、ヒュー・ジャックマン演じる父親が鬱の息子に対峙し決断を下す、その難しさを味わった。スリリングだった。地味な作品ですがすばらしい体験ができた。

監督:ロリアン・ゼレール、原作:ロリアン・ゼレール自らの戯曲「Le Fils 息子」脚本:ロリアン・ゼレール クリストファー・ハンプトン、撮影:ベン・スミサード、編集:ヨルゴス・ランプリノス、音楽:ハンス・ジマー

出演者:ヒュー・ジャックマンローラ・ダーン、バネッサ・カービー、ゼン・マクグラスアンソニー・ホプキンス

物語は

家族とともに充実した日々を過ごしていた弁護士ピーター(ヒュー・ジャックマン)は、前妻ケイト(ローラ・ダーン)から、彼女のもとで暮らす17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)の様子がおかしいと相談される。ニコラスは心に闇を抱えて絶望の淵におり、ピーターのもとに引っ越したいと懇願する。息子を受け入れて一緒に暮らし始めるピーターだったが、親子の心の距離はなかなか埋まらず……。(映画COMより)

2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作。


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あらすじ&感想

冒頭、ベス(バネッサ・カービー)との間に生まれた赤ん坊・セオをあやして出勤するピーター。

事務所で執務中に突然元妻のケイト訪ねてくる。「電話ぐらいしろ!」というのも分かる。(笑) ケイトは「息子のニコラスがひと月ほど登校していない」と言う。

ピーターは帰宅してこの話を妻のベスに話すと「父親が必要なのよ、でもあの子は怖い!」という。

次の日、ピーターは出勤し、手際よく仕事をまとめて、ケイトのアパートを訪ねた。ケイトは不在でニコラスと話す。いきなり「学校に行ってないのか?なぜだ?」と聞く。「理由はない、行きたくない」という。「大学進学適正テストがあるから行け」と促がすが「父さんと居たい。母さんとはうまく行かない」の一点張り。ピーターはニコラスを引き取ることにした。

離婚の際、元夫婦のニコラスに対する責任はどうなっていたのか?「学校に行けない」だけでニコラスを家に連れてくることに違和感を感じた

ベスはこれを受け入れた。ピーターはニコラスの腕に傷があると明かした。ベスはカウンセラーの必要性を訴えた。

ニコラスがピーターの家族と暮らすことになった

ニコラスはベスのことを気にしていたが「喜んでいる」と伝えると嬉しそうだった。与えられた個室で勉強を始めた。

ニコラスは新しい学校に顔を出すが嫌らしい。帰宅するとベスを「父を奪った」とを責めた。ベスは大人らしく取り合わなかった。恐れていたことが起こったと思った。

ニコラスはカウンセラーを受けた。

カウンセラーの「皆と遊べないか?」に「みんなバカみたいだ、パーティーとか遊ぶことだけだ。興味ない」と応え、この日は終わった。

ピーターはケイトにニコラスの近況を伝えた

「最初は戸惑っていたようだが、慣れたようだ。ベスとは努力している。弟が可愛いようだ」とケイトに伝え、うまくいっていると思っていた。

次のステップとしてニコラスにダンスを教えた

ニコラスは数学がAで自信を取り戻したと判断し、次は友達つき合いが出来るようにパーティーに参加させることにした。仕立て屋で洋服を作り、帰宅して、夫婦でダンスを教えた。三人で愉快にダンスをしたが、ニコラスは楽しくなかった。夫婦はこれが読めなかった。

ニコラスのベットからナイフが発見された

ナイフのことでピーターとニコラスが揉めた。ピーターが「何でナイフを持つか」と責めると「強盗が入ったときだ」と答える。ニコラスの腕の傷を露出させ「これは何だ?」と責める。「傷ではない、和らぐんだ!」と言う。「和らぐとは何だ?」、「痛いと苦痛を実験できる」と反抗する。ニコラスは「ベスが見つけたの?」と聞く。「探したのではない、ベッドの整理で見つけた」と応えた。ニコラスが「護身用だ!父さんも銃を持っている」という。ピーターは「父から譲られたもので身を護るためだ」と応えた。最後には「お前が傷つくと俺も傷つく、やめろ!」と話せば「父さんは母さんを傷つけ僕も傷ついた」と部屋を出て行った。

ふたりの会話にひりひりした。この問題は非常にデリケートな問題でピーターのやり方が良いとは思えない

翌日、ピーターは会議に参加。昨日のニコラスとのやり取りを思い出し「こういうとき自分の父はどうしたか」と、ピーターはうわの空で聞いていた。

ピーターは父(アンソニー・ホプキンス)を訪ねた

ピーターが「予備選の選挙参謀に誘われているが、ニコラスの問題がある」と切り出すと父は「もう俺を責めるな!俺は良い父親ではなかったが、いい加減に成長しろ!情けないぞ!」と説教を垂れた。

ピーターは「父親は今の俺と同じだ、問題はない」と考えたのではないか

 

ニコラスがベスの本心を知った

ピーター夫婦はパーティー参加の予定であったが、ベビーシッターが病気で出席できない事態になった。ニコラスが代行を申し出た。バスは「うれしいけれど」と断った。ピーターが「最悪のことばかり考えるな!」と注意すると、ベスはニコラスはいないと思って、「ニコラスは鬱であんな子には任せられない。彼の視線にぞっとする!」と喋った。そこにニコラスが現れた!ニコラスは「イヤリングが堕ちていた」とベスに渡して部屋に戻った。ニコラスには聞こえていた

ニコラスは“居場所がない”とケイトのところに戻った

ニコラスは「あそこには自分の居場所はない。邪魔者だ!重圧がきつい、気が付いてない。学校の話ばかりだ。法を学ぶ気も弁護士になる気もない!父さんは選挙でこれまで見てきた夢をかなえようとしている。僕は身体がおかしい!それでも毎日力を振り絞ってやっている」と訴えた。ケイトが「私が乗り越えさせてみせる」と慰めた。しかし、「もういい、ここで過ごしなさい」とは言わなかった。ニコラスはアパートを出て、公園で休んでいた。これをベスが見かけてピーターに告げた。

ピーターは「これが最後だ!なぜ学校を休む」とニコラスを責めた

ニコラスは「気分が悪かった。模擬試験のためだ」と嘘をついた。ピーターは「学校に電話した。学校には行ってない。パーティーの話も嘘だ。立ち直る機会を与えても前と同じだ。ただの嘘つきだ!説明しろ!側にいて強さと自信を与えようとしたが、このままでは生きて行けないぞ」と責めた。ニコラスは「学校には戻らない」と答えた。

ピーターは「俺の父は母が病気でも帰らず金に困ったが、それでも頑張った。お前に何故できない」と問うた。ニコラスは「生きることが出来ないのは父さんの星だ!偉そうに人生や仕事を語って、簡単に僕らを捨てた。正論を振りかざすが、最初からただのクズだ」と言う。ピーターは「お前のために何年も結婚生活を続けた。何故だ?ベスを愛したのが罪か?俺にも権利がある俺の人生だ」とニコラスの胸蔵を掴んだ!

その夜、ベッドにニコラスの姿はなかった

ピーターの言い分は大人げないと思った

ピーターとケイトがニコラス入院の知らせで病院に駆けつけた

ベスが風呂場で倒れているニコラスを発見し救急車を呼んだのだった。医師は「傷は浅く、よくある症状です。慣れているので任せて欲しい。ニコラスを観察したい。ニコラスに何をしたかを理解させることが必要だ!本人がこれを軽視する間は油断できない」と症状を説明した。ピーターとケイトは医者に任せて、帰宅した。

ピーターはアパートに戻ったが、ケイトは何も話さない!

