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「罪の声」(2020)この子たちに何の罪があるの?

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グリコ・森永事件をモチーフにした作品。すでに記憶が薄くなっており、どんな事件だったかと観ることにしました。こういう事件だったなと思わせてくれるほどにリアルでした。

原作は塩田武士さんの同名ミステリー小説、未読です。塩田さんがこの小説を書くために記者となって事件の現場を踏み、記者を辞めてグリコ・森永事件を綿密に取材して描き出したこの結末。ここで描かれるエピソードは自らが取材体験されたもので、その汗の臭いがするような作品でした。

国家や警察権力に一矢報いたいと争うのは結構。その手段が犯罪で、何にも関係ない子や身内の人たちの人生を奪った責任をどうとるのか、その人たちの未来を考えたことがあるのか?そしてこの罪の責任を誰が負うのかと厳しく問い詰めた作品です。

未解決なギン萬事件(グリコ・森永事件)。35年を経過しているから「もうよかろう」と出てくる“深淵なる声”を集めて真相に迫ろうとする新聞記者。父親の名がある録音テープのなかの自分の声が未解決事件に使われた脅迫の子供の声だと知った洋服仕立人。この二人の男が、事件を追う中で、まだ事件は終わってないと協力して、事実を解明していく壮大にしてミステリアスな作品です。

事件の当事者を追ってもいまではもう事件解明の証拠は見つからないが、その子供たちの生活の中にしっかり残っていたという物語の展開。そして事件が未開決でなくなる結末、なぜこの結末が必要なのかと、先が見えにくい今の時代に問われる作品だと思います。

監督は「麒麟の翼 劇場版・新参者」「映画 ビリギャル」の土井裕泰、脚本はドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」などの野木亜紀子。撮影:山本英夫、音楽:佐藤直紀、主題歌:Uru「振り子」。

出演:小栗旬星野源市川実日子、重松豊、古舘寛治梶芽衣子、宇崎竜童、篠原ゆき子原菜乃華宇野祥平火野正平、高田聖子。


映画『罪の声』予告【10月30日(金)公開】

あらすじ(ねたばれ):

1984、“くら魔てんぐ”犯人グループの事件ニュースを聞きながら、開業した「テーラー曽根」で洋服仕立てに勤しんでいた父・曽根光男。

2018、父亡きあと店を継いだ俊哉(星野源)は妻・亜美(市川実日子)と長女・詩織(朝日湖子)の3人暮らし。母親・由美子(梶芽衣子)は余命半年の病で緩和病棟で暮らしている。

クリスマスツリーの飾りつけで、部品を探していて、父親の名のある箱の中に古い録音テープと英語で書かれた手帳を見つけた。テープの声をネットで調べ、ギン萬事件に使われた声であることを知り動転する。

大日新聞の社会部事件担当デスク鳥居(古舘寛治)は「今なら聞くことができる深淵の声」を集めて平成・昭和の未解決事件を追う特集を企画。「声を聞く耳を持つ」とかって社会部に席を置いた阿久津(小栗旬)に目をつけ、文化部より呼び戻して、特集担当を命じた。

鳥居は自らの分析で、ギンガ社長誘拐事件(1984年3月)はこの1年前にオランダで起きたビール会社社長誘拐事件に似ており、この事件を追っていたアジア人が怪しいと阿久津をイギリスに派遣して調査を命じた。

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阿久津は現地で誘拐交渉人からこの記事を取材していた記者ソフィー・モリスに接触し、「キツネ目の男」の写真を見せて、「記憶はあるか」と聞いた。「親しくしている中国人に似ている」という回答を得て、日本に戻った。

阿久津は元社会部記者だった水島(重松豊)から誘拐事件で金を奪うのは難しいというヒントを得て、株価操作により金を稼ぐ手段から事件を追うことを考えていた。

俊哉は父親が事件にいかなる関りがあったのかと身の廻りから、阿久津は株価操作という大きな社会土俵から事件を追っていく。

俊哉はまず父の代からの付き合いのある職人・河村(火野正平)に話すと、手帳は過激派だった伯父の達三さんの物だという。入院中の母親に伯父のことを聞くと、「阪神パークのレパルド見に連れていってもらったでしょう」とそれだけ。家を探すとそのときの写真が出てきた。

次に父と伯父の柔道仲間・藤崎(木場勝巳)に当たると「伯父達雄の父親は過激派でギンガ社員だった。しかし、過激派の内ゲバで殺された。その葬儀にギンガが来なかったことで達雄はギンガを憎んでいた」という。

達雄を知っているという料理屋“しの”の板長(橋本じゅん)を訪ね、「自分はビン萬事件で使われた声の主だ」と名乗り、「伯父は何をしていたのか?」を聞いた。「女将さんに知られたら叱られる」と言いながら、女将の愛人・森本と耳の潰れた生島という男を含む“9人の犯人グループ”の集会がここであった」と喋った。(笑)柔道で撮った伯父の写真を見せると「こいつがいた!」。

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叔父が犯人のひとりだということが分かった。生島は柔道ができる男で警察を首になり家族全員が消えたという。生島秀樹(阿部亮平は父や伯父と柔道仲間だった。

 阿久津は株価操作の件で、元証券マン立花(堀内正美)に指南を受けた。英国でギンガの株を買って株価を吊り上げ、脅迫状を送って騒げば、兜町空売りすれば儲かる。こういう頭の回転が早い髪を借り上げた一ツ橋出の男が当時兜町にいたと証言。これがあのキツネ目の男、この男はギンガ事件の次の映画「天国と地獄」を真似た“又市食品脅迫事件”(1984年6月)に現れ、失敗していた。

阿久津は姉・葵(須藤理彩)を訪ねて萬堂製菓脅迫事件(1984年9月)のことを話していると、姉が「あの事件での男の声を思い出すとぞっとする」と話すのを聞いて、社内で事件と子供の声の関係を調べてもらった。

ギンガ事件:16歳の女の子、萬堂事件:8才の男の子、ホープ事件:8歳の男の子という結果を得た。「この子たちの手掛かりは?」というデスクの声で、「県警、県警」と警察情報を追っていた捜査がぶっとんだ!

俊也は生島秀樹に娘・望が居たことを知って、当時の担任・大島先生(浅茅陽子)を訪ねた。「望は2年生で15歳、8歳の弟がいた。将来翻訳家になると言って急に引っ越し、おかしいと思ったがヤクザがからんでいるというので何も言えなかった。その日は1984年11月14日(ホープ食品脅迫事件日)だった」と話してくれた。(ホープ食品脅迫事件当日)。この事件では大坂府警1000人が子供の声で動き、追い詰め、隣県間の警察の連携不足で犯人を取り逃がすという警察の大失態事件だった。

俊也は望と弟、そして自分の3人の声がギン萬事件に使われ、望と弟のその後が気になり、怖くなった。自分の家族のことを考えこれ以上事件に首を突っ込むのを止めようと考えていた。

阿久津がホープ事件の現場を見て、この事件で社に垂れ込みした飲み屋の店主・藤井(佐藤蛾治郎)を訪ねた。藤井は「客の山根(当時トラック運転手)が次はホープが狙われるという話を聞き、当たりかどうか分からないが伝えた」という。山根は現在服役中で、話を聞くと「当時森本という運転手が仲間と話している無線を傍受して、飲み屋で喋った」と証言。

社で森本を割り出し、森本の幼なじみである中古車店主・秋山(佐川満男)を訪ねた。「ギンガ事件のときから怪しいと思っていた」。森本が写っている砂金を見ると「キズネ目の男」と一緒だった。

阿久津は森本行付けの料理屋「しの」を訪れ、「キズネ目の男」の写真を見せて、板長の佐伯から話を聞いた。俊也の話も出た

ホープ食品事件では株価操作の痕跡がない。そこでこの筋のベテラン・ニシダ(塩見省三)の意見を聞いた。「手口を吉高弘之に教えた。スポンサーは上東忠彦だ。操作がないのは儲けが出ていないということ。中央が関係している?姿がないのは殺されている」。

阿久津は何度も子供の声をテープで聞いて、曽根俊也に会うことに決めた。店を尋ね「テープが最大の事件解決策だ」と申し出たが「あんたは記事にすればいいが、俺は知ってもどうにもならん!」と断った。妻・亜美が「何かあったの!」と問う姿に、阿久津は「何でもないんです」と店を出た。

阿久津は「真実よりスクープ狙い、相手を無視した取材姿勢にうんざり!」とデスクに伝えると、「馬鹿!未解決はマスコミに責任があった。」と一喝された。

俊也は大島先生から望の同級生・天地(高田聖子)が会いたがってと誘われた。

天地は「望(原菜乃華)が居なくなっても2か月に1回公衆電話で連絡があった」と前置きしてその後の望の動きを語った。「父親はあの日から帰っていない。青木組に殺されると逃げ、建設事務所で暮らしていると泣いていた。父に読まされた文章で学校にも行けなくなり将来に何もない。次の年の7月にギンガの看板の前で会うことにしたが来なかった。時効になっても連絡がなかった」。

