吉田恵輔監督作品ということで楽しみにしていました。
交通事故で娘を失った父親が、事故の原因となったスーパーの店長を追い詰めるべく、マスコミやSNSを巻き込み激しい憎悪をエスカレートさせていく暴走の顛末を描いたヒューマン・サスペンス。
監督自らが語る「最高傑作!」という作品、観ないわけにはいきません。😊「BLUE/ブルー」の後だけにまた最高傑作かと、連発に驚いています。今回は前作よりも世界感が広くて深い!!すばらしい作品だと思います!
監督:吉田恵輔、企画・製作:河村光庸、撮影:志田貴之、編集:下田悠、音楽:世武裕子。
出演者:古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、寺島しのぶ、他。
ある日、スーパーで中学生の花音(伊東蒼)が店長の青柳(松坂桃李)に万引きを見咎められ、逃げて道路に飛び出した末、凄惨な事故に巻き込まれて命を落としてしまう。シングルファーザーの添田充(古田新太)は、変わり果てた娘を前に泣き崩れる。日頃、娘の気持ちなど気にもかけてこなかった添田は、せめて彼女の濡れ衣を晴らそうと、青柳を激しく責め立て始めるのだったが…。
添田は何故これまで添田を痛めつけるのか、青柳は何故ここまで添田の暴言・暴行に耐えるのか。このドラマに出てくる人全員の心に何かが欠けている。人はこの何かで苦しんでいる。社会も苦しんでいる。この「何か」をどうやって埋めるか?
おばあちゃんが教えてくれた「人はそんなに悪くない!」にヒントがあり、これまで目に見えない小さなことに、真実が見えてくる。SNSの発達した現代世社会のなかで、ますます見えにくくなった真実。あなたの「少しの寛容な気持ちで真実が見えます」という話です。そんなことかという話ですが、小さなエピソードの積み上げで、すばらしいドラマを見せてくれます。映画「ドライブ・マイ・カー」(2021)並みの傑作です!
観客は劇中の人物の誰かに「似ている!」と思うでしょう。あなたの悩み解決の糸口が見つかるかもしれませんよ!
あらすじ(ねたばれ):
小さな漁船の船長・添田(古田新太)。親を海で亡くした若者・野木(藤原季節)と漁に出て、口うるさく漁を教える。野木は「自分の言うことが一番正しい、怒りっぽい男!うるさい!もう辞めたい!」と愚痴が出る。
海をバックに語られる物語。荒海という人生に翻弄される中で、どうこの荒海を乗り切るかを問うた作品だと思います。海が美しい!!
添田は離婚して中学生の娘・花音(伊東蒼)と住んでいる。花音はどこか寂しそうで大人しい子。担任の今井先生(趣里)から工作時間に「人の助けを借りて時間までに仕上げなさい」と注意されるマイペースな子。母親・松本翔子(田畑智子)に買ってもらった携帯を父親に「こんなものはいらん」と捨てられても、決して文句を言わない。父の言うことを素直に聞く子だった?
荒海で漁をしながら、男手ひとつで育てた花音が添田の唯一の人生の希望だった。
そんな花音がスーパーアオヤギで化粧品を万引したと店長の青柳(松坂桃李)が執拗に追い廻し、花音は逃げるなか自家用車に追突し、さらにダンプトラクに引きずられて即死。花音の顔面は潰れていた。これに添田は激しい怒りを覚えた。
報道番組では女生徒が万引したかは意見が分かれていた。店長さんは不愛想な人で何を考えているかわからない人のようです」と伝え、青柳への批難が殺到する。
添田は娘の花音が化粧品を盗むなんてことは考えられない!これが真実なら添田の人生は意味がない!
怒りの矛先はまず青柳。葬式時、弔問の小柳を掴まえて「なんで執拗に追った?罪つくりか?花音は化粧しない!」と怒鳴り、脅す。青柳は添田の怒声に怯え、声が出なかった!「謝罪がない!」とさらに怒りが大きくなった。
添田は「花音が化粧すると思うか?」と野木に聞くと「俺も若い頃やったから、やったかもしれない」と答えたので、野木と別れることにした。ひとりでの漁で、網を上げるのは大変だったが、野木の意見を聞く気はなかった。
報道番組がこの事件を面白可笑しく切り取り、添田と青柳を悪者として報道し始めた。この報道が一層添田の怒りを大きくしていった。
スーパーアオヤギのベテラン店員・草加部麻子(寺島しのぶ)が青柳に「あなたがやったことは正しい。だから相手に主張したら!」と励ますが、青柳は素直にこれを受け入れられない。草加部はボランテイア活動にも積極的に参加するベテラン社員だが、独善的なところがある。青柳には「若い頃はフーテンで親父の死に目にも会えなかった。その俺に店長が務まっているのか?」という負い目で「自分で店を守りたい!という想いがあって、今回の万引には強く出た。麻子にも口を挟んで欲しくない。
青柳が実家に帰ると年老いた母に「本当のことを話しなさい!人というのはちゃんと伝わるよ。世の中、そんなに悪い人ばかりでない」と言われた。
仏の花音に会いに来た元妻・翔子は「あの子は化粧していた。透明のマニュキア。盗んだかも知れない」という。添田には「娘を育てるには、父親は無理」と言われているようで、翔子のいうことを完全に無視した。翔子が「今、妊娠している。この子を守る!」と言えば、「俺にはもう誰もいない!」と嘆いた。
