映画って人生!

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「プロミシング・ヤング・ウーマン」(2020)死してなお、許さない!若いときの苦い思い出では済まないぞ!

コンペで男子学生にレイプされたことが原因で自殺した親友・ニーナ。ニーナは「医師を目指す将来有望な女学生(プロミシング・ヤング・ウーマン)だった。彼女のため自らも医者への道を捨て、復讐に執念を燃やす女性・キャシーの物語。ブラック・コメディ、サスペンスタッチで描かれている。

「第93回アカデミー賞」(2021)で作品、監督、主演女優など5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した作品です。

監督・脚本:エメラルド・フェネル長編映画監督デビュー作。製作に「ザ・スーサイド・スクワッド」のマーゴット・ロビー が参加。撮影:ベンジャミン・クラカン美術:マイケル・T・ペリー、衣装:ナンシー・スタイナー、編集:フレデリック・トラバル、音楽:アンソニー・ウィリス。

出演者:

キャリー・マリガンカサン、 ボー・バーナム、アリソン・ブリークランシー・ブラウン、 ジェニファー・クーリッジ、ラバーン・コックス、コニー・ブリットン、他。

アカデミー賞の評価作品であること。製作者にマーゴット・ロビーが参加している。ということで観ることにしました。(笑)


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あらすじ

クラブで酔っぱらって、ソファーに座り、時折股を開いて男の視線を向けさせる。男たちが「泥酔した女性が悪い」「隙を見せる女性が悪い」と呟き、「俺がやる!」と近づく男。この男によってホテルに連れこまれ、いよいよそのときに目覚め、金玉を蹴り上げて天罰を加える女キャシー。(笑)「やっていいとは言っていない」、この男たちの言い分が気にいらない!これがテーマです!(笑)

毎夜、こうやって過ごすキャシーは、「30にもなって!早く出て行って!」と両親に責められるが、昼間はヒーショップでバイト。店長・ゲイル( ラバーン・コックス)が近寄ってくる男を監視している。ここでラバーン・コックスならこの役に適任です。(笑)

そこに「フォレスト医大だよね」と男が店にやってきてコーヒーを注文した。キャシーはコーヒーに唾を吐いて渡したが、男はこれを呑む。男はフォレスト医大出身の小児科医ライアンで、優秀だった医学生・キャシーにデートを誘った。彼から昔の学友たちの話しが出た。「浮気者のマディソン(アリソン・ブリー)がいまでは双子の母親、ニーナは自殺した、アル・モンロー(クリス・ローウェル)は水着モデルと結婚する」と。キャシーの脳裏にニーナが自殺した忌々しい記憶が戻ってきた。キャシーは復讐することに決めた。

復讐の第1標的はマディソンに決めた。彼女は男好きでゴシップ大好。彼女の噂でニーナが追い込まれた。

彼女をホテルに呼び出したっぷり酒を呑ませて、泥酔したところに頼んでいた男を呼びホテルの部屋へ連れていった。

翌朝、「なにがあったか分からない、教えて!」と電話してきたが、「レイプされたと噂される苦しみを味わってもらう」と電話を切った。

第2標的が学部長のエリザベス・ウォーカー(コニー・ブリットン)。彼女はレイプ犯罪があったことを認めなかった。そのためニーナは退学・自殺に追い込まれ、犯人のアル・モンローは退学することなく、今では麻酔医として生活している。

ウオーカーとの面接前に、娘を「人気ミュージシャンのビデオのロケがある」と嘘ついてレストランに誘い、ここで待ちぼうけさせておく。ここでは飴をしゃぶりながら娘を誘うキャシーのコスチュームが面白い。

そしてウオーカーに対面。「疑わしきは罰せずよ!」というウオーカーに「娘さんが今、モンローとあの部屋で会っている」と話すと「悪かった!場所を教えて!」とわめく。「ニーナーの苦しみを知れ!娘がレイプされる親の苦しみを味わえ!レイプという重大な問題を学校経営や金の天秤に計るな!」と罰した。