俊也は妻に知っている全てを話し、これまでは「罪の声」として誰が自分の声を使ったかを調べていたが、ここからは「声の罪」、自分の声が罪を犯したという贖罪の気持ちで、阿久津とともに、望の弟・聰一郎を探すことに決めた。

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俊也と阿久津は当初匿われた大津にある青木の京陽アパートから捜索を開始した。京陽アパートは放火殺人事件で今は存在しないことが分かったが、事件の容疑者津村(若葉竜也)が常連客であった雀壮繋がりで、高松、岡山の津山を経て、首吊り寸前まで追い込まれた聰一郎に心斎橋で会うことができた。

聰一郎から、「ホープ事件の日、青木のアパートに連れてこられ監禁、母親千代子(篠原ゆき子)は青木の女にされ、姉・望は脚本家になる夢を求めて家出し“キズネ目の男”に追われ、車に衝突され亡くなった。組員の津村に可愛がられ、彼が博打の中抜きが露見して逃げる際、母を救おうとふたりでアパートに火を掛け、あとは転々と知合いを渡り歩いた」と聞かされた。

聰一郎は俊也に「どんな人生でしたか?」と聞く。俊也は絶句した。阿久津が「曽根さんの今は曽根さんの人生。罪を抱くのは曽根さんではない!」「私はロンドンに行き、本当の罪人を引き出す」と言い添えた。

聰一郎はマスコミの前に出て、「母に会いたい」と語り、母と再会することができた。「お母さんを置いて逃げて!」と泣くのみだった。この運命を誰が償うのか?

阿久津はロンドンに行き、ソフィー・テイラーに会い「達雄はOssilだ、ヨークにいる」と聞き出した。達雄は国際的な大バカになっていた。

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阿久津はヨークの古本屋を営む老いた達雄(宇崎竜童)と対峙した。達雄はギン萬事件を「俺たちの闘争だった!警察、社会、日本にこの国が如何に空想かを見せつけたかった!」と総括した。阿久津は「日本は空想の国になりましたか?あなたは1984年のままだ!声を使った子供たちの運命を変えた。子供たちの未来を殺した!これは正義でない!」と追及し、「誰かを恨んであなたのようなことはしない!」という俊也の言葉を伝えた。

警察に達雄の逮捕を要請してロンドンを去ったが、達雄は姿を消していた。

俊也は病院から一時帰宅してテープと手帳を探す母の姿を見て、「誰が自分の声を取ったか」と聞いた。母は「学生のころ過激派で達雄と一緒に活動していた。結婚して夫のテーラー仕事を支えていたところに、達雄が訪れ俊也の声を欲しがり、録音して渡した」と言い、「ずっとくすんでいた警察、社会に対する痛みだった」と告白した。

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俊也は母の死に、「孫を可愛がってくれてありがとう」と母を許し、妻・亜美は「ありがとうございました」と義母が告白してくれたことに感謝した。

阿久津は社会部記者となり、俊也の店でスーツを新調した。さて、似合いますかどうか!

感想:

阿久津と俊也、それぞれが犯人を追うなかで、声を使われたことで苦しんでいる望と聡一郎を救いたいと、ふたりで協力しながら犯人を追い詰めるという物語の構成。

前段、俊也と阿久津が事件を追う様。交互に描かれ、それぞれの証言者が35年経っての証言だと思える雰囲気があり、役者さんたちの名演技に飲み込まれます。特に望の学友・天地を演じた高田聖子さんの証言などとても“リアルでノンフィクションドラマ”のようでした。

後段、ふたりが協力して聰一郎の行方を追い、厳しい暮らしの現状が明かされるが、ここでは“涙が絶えないヒューマンドラマ”になっている。聰一郎と望の厳しい人生を描くことで、なんでこんなバカげた事件を起こしたか、なぜこの事件が未解決になったかと疑義を感じ、このことが作品のテーマだと思います。

発見された聰一郎の風体に、なぜこのような嵌めになったのか。イギリスでノウノウと暮らす達雄が「警察、社会、日本にこの国が如何に空想かを見せつけたかった!」という言い草にこの風体を対比させ、阿久津が「真実」を知って達雄のバカさ加減を突く脚本・演出がすばらしい!

俊也の母は自分が関与した事件でありながらその非を認めない。こんな母の罪を背負うことになった俊也。望の短い人生が、父親の罪を問うことなく、夢を追うものであったこと。こうして子供たちの人生をしっかり描くことで、罪の深さを問う物語となっていた。

劇場型犯罪といわれるギン萬事件。何が劇場型にしたのか?スクープばかりに目が行き真実を明かそうとしなかったマスコミ、面子と手柄に拘り何度も犯人を取り逃がす警察の姿がよく描かれた作品でした。

小栗さんは、当初は乗り気でなかったが、今もこの事件で犠牲者が出ていることに正義感を自覚し、“俊也の苦悩に寄り添って”、犯人を追い詰める阿久津の演技はまるで小栗さんそのものに思え、すばらしい演技でした。また、星野さんは、テーラー役がよく合って、自分が関わった事件だけに状況が明らかになる度に苦悩が大きくなるという、大変感情コントロールの難しい役でしたがうまく演じられましたね!すばらしい作品でした!

                                 ****

「星を追う子ども」(2011)これまでの作品とは異質ですが、これ以降の作品に繋がる“作品

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WOWOWシネマ、新海監督の世界特集で観ました。「雲の向こう、約束の場所」(2004)から始まって、「天気の子」(2019)までの6作品。一連の作品として観ると、本作は「秒速5センチメートルから5年おいての作品ですが、迷いのあるような、これまでの作品とは異質ですが、これ以降の作品に繋がる“作品だと感じました。

 父を亡くして孤独な毎日を送る少女。ある日、秘密基地に向かう途中で怪獣に襲われ、地底から来たという少年に助けられる。その少年が突然亡くなったことで黄泉の世界に興味を持ち、亡き妻に探し出し蘇生させたいと地底の国に向かう先生と共に旅する少女のファンタステイックな物語。

 監督・脚本・編集 :新海誠作画監督・キャラクターデザイン :西村貴世、美術監督:丹治匠、音楽:天門、主題歌:「Hello Goodbye & Hello」:熊木杏里


新海誠『星を追う子ども』予告編映像

 あらすじ(ねたばれ):

父を亡くした渡瀬明日菜(アスナ)は、看護師の母とふたり暮らし。母は仕事で家を空けがちで、アスナは自分で食事を作ってひとりで食べ、猫のミミーと一緒に母の帰りを待つ毎日。山に作った秘密基地を持っていて、そこで父からの贈り物鉱石ラジオを聞くのを楽しみにしていた。

 ある日、秘密基地に向かう途中、鉄橋の上に猪のような動物いた。後方から電車が来て、危ないと思っていたところに不思議な少年が現れ救ってくれた。動物は川に落ちた。

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 アスナは少年を秘密霧に案内すると、少年はどうしても会いたい人がいると言う。夕方になったので別れて家に帰った。

 翌日学校に行くと、熊が鉄橋から落ちて死んでいたという噂を聞く。授業後に秘密基地に来ると少年がいた。持ってきた弁当を食べ、鉱石ラジオを聞いた。 

少年は名をシュンと言い、どうしても会いたい人がいると「アガルタ」からやってきたという。別れ際に「君には生きていて欲しい」と言われた。

 アスナが帰っていったあと、シュンは自分の歌を聞いてくれていたのはあの子だったと呟き“美しい星空”を眺めて、星を掴もうと手を伸ばし・・・。

 “アメンボーが泳ぐ水溜まり”雨の日、昨日と同じように山の基地に来ると少年が居なくなっていた。帰宅すると母が「あなたのスカーフを着けた男の子が川原で亡くなっていた」という。

 国語の時間。これまでの先生に代わって新任の森山先生が担当。先生はイザナミイサナギの話をした。日本には「黄泉の国」というのがあるが、世界の神話では「シャンデラ」「アガルタ」などという国があり、すべて地下世界の存在を伝えていると話した。これを聞いたアスナは「アガルタ」に興味を持ち図書館で調べ、先生の自宅を訪ねた。

 先生はアガルトについて研究していた。「3000年前、ケツアルトルという神が人類を導いていたが、人類が成長し不安になったケツアルトルは役割を終えたと、門番を残して、地下に潜った。そこにはあらゆる願いが叶う場所があり、死者が復活できる」という。

 先生の自宅からの帰り、ミミーに導かれて秘密基地に寄ると、シュンそっくりの少年が居て「兄は地上人と接触していたのか!」と話しかけてきた。この少年を追ってヘリで軍人たちがやってきた。

少年は洞窟の門をウラビス(鉱石)で開け、アスナと一緒に逃げ、ふたりを軍人たちが追った。少年は襲い掛かる怪獣を刺しながら前進、光がさすところでアスナにウラビスを光に向けろ!という。鉱石を向けると扉が開き、その先がアガルタだった。

軍人たちがやってきて、その一人が「ここからは自分ひとりで行く」という。その声の主は森崎先生だった。先生はアガルトの国を探す組織の一員で、階級は中佐だった。

少年はシュンの弟のシンだと言い、「兄は死んだ!俺はウラビスを回収するのが任務だった」とアガルトの方に消えていった。

 亡き妻に会いに行くという先生について行くことにした。先生に「シュンに会いに行くのか?」と聞かれたが、「分からない!」と答えた。

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 ヴィータファという水の中でも息ができる太古に池の底を歩いてアガルトに向かい、“水中に沈んだ街並”を見た。このとき父と母が「もうすぐ生まれてくるね!」と喜んでいる姿に出会った!