ピーターは子供のころ海に行って、浮き輪が壊れ母が悲鳴を上げたが自分で泳ぎ出したことを思い出していた。ニコラスも自分で泳ぎ出すだろうと。

ケイトからニコラスが治療を拒否するので時間を空けて欲しいと伝えてきた

ベスはしばらく実家に戻ることにした

ピーターは「セオのためにましな父親になる」とベスに約束して、「どう生きる?お前の年頃にはこうだった」という親父の言葉が情けなかったと言い、「もう選挙運動は止める」と誓った。

ピーターとケイトはニコラスの治療について医師と話し合った

医師が「入院が必要だ。しかし、未成年者だから入院するかどうかは親の認が必要だ。任せて欲しい」と丁寧にその必要性を説いた。ニコラスは「ここの陶芸では治せない。普通の生活に戻れる。そうしないとダメになる。ここの人には分からない。父さん連れて帰って!」と泣いて訴えた。医師から「医療チームに任せて欲しい。愛情の問題ではない」と決断を求められた。

ピーターの決心は

まとめ

鬱の息子と付き合うことの難しさがよく分かったどう対処してよいか分からない怖い話だった

息子のニコラスはっきり自分を示していた。気づかないのは大人達だった

父親のピーターは人生に成功しさらに上を目指す、息子ことを真拳に考えず、説得は自分の成功体験でしかない。ニコラスの悩みや鬱の特性を知る努力がなかったと思う。“このことに気付いたこと”で、皮肉にも最悪の決心となった。

 母親ケイトは理解していると言いながら責任をもってその先を考えないで逃げていた

ベスは幼い自分の子供の世話が精いっぱいでニコラスのことまで気が回らない。

ニコラスを精神病院に預けるかどうかのラストシーン

精神病院で治療するかどうかの判断。医師は「ここなら治せる」と勧めたが、息子のニコラスは「いやだ!」と涙で何度も何度も訴えた。ピーターはこれを認めず部屋を出たが、ニコラスへの情に捉われ戻って認めた

この判断は間違いだと思った

ニコラスは嬉しそうに帰宅し、ピーターとケイトが安堵しているところに風呂場から拳銃発射音。

やはり自分の判断が正しかったと思った

ところが数年後、ニコラスは小説家として久しぶりに帰宅。これを嬉しそうに喜ぶピーター。

ピーターの判断でもよかったのか?

そこに妻のバスが「ピ-ター何しているの!やることはやった!」と慰める。

やはりピーターは間違っていたのか。この演出が憎い!

強烈に“鬱の息子には専門家の意見を尊重せよ”と教えられた。先生と相談しながら、息子は息子だ、辛抱強くニコラスと付き合うことしかない。息子の要求を拒否するのも愛情だと考えさせてくれる作品だった

 戯曲を映画化した作品。とてもセリフが丁寧で会話に引き込まれる。ピーターが決心するどのシーンも、これで良いのかと判断に迷い、共に考える感覚だった

これを演じる俳優が凄かった!息子役のゼン・マクグラス、同情を引き寄せる演技が素晴らしかった。騙された!(笑)

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謎解きながらの函館名所めぐり。アクション、恋も満載!おじんにはちと辛いスピード展開だった!(笑)

名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」(2024)

 

この時期にこの作品。コナンの主題曲と自己紹介で季節を感じる!毎年楽しみにしています。今年はことの他内容が十分で何を書いてよいか分からない!(笑)

劇場版シリーズ27作目です。

土方歳三ブームなんですねゴールデンカムイ」がそうでしたが、土方が残した秘蔵品を巡る宝捜し。こちらは“豊玉発句集”と“刀の目釘”と“鍔の形”でその謎を解いていくと言う、「コールデンカムイ」に劣らぬ、スケール感のある知的宝さがしでした。おじんにはついていけない物語の展開とスピード感、圧巻の空地一体のバトル、参りました。(笑)

今回はネタバレを避けるために公開前に試写会を開催しないことも話題。さてどこまでばらしてよいものやら?服部平次についてよく知らず戸惑った。初めての方、これだけは押さえておく必要があります。

本作の目玉はキッドがなぜビッグジュエルでなく刀を狙うか。その刀が土方歳三の隠し刀で、函館が舞台。そして刀に纏わる剣アクション、コナンと平次の謎解きとコンビ“力”、平次の恋の行方、そして最後にキッドとは何者かが明かされる、ちと多すぎました。(笑)

監督:「緋色の弾丸」「紺青の拳(フィスト)」の永岡智佳、原作:青山剛昌脚本:大倉崇裕撮影:西山仁、編集:岡田輝満、CG監督:高尾駿 福田貴大、音楽:菅野祐悟主題歌:aiko

声優:高山みなみ江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也毛利小五郎)、山口勝平(工藤新一/怪盗キッド)、堀川りょう服部平次)、宮村優子遠山和葉)、大泉洋(川添善久)緒方賢一阿笠博士)、岩居由希子(吉田歩美)、高木渉(小嶋元太)、大谷育江(円谷光彦)、林原めぐみ灰原哀)、松岡禎丞(福城聖)、菅生隆之(福城良衛)、中博史(斧江拓三)、高野麻里(佳吉永神子)、銀河万丈(ブライアン・D・カドクラ)

物語は

北海道・函館にある斧江財閥の収蔵庫に、怪盗キッドからの予告状が届く。キッドの狙いは新選組副長・土方歳三にまつわる日本刀だったが、折しも函館で開催される剣道大会のため、服部平次やコナンも同地を訪れていた。平次はキッドの変装を見破り、追い詰めていく。時を同じくして、胸に十文字の切り傷がつけられた遺体が函館倉庫街で発見され、捜査線上には「死の商人」と呼ばれる日系アメリカ人の男の存在が浮上する。(映画COMより)


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、1868年、函館戦争

新選組土方歳三がとある屋敷で当主から刀の寄贈を受ける。そこを政府軍に襲われ、背後から襲う兵士をぶった斬った。その血しぶきの屏風と刀を展示する斧江財閥の収蔵庫に巧みに変装したキッドに現れた。

平次は旧函館区公会堂での剣道道参加のため来道していた

大会前日、斧江財閥の収蔵庫に刀剣の見物に来ていた。そこには“キッドの宝刀を盗む“の予告で警視庁の中森警部、毛利小五郎探偵らもいた。

突然男が現れ刀を盗んだ。変装を見破った平次がキッドを追った。

この勝負、月下での剣劇勝負だった。キッドが「預ける!」と二振りの刀を平次に託して飛びさった。キッドはなぜ盗んだものを預ける?

翌日、平次の恋人和葉が剣道大会の会場で剣の素振りの音に「平次かいる?」と思ったが、“音が違う”

そこに「若菜さん、あなたに会えてうれしい!平次と勝負できないのが残念」と黒袴の剣士・福城聖が現れた。上空には平次の許嫁と信じる紅葉のプライベイト・ヘリが舞っていた。(笑)

このころ平次とコナンは赤レンガの倉庫が並ぶ埠頭にいた

男が殺害され、その胸には土方が兵士を斬った際の血しぶき型の斬り傷があった。わざわざこの傷を付けるのは誰か?