この問題は男性だけの問題にしないところがいい。女性ふたりに天罰を加えたので男性を巻き添えにと、違法駐車してこれに文句をつけてきた男性の車をハンマーでぶん殴った!(笑)

第3の標的は弁護士のグリーン。ニーナがレイプを起訴しようとしたのを止めた弁護士。キャシーが訪れると、「SNSのたった一枚の写真で人生がダメになるのを見て、自分がやったことに苦しんでいる。許して欲しい」と謝罪した。キャシーが「赦す!」と去った。

帰りにニーナの父母に会うと「貴方の人生を生きて!先にすすんで!」と忠告された。家に戻りアル・モンローのホームぺージを削除し、復讐を辞めることにした。

ライアンを父母に紹介し喜んでもらった。ふたりでショッピングし、将来を楽しむようになっていった。

そこにマディソンが心配でやってきてので「何もなかった!」と教えると喜んで、「皆が喜んで観たもの。二度と来ないで!」とニーナのレイプ動画が渡された。嫌がるニーナを犯すモンロー、「ライアン!」と叫ぶ声があった。キャシーは泣き、驚いた!「赦せない!」。

ライアンを病院に訪ね動画の話を切り出した。彼はにやりと笑い、「ガキだった!」と反省を示した。キャシーはこの“にやり顔”が許せなかった!彼のアドレスとモンローの“独身さよならパーティ”の場所を聞き出した。

第4の標的はニーナをレイプしたアル・モンロー

医者たちが集まる山小屋。キャシーは看護師のコスチュームでストリッパーに化けて「二度とレイプできないようにしてやる!」と乗り込んだ。

医者たちには眠り薬入りの酒を飲ませて眠らせ、モンローを二階のベットに誘い両手に手錠をかけて、お医者さんごっこと思わせてナイフで斬りつけると、モンローが暴れて片手の手錠が解け、その手でキャシーは枕で口を塞がれ絶命した。朝、二階に上がってきたジョー(マックス・グリーンフィールド)の提案で、モンローはキャシーを深い山奥で火葬に伏した

キャシーは万一の場合を考えて弁護士のグリーンにニーナのレイプ動画と「行方不明の場合は警察に届けて欲しい」とメールを送っていた。

盛大な結婚式。式を終えて招宴に移ったところに、ライアンの携帯にニーナのレイプ動画とキャシーとニーナ名で“愛してる!”のメールが送られてきた!周りはポリスが囲みモンローは花嫁の目前で逮捕された!

第5の標的は恋人ライアンだった。

感想:

まさか主人公・キャシーが亡くなるとは思わなかった、死してなお、レイプを傍観していた彼氏・ライアンに天罰を加える “ここまでやるか”という驚愕のラストに驚きました。しかし、やはり男は強い!(笑)

友人がレイプされている姿をSNSで流して喜ぶ医学生、傍にいてレイプを止めない医学生、コンペでレイプは当たり前という医学生、医者になってもレイプが止めない医者たち、金になると告訴を止める弁護士、疑わしきは罰しないと大学の名誉と金のためレイプを容認する学部長、これらはいつかどこかで見聞してきた風景です。

若い時の過ちとして見逃されたことで男の暴力が続く。苦しむのは被害者女性だけでない。家族、優秀な医生友人、医者を辞めなければ多くの子供を救えたのに、良心の呵責で苦しむ弁護士、アル・モンローと結婚した妻も苦しめられる!

悪しき男性の性風習を叩きのめそうとする彼女(監督)の気迫への評価だったのではないかと思っています。(笑)

この年ハリウッドは有名監督が性暴力で次々と訴えられるというスキャンダラスな年だった。女性監督・エメラルド・フェネルの怒りが分かります。

何とも重苦しい世界をスーサイド・スクワッド」よろしく、コミカルに男性たちを懲らしめる演出は、女性には痛快だったかもしれませんね!ラストが・・と思ったら少しは反省もあるのかな!(笑)

エメラルド・フェネル監督の次回作が「Saltburn」に決定。イギリスの上流貴族を描く内容になるとのこと。「ゴーン・ガール」でアカデミー賞にノミネートされたロザムンド・パイクが主演です。楽しみにしています。

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「流浪の月」(2022)愛に形はない!「こうあるべきだ」と形を決めるから真の愛が見えてこない!