 美しい草原に出た。そこには“シャクナ・ヴィマーナ”という神が乗る船が空に浮かんでいた。この船の方向に行こうと、“険しい山の稜線”を歩き、“花畑”に出た。

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 廃墟の村に着き、そこで古文書を手に入れ、先生が死者への門・フィニス・テラへの道を見つけた。

 このころシンはカナ村に帰ったが、長老から地上人をアガルタに招き入れたと責められ、先生とアスナを殺すよう命じられた。シンは馬でふたりを追った。

 アスナと先生がフィニス・テラに急いでいると、“夷族”(死神)が襲われ、アスナは城壁の中に逃げ込んで、道に迷った小さな女の子・マナに出会った。そこにシンがやって来て「いい迷惑だ!」と言いながら、救い出してくれた。そして三人は夷族に追われ、川の中に飛び込んで、離れ離れになり、流された。

 美しい大地に流され、アスナは先生に助けられ、シンがマナを抱いて横になっていた。シンが先生に気付き、ナイフで襲った。が、先生に殴り倒され、怪我をした。

馬にシンとマナを乗せ、マナが示す方向に進むと美しい田園のなかに村があった。村はアモロート村と言い、村民は地上人だと寄せ付けなかったが、老人がマナを助けてくれたお礼にと1泊させてくれることになった。

 老人はマナの母は地球人だと教えてくれ、アスナを風呂に入れ着物を貸してくれ、とても親切にしてくれた。

老人は「地上人はアガルタから富や技を盗み、戦争を持ち込み、この地は荒れた。だから地上人を入れないようクラビスによって扉を閉じた。」と語り、「マナがこんなに元気になったのは初めて見た。この子は神ケツアルトとなり永遠に生きる」と喜んだ。

先生が「死者に会えるか?」と問うと、「アガルタでは死者の復活は禁じられている。アスナを巻き込んではならない!」と注意した。

 朝、先生とアスナは老人が準備してくれた舟で湖に出てフィニス・テラを目指した。“美しい川”を下って、“赤い湖”に出た。先生に「イザナギがのぞき見したイザナミは恐ろしい形相だった。それでも死んだ人を蘇らせるんですか?」と聞いた。先生は「人の生死の終わりに何を求めるか?明日決めなさい!」と言われた。夜になると夷族がうろついていた。

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 老人は残されたシンにマナを馬に乗せて、ケツアルトが現れる石柱のある野に行かせ、ふたりの運命をケツアルトに任せたが、喰われなかった。シンはそこに地上人を殺そうと現れたアモロートの僧兵を見て、「地上人には恩義がある」とアスナたちを追い、彼らと戦った。

 先生とアスナは大きなカルデラの淵からフィニス・テラを確認し、険しい崖っぷちに立った。しかし、この崖を下ることはアスナには無理と判断して、先生がひとりで降りることにして、アスナは老人のところに戻ることにした。お母さんに「祝福ってな~に?」と聞くと「生まれてきて良かったということ」と答えてくれたことを思い出した。

シュンに会ったこと、老人の家でもてなされたこと、そしてシンに「何でアガルタに来たんだ!」と言われたことを思い出し「な~んだ、私は寂しかっただけ!」と思った。

 アスナは夷族に追われ、川に入り、川の中を逃げた。が、捕まって首を絞められているところで再びシンに出会った。この運命にふたりは泣いた。そこでシャクナ・ヴィマーナを見つけて、まだ旅の中をぐるぐる回っていることに気づいた。

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 ケツアルトがやってきたので、彼の腹の中に入れてもらって、険しい崖を下りフィニス・テラの門にやってきた。そこで先生に会った。先生はウラビスを差し出してクナ・ヴィマーナが現れるのを待っていた。クナ・ヴィマーナは人の形に変わり、先生の望を聞いた。

 アスナが先生に近づくと自分の魂が吸い取られるような感じがして、そのときシンが「魂を渡すな!」と叫んだ。先生は自分の目玉をクナ・ヴィマーナに差し出し、さらにアスナをも差し出して妻リサに会っていたのだった。シンがウラビスを叩き割った。すると、クナ・ヴィマーナは去って行った。鉱石ラジオの鉱石が割れていた。

アスナがシュンと別れて目覚めると、許してくれと泣いて詫びる先生をそっと抱いた。

 シンと先生はアガルトに残ることにして、地上に戻るアスナを見送った。

 感想:

アスナがアガルタの旅で得たものは?

タイトル「星を追う子ども」から、アスナ、シュン、シン、マナの物語。子供たちのキャラクラーが見え難く、これに森崎先生が加わり、物語の焦点がぼやけ、テーマをうまく握り切れなかったように思います。

アスナはアガルタを旅し、死の門フィニス・テラを潜り、シャクナ・ヴィマーナの生贄に供せられそうになりながら地上に戻ってきた。さて、どんな体験をしたのか?

亡くなったシュンに会うためでも、父に会うためでもなく、ただ「孤独を癒すためだった」という。

命に限りがあるから星を見て、自分が誰からどうやって生まれたのかと自分のルーツを確認するシュやシン、マナら地上人と出会い、同じ仲間意識を持ち、危険に陥った際に幾度も助けられ、母の言葉に励まされ、最後には夢のなかでシュンにも会えて、“生きる力”を貰ったと思います。

 生を感じさせるに絵がすばらしい!

旅でみる風景がその時々に心情に合うよう清逸に描かれていました。美しい野原、湖沼、草原化したカルデラ、満天の星空、雨などが生彩で“命を感じる”ように描かれ、すばらしいです。この景色にアスナは生きる力を得ていくと思います。これらの絵のなかには、後の作品に生かされて、大きな作品へと繋がるものがあり、楽しめます。

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 シュンやシン、森崎先生が怪獣や夷族、僧兵と生きるために戦った。この戦闘シーンがジプリアニメで描かれるものに似ている

アニメ作家の志す人には、ジプリアニメは大きな憧れであり、壁。監督もこの大きな重圧に苛まれていたのでしょう。この作品がそうであったのではと想像します。

                                                  ***

「きみの瞳が問いかけている」(2020)

 

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不慮の事故で視力を失ったヒロインと、罪を犯しキックボクサーとしての未来を絶たれた青年の切ない恋の行方を描くというもの。

監督は三木孝浩さん。前作の「思い、思われ、ふり、ふられ」は変化球でしたので、今作は“ど”ストレートの“純愛もの”と期待しておりました。(笑)しかし、ラストで空振り!やられました!(笑)

原案は韓国映画「ただ君だけ」(2011)、未観賞です。この作品はチャップリンの「街の灯」(1931)を下敷きにしているそうです。この作品は観ております。物語のエピソードはよく似ていますが、テーマが全く異なるので比較はできません。

脚本:登米裕一、撮影:小宮山充、音楽:mio-sotido、主題歌:BTS「Your eyes tell」。

出演者:吉高由里子横浜流星、やべきょうすけ、田山涼成野間口徹岡田義徳、奥野瑛太、般若、町田圭太、風吹ジュン

突っ込みどころが多いですが、作品のテーマ追及には仕方がない、それほどに面白い作品になっています。 タイトル「きみの瞳が問いかけている」が生かされるラストシーンに号泣必死です!


映画『きみの瞳(め)が問いかけている』予告

あらすじ(ねたばれ):

酒の配達を終わって、ビル管理人として事務所に座る働き者の元キックボクシン選手・篠崎塁(横浜流星)。いつものように管理人とTVの連続ドラマを楽しむために食べ物と酒をもって立ち寄った盲目の美しい女性・柏木明香里(吉高由里子)。新しい人に替わっていてまごつくが、とても陽気にふるまう女性で、一緒にTV観て、「また来週!キンモクセイに水をやっておいて!」と帰っていく。盲目なため、臭覚が発達(笑)、塁がシャツや靴の匂いを気にする。吉高さんが塁と目線を合わせないで会話するシーン、しっかり研究したことが伺われます!