そこには道警の西村警部とその部下で当地の事情に詳しい川添刑事が立会していた。川添刑事が「男は久垣で斧江財閥の弁護士だ、ヨーロッパで財閥から流出したものを買い戻していた。久垣は武器商人の日系二世のカドクラと関わっていた」と話した。

キッドは久垣が持つ刀を追っていた。

キッドはカドクラの部下ベルガが持つ久垣から奪った刀を奪い返し、持ち去ろうとするところを狐面の男に襲われた

この男がめっぽう強い剣術使いであわやというところに、オートバイで平次とコナンが駆けつけた。平次と狐面男の斬り合いが始まった。これにコナンも加勢!が、逃げられた。一体狐面男は何者か!

キッドが救ってくれたお礼にと、操作場の列車の中で事情を説明した

「土方の星陵刀は鍛冶師・東窪榮龍が打ったもので6振りの中のひとつ。6振り全部合わせると宝の在処が分かる。1振りはカドクラ、2振りが預けたもの、そして今奪ったもの、残り2振りは元高校教師の福城良衛のところにある」と話した。

平次とコナンは福城邸を訪ねた

そこには聖によって和葉と蘭が招かれていた。聖の和葉にかける気遣いに怒りを見せる平次。(笑)良衛は刀と謎の絵図を渡した。

平次とコナンはホテルに持ち帰り、刀と絵図の解読に入った

平次が刀を分解し鍔と目釘を調べた。鍔の欠けた部分を合わせると五稜郭の形になる。目釘は星印だが2振りについて不明だった。絵図は上段横に数字の羅列。それぞれの数字の下にひらがなが描いてある。何を意味するか分からない。

稚内岬の旅を楽しんでいる紅葉から「なにしている?」と平次に電話が入った。平次は「忙しいんだ!」とスマホで絵図を送った。紅葉が「土方歳三の詩集“豊玉発句集じゃない」と言った。コナンが詩集を取り寄せ分析した。数字とひらかなで当てはまる文字を拾い出すと「ほくとうおに」だった。”おに“は鬼門だ。鬼門と五稜郭から宝のあり場所は”北海道東照宮と推定した。

平次とコナンは中森警部や小五郎探偵らとともに北海道東照宮を訪れた

対応に出た巫女の吉永が「なにもない!」と言う。小五郎は古い祠を探し出し、この奥を調べた。そこで古い小箱を見つけた!そこにカドクラの一味が駆けつけた。

コナンと平次は小箱を持ってオートバイで逃げた。聖はカドクラ一味の追跡妨害を引き受けた。コナンと平次は逃げ切った。ここでのカーチェイスは見せ場だった。

聖が久垣殺しの犯人として捕まった

刀に聖の指紋が残っていたという。平次とコナンは福城邸に駆けつけた。良衛はカドクラの一味に連れ去られ、床に血染めの星型が残されていた

平次とコナンはベイエリアで小箱を開けた。中身は2枚の絵だった

ふたりは警察署に拘束されている聖に面接した。聖は「やっていない!俺はカドカワをずっと追い続けていた!」と話した。

 

巫女の吉永が警察署を訪ねてきた

平次が吉永に「小箱の中は空だった。星陵刀には目釘に特徴がある」と話すと、「月と人の目が貼られていた」というふたつ重ねると五稜郭の形になる!しかし何を意味するか読み取れない。「五稜郭は戦時中、一時期こんな傷があった」と話した。コナンは「解明できた!」と声を上げた

平次は和葉に函館山からの百万ドルの夜景を観ることを約束した。

聖が警察から脱走した

カドクラは良衛を開放し、警察署に「24時間以内に宝を捜し出せ!さもなくば市内を爆破する!」と伝えてきた。

コナンは少年探検隊と来道している阿笠博士に「今夜バルーンを函館山に上げるよう」要請した

コナンと平次は五稜郭で気球を誘導していた

 和菜は蘭と一緒に函館山の展望台で平次を待っていた。

阿笠博士の「ここだ!」の声で、平次はオートバイで走り出す

気球から灰原がスケボをコナンに投げた。カドクラが動き出す!上空に赤いセスナで聖が現れた。その機に平次?がすがりついている。(笑)

コナンたちは宝を発見したか?発見できたとすれば宝はなんだったか?平次は和葉に愛を告白できたか?

翌日、宝捜しの現場に川添刑事が現れ「2日間ほど休んで旅をしていた」という。一体川添は誰だったんだ!(笑)

まとめ

キッドは全てを知っていた!宝の在処を知るためにコナンと平次に謎解きをさせ、最後にいいところ全部持って行った(笑)

遂にキッドの真実がエンデイング後に明かされるので途中退席しないように。(笑)

ビッグなジュエルより平和を愛するキッドの身を捨てた戦い方は恰好よかった

しかし、主役は服部平次だった

コナンとのコンビが微笑ましくとてもよかった。コナンと平次のキッドとの関係は、平次には恨みがあるようだったが、つかず離れずの面白い関係だった。(笑)

謎解きは難しかった!1回の鑑賞ではよく分からなかった。(笑)

土方歳三が詩集を残していたとは知らなかった。百人一首のかるた大会チャンピオンの大岡紅葉がヒントを与えるところがなんとも愉快だった!(笑)

刀の目釘、鍔形からの推理も目新しいどこからこんな発想ができるのか。謎の月と人の目の絵から、ラストの函館山中腹に宝の位置を発見するくだりに唖然とした。もう子供の作品ではなくなりましたね(笑)

福城親子のエピソードには泣けます!

斧江2代目忠行に「宝を爆破してくれ」と託され、敵を欺き隠し場所を掴んで爆破しようとその時を待っていたふたりの絆!実はキッドと同じ志だった!

アクションも満載

冒頭近くでの月をバックにしたキッドと平次の決闘、絵が美しい。ラストのセスナの上での平次?と福城聖の決闘、これには驚いた!(笑)市街地でのカドクラ一派と平次とコナンが乗るオートバイとのカーチェイス。これも見所だった。ラストの函館山の宝の在処を巡る空地で広げられるバトル、何がなんだかよく分からなかった。(笑)

平次と和葉の恋の行方

不器用なふたりの恋にいらいらしながら、ラスト、函館山で繰り広げられるクライマックス。平次は「和葉さんを好きになる理由が俺には見つからん!それほど好きだ」としっかり愛の言葉を言い放ったが、和葉が気を失っていた。(笑)蘭もあきれてものが言えなかった。(笑)こんなこととも知らず平次とは子供のころから許嫁の仲と信じプライベイトヘリで執事の伊織と平次を追っかけまくる紅葉、笑った!(笑)

一番うれしかったのは函館の名所めぐり。(笑)さくらで浮かび上がる五稜郭に函館の百万ドルの夜景、最高でした

5月11日は土方歳三の命日。大ヒットすることを願っています!

              *****

「リバー、流れないでよ」(2023)時間が流れないとどうなる!ヨーロッパ企画らしいコメディー!

 

「第33回日本映画批評家大賞脚本賞受賞おめでとうございます!