添田は学校に「誰かに虐められて、万引きをやらされたのではないか」と怒鳴り込む。担任の今井先生は「もしかしたら自分の指導に問題があったのでは?」と悩み、生徒からアンケートをとって真実を知ろうとする。
添田は「“花音は印象にない”というアンケート結果が信じられない、自分がやる」と学校の調査に抗議する。たまりかねた校長が「青柳はある生徒の姉をレイプした」と明かす。添田は「花音もレイプが目的で青柳に追われたのでは?」と新たに怒りが出てくる。
青柳がTV番組の収録で「万引きが増えており取締が必要だった!しかし、少女を死なせたことは後悔している」と喋ったが、放送では「後悔している」が抜けていた。マスコミにも何かが欠けていた。これを観た添田の怒りがさらに激しくなり、実力行動にでるようになっていった。
歌音を轢いた乗用車の運転手・中村かなえとその母親が家から出てくる添田を掴まえて謝罪するが、添田は無視した。
青柳はスーパーの前に立って脅し、化粧品を万引する振りして脅し、居酒屋に入り「花音を誑かそうとしたか」と脅す。これに草加部が青柳に代わり必死に抵抗した。
商売が行き詰まり始め、退職者が出だす。こんなときにも草加部が必死に支えてくれるが、青栁は「もう商売は終わりだ!」と思った。
青栁は夜、添田に謝罪に訪れた。土下座して謝った。それでも添田は事故現場に添田を連れ出し「本当のことを言え!俺なら他人に迷惑を掛けず、ひとりで死ぬ!」と責めた。
青柳が自殺を図ったが、草加部に 助けだされた。草加部は「死んでは誤解される。正しいことを正しく伝える」とキスした。これに青柳は耐えられなかった。以後、ふたりは会話のない関係になっていった。
運転手の中村かなえが自殺した。添田は責められるのを覚悟に弔問に訪れた。母親から「本当にすみませんでした。心の弱い子を育てたのは私の責任です。罪は私が背負って参ります」と告げられた。添田はなぜこの母親は怒らない?
添田は家に戻り、歌音の遺品を調べた。ぬいぐるみの中から沢山の化粧品が出てきた。彼女が描いた絵がでてきた。
大勢のTV取材人がやってくる。これを野木が阻止していた。野木は別の船に乗ってみて野木の漁師としての腕の凄さ、本当の優しさを知った。
野木が訪ねると、添田が変わっていた。青い空にイルカが浮かんでいる絵があった。「イルカではなく雲だ」という。野木が「一緒に働きたい」と申し出ると「うれしい!」と受け入れた。
スーパーアオヤギは倒産した。草加部はカレー作りのボランテイア活動に、参加したくないという女性を強引に誘った。彼女がカレー鍋をひっくり返してしまい、その始末をしながら、自分の不甲斐なさに泣いた!
歌音の墓参り。添田は翔子に生まれてくる女の子の名が「明音」と聞かされ、大いに喜んだ。「みんな、どうやって親をやっているのか」と翔子に聞いた。
添田は交通整備員として働いている青柳に会いうと、彼が「初めて会ったときに伝えるべきでした」と謝った。「俺もあんたも大切なものを失った。しかし、あんたは何べんも謝ったが、俺はまだ一度も誤っていない」と謝った。
青柳は見知らぬ工事人から「あんたの店で作る焼き鳥弁当は上手かった。また作って欲しい!」という言葉を聞かされて、やっと救われた。
今井先生が「花音ちゃんの絵です」と学校に残していた絵を持ってきてくれ、そこに同じ空が描いてある絵を見て、「俺と同じだ!」と花音の思いを知って泣いた。
感想:
なぜ添田は変わったか?がテーマ。人の話を聞くという少しの寛容さがあると、事態は一変するという話でした。ラストシーンの添田の花音を思い出して泣くシーンには貰い泣きでした!古田さんがこんな演技するの!
「正しいとか誤っているとか」自分の正義を持ち出しても問題は解決しない!
人間誰しも自分の弱点を隠したい。添田はいい父親、青柳は商売の出来る店長、麻子は自分の善意は正しいと、自分を主張する。この自分の正義で相手を傷つけ、皆が加害者であり被害者になっていった。この連鎖を断ち切るには、自分の罪を認め、赦しを請うこと。相手を思いやり、自分が変わることです!
添田役の古田新太さん。怒りが様になっていました。恐ろしかった。しかし、それからの変貌も見事で、怒りは愛から出ていたということが分かるという絶妙な演技でした。おそらくこの作品が代表作になるのではないでしょうか。
青柳役の松坂桃李さん。「虎狼LEVEL2」が公開されている中で、刑事・日岡とは真反対の真面目で繊細な小心者で、添田の怒りを全部引き受けるという受け身の青柳役演技がすばらしかったですね、
もうひとり、藤原季節さん。目がきれいで、この物語のなかで唯一迷いのない純真な野木の演技は印象的でした。期待したい俳優さんです!寺島さん、田畑さんは申し分のない演技でした。
心に沁みる作品でした。ほんのわずかな寛容さで、人は生き返る!!
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