雨降りに夜。管理人室を出たところで、転倒。塁が病院で治療を受けさせ、彼女のアパートまで送るが、厳しい階段を明香里を背負って登らねばならなかった。(笑)

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塁は音楽会に誘われ、その後彼女が昔両親と来たという焼肉店で食事。「ロダンの彫刻“考える人”の足の爪は陥入爪だった」と明日香は美大で彫刻をやっていたから気付いたと言い、関心を持たないと見えるものでも見えないと話した。父母を亡くしているのだがあまり記憶がないことを嘆く。何があったのか?塁は自分の過去に触れて欲しくないので無関心を装った。

アパートに送って、塁はこれまで明かさなかった自分の名「アントニオ篠崎塁24歳」と明かした。

塁はキックボクシンをチャンピオン目前に控えながら、かって孤児院で一緒に育った今では半グレの佐久間(町田圭太)に頼まれて用心棒を勤め、ひとりの男・坂本(岡田義徳)を死に追いやって刑務所入り。人生を棒に振っていた。いまでもこの男の家族に謝罪し、教会で祈り続けていた。とても律義でいいやつ!

明香里はコールセンターで働いていた。上司の尾崎(野間口徹)が明香里のアパ-トにやってきて関係を迫る。必死でこれに抗っているところに、塁が顔を出した。(笑)塁は「やめて!」と叫ぶ明香里の声を無視して、尾崎の指を1本へし折った。

明香里が「障がい者の私には仕事がなくなる。なんでこんなことを」と塁を非難した。この現状は辛いですね!塁は「俺が責任を取る」と帰った。

塁は元のキックボクシングジムに戻ることを会長(田山涼成)とトレーナーの原田(やべきょうすけ)に伝え、猛練習を開始した。

明香里が会社を辞めたと塁の元にやってきた。「責任を取って、どこかに連れて行って」というので、塁が一番古い記憶のある風車発電のある海浜に連れていった。ここは幼いころ母親と入水自殺をした場所で、「母を死なせた!」と誰にも話さなかった胸の内を明香里に告白した。

明香里はシーグラスを探させ、「丸くなったシーグラスは誰も傷をつけない!あなたは大きな傷を負っているから、優しくなっている!」と塁を励ました。このことばで塁は盲目で弱い明日香から生きる力を貰った。この映画にはいくつかの印象的な言葉があって、これがドラマをうまく繋いでいます。

このことばで塁は明日香を一生面倒をみると同棲に踏み切り、犬のスクを飼うことにした。

塁は練習に練習を重ね、連戦連勝だった。一方、明香里は彫刻を始め、塁に役立つようにとマッサージの勉強も始めた。毎日は楽しい日々が続いた。明日香はシェイクスピアが好きで、ジュリエットがロミオに語る「私の目を見て、本心を明かしなさい」が好きな言葉だと教えた。塁が完全に明日香の虜になっていった。(笑)

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クリスマス、明日香は亡くなった両親の墓参りに塁を同行した。明日香は「初めての運転で両親を乗せて運転中に火炎で包まれた男がビルから落ちてきて、これに注意を取られ衝突死後で両親を死なせた」と話す。塁は自分が追い詰めてガソリンを被り飛び降りた事件を思い出し、驚愕した。

塁は孤児院を尋ねシスター(風吹ジュン)に罪をどう償えばよいかを問うた。シスターは「すでに終わっている、あなたが自分を許さないだけ!」と諭した。

帰ると明香里が網膜剥離で入院していた。塁は手術を勧めたが金がなく、いまでの幸せでこのままでよいと言うが、塁は自分が許せなかった。

半グレから勧められていた莫大な懸賞金が掛かった地下格闘技大会出場を引き受けた。

アパートの自分の持ち物を全て焼却し、明香里が目の手術室に入るのを見送って、試合に臨んだ。

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壮絶な試合だったが、塁の必殺技で勝負がついた。塁は明日香の手術が成功したことを確認し、償金の半分は明日香に、残り半分はガソリンを被って亡くなった坂本の家族に贈った。半グレが試合帰りの塁を待ち伏せし三度ナイフで腹をめった斬りした。

明日香は退院をして、アパートを引き払った。塁が教会の紋のついた小箱を宅配便で送ってきたが中身を確認しなかった。

明日香は孤児院を尋ね、シスターから「大切な人が出来たが側にいる資格はない」と塁が漏らしていたことを聞き、泣いた。

2年後、明日香はしゃれた陶磁器店を営んでいた。身につけていたマッサージ術を生かして、リハビリセンターでボランティアをしていた。そこで言葉が出ない肢体不自由な塁のマッサージをしたが、塁は自分を隠すことに必死だったが、明日香は塁だということが分からなかった。塁は泣いた。

塁は退院して、明日香の店「アントニオ」陶器店を尋ね、キンモクセイを持って店を出た。帰りに犬のスクが懐いてくるが、これを無視して帰った。

明日香は犬のスクの行動に異変を感じ店に帰って塁から贈られた小箱を開けた。オルゴールで「椰子の実」だった。明日香は車で塁を追って風車のある浜に着いた。

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海に向かって歩く塁に「帰る場所はそこでなない!一緒に帰ろう!」「私の瞳を見て!」と声を掛けた。塁は「・・・・・」と泣いた。

感想:

愛の形を贖罪という形で問う物語。タイトルの真意が、「暗転」があってのラストで描かれるという、「暗転」で「街の灯」とは異なる結末を見せるという発想。とても楽しく観ました。 

塁は死を求めて母の眠る海に身を沈めようとしたが、そこに明日香が現れ、「私の瞳を見て!」に塁はその瞳に何を見たか?明日香の瞳に答えがあったという結末。

吉高由里子さんを盲目のマリア様のような笑みが絶えない優しい女性に仕立て、無鉄砲で純真、めっぽう格技に強い無骨な青年を横浜流星が演じるというこのキャステイングが物語にぴたりと合っていました。吉高さんの演技評価が高いのは当然で、ここでは流星君の頑張り、特にラストシーンを評価したいですね。よかったです。新人を育てるのが上手い監督さんですから、流星君のこれからを楽しみにしています。

さて、物語ですが、突っ込みどころが多いと言いましたが、これを遙かに凌駕するテンポのよさ、伏線回収、印象に残るセリフがあって、上手い脚本でした。

物語をナゾルような監督特有の美しい映像。それにBTSの主題歌「Your eyes tell」。十分に楽しめました。次作を期待しています。

                 ***

「朝が来る」(2020)きっと君を探しだす、必ず君にたどり着く!

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特別養子縁組”という制度で繋がった育ての夫婦と産みの母親が織りなす葛藤の行方をミステリー風に描いた物語。監督は「あん」「光」の河瀬直美さん。この映画を観ようと決めたのは産みの母親役を演じる蒔田彩珠ちゃんを観るため!😊こんなすごい女優さんになるとは、些と早い?もう大満足でした。監督さんに感謝です。

長い不妊治療の末に一度は子どもを持つことを諦めた夫婦が、テレビで偶然特別養子縁組”という制度を知り、あるNPOを通じて男の子を迎え入れる。ところがその6年後、子供と幸せな日々を送っていた夫婦のもとに、産みの親だという女性から、“子どもを返してほしい。それが駄目ならお金をください”との電話がかかってくる。会ってみると当時14歳だった女性は金髪に染めスカジャンを着込んだ女性だった。本当にあの時に会った母親?戸惑う夫婦は・・・という物語。

冒頭で異様な産みの親だという女性が現れ、この女性をミステリアスに追って、生母の愛、生命の尊さを描き、この生母の心が育ての母親を通して息子に伝えられ、ふたりの母親の子供への愛が描かれます。こんな形で育つ息子の母への気持ちが、エンデイングが終わった後、主題歌のラストに託されるという感動的なドラマでした。

監督が長年追い続けている命の繋がり、生命の尊厳というテーマの一環としての作品ですが、少子化、さらに子を育てられない親の増加という社会問題に挑んだところに意義があります。

特別養子縁組はひとつの解決策に繋がりますが、実は我が国では血族主義が重んじられ、諸外国に比して非常に少ない。この問題への啓蒙という一面のある作品です。

原作は辻村深月さんの同名ベストセラー小説、未読です。監督・脚本:河瀬直美高橋泉。撮影:河瀨直美、月永雄太、榊原直記。音楽:小瀬村晶、An Tôn Thât。主題歌:C&K「アサトヒカリ」。

出演者:永作博美井浦新蒔田彩珠浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登、中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮山下リオ


映画『朝が来る』予告90秒_10月23日公開

あらすじ(ねたばれ):

産みの母の呻き声と赤ちゃんが生まれた瞬間の鳴き声、大きな生命の誕生から物語が始まります。

東京有明の沿岸地域のタワーマンションに住む栗原清和(井浦新)は建設会社のエリートサラリーマン。妻・佐都子(永作博美)とはオフィスで結ばれた仲。6年前に朝斗を特別養子縁組で得てからは、専業主婦となり、朝人を育てることに専念していた。

朝人(佐藤令旺)が幼稚園に行く日。三人がマンションを出たあと、電話がなった。誰からだったのか?

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佐都子が帰宅して鉢植えの手入れをしていると電話。朝人が幼稚園で友達に怪我をさせたという。佐都子幼稚園に出向き担任先生に会って、本当に朝人が怪我をさせたのかと確認するが、要領を得ない。佐都は朝人がやっていないいと信じてやれない自分にいらつく。なぜ信じてやれないか?本当にどんな子なのかという迷い?朝人は母親の顔色を見て「僕がやったと言ったほうがいいのかな」と言い出す始末。母親のこの迷いこそが、この物語で問われるテーマです。

どんな経緯でこの夫婦は朝人を特別養子にしたのか?