 

上田誠率人気劇団「ヨーロッパ企画」が手がけたオリジナル長編映画第2作目。“ヨーロッパ企画”となると、「四畳半タイムマシンブルース」(2022)が記憶にある。苦しめられ、難解だった記憶がある。(笑)

なぜ観るか?案内によると“冬の京都・貴船の名がある。これで観ることにしました。(笑)貴船神社に詣でて、蔵馬山に登り、霊感を感じ、牛若丸伝説にたっぷり浸かった記憶がまだ残っていた。(笑)

タイトルが良すぎる!リバーって何だ!貴船川だと思っていたら・・

 冬の京都・貴船を舞台に繰り返す2分間のタイムループから抜け出せなくなった人々の混乱を描いた群像コメディ

86分の尺なのに長く感じた!タイムループに嵌ったようだった。「四畳半タイムマシンブルース」ほどの衝撃はなかったが、ヨーロッパ企画らしい結末にスカッとした (笑)

監督:山口淳太、原案・脚本:上田誠撮影:川越一成編集:山口淳太、音楽:滝本晃司主題歌:くるり

出演者:藤谷理子、鳥越裕貴、永野宗典、角田貴志、酒井善史、諏訪雅、石田剛太、中川晴樹、土佐和成、早織、久保史緒里、本上まなみ近藤芳正

物語は、

京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」で仲居として働くミコト(藤谷理子)は、別館裏の貴船川のほとりにたたずんでいたところを女将(本上まなみ)に呼ばれ、仕事へと戻る。だが2分後、なぜか先ほどと同じ場所に立っていた。そしてミコトだけでなく、番頭(永野宗典)や仲居(早織)、料理人、宿泊客たちもみな、同じ時間がループしていることに気づく。2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまうが、それぞれの記憶は引き継がれるのだ。人々は力をあわせてタイムループの原因究明に乗り出すが、ミコトはひとり複雑な思いを抱えていた。(映画COMより)


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あらすじ&感想

冒頭、猟師が雪の山道を蔵馬山へと消えていく。貴船神社を詣でた白いコートの美しい女性(久保史緒里)が赤い鳥居のある階段を下ってくる。美しい風景だ。

旅館“ふじや”では“モミジの部屋”に作家のオバタ(近藤芳正)と編集担当のスギヤマ(中川晴樹)が宿泊。スギヤマの激励でやっとオバタが「主人公が死んだ!」と書き始め、スギヤマが風呂に出掛けた。

ホトトギスの部屋”では会社の同僚らしいノミヤ(諏訪雅)とクスミ(石田剛太)が朝からしゃぶしゃぶで熱燗を楽しんでいる

女将が番頭に「今のところ客は2組、昼はこれで閉めよう!」と声を掛けた。厨房では料理長(角田貴志)が料理人のタクに「昼は先に行け!」と休憩を命じた。

女将と番頭、ミコトが客を送り出して女将がミコトに休憩を示した。

ミコトは貴船神社のお守りを持って貴船川の岸辺に立って祈る

貴船川の清冽な流れ、これが美しい。ミコトの表情が暗い!ミコトは旅館に戻って、デジャブの部屋を番頭と後片づけ。番頭の「サミットがあって駅でテロ、ここは安全だ。大学生の娘に彼氏が出来て会いに来る。これが心配だ」という話しにミコトは相槌を打っていた。

突然1、ミコトは貴船川の岸辺に立っていた変だという顔。

ミコトが旅館に戻り、番頭に出会って、デジャブの後片づけ。「サミットが・・」と同じ会話をする。

突然2、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトは旅館に戻り番頭とデジャブの部屋に。番頭が「2回目だ、おかしい」という。ミコトが女将に「誰もいないのに熱燗が戻っている」と訴えた。「おかしなことが起こっている」と駆けつけた料理人のエイジ(角田貴志)が「ループだ!」と声を上げた。そこに裸のスギヤマが現れた。(笑)「キャー!」の叫び声、ミコトが駆けつけると「鍋に銚子が戻される、分けわからん」と驚く仲居のチノ(早織)。(笑)

女将が「とにかく取り乱さない!沢山の困難に出会ったがループに出会ったことはない」と泣き出した。

突然3、ミコトが貴船川の岸辺にいる

旅館に戻ると女将さんが「相談に行く」と出かけ、番頭から「ホトトギスの部屋を見てくれ」と頼まれチノの一緒に顔出し。ノミヤとクスミが雑炊を食べていた。「時間が変になった!タイムループです」と伝えると「ずっと食べるのか?締めがしたい」と言う。ミコトらはそっと席を外した。(笑)

突然4、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノは熱燗を持ってホトトギスを尋ね「たっぷり飲んでください」と言うと「ここだけで起きているのか」とノミヤが聞く。「分からない!ゆっくり飲んでください!」。

突然5、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノと番頭はモミジの部屋に顔出し。オバタが「文章が消える」と混乱していた。(笑)タイムループを説明すると安心した。

突然6、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノ、番頭がモミジの部屋に顔出し。作家のオバタが「文章が書いても消えるが大丈夫だ!締め切りがなくなった」と喜んでいる。(笑)

突然7、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノ、番頭。少し休もうと休憩。番頭がスマホで確認して異変はここでしか起こってないと言う。そこにスギヤマが素っ裸で出て来た。(笑)

突然8、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトとチノ、番頭は風呂間に顔出し。スギヤマは「のぼせてしまう!外に出たい!」という。(笑)ミコトが「タイムループなんです。楽しんでください」と応えた。(笑)

突然9、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトが旅館に戻る。番頭が風呂に柚子をもっていくと奔る。チノが「トリガーがあるよね」と聞く。そこに冒頭の白いコートの女性が「車が凍結したらしい、車に詳しい人いない」と尋ねてきた。ミコトが「タイムループだから関係ない」と言うと「大変なんです!」と帰っていった。

突然10、ミコトが貴船川の岸辺にいる

ミコトが旅館に戻ると、料理人のエイジによるタイムループの説明会が始まっていた。「2分ごとに繰り返している。局所的な現象だ」と言う。

こうして幾度となくタイムループが繰り返される

料理人のエイジによって「発生地域は貴船周辺だけ。意識は続いている。感情を壊されないように。時間が進みだしたことを考えて出来るだけ破壊的な行動を控えるように」と注意がなされた。オバタから「糞したら、どうなる、戻るか?」と質問が出た。(笑)

作家のオバタはおかしくなって部屋から物を投げ、障子を破り出した

ホトトギスの部屋では仲の良かったノミヤとクスミがお互いの欠点を挙げて喧嘩が始まり止まらない。

この騒ぎに、部屋で休んでいたタクが貴船川の岸辺のコトミに「何が起こっている」と掛けた

何度かのタイムループを経て、ミコトがタクに「私が貴船川に流れないで欲しいと祈った、それでタイムループが起きた。タクが私の気持ちも知らずフランスに勉強に行くからよ」と喋った。これをチノが聴き、番頭に話した。

番頭らが「ミコトは超能力者だ」と逃げるミコトとタクを追う

ふたりは貴船川沿いの道を下流に上流にそして川を越え、これに猟師も加わって、はらはらどきどきで笑い一杯の追走劇。(笑)

オバタが「2分後には生き返ると」部屋から飛び降りた。(笑)これにはミコトもタクも驚いた。ミコトが「ちゃんと時間を動かします」とモミジの部屋に声を掛けた。オバタが「死の体験ができた」と喜ぶ。(笑)

貴船川の岸辺でミコトは皆さんに謝った。そして時を動かす祈りを始めた

 オバタは「連載がきついからこのままがいい」と言い、ノミヤとクスミは「会社に借金がるから時間が止まった方がいい。会社のきついことが忘れられていい」と言っていたが、ミコトの祈りで、オバタは「死んでみて妻の気持ちが分かった、書こうか!」と言い出し、ノミヤとクスミは「お互いに相談したいことがある」と部屋に帰っていく。みんなが未来に向かって動き出した。

料理人のエイジが「原因が分かった、物理的前哨だ」と皆さんと一緒に貴船神社に急いだ

そこで白いコートの女性に出会った。「サミットでタイムパトロールに来た。同じ時代にいるとパラドックスを防ぐために2分戻る」「ロケットのエンジンが凍結で止り、タイムマシーンが壊れて月に戻れない」と言う。(笑)

皆で燃料(ビール)を運びエンジンに注入し、猟師が猟銃射撃でエンジンが点火、ロケットは発進した!(笑)

皆が未来を誓った。ミカドは髪を切って“一度失恋したことにして”、3年後にタクがフランスから帰るのを待つことにした。

まとめ:

幾重にも繰り返されるタイムループシーンが長く感じられた!これがテーマだから“よく出来ていた作品”と言うべきか(笑)

ここで描かれる人情劇にくすくす笑った。あのロケットで月に飛ぶ結末には大笑い。ヨーロッパ企画らしいオフビートなSF作品だった!