「怒り」(2016)の李相日監督作。前作にとても感動しましたので、本作もと期待しておりました。前作からの広瀬すずさんの成長も観たいという思いもあって・・。

女児誘拐事件の被害者と加害者として世間の注目を集め、その15年後に偶然の再会を果たした2人の揺れる心の軌跡と見出した愛の形を描き出すヒューマンドラマ。

原作:2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんのベストセラー小説。未読です。原作とはおそらく違っているのではないかと思うのですが、映画で感じた感想を書くと、あえて原作を読んでいません。

監督・脚本:李相日、撮影監督:「パラサイト」「バーニング」「母なる証明」など韓国映画史に残る作品を手掛けたホン・ギョンピョ照明:中村裕樹、美術:種田陽平 北川深幸、装飾:西尾共未 高畠一郎、編集:今井、剛、音楽:原摩利彦。

出演者広瀬すず松坂桃李横浜流星多部未華子趣里三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子柄本明、他。


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あらすじ(なたばれ:注意):

冒頭、10歳の更紗(白鳥玉季)は公園で、ブランコしてベンチで本を読んでいて、あちらのベンチで本を読む大学生・佐伯文(松坂桃李)が気になった。突然降りだした雨に、木々が激しく揺れる。そっと傘をさしてくれる大学生

「家に来る!」と誘われて、泥流が流れる川にかかる橋を渡って佐伯のパートに急いだ。15年先の不穏なふたりの出会いを暗示するような映像で物語はスタートです。

15年後、更紗は中瀬亮(横浜流星)と洒落たアパートで同棲していた。流星は田舎の親に更紗を紹介し結婚を望んでいた。亮は積極的に更紗を求める。これに更紗は「亮が思うほど可哀そうではないよ」と応じる。このセックス中のこの言葉は理解できないが、物語が進む中で分かってきます。ふたりが頑張ってくれますが、何を表現したいのか分からなかった。カーテンが風で揺れる!

更紗はファミレスでバイト。誘拐された更紗を蔑むような生徒に会話に笑顔で対応。親友にシングルマザーの足立加奈子(趣里)がいた。店が終って女性仲間と居酒屋に。そこでも更紗が被害女児であったことが話題になるが明るく対応していた。日本人はつまらないお節介好きですね!(笑)

飲み足りないと加奈子に誘われて古めかしいビルの2階にある夜カフェ・calicoに急いだ。Calicoとは更紗布の意味。更紗はこのことに気付かなかった!

1階のアンティーク店に魅かれ、入ってグラスを見る。店主さん(柄本明)に案内してもらった。柄本さんの出番はこれでお終い。(笑)しかし、店主はグラスを見る更紗に「器も人も同じ」という謎めいた言葉を贈ります。

薄暗いカフェに入った更紗は“文”似のマスターが気になった。水を運んできたマスターの顔を見て文と確認できた。しかし、文は何も話さなかった。更紗の胸に15年前の出来事が蘇った!

何故蘇ったか?今と過去を行ききしながら、過去の伏線をうまくつながっていくミステリアスな物語。

 15年前、更紗は文の部屋に来て、死んだように眠っていて、明るい光の中で目覚めた。生き返ったと思った。ここから文と更紗の交流が描かれます。

夕食にアイスを食べたこと、父が死に母が出て行って叔母さんに育てられたことを話し、本を交換して読み、こうしてふたりの距離が縮まっていった。叔母の子・高広に体を触られのが嫌だったと話すようになっていった。しかし、文との間に性の匂いは一切ないなかった!