ふたりは子供が欲しくて努力したが、清和が無精子だと分かり、以降札幌まで出かけて顕微治療を受けるが陰性が続く。清和は子供を持てないことで佐都子に大きな責任を感じていた。ついに佐都子の言い出しで治療を止め、ふたりで一緒に生きることを生甲斐にと旅行に出た。

その旅で見たTVの特別養子縁組のドキュメンタリー番組。ここで語られる「親が子を探すのではなく、子供が親を探す」というNPOベビー・バトン代表・浅見静江代表(浅田美代子)の言葉に感動して、代表の講演会に参加した。

特別親子縁組では親権が養子先になること。夫婦のどちらかが仕事を止めること。そして子供が小学校に上がるまでに産みの母がいることを告げなければならないことを知った。養子というハンディをこれで薄めようということ。

講演のあと実際に養子をとった人、産みの母の体験談を聞き、ふたりはすっかりこの制度は信頼でいる、社会に役立とうと、浅見代表に縁組を依頼した。

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体験談を語る人たちシーンは、「光」の演出と同じように実際の体験者が語り、ドキュメンタリーのようで、迫力があります。特に老人が孫を得た喜びを語りシーンが印象に残りました。

うたた寝していた佐都子の元に「生まれました!」という浅見からの電話が入った。夫とふたりで広島県似島の産院を尋ね、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた。「お母さんに会いますか?」と浅見に誘われ、産み母に会った。母親は中学生で、「この子の名は?」と聞き「朝人」と確認して、手紙を渡し「ごめんなさい」と挨拶をした。

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朝人が友だちに怪我させたのではなく、この子が嘘を言っていたことが判明。ご褒美に朝人を動物園にと、清和が部屋を出たところに電話が入った。佐都子が出ると「片倉ひかりです。子供を返してください!私の産んだ子です。それが叶わないならお金をください!」。佐都子は「会って話しましょう」と応じた。

やってきたひかりが金髪でスカジャン姿だった。清和は驚いて「あの日会ったひかりさんではない!」とひかりを本人と認めなかった。「あなたは誰なんですか?」と問うと、「産んだ母です」とひかり。本当にひかり?だったら何がこの子に起きたの?と物語に引き込まれます。

ここからひかりの物語が始まりますミステリーが人間ドラマへと繋がる上手い物語の構成です。

ひかり(蒔田彩珠)は体育館でピンポン台を準備しているところを麻生巧(田中偉登)に見初められ、ひかりはすっかり巧の虜になった。あっというまにハイキングで結ばれた。これに至る経緯が短いフィルムで描かれますが、ふたりの出会は若い誠意の篭ったもので、美しく描かれます。特に蒔田彩珠ちゃんの満面の笑顔がすばらしく、この笑顔が物語の核になります。

ひかりの妊娠、すでに堕胎手術は無理と判明。教師の父母は高校受験させ普通に過ごさせたいと、肺炎で休んだことにして、子供を特別養子縁組NPO、浅見代表に任せることにした。ひかりは泣いた!巧は「ごめん!」と泣くのみだった。

この親のやりようについては言いたいこともありますが、映画の主旨でないので先に進みます。

ひかりは奈良を離れ、ひとりで広島に。ここで浅見に迎えられ、似島のベビー・バトン施設に入った。

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ここで同じように子供を産むためにやってきたコノミ(山下リオ)やミヤコ(葉月ひとみ)と一緒に過ごすことになった。コノミはコンビニで、ミヤコは風俗でいずれも相手が分からない子を宿し、家族が嫌いだという。ここでは浅見に優しくしてもらい、島民とも触れ合い、何よりも瀬戸内海の優しい光と風を受け胎教にはもってこいの環境だった。

ひかりは腹の子は「好きな人の子だ!」と「きっと君を探し出す!きっとたどり着く!」と大きなお腹をさすっていた。

「朝人を返せ!お金をくれ」と言ってきたひかりがすんなりと引き揚げた。佐都子は「あの片倉ひかりさんは金を要求しない」と言い、朝人に「あなたは広島にいたのよ。海がキラキラでね、この海に繋がってるの」と朝人の出生の秘密を語るが、朝人にはまだ無理。いずれしっかり話すつもり!

そこに神奈川県警が訪ねてきて「こういう子が来たか?」と写真を出す。「来ましたよ、だれですか?」と佐都子が聞いた。

ひかりのその後、

ひかりは似島で出産後、奈良の実家に戻ったが、もはやそこに彼女の居場所はなかった。髪を赤く染めて、学校をやめ働いていたが、浅見の優しさが忘れられず、似島に「働かせてほしい」と彼女を訪ねた。しかし、浅見は病弱で施設を閉めるところだった。その引っ越し荷物のなかで、朝人の居場所を見つけた。ひかりは浅見に感謝して、朝人がいる東京に出て、新聞販売店で日夜働いていた。

そんなある日、中学時代のトモカ(森田恵)が金髪でスカジャン姿で訪ねてきて、しばらく泊めて欲しいという。ひかりは孤独だった、そしてトモカの痛みが分かる。トモカと生活を共にするが、ある日、小銭とスカジャンを置いて居なくなった。実は借金から逃げるためにひかりを利用したのだった。そんなトモカを憎むことなく、店主から金を借りて、取り立ての怖い男にトモカの借金を返済し、「まだ終わっていない!」とトモカが残したスカジャン姿で、栗原のタワーマンションを訪ねた。

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感想:

ここからは感動的な本作の結末ですので、すこしくわしく書きます。

ひかりは「私です。見た目は変わっていますがひかりです!」栗原のマンションを訪ねた。佐都子が「私のほかにもうひとり母親がいることは朝人に伝えています。お母さんから預かっているものは読んで聞かせました。ひかりさんと私たちでしっかり育てた朝人です。もうあなたには関わって欲しくない」と話した。

そこに「ただいま!お母さんいる!」と朝人が戻ってきた。清和が「どうします?あなたですよ」と声を掛けた。ひかりは泣いた!佐都子は「お帰りください」と声を掛けた。ひかりは「申し訳ありませんでした。私はあの子の母ではありません!」とマンションを出て、海岸を泣きながら走った。

やってきた警察官に佐都子は「あの人は恩を受けた人、産みの母です」と話した。

佐都子は預かった手紙を読み直すと、文章の後に隠し文字があることを見つけた。「なかったことにして欲しい」と書かれていた。佐都子はあの日、ひかりが手紙を差し出し「ごめんなさい!」と泣いたことを思い出した。

佐都子は「分かってあげられなくてごめん!」と泣いた!朝人の頭を撫ぜ「あなたの本当のお母さんだよ」と泣いた!

佐都子はどんなことがあっても離したくない母の深い愛を知った。そして、“(子供を持てなかった)人の痛みが分かる”ひかりという女性のすばらしさを知った。

エンデイングが終わって、主題歌の終わりに朝人が歌う「きっと君を探しだすよ、必ず君にたどり着く!」が聞こえてきます。朝人は何時かひかりに会いますね。それまでにひかりは朝人にふさわしい母になっているでしょう。

河瀬監督はこんなに優しい監督さんでしたかね!(笑) 柔らかい人になったな!と感じました。(笑) すばらしい作品でした

ふたりの母を持てる朝人は幸せだなと思いました。

「朝が来る」、いたるところに朝日、夕日があり、海あり河あり、森あり、柔らかい風ありで、とても癒される映像が多い作品でした。

永作博美さんと蒔田彩珠ちゃんの競演、映画館で確認してくだい!

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「グラン・ブルー」(1988完全版)なぜ深海に潜る!そこにグラン・ブルーがあるから!

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「グレート・ブルー」を劇場で観ていない人間に“LE GRAND BLUE”を語って欲しくはない、と<allcinema>にありますが、まさに映画館でみるべき映画だと思います。WOWOW特集:「ミニシアターに愛をこめて」で観賞。

フリーダイビングの世界記録に挑む2人のダイバーの友情と軋轢、そして海に生きる男を愛してしまった女性の心の葛藤を描く海洋ロマン。

ふたりのダイバー。ひとりが商業主義者で記録に挑む、もう一方はより深い海を見たいロマンチスト。まさに商業映画館とミニシアターの関係。

作品がロマンチスト主体に描かれており、これでは商業映画館では売れない。ミニシアターにかけたら大評判。評判が評判を呼んで大ヒット作品になったという。この経緯が分かるような映画でした。

なぜ山に登る?回答はありません。でも人は山に登る、大登山ブームの到来です。なぜ潜るのか?それは「グラン・ブルー」だからです!

圧倒的なグラン・ブルーの海を楽しみました。新海誠さんの描く海よりも美しかった!