京都の奥座敷貴船にいながらフレンチ料理の修行にフランスに行きたい料理人のタク。愛しいが故にタクの夢を止めたいミコト。ミコトが祈願した貴船神社のお守りの威力が効きすぎて起こったタイムループ。いや、月からやってきたタイムパトロールのせいだったという落ち!よく分からなかった!(笑)

イムループで自分に都合のいい生活が出来ると喜んだが、怠けた生活の苦しさを味わった。時が正常に戻り、苦しくても夢に向かう生活がいいと気付くエンデイング。ちょっと真ともすぎました!(笑)

ヨーロッパ企画のみなさんの演技、藤谷理子、早織さんのフレッシュな演技に好感が持てた。この作品のテーマにふさわしい。

貴船神社、赤い幾重にも重なる鳥居の映像、これをくぐってお参りしたい。“そうだ京都、ゆこう“の気分にしてくれました。次作はもっとオフビートが効いた作品を期待したい!

           ***

「アステロイド・シティ」(2023)宇宙人の出現で絆を取り戻す家族劇とこれを演出する舞台裏!

 

ウェス・アンダーソン監督といえば、私にとっては「犬が島」(2019)。あの色彩、絵の構図、ユーモア、テーマ性、日本通であることが忘れられず、映画COMの案内で、観ることにしました

ところが本作ちょっと違った。案内と違う

話が頭に入らず眠くなる(笑)監督作品だから何とか見終えようと何度も目覚めて挑戦し、やっと見終えました。(笑)

眠くなる原因はセリフが難しい上に話すスピードが速く、さらにセリフが多くて頭に残らない。翻訳に問題があり?とも思いました。(笑)もうひとつは映画案内に全く触れられていない、劇中劇とその舞台裏が描かれ、その繋がりが分からない。苦労しました!(笑)

さて観終えてしまうと、やはり監督作品は面白い!痛快でした

19050年代、砂漠で宇宙人との遭遇を描いたSFコメディですが、年代が映画「オッペンハイマー」に被り、核の匂いがプンプンする。どちらも難解だ!(笑)

さらに驚いたのは時代の匂いが今の時代に似ているということ。監督の製作企図はどこにあったのかなと妄想しています。

監督・脚本:ウェス・アンダーソン原案:ウェス・アンダーソン ロマン・コッポラ撮影:ロバート・イェーマン、美術:アダム・ストックハウゼン、衣装:ミレーナ・カノネロ、編集:バーニー・ピリング アンドリュー・ワイスブラム、音楽:アレクサンドル・デスプラ

出演者:ジェイソン・シュワルツマンエドワード・ノートンティルダ・スウィントンらアンダーソン監督作の常連俳優陣に加え、スカーレット・ヨハンソントム・ハンクスマーゴット・ロビーらが参加。

物語は

1955年、アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティ。隕石が落下して出来た巨大なクレーターが観光名所となっているこの街に、科学賞を受賞した5人の少年少女とその家族が招待される。子どもたちに母親が亡くなったことを言い出せない父親、映画スターのシングルマザーなど、参加者たちがそれぞれの思いを抱える中で授賞式が始まるが、突如として宇宙人が現れ人々は大混乱に陥ってしまう。街は封鎖され、軍が宇宙人到来の事実を隠蔽する中、子どもたちは外部へ情報を伝えようとするが……。(映画COM)

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。


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あらすじ&感想:

冒頭、劇中劇「アステロイド・シティ」を放送する“チャネル8“の司会者(ブライアン・クランストン)が番組紹介で「新作劇の創作過程を舞台裏から見ていきます」と作品紹介するシーンから始まる。「アストロイド・シテイは架空のドラマ。登場人物もキャストも空想、起きる出来事も作り話。テキストも空想。起きる出来事も作り話。でも、現代演劇の内膜を忠実に反映している」と。

このコメントな何だ?劇中劇より大切なのかも知れない

スタッフ、キャストの紹介があって、

アストロイド・シテイは人工87人の砂漠の町。座席12の軽食堂、ガソリンスタンドがひとつ、10棟のモーテル。核実験場があるが、5000年前の深さと直径が30mの隕石衝突クレーターがあり、これを観光施設にして天文台が設置されている。

落下記念日には毎年青少年から宇宙活動に貢献するアイデアを募集して“青少年ジュニア宇宙科学賞”を付与、最優秀賞には奨学金を贈呈することになっている。物語は1955年7月から始まる

劇は3章からなりカラーで適時、舞台裏がモノカラーで描かれる。

劇の開始

戦場カメラマンのオーギーが車で長男のウッドロウ(ジェイク・ライアジ)と三人の幼い姉妹を伴い、ウッドロウの宇宙科学賞受賞式に参加するためにこの町にやってきた。車の調子がおかしいのでガソリンスタンドでチェックすると廃車になった。義父のザック(トム・ハンクス)に迎えを依頼したがサックは不機嫌。というのは、オーギーは3週間前に妻を亡くしたが、いまだそれを子供たちに伝えておらず、ザックは子供を引き取れないこと。

オーギーは伝え方が分からず申し訳なかったと妻の死を子供らに話し「お爺ちゃんがいるから大丈夫!」と伝え、「ここにいる」と妻の骨壺を見せた。

オーギーを演じるジェーンズ・オールは脚本家コッラド・アープ(エドワード・ノートン)が見出した俳優で元は大工だった。ふたりはレズの関係にあった。

宇宙科学賞受賞者は5名で、他の受賞者たちも家族とともに、そして式典を見物する生徒たち、カーボーイたちもやってきて、町が華妬いてきた。

食堂でオーギー家族は女優のミッジ(スカーレット・ヨハンソン)とその娘ダイナ(グレイス・エドワード)に出会った。オーギーがいきなり食事中のミッジを、いつもの癖で、カメラに収め揉めたが、戦場カメラマンということで収まった。こうしてふたりのお付き合いが始まった。

授賞式が始まった。テーマは小惑星の日。1955年強いアメリカのために”と示されていた。

ギブソン元帥(ジェフリー・ライト)が、元帥は黒人、ここまで登りつめるための苦労を披露したのち、「諸君の脳と精神で未知の領域に踏み出せ」と挨拶した。その後、受賞者たちが各々自分の製作作品を説明、展示した。

ウッドロウは“天体への画像投影の研究”とその装置。ダイナは“燃料の宇宙線”とその物質。この他に航空誘導での成果“と空中散歩装置、・・等。

この後、町のツアー、そして食事会は始まった。

宇宙人は居るのかが問題になり、ギブソン元帥から応募作品から派生した特許及び発明品はアメリカ政府のものだという発言があった。

受賞者たちとその父兄の集いが始まった。ウッドロウは人見知りで仲間に加われなかったが、ダイナが仲間に引き込んでくれた。ウッドロウはダイナに魅かれていった。

ミッジを演じるメンセデスは劇団から抜けカリフォルニアに向った折、演出家のシューベルト(エイドリアン・フロディ)が「君が居ないと劇団が潰れる」と呼び戻しに向かわせ、連れ戻したのがウッドロウを演じる男だという。