更紗のカフェ通いが始まった。カフェで本を読む。文も本を読むがお互いに話しかけることはなかった。

亮が更紗の異変に気付き、アルバイト先に電話し更紗の所在を確認するようになった。そして、更紗をつけてカフェにやってきて文を見た。アパートに戻ると、亮がセックスを求めてきたが拒否した。

更紗の心は次第に亮から離れていき、15年前雨の中で傘を差しだしてもらったことが忘れられず、雨の夜、カフェを尋ねた。すると文が傘をさして女性・谷あゆみ(多部未華子)と一緒に帰るところだった。

後をつけ「あの・・」と声を掛けると「最近よく店によくきてくれますね!」と返事し、そのまま去って行った。更紗は後をつけてアパートに消えるふたりを見て、「これでよかった!ロリコンではなかった」と泣いた。15年前に文に「ロリコン?」と聞いた時、「ロリコンでなくても辛いよ!」と言った文の言葉を思い出していた。

亮に誘われ、亮の田舎の両親に会った。亮の妹が「両親はあなたが保護院にいたことを知っている。兄はあなたが保護院の子だから大切にしてくれると思っている」と話した。田舎から戻り、更紗はベッドに寝ていて、とめどなく涙が出てきた。

そんなとき、ファミレス仲間の中で、ネットで知ったと15年前の女児誘拐犯がカフェのマスターだと話題になった。写真を見て、亮が撮ったものだと分かった。更紗はアパートに戻り、「文が苦労して手に入れた幸せなのに!」と亮を責めた。亮は「おまえ可笑しいぞ!有名なロリコン。お前、俺を捨てる気か!」と襲い掛かってきた。

亮が激しくセックスを求めてきた。更紗が拒否した。ふたりはもみ合い、更紗は顔にを負いアパートを出た。雨の街を、湖の桟橋で警官に捕まったとき文が「更紗は更紗だけのものだ!誰にも好きにさせてはいけない」と手をしっかり握ってくれた記憶の中で、彷徨していた。

いつしか文のカフェ近くにいた。「更紗!大丈夫か!家に来る!」の声が聞こえた。声は文だった。更紗は文の「更紗!」の声で全てが府に落ちた

15年前、警察に捕まったとき高広による性暴力を話さなかったことで文に辛い思いをさせたと謝った。文は「あのとき死のうと思っていた」と髪を撫でてくれた。

更紗は亮のアパートを出て、文の部屋の隣に住むことに決めた。文がこれを許した。ベランダは衝立で仕切られていた。朝、ベランダから見る風景に癒された。

ピクニックで、更紗は「生き返った気分だ!人は見たいようにしか見ない!好きになった人に恋したが合わなかった」と文に伝えた。

更紗は佳菜子が所用でいない間、娘の梨花を預かることにした。隣の文も関わるようになってきた。

文は梨花に幼い記憶を語りはじめた。「家で何年も監視され、少年院に入って、出てきて部屋に閉じ込められた。母は決して許さなかった。今は自由だ!」と。小説には詳しく説明があるのでしょうか?

アパートに亮が訪ねてきた。亮が「文は病気だ、戻って来い!」という。更紗が断ると、亮が殴りかかり、キスを求めてきた。更紗は「好きになるよう努力したが駄目だった。ごめんなさい!」と謝った。泣いて亮は帰っていった。これをあゆみが見ていた。

更紗は文にあゆみとの関係を糺した。文は「あゆみには感謝している。彼女とはつながらない」と答えた。この表現ではわかり辛い。

週刊誌に文と更紗の今が掲載された。アパートやカフェにビラや落書きにより「ロリコン!」と文への嫌がらせが始まった。更紗がアルバイトを辞めた。

更紗が抗議に亮のアパートを訪ねた。亮は暗い部屋に荒れた姿でいた。「俺ではないぞ!文を悪く言うやつは腐るぐらいいる」と雑誌との関りを否定した。更紗が「今までありがとう」と礼を言って部屋を出でると、亮が部屋から出てきて、自分の手首を切った。更紗は救急車を呼んだ。ストレッチャーに載せられた亮は付き添っている更紗の手を離し、「もういいから」と救急車に消えていった。

「週刊誌で知った」とあゆみが文を訪ねてきた。文が謝った。あゆみは悔しがって、泣いてアパートを出て行った。

更紗は警察に呼ばれた。亮のことかと思ったら文のことだった。文と梨花が逮捕された。このとき、文は梨花の手を離そうとしなかった。

更紗は湖の桟橋を訪ね、文と別れたときの感触を思い出し、湖に入ってみた!