監督:リュック・ベッソン、脚本:リュック・ベッソン、ロバート・ガーランド。

撮影:カルロ・ヴァリーニ、音楽:エリック・セラ、主題歌:エリック・セラ

「My Lady Blue」。

出演者:ロザンナ・アークエット、ジャン=マルク・バール、ジャン・レノ、ポール・シェナー、セルジオ・カステリット、マルク・デュレ、ジャン・ブイーズ、グリフィン・ダン


映画『グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン-』予告編

あらすじ(ねたばれ):

1965ギリシャ。ジャックは海に潜るのが得意で、魚たちと遊ぶのが好きな子だった。一方エンゾは島のガキ大将で、潜りの上手いジャックに嫉妬していた。

天候が悪い日、潜る父に「潜るな!」と止めたが、父は生活するためにと「何かあったら人魚が助けてくれる!」と潜って、亡くなった。母はアメリカ人で、父とジャックを置いてアメリカに帰ったという。

エンゾを演じる子が後のエンゾ役ジャン・レノをしっかり真似た演技をするのが愉快です。

1988シチリア島。解体作業で潜った男の救出がエンゾ(ジャン・レノ)のところに舞い込んだ。「救出に1万ドル」と確認し「儲かる!」とオンボロ車で駆けつけ、潜水具なしで潜って救出。その金でフランス人・ジャック・マイヨール(ジャン=マルク・バール)を探せ!と弟に厳命した。

アンデス山脈。保険会社の女性社員・ジョアンナ(ロザンナ・アークエット)がNYから、アンデスのラーゴ・デル・デモニオ付近の湖で、薄氷に気付かず沈没したトラックの調査にやってきた。そこでゴーグルをしている男ジャックに一目ぼれ!こんなラブストーリーが安っぽい!

ジャックが氷の中に潜る。彼の心臓の作動記録を見て驚くジョアンナ。この心臓記録に恋をして、タオルと紅茶を持って彼の元に走った。こんな彼女を見てジャックが惚れた。

この殺風景な極地の小屋で宿泊するジョアンナ。被るピンクの帽子とサングラス、カーテンの色彩等がおしゃれだ!そこにジャックが訪ねてきてマスコットをプレゼント。もう、ジョアンナにはジャックが忘れられない人になった。

プールでイルカと遊ぶジャック。とてもうつくしい映像。そこにエンゾが現れ、20年ぶりの再会。タオルミナシチリア)でのフリーダイブ選手権への参加を勧める。

NYのジョアンナ。ジャックのことが想い出され、もう仕事にならない。とうとうシチリアに追っかけることにした。

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タオルミナ世界記録保持者のエンゾが成功者ぶりを見せつける。ピアノを弾くエンゾから家族の愛を聞かされるジャック。ふたりはプールに潜って酒を酌み交わし、気を失い、ジョアンナの機転で救い出された。目覚めたジャックはジョアンナにイルカの写真を見せて、家族がいないと泣いた!

ジャックはジョアンナを水族館のプールに誘った。ジョアンナとはうまくデートができないがイルカとはしっかり遊ぶジャックだった。

エンゾは体調不良でドクターストップがでるが、出場して新記録を達成。しかし記者会見を断る。

ジャックはエンゾに手伝ってもらい水族館から昼間見た元気のないイルカを海に逃がし、暗い海でイルカと遊ぶジャック。「愛を求めているのはイルカだけでない」とエンゾが注意するが、ジャックにその気がなかった。

次の日、ロレンス博士(ポール・シェナー)の監視下でジャックが潜り、記録を更新した。素潜りでの競技要領が決して無謀な競技ではないと、安全措置とともに丁寧に描かれ、ここで深海のグラン・ブルーを確認することになる。

エンゾも喜んだ。ジャックとジョアンナがこの夜結ばれた。しかし、夜になるとジャックはホテルを抜け出し海でイルカとたわむれていた。

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夜の海でのイルカとジャック。朝までジャックは帰って来なかった。ジョアンナは不安を隠せない。「仕事がある」とNYに帰ることにした。駅でジョアンナを見送ったジャックは孤独だった。

ジャックはエンゾと組んで仕事をすることにした。海のサルベージ作業。深度140mを体験した。

NYに戻ったジョアンナは仕事が手につかない。ジャックに電話「人魚と暮らすには深く潜り、人魚のために死んでもいいと決意すると人魚がその愛を確かめに近づいてくる。その愛が誠実純粋で人魚の意にかなえば僕を永遠につれていく」を聞いて、ジョアンナは人魚になることに決めた!

ジョアンナはジャックの元に戻り、深く結ばれた。ジャックの叔父(ジャン・ブイーズ)のところで生活することにした。狭い部屋で、NYと違って何もないところだが楽しい生活だった。そんなところに彼女を連れてエンゾが遊びにやってきた。ジョアンナは彼女から子供が出来て楽しいと教わった。

荒れる海での競技。無理して記録に挑もうとするエンゾを止めようとするが、エンゾは記録だけが生甲斐になっていく。ジャックはこんなエンゾが不安になった。日本の選手たちも参加している。沈む前に気絶!(笑) ジャックが120mという記録を作った。

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第14回世界潜水選手権大会。競技に没頭するジャックに、おいてきぼりを食って不満なジョアンナ。ジャックに妊娠したことを海の中で告白したが、彼には届かなかった。

競技会に家族を招いて記録に挑戦しようとするエンゾ。もう覚悟が出来ていた!ジャックの記録に挑むことだった。スポーツ医学の権威ロレンス博士が120m以上は人間の限界と止めたが聞き入れなかった。ジャックも止めた。しかし、エンゾは新記録に挑戦、浮き上がったときは酸欠状態で、ジャックの腕のなかで亡くなった。ジャックはエンゾの亡骸を深海に葬った。このときの深海が一番うつくしかった。ジャックは死の一歩手前、瀕死の状態で戻ってきた。

ベッドで眠るジャックに青い波が天井から降り、沢山のイルカが迎えにきた。ジャックはジョアンナが止めるのも聞かず「見てくる!」と荒れる海に潜ろうとする。ジョアンナは妊娠したことを伝え、「私の愛をみてきて!」と発進綱を引き、彼を深海に送った。

ジャックは深海へ沈下するなかで、寄ってきたイルカに誘われ、綱から手を離した。

感想:

映画の見どころは海のグラン・ブルー、そこで出会うイルカと人の触れ合い、優しさ。

ギリシャの海と白い島の美しさ。おしゃれなファッションも楽しめます!ジャン・レノのサングラス!ロザンナ・アークエットのファッション!そしてイルカの鳴き声と音楽に癒されます!

ラストシーンの解釈。ジャックはエンゾに会いに行った。彼はエンゾとは潜る目的が違う。途中でイルカに誘われ、誘導綱から離れ、美しいグラン・ブルーの深海に癒されていた。

ジョアンナとそのお腹にいる赤ちゃんはどうなるのか?ジャックは陸にあがればジョアンナなしでは生きていけません!彼はそのうち陸に上がってきます!

なぜ映画を愛しますか?それはミニシアターがあるからです。

                                  ****

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 (2020)「何のために生きている!」「喧嘩するときは自分より強いやつと戦え!」

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一見さんの感想。心地よい、剣を愛し家族を想う熱血の物語に涙しました! 映像が美しく迫力がありました!

TVアニメで描かれた“竈門炭治郎 立志編”に続く物語としての位置づけ。

家族5人を、自分が不在間に無残に殺された主人公・竈門炭治郎が仲間たちと、鬼に犯され唯一生き残った妹・禰豆子を人間に戻すため、40人が殺されたという“無限列車”に乗り込み、鬼殺隊最高位の剣士・煉獄杏寿郎と共に、未知の鬼たちに挑み、剣士として成長する物語。

剣術アクションだけでなく、古きよき日本の風物・精神がしっかり生かされた作品。むしろこちらに感動。今の日本に求められる“考え方”が満載で、日本にしか創れないアニメでした。コロナウイルス騒動下にあって、大ヒットと伝えられていますが、当然だと思っています。

観客の大半は子供たち、驚きました。すこし難しかったのではと思いますが、「父母、兄弟を大切に!」、「弱い者を虐めるな!」「喧嘩するときは自分より強いやつと戦え!」と教えており、その本意はいつか思い出してくれるでしょう。

原作は吾峠呼世晴さんの超人気コミック。監督は外崎春雄さん、アニメーション制作:ufotable。主題歌「炎」:LiSA

声優:

竈門炭治郎:花江夏樹、竈門禰󠄀豆子:鬼頭明里、我妻善逸:下野紘、嘴平伊之助:松岡禎丞、煉獄杏寿郎:日野聡、魘夢:平川大輔、猗窩座(あかざ):石田彰

字が読めないのが、何か不思議な時代に引っ張り込まれるようでミステリアス、いいですね!(笑)


劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 予告編第1弾 2020年10月16日(金)公開

あらすじ(ねたばれ):