オーギー家族とミッジ親子のモーテルが道路を挟んで向かいあった。ミッジが入浴前で、窓超しにオーギーを見つけ、脚本の離婚シーンを読みながら「写真撮って!」と誘う。オーギーがミッジのガウン姿を撮った。

オーギーの娘たちは道路に母親の骨壺を、お祈りしながら埋めていた

そこにお爺ちゃんのザックが現れ止めようとするが、孫たちの「私たちを虐めたら生贄にする」の言葉で、「いずれ牧場に連れ帰る」と止めた。ザックは妻を亡くし孤独で孫たちと一緒に暮らしたいと考えていた。

夜の天体観測会が始まった

ヒッケンルーパー博士(ティルダ・スウィントン)の指導の元天体観測会がクレーターで始まった。そこに宇宙船が出現し、ひとりの宇宙人が会場に降りて展示している隕石を奪って宇宙船で去って行った。このときオーギーが宇宙人をカメラに収めた。会場は大混乱。

宇宙船がグリーンの光の中で降下するシーンが美しい。これは演出家のシューベルトの工夫で出来たもの。彼は妻に三行半を言い渡されてもここが居場所と劇場に住みついて頑張っていた。(笑)

民兵が出動し町は厳戒態勢に入った

ギブソン元帥が「緊急措置計画X」で地球外惑星の知的生命体と不測事態が発生した場合の手順を示した。健康診断、心理テスト、FBIによる聞き取りが始まった。

ウッドロウとダイナはヒッケンルーパー博士の天文台で衛星を捜索していた

「盗まれた隕石がダミーだから、衛星は必ず現れる」と捜索していた。ダイナが「ママは鬱陶しい!地球外の方が楽だ」と言い、これにウッドロウが「俺も同じだ」と賛成した。(笑)

オーギーたちはモーテルに缶詰め状態だった

オーギーが窓から向かいのミッジに宇宙人の写真を見せた。ミッジは「それはいい、ヌード写真を見せて」と言う。(笑)ミッジは「いい写真」と褒め、自分が男たちから暴行を受けた話をして「貴方も戦場で傷を負いながらその痛みの深さを見せない。私と同じだ」という。オーギーが「そうだ!」と同調すると、ミッジの部屋をザックが訪ねていた。(笑)

ザックがオーギーに「孤独の中で学んだ。愛する人に純粋・誠実であることの大切さだ」と同居を勧めるが、オーギーは「かまわないでくれ!」と断った。

表彰者のひとり“宇宙散歩装置”を製作したリッキーが歩哨兵を騙して家族に事態を知らせニュースになった。

ここから第3章になるが、脚本家のコンラッドは劇団のゼミで「登場人物の皆が人生の心地よい眠りに訪れる幻覚的な神秘を体験させたいが描けない」と意見を求めた。

テーマは“人生の心地よい眠り”で最終章をどう締め括るか

男性団員が「マッサージ台で死ぬ役で終りまで本当に眠った」と発言。(笑)これには「睡眠は死ではない」と反論、団員たちで場面の外枠から入ってゆっくり夢の中に入る練習をした。ここは全く分からなかった。(笑)

ギブソン元帥がリッキーに「反逆罪だ」と言えば、リッキーは裁判で戦うという。ギブソン元帥の締め付けに反対して軍隊と衝突するものが現れてくる。

そんな中でオーギーとミッジはモーテルの窓越に会話をしていた

ミッジがオーギーを相手に苦手のセリフ練習を始めた。「壊れたものを壊す」とオーギーがト書きを読むと、ミッジが「壊してよ!」という。ミッジは電球を割った。ミッジが「昨日、窓から入るあなたをダイナが見た。あの子は口が堅いけど私たちは発展しない」と言う。オーギーがこれに反対しふたりは揉め、オーギーが側にあった電熱器を手で叩き火傷した。

ウッドロウはヒッケンルーパー博士の協力を得て、宇宙人を誘う投影像を送った。それに何の反応もなかった。

ギブソン元帥が奨学金付与者を定めるとクレーター会場に関係者を集めた。

そこに宇宙船が現れ宇宙人が降下し隕石を返して去って行った。隕石が破裂した。ウッドロウが自分の発明装置でその瞬間の隕石の写真を撮った。そこにはウッドロウとダイナの文字が付いたハートマークだった。(笑)会場は軍隊が衛星を追い大混乱となった。

ジェーンズはミッジと顔を合わせ「オーギーは何故火傷したのか、この芝居が分からない」と舞台裏に入り、演出家のシューベルトに意見を求めた。彼は「少し作り込み過ぎた。申し訳ない、役を超えてオーギーが乗り移っている」という。ジェーンズが劇場のベランダに出ると、カットされて出番がないオーギーの妻役の女優(マーゴット・ロビー)に出会った。彼女がカットされたセリフ「あなたに新しい母親がいると話した」という。

初日から半月ほど経ったころ脚本家のコンラッドは事故で亡くなっていた。しかし登場人物の皆が人生の心地よい眠りに誘われる幻覚を体験していたおかげで舞台は続けられていた。

ラストシーン、厳重隔離が解かれ、参加者がそれぞれ自宅に帰ることになった

オーギーはザックから「ミッジは元マネージャーと法科だ」と聞かされた。そして妻の遺骨は子供たちの「ママはここの土の中にいる」の願いで、ここに埋葬することにした。ザックも認めた。

オーギーは子供たちと一緒にザックの農場に戻ることにした。ウッドロウは奨学金を手に入れダイナのために使うという。オーギーにはミッジから私書箱の住所が教えられた。

まとめ

オーギーと子たち、義父のザックは一緒に住むことになった。やっと戦場カメラマンのオーギーが心に愛を、家族の絆を取り戻すことができた孤独を避けるというザックの願いも叶った。家族とは何かがしっかり描かれていた。

妻の遺骨のは子供たちがお祈りして土に戻し、深く母の愛を胸の中に仕舞いこんだ。死とはなにかも子供に分るよう描かれていた。特に子供たちの宗教心、母への想いがよく伝わる作品だった。何しろ3人姉妹の可愛らしさにはやられた。

舞台劇のテーマは脚本家コンバットが劇に託した“人生の心地よい眠り”。この意味はよく分からなかったが、オーギーの家族の物語を通して、こういうことなんだと理解した。

この作品にはもうひとつのテーマがある

舞台裏で描かれる脚本家、演出家の生き様、そして俳優たちの役割と絆。脚本家がなければ劇に精神は吹き込めない。演出家がなければ脚本家の精神は生きず、俳優も作品のもつテーマを表現できない。俳優たちの演技力とその持てる力をさらにアップさせるスタッフとの絆。

オーギーを演じるジョーンズ・オールはホモでありながら4人の父親役を演じるが最後に子供たちと一緒にどう生きていくかに迷う。カットされたシーンを演じた女優に会い、彼女のせりふを聞いて自分の演技が固まるシーンや脚本家コンラッドは亡くなっても彼の残した精神を頑なに追及す演出家シューベルトの演出など、劇に携わるみんなの協力で演劇が成立していく過程が面白く描かれていた。

スカーレット・ヨハンソントム・ハンクスマーゴット・ロビーの演技が、最初誰か分からなかったが、ウェス・アンダーソン監督色に染まっているのもテーマのうちのひとつ、面白かった!