禰󠄀豆子を背負った炭治郎、善逸、伊之助は煉獄に合流するため、鬼に憑りつかれた「無限列車」に飛び乗った。

煉獄と合流するや否や、2匹の鬼に出会うが、炭治郎たちは何もなす術なく、煉獄が炎の技で倒してしまった。2匹の鬼は偵察だった。

そこに現れた車掌の切符点検で、全員が眠りの中に。この列車に憑りついた魘夢の血鬼術「催眠」に嵌っていた。眠った人間を、虜にした少年・少女を使って、夢の外にある真の精神を破壊して廃人にし、これを食い尽くそうとするものだった。

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鬼の禰󠄀豆子はこの術を免れ、彼女に促された炭治郎は夢を断ち切る術を生み出して夢から覚醒、ふたりで次々と隊士を目覚めさせた。炭治郎は“臭い”で魘夢を探し出し、列車の屋根に出て対決した。

炭治郎は魘夢の繰り出す夢血鬼術をことごとく交わし、魘夢の首を斬り落とすが血液が全車に流れ、魘夢の触手となり、乗客を襲う。夢から覚めた鬼殺隊士たちが斬って!斬って!斬りまくるが、すぐに生き返るという壮烈な戦い。

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煉獄が自分と善逸で乗客を魘夢の触手から守り、炭治郎と伊之助に魘夢の首を探し、滅却することを命じた。

ふたりは機関車に入り、機関手を脅して魘夢を探すが、機関手に刺されそうになった伊之助を救おうとして炭治郎は腹に傷を負った。追い詰められた魘夢はそれぞれが目玉を持つ多岐の触手に化けて、目で催眠を送ってくる。

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炭治郎は目をつむりこれを避け、被り物の伊之助がこれに対応して魘夢を敗北に追い込んだ。魘夢は恨み節を吐いて消えたが、列車が脱線横転。炭治郎と伊之助は車外に放りだされた。

 駆けつけた煉獄から炭治郎は止血の術を教わり、一命を取り留めた。そこに現れたのが、鬼の上弦の参・猗窩座

煉獄に「鬼にならないか」と誘うが、煉獄は「限られた命、生き方が違う」と断る。猗窩座と煉獄の戦いはすさまじいものだった。

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 夜明けとともに猗窩座は去り、煉獄は炭治郎と家族に遺言を残し、笑って、あの世に旅立った。煉獄は、炭治郎が憧れる、伝説の剣士となった。

感想:

剣術アクションと家族の物語。

炭治郎が最強の鬼を求め、剣士として成長していく様を剣術アクションで描き、剣さばきの面白さを満喫させながら、なぜに炭治郎がこれほどまでに鬼を追い詰めるかと言う家族への想いが、うまい尺配分で描かれ、泣けるアニメになっています。

これに煉獄の無限の域に達した剣術と家族への想いをかみ合わせて描かれ、“剣修行の無限”が生かされた作品作りになっています。炭治郎と煉獄の物語のなかで、今まで日本人が親しんできた道徳心がしっかり描かれ、お見事と言いたいです!煉獄さんの言葉が熱かった!

 格闘の面白さ、独創性、精神性。

魘夢が血鬼術により夢に陥れ、眠っている間の精神の核を破壊するという奇想天外な戦術で始まり、炭治郎が夢から覚醒するために夢の中で自分の首を斬るという発想を経て魘夢に勝利し、ラストに煉獄と猗窩座による王道的な剣術試合をもってくるアクション物語、うまい組み合わせでした。

 魘夢の血鬼術で眠った炭治郎が家族と親しく会っている姿を観せて、そのあとに魘夢との奇妙な戦いとなると、試合に熱が入ります。斬っても、斬っても生き返る触手、夥しい肉片は想像を絶するもので、これを描き切ったアニメが凄い!

 相手に振り回されない自分を作るという発想は役に立ちます。

 夢を斬り裂いて、その人に真の精神に触れるシーン。炭治郎の青い空と美しい風景、煉獄の炎の風景。ふたりの心の中を覘いたようで納得のいくものでした!

 煉獄と猗窩座の戦い。猗窩座が「何年も生きられるから鬼にならんか。儚い世での生き方は止めておけ!」と誘いますが、「俺には生きる目的がある。お前の生き方とは違う!」という煉獄。ふたりの戦いは憎しみの戦いを遙かに超えた、生きてきた人生を掛けた闘い、無限の域に達した技の勝負だった。木村拓哉さん主演無限の住人」(2017)でもしっかり描かれています。

 母の言葉「何故人より強くなれたか?弱きを助ける至福を忘れないように」という言葉を思い出して、深手を負っても諦めることなく猗窩座に立ち向かう姿には、泣けます。

型をしっかり見せる格闘表現

無限列車の屋根で炭治郎と魘夢が、動く列車の上での戦闘シーンは、アニメ的には難しいものではなかったかと。とても面白く観ました。

煉獄と猗窩座の格闘では、演じる剣技の型がスローモーションで描かれ、分かりやすくて迫力が感じられ、子供たちに受けるでしょう。

声優たちの声の演技と音楽

皆さんとてもよくキャラクターに合っていたと覆います。なかでも魘夢役の平川大輔さんの「お眠り、お眠り・・」に眠くなるという、雰囲気のある演技でした。そして煉獄役の日野聡さん、力強い声に圧倒されました。俳優さんにはないプロの声でした。

 LiSAの声がミステリアスで感情を高めてくれ、煉獄と猗窩座の決闘を盛り上げてくれました。

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 鬼滅隊士が鬼を退治した際、決して粗末に扱わない。丁寧に葬る。格闘が終われば仏となり、自分を強くしてくれたと手を合わせる。これがこの物語の良いところ。炭治郎の礼儀正しさ、優しさにも注目。日本の格闘技にはこの精神があることを相撲界の人に知ってもらいたいと思いました。

                    ****

「スパイの妻」(2020)「正義より幸せでありたい!」

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第77回ヴェネチア国際映画祭(2020)で銀獅子賞(監督賞)を受賞した作品。楽しみにしていました。

 1940年代を舞台に、偶然にも国家機密を知ってしまった夫婦が、それぞれに信念と愛を貫き、戦争という大きな時代のうねりに立ち向かっていく中で辿る過酷な運命を描くラブ・サスペンス。

 こんな映画が日本で作れたということに驚きです。かって日本軍が満州で行ったコレラ菌の人体実験を題材にするという、日本の恥部を暴くような作品ですが、国際的な正義感からこれを世界に告訴しようとする名もなき日本人夫婦の話となると、こんな日本人がいるぞ!と日本の大失態を救ってくれるような作品でした。この夫婦の話は今の世界に最も求められるもので、それだけにリアルな話として感動しました。

 とてつもない大きなテーマを持つ作品を、お金を使わず(笑)、智恵と工夫でこんな凄い映画に作り上げたことがなんとも痛快でした。

 日本が軍国主義一辺倒に傾いていくなかで、憲兵隊の監視をどうかわして国際舞台に正義を訴えるか?正義を求めてやまない夫婦が編み出す策略と「愛している!この人だけは決して死なせない!」という夫婦愛に感動しました。

 監督:黒沢清、脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清、撮影:佐々木達之助、音楽:長岡亮介

出演者:蒼井優高橋一生、坂東龍沙、みのすけ、玄理、東出昌大、恒松裕理、笹野高史


『スパイの妻<劇場版>』90秒予告編

 あらすじ(ねたばれ)

1940年、神戸市の福原生糸会社に憲兵隊1コ分隊が捜索に入る。通訳の竹下文雄(坂東龍沙)が抗議したが、英国人ドラモンドが逮捕連行された。社長は福原優作(高橋一生)。20歳で船員としてアメリカに渡り見分しており、ウイスキーやチェス、さらに映画製作を楽しむという自らをコスモポリタンと称する人物。通訳の竹下文雄(坂東龍沙)は勇作の姪。

六甲の豪邸には女中・駒子(恒松裕理)を置き、妻・聡子(蒼井優)は優作に支えられ、優雅に暮らしている。総子が仮面をつけて金庫を襲うスパイを演じ、これを追う文雄が拳銃で撃ち、倒れた聡子を優作が抱きかかえるという自主映画を作って楽しむ優作。このストーリーが現実には逆になり、ラストであっと驚く結末に結びつくという伏線になります。ドラマから決して目を離せません!

 ドラモンドが逮捕された直後、憲兵隊長に就任した津森泰治(東出昌大)が、聡子の親友であったことから、優作に挨拶をと訪れた。

 逮捕されたのはドラモンド。釈放されって上海に帰ってしまった。情勢は日・伊・独の三国同盟、米国の輸出制限などで、優作は情勢把握のために、文雄と中国・満州の視察に出て、関東軍が行うコレラ菌による人体実験を知る。

 聡子は優作が2週間ばかり帰りが遅くなるという電報を受け暇を持て余し、六甲山に遊びに出ていて、ウイスキーを飲むための氷を求めていていた泰治に会った。聡子が邸宅に泰治を誘って、舶来のウイスキーを御馳走した。これに泰治は「この生活態度、ご時世では、ふたりは官憲に狙われます!」と警告する。

 人体実験の詳細を映画に収め、実験に関わった医師が処刑され、その愛人の看護士・草壁弘子(玄理)伴って帰国した。

 桟橋に迎えにきた聡子は、嬉しさのあまり勇作に抱つき、優作が弘子に目配せしていることに気付かなかった。この時代におう夫婦は珍しかったでしょう。

この年の忘年会で、勇作が自主制作のスパイ映画を従業員に披露して、労った。文雄がこれを最後に会社を辞め、戦争をテーマにした小説家を目指すと宣言し、有馬温泉の「たちばな」旅館に篭ることになった。そして優作はアメリカに行くという。

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 ある日、弘子が水死体で憲兵隊に発見された。泰治は、優作には話すなと釘をさして、聡子を呼びつけ、弘子は優作が満州から連れ帰った女で“たちばな”旅館の女中をしていた。誰が殺したかは分からない!おかしなことにならねばと忠告した。

 聡子は弘子のことを優作に話すが、やましいことは何もない、信じろ!と、詳しいことを話さない。逆に、聡子は、自分が満州にいて不在間に泰治とウイスキーを飲んだと疑ってきた。この夜、聡子は、これまでこのようなことがなかっただけに、激しく弘子に嫉妬した。

 聡子は“たちばな“旅館に文雄を訪ねた。文雄に弘子を殺したのは誰かと聞くと、貴方は優作さんを疑っているのかと、あなたのために優作さんは大変な苦労していると叱責し、訳文が出来たから優作に渡して欲しいと封書が渡された。聡子は文雄の言葉に、優作の妻として何をも成し得ていないと自責の念に駆られた。封書を持って外に出たところで、文雄が憲兵隊に連行されるところを見た。

 会社に戻り、地下の倉庫で、封書を優作に渡す際、聡子は「信じるために」と、文書内容を確認した。人体が書かれた妙な絵のある文書と英文があった。

優作が文書は満州で行っている日本軍の忌まわしい細菌による人体実験ノートで、この実験は正義として受け入れられない。どうしても国際の場に公表したいと話した。総子は日本が攻撃され多くの死傷者が出る、あなたは国賊、私は国賊の妻にはなりたくないと反論。優作は国際的に受け入れられる正義だから、正義の妻になる気はないのかと応じた。聡子は「正義より幸せでありたい」と訴えた。ここでのふたりの長セリフの応酬は見ものでした。封書は優作の手で金庫に納められた。

 次の日、優作が野崎医師(笹野高史)のところに泊りがけで出かけた隙に、会社の倉庫を訪れ金庫から秘密ノートを取り出そうとすると、フルムがある。秘密ノートとフルムを邸宅に持ち帰り、フィルムを写すと、人体実験の詳細が記録されていた。

 この秘密ノートを持って憲兵隊本部の泰治を訪ねた。泰治は弘子殺しの犯人は“たちばな”旅館の主だったと詫びた。優作は弘子とふたりでアメリカ行きの渡航申請をしたという。

聡子は秘密ノート(原本:日本語)を渡し、これに優作は関係ないと説明した。聡子はどんなことがあっても夫を救いたかった。このために文雄を犠牲にした。さらに泰造を利用した。

 優作が会社に戻り、決算書を探しに倉庫に降りで、いつも楽しむチェスの駒が動いていていることに気付き金庫を調べた。秘密ノートとフルムがない!青ざめた。

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そこに憲兵隊がやってきて、優作は憲兵隊本部に連行された。拷問のうめき声が聞こえるなかで、あなたに関係ある人からの知らせでと断り、二度とやるな!と念をおして文雄の爪を渡した。優作は悔やんだ。

 邸宅に戻り、聡子を見つけ、「密告屋!」と激しく叱責した。総子は全く意に介さず、フイルムを写し、「原本はこのフィルムの中に映っています」と説明。優作はそれでも「これを証明するやつが居ない」という。聡子は「私がいます」という。まさに弘子の役割を果たそうとしているのだった。アメリカに渡りましょう、これであなたと一緒に居られると。「私はスパイの妻になります」と微笑む。

ふたりは六甲山の廃墟を訪れ、秘密ノートとフイルムを隠した。聡子は弘子以上に役割を果たしたいと「まだほかに秘密フィルムはないの?」と聞くと「ドラモンドに預けてある」という。

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 1941インドネシアへの日本軍進駐によりアメリカとの貿易が閉ざされた。優作はアメリカへの亡命を明かした。

アメリカへは二手に分かれて、優作が秘密ノートを持って上海に行きドラモントに預けてあるフィルムを受け取りアメリカに、聡子が今あるフィルムを持ってアメリカに亡命することに決めた。優作はあることを企んでいた!

 離れることを怖がる聡子を優作は暖かくフォローした。ふたりは同じ秘密をもつことで、どんどん愛情が深まっていく。

 しっかり金を作って、金目のものを身につけようと、聡子を誘って、宝石や時計を買いまくった。(笑) 町で憲兵隊に会っても二手に分かれて、捲いて、これを楽しむという余裕さえみせる。聡子は「一緒に生きていると嬉しい!あなたの身になっていると思う!」と優作にもたれ掛かっていた。

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 荷物作りは優作が積極的にやった。聡子が手を貸すことはほとんどなかった。

 ふたりで廃屋に隠した秘密ノートとフイルムを取にやってきた。優作が「君はスパイの妻ではない、隠れて生きる必要はない。味方が必ず現れる」と言い含めた。

そして邸宅を後にして優作は2番ふ頭でタクシーを降り、聡子は3番ふ頭でサンフランシスコ行きの貨物船に乗り込んだ。優作が手配したように大男に連れられ船底に降りて箱の中に入った。いよいよ出航というときに憲兵隊に捕らわれた。何故!

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聡子は憲兵隊に連れて来られ、隊長・泰治は「サンフランシスコに行くという連絡があった」と言い、尋問を始めた。聡子は「関東軍を告発します!」と喋り、かって泰治とウイスキーを飲んだ話を持ち出すと、泰治からぶん殴られた。

憲兵隊員を集めて、総子がもつフィルムが上映された。それはあの優作が撮ったスパイ映画だった。聡子はスクリーンに走り寄り「お見事!」と言い、倒れ込んだ!

 1945年3月、精神病で入院している聡子を野崎医師が訪ねてきて、優作はインドのボンベイまでは確認されているが、その後が分からないと告げられた。

 その夜、神戸はアメリカの大空襲に見舞われ、聡子は「これで日本は負ける。戦争も終わる、お見事でした!」と病院から抜け出し、泣いて!泣いて!須磨の砂浜に泣き崩れた。

 戦争が終わり1年目に優作が死亡、持っていたものは偽物だったと伝えられた。2年目に聡子がアメリカに発った!

 感想:

脚本のすばらしさ!

憲兵隊長・泰治が吐く言葉で、軍監視下の世相の怖さがしっかり描かれ、彼を騙しながら、聡子が策に成功する度に「お見事!」と声をあげるという、「スパイの妻」という軸がしっかりしていて、辛い暗い時代の物語が実にミステリアスで痛快に描かれるのがすばらしい。ふたりのその後が字幕で表示され、そこに妻聡子の愛情が滲みでているというラストシーン、ここまでやるかという感想でした!

 「冒頭で憲兵に連行されたドラモンド」「満州旅行出発時、ふ頭で見た憲兵隊隊長の訓示」「勇作が撮ったスパイ映画」「秘密ノート」「チェス」等々これら伏線が見事な繋がり、物語に吸い込まれていくようで楽しい。

 そして、「なぜ聡子が秘密ノート(原本)を憲兵隊長・泰治に渡したか?」「優作がなぜ聡子と別々にアメリカに渡航しようとしたか」「なぜ聡子は優作の2年後に米国に渡航することにしたか」等々。夫婦の掛け合いを読者に読ませるという展開で、夫婦の心理が読めたときのカタリシス、そこに夫婦の深い想いやりが見え泣かされます。

 会話が、今の会話と違って、硬い?難しい。この会話に力強さを感じ、その意味するものがとても奥深い。硬い優作の言葉にどれほどの感情が込められているか、凄いと思います。携帯電話で、こういう言葉が死んで、軽い人間になったような気分でした。演じる俳優さんは大変だったでしょう。

 怖さの演出

福原の豪邸、会社の倉庫、憲兵隊の取調室と限られた照明の薄い空間のドラマ。うろつき回る憲兵隊、大音響、人のうめき声。人体実験ノート。中でも音響にやられました。拷問シーンはほとんどなくても、泰治が何かを優作に渡すシーンで、これが文彦の爪と分かったときの怖さ。うまい演出だったと思います。

 蒼井優さん、高橋一生さんの演技

おふたりがとても気品があり、思慮深いところがこのドラマに合っていたと思います。

高橋一生さん、柔らかい物腰で、実はとても強い心を持っていて、表に出さないが嘘がなく、妻聡子をこよなく愛するブレのない演技がすばらしい。

蒼井優さん、夫に寄りかかり優雅に暮らしていたが、草壁弘子が出現して、嫉妬心に苛まされ、自分を投げ出して、夫を支えたいと強く変化していく演技がすばらしい。

東出さんの怖さもよかったですね!すばらしいドラマでした。

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