なぜここまで舞台裏を描いたか。Chat GPTの出現やハリウッドの最近の動きに危惧したのかなとも思った。

劇中劇のラストは観光で生きようとしたアステロイド・シティが宇宙人騒ぎで人が居なくなり核実験の町になる。ギブソン元帥の“強いアメリカ”演説、宇宙人対策はまるでトランプ元大統領の移民阻止対策だと思った。ということで“きな臭い”現在アメリカ社会を妄想した。(笑)

ポップで暖かい、ユーモアのある絵で、観ているだけで楽しめるが、やはりストーリーは分るとその良さが引き立つもっと分り易いものして欲しい!(笑)

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「オッペンハイマー」(2023)核のパンドラの箱を開けた男の栄光と没落!理論先行、結果後回しの罪!

クリストファー・ノーラン監督作品で、原発の父と言われるオッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。最も関心を持つ被爆国日本での公開が危ぶまれるというので心配していた作品。公開初日に駆けつけての鑑賞でした。

物語の背景となる政治状況や米ソ核競争を知らず、かつ厖大な人名の登場、さらに監督特有の時制を操る演出法に戸惑い、1回や2回の鑑賞で理解するのは無理だと思った。ということで、まともなものになっているかと危惧を覚悟に感想を書いてみました。間違っているところはご容赦を!

観るにあたって、広島・長崎の惨状を描かずに原爆の恐ろしさが伝わるか、惨状を見ないで苦悩するオッペンハイマーの根拠は何かという視点で見ましたが、全くの危惧に終わりました。もっと高い視点、科学に立脚した反核を訴える作品だった。国際的核管理を唱えるオッペンハイマーを、個人的な妬みで葬り去ったという事実。核の恐怖はこれを運用する人にかかっている。こんなつまらない私憤、その背後にある国家体制に恐怖を感じた。これこそが本作のテーマだと思ったアインシュタインが大きな役割を担っていたことに驚いた。(笑)

原作:2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「“原爆の父”と呼ばれた男の栄光と悲劇」、未読です。

監督・脚本:クリストファー・ノーラン撮影:インターステラー」以降のノーラン作品を手がけているホイテ・バン・ホイテマ、美術:ルース・デ・ヨンク衣装:エレン・マイロニック、編集:ジェニファー・レイム、音楽:「TENET テネット」のルドウィグ・ゴランソン。

出演者:キリアン・マーフィエミリー・ブラントロバート・ダウニー・Jr.マット・デイモンラミ・マレック、フローレンス・ピュー、ケネス・ブラナーら豪華キャストです。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、神の火を盗んで人類に与えた男神プロメテウスにオッペンハイマーをなぞらえ、原爆の父と崇められる中で吐いた彼の言葉、ヒンドウ教の1節「我は死なり。世界の破壊者なり」から物語が始まる。オッペンハイマーとはいかなる人物か”を問う印象的なプロローグだ

いきなり1954年オッペンハイマーキリアン・マーフィ)のスパイ容疑を審議したAEC(原子力委員会)の聴聞会シーン(FISSIN:核分裂)がカラーで描かれ、オッペンハイマーが自らの人生をケンブリッジ学生時代からを語り始めると、1959年のストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)の商務長官適否を問うモノクロの公聴会シーン(FISION:核融合)に移り、ストローズがオッペンハイマーとの出会いを語りはじめる。

カラーはオッペンハイマーの視点、モノカラーはストローズの視点でオッペンハイマーという人物を捉える。そしてFISSNとFISIONの対決、すなわちウラン原爆を開発者で水素原爆に反対するオッペンハイマーと水素原爆を推進するストローズとの対決が描かれる。

オッペンハイマーが語る物語を主軸して、頻繁に1954年の聴聞会と1959年の公聴会を行き来しながら描くことで、複雑で分かり難い物語になっているが、サスペンスフルで、その結末はあっと驚くものになっている。エンターテインメント作品としてすばらしい伝記物語だ。

オッペンハイマーの大学生時代

ハーバード大学の化学学科を飛び級で卒業したオッペンハイマー(21)はケンブリッジ大に留学したが、実験が苦手で、厳しい指導の教授を毒入りリンゴを作って殺害しようとする。(笑)

ニールス・ボーアケネス・ブラナー)教授の講演を聞き、実験嫌いな彼はボアーの勧めで理論物理学を志しドイツのゲッチンゲン大に移る。ここで彼は人生で最高の友人となるオランダの物理学者イジドール・ラビ(デビッド・クラムホルツ)と出会う。原子構造を楽譜を描くよう数式で表現できる天才であったが、音楽、絵画、語学でもその才を発揮した。理論家というのがひとつのテーマになると思った。

23歳でカリフォルニア、バークレー校に助教授で迎えられた

原子物理学者のアーネスト・ローレンスジョシュ・ハートネット)と親交をむすぶ。一方で弟の素粒子学者フランク(ディラン・アーノルド)を通じてフランス語教授のシュバリエ(ディン・デハーン)ら共産党員と交わる。その中のひとり精神科医ジーン・タトロック(フローレンス・ピュー)に出会い、奔放なセックスで結ばれた。ここでのフローレンス・ビューの身体を張った演技は見ものだった!

彼は結果を考えないで行動に移る精神の持ち主のようだ

1939年に共産党員で植物学者のキティエミリー・ブラント)と結婚した。彼女は数度の結婚歴を持っていた。子供を出産するが子育ては苦手で、夫を支えて強く生きる女性だった。

実験家のローレンスと理論家のオッペンハイマー核分裂の原理を見つけ原子爆弾の登場を予測していた。実験屋のローレンスはノーベル賞を取ったが理論屋のオッペンハイマーは叶わなかった

1939ナチス・ドイツポーランド侵攻が始まり、ドイツの原子爆弾開発を恐れたアルベルト・アインシュタイントム・コンティ:アルベルト)は原子爆弾開発を大統領に進言した。ユダヤ人のオッペンハイマーはキティから「ローレンスではない、あなたの時代よ」と押され原子爆弾開発に携わることになった。

1942年、国家プロゼクトマンハッタン計画”に参加

原子爆弾製造を担うロスアラモス研究所の所長に就任した。就任に当たっては計画指揮官のレスリー・グローヴス大佐マット・デイモン)から秘密保全上の身体検査を受け、共産党員との接触はあるが、物理学者の能力が認められ所長に就任した。

大量の人が集められロスアラモスは町となり、工場施設は鉄条網で囲まれ、厳重な秘密保持が求められた。グローヴスはケネス・ニコルズ中佐(デイン・デハーン)に秘密保全を担当させ、実はオッペンハイマーも中佐の監視下にあった。

研究者の選定はオッペンハイマーに任された。彼は真っ先にラビを選んだが、ラビは倫理的に原爆を作ることに反対で辞退し、リンス・ベーテ(ダグラス・スカルドガルト)を推薦した。こうして選んだ理論物理学者のなかに後に水爆の父と言われるエドワード・テラーベニー・サフディ)、デヴィッド・ヒルラミ・マレック)らがいた。

テラーから「計算上、連鎖反応が止まらず地球大気をぶっ放すことになる」と提言され悩み、アインシュタインに協力を求めたアインシュタインは協力を断り、「可能性があるならドイツに教えて開発を中止せよ」と忠告した。その後、テラーが再度計算し“可能性はほぼゼロ”という結論を出した。

このことが理論物理学オッペンハイマーの重大関心事になっていった

 エンリコ・フェルミ(ダニー・デフェラーリ)の研究所で連鎖反応を見せてもらい、確信を持ってウラン爆弾を提案するが、テラーが水素爆弾を推奨し論戦となった。テラーには別の場所で水素爆弾を研究させることにした。

1943年になりオッペンハイマーはシュバリエに預けていたノイローゼの妻と子をロスアラモスに移した。この際、シュバリエからロシアへの情報供与を打診されたが断った。さらにジーンとの浮気の発覚、ジーンの死。研究員ジョヴァンニ・ロッシ・ロマニッツ(ジョシュ・ザッカーマン)のウラン秘密漏洩疑惑でニコルズ中佐に逮捕され、自らがFBIの防諜担当官ボリス・パッシュケイシー・アフレック)の尋問を受けるなどオッペンハイマーにとって不条理な秘密保全に関わる事案が起こった。

ここでも事の後先を考えず直感で走ってしまう性癖が出ている。

1943年のクリスマスにゴアーが訪ねてきた。「トイツより進んでいる。君はアメリカのプロメテウスになる」と警告して帰っていった。

1945年5月ナチス・ドイツ降伏。素内で爆弾開発停止の運動が起こった。デヴィット・ヒルが原爆製造中止請願書を持ってきたが、これを拒否した。そして「我々は理論家だ。戦争が終わるまでやる。核はルーズベルト大統領によって国際管理される。米国の戦争勝利に貢献したい」と所員を説得した。

原爆投下検討会?に参加したオッペンハイマーは核の効果を強調し「倫理の問題がある」と日本に告知することを付け加えた。京都を避け、広島ともうひとつの投下が決まった。

トリニテイ実験

ポッダム会議に間に合うよう実験日を7月16日に設定し準備に入った。弟のフランクを呼び寄せた。

当日の天候は嵐だった。この日を外すとポッダム会議に間に合わない。慎重に準備を進め、グランドゼロから16km離れた観測所で発火を待った。成功を妻に知らせる暗号は「白いシーツをしまえ」だった。

爆発を確認した!成功だった。直ちにポッダムに伝えられた。2発の原爆がサイパン島の米空軍基地へ送り出された。オッペンハイマーは「運用は俺たちの権限はない。思いもしない戦争になる」と側近に伝えた。

オッペンハイマーは原爆の広島投下を大統領発表ニュースで知った

 オッペンハイマーは英雄になった。タイム紙の表紙になった。

所員たちが成功を祝う席で「世界は今日を忘れない。しかし日本は嫌がっているだろう」と挨拶したが、喜ぶ所員の姿が被爆者に代る妄想に愕然とした。

オッペンハイマーは現場を見ないでも計算通りの惨状が見えた

 トルーマン大統領に招かれ労をねぎらわれたが、「私の手は血塗られている」と応えた。大統領はオッペンハイマーを下がらせ「あの泣き虫を二度とよこすな」と側近に漏らしたという。

長崎の被害状況の記録フィルムが上映された。オッペンハイマーはほとんど見ないで、黒焦げの遺体を踏む悪夢の中にいた。

オッペンハイマーは研究所を去ることにした

所員に「核が兵器に加わったら人類はロスアラモスを呪うだろう」と挨拶した。

1947年、プリンストン高等研究所所長となりAECのアドバイザーに就任

委員長のストローズからの紹介でプリンストン高等研究所の所長に就任するとともにAECのアドバイザーを6年間務めるがことになった。

ストローズがオッペンハイマーにこの役を依頼したとき、庭園に初代所長のアインシュタインの姿を認め、オッペンハイマーを紹介しようとすると彼が先に走り出て挨拶、なにやら話した。

ストローズが挨拶にと近づくとアインシュタインは不機嫌に去って行った。高卒で原子力の教育を受けておらず不安を抱いていたストローズはこのふたりは国の原子力政策を担う自分をバカにしていると捉えたこのことが1954年の聴聞会開催の大きな伏線となっていった。一方、オッペンハイマーはそのときのアインシュタインの驚きの行動にとんでもない恐怖を感じた。

オッペンハイマーはAECのアドバイザーとして国が進める水素爆弾開発反対し、アイソトープの輸出問題でストロープと対立していった。委員のひとり元空軍パイロットのウィリアム・ボーデン(デビッド・ダストマルチャン)が語ったドイツ軍のVロケット攻撃が原爆に結びついていった。

1954年、オッペンハイマーはスパイ容疑でAECの聴聞会が開かれた

ロスアラモス所長時代の共産党との関り、ソ連への情報漏洩がウィリアム・ボーデン(デビッド・ダストマルチャン:)により厳しく追及され、検察官ロージャー・ロブジェイソン・クラーク)により裁かれたが結論が出ない。マッカーシー赤狩り資料共産主義者の烙印が押され、原爆技術に関する秘密保持許可がはく奪され、AECアドバイザーの地位を追われた。その後、オッペンハイマーはAEC外で水爆反対運動を続け、物理学者らの賛同を得て行った。

1959年のストロークの商務長官就任適否の公聴会

米ソの核競争の中で、ストローズの水素爆弾推進姿勢への批判が起き、期せずして1954年のオッペンハイマー聴聞会審議が取り上げられ、裁かれた。その結末はデヴィット・ヒルの証言で思わぬ結末、オッペンハイマーをAECから追放するためのストローズが仕組んだ聴聞会であったとが判明したそしてストローズが漏らしたひとこと“俺をバカにした恨みだ”

まとめ

カラーとモノカラーで描かれるオッペンハイマーとは何者か

カラーで表現される天才の理論物理学者で先見性に富むが起きる結果読みの軽視。ケンブリッジ大時代のリンゴの話、女性関係がいい例だ。モノカラーで見る人への配慮の無さ。一筋縄でない人物伝、面白かった。

核分裂の学理証明を優先したトリニテイ実験だった。その結果について知っていたが疎かにし、そのつけで彼は苦しむことになった

1947年、アインシュタインと交わした会話がオッペンハイマーにとっての恐怖となった。

アインシュタインは「核の連鎖反応で地球の大気がぶっ飛ぶ」と協力依頼にきたオッペンハイマーを覚えていた。アインシュタインが「時が収まればメダルは貰える」と声を掛けるとオッペンハイマーは「やっちゃった」と話した。アインシュタインは恐怖で頭を抱えて逃げ出した。この姿を見たオッペンハイマーは「自分が開発した原爆技術が各国に核の連鎖反応のように拡散し使用され大気が破裂する!」恐怖に陥った。

冒頭近くでのアインシュタインオッペンハイマーの会話シーンで内容を伏せて、ラストに持ってきて明かし、国際的な核管理の必要性を説くこのラストシーンは見事だ。絵もすばらしかった!

広島・長崎の惨状を描く必要があったか

トリニテイ実験の描き方。爆弾が破裂した瞬間の閃光、世界は吹っ飛んだような静寂、その後のオッペンハイマーの苦悩。音楽と映像で見事に恐怖は伝わった。

さらに長崎の被害状況が上映されたときのオッペンハイマーの頭の中にある被害者の姿。この作品はオッペンハイマーの苦悩を描いた作品だからこれで十分だ。

キリアン・マーフィの演技。彼の自慢の帽子にパイプと端正な姿勢だけでオッペンハイマーのすべてを演じていた。

ストーリー、映像、音楽、テーマ、演技とよくできた作品。1回や2回では消化しきれない!

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