文は拘置所生活を終え、カフェに戻ってきた。文は「もう育たない!」と植木を引き抜く母(内田也哉子)の姿を思い出していた。「これでこういう運命になったんだ」と泣いた。

更紗がカフェを訪ねると、薄暗い中に文がいた。「自分のせいで文の人生を壊した。それでも変えたくない自分がいる。あの時の手の感触で生きてきた」と話しかけると、文が全裸になってこちらを向いた。「大人になったのにこれだ、繋がることはできない!」と自分の体の秘密を明かし、近づく更紗を拒否したが、更紗は近づき優しく文を抱いた!

更紗は文の横に寝そべって、橋から泥流が流れる川を見て、文が「俺といたらどこに流れる」と聞いたので「そしたらどこかに流れる」と答えた夢をみていた。更紗がそっと文の手を取った。三日月が輝いていた。

感想

同じ回想シーンが多くて、この尺は長かった!(笑)

 ラストシーン、文は誰にも明かせなかった秘密を更紗に明かす!これこそが最大の更紗への愛だった。更紗は「いつも側にいたい!」と受け入れた。

観た直後、感想は言えなかった!しばらくして、これで良いのだ!という結論に至りました。こういう体験はクリント・イーストウッドの「ミスティック・リバー」(2003)以来でした。

「愛に形はない!」、これが作品のテーマだと思います。この作品では水、風、雲、光など自然、特に「水」が愛のメタファーとして描かれ、「形がない!」ということを表現していると思います。

暗い重いストーリーのなかで、時折、川や湖、カーテンの揺れ、漏れる光、朝日など形のない何気ないシーンが挟まれ、ほっとするシーンが沢山あります。これは小説にはない!自然との関りがいかに大切かを教えてくれます!安曇野でのロケ!これがよかった!更紗が文の隣部屋に引っ越して、ベランダから望む朝日の中の常念岳

この愛の物語は活字やセリフではない、映像で感じる作品になっていました。撮影監督:ホン・ギョンピョの情感溢れる映像を楽しむことができました。

「愛に形はない!」は劇中話でも暗示されます。更紗は幼いころ夕食にアイスを食べる、アンティークの主人が更紗に聞かせる話、「このグラスはビールにもウイスキーにも焼酎にも合う。器も人も同じ!」「人は見たいようにしか見ない!」などと、このことを匂わせてくれます。

「こうあるべきだ」という形を決めることで、私たちは大きな苦を抱え込む、あるいはどんでもない中傷誹謗を産む、真実が見えないから

 多様性時代と言われる今、もっとも問われる問題ではないでしょうか?これに絡むSNSや雑誌メディアの問題、更紗と文の家庭問題。虐待、性虐待の問題が取り上がられたのはよかった。

更紗を愛する亮の過剰愛行動。普通男性の性行動だと認めるかどうか?自分が愛しているんだから許されると求めるセックス。横浜流星さんがうまく演じてくれました。行き過ぎていないか!これが許される男性優位社会の問題。ベストセラー小説だったということに、このことが含まれていないか?

広瀬すずさん、この役は大変だったでしょう。正解はない!望まずして広く世に知られ、「私は人が思っているほど可哀そうな女性ではない」と強い信念で、自分の非も認めながら自分の愛の形を探すという、成熟した女性を感じさせる演技でした。

松坂桃李さん、セリフではなく雰囲気で、屈折した心情を傳える演技はすばらしかった。

多部未華子さん、これは圧巻でした。わずかな出番でしたが、いかに文を愛していたか、それを裏切られた無念の感情がしっかり伝わりました。

子役の白鳥玉季ちゃん、成長した更紗に繋がるように文と一緒にいることがいかに自由で自分の居場所なのかと、のびやかな自然な演技がよかった!

1回で全てを理解するのは難しい、また・・・・。

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「シン・ウルトラマン」(2022)庵野色いっぱいのウルトラマン、メッセージが生きている!

ウルトラマン」放送時代を知らず、ウルトラマンの生い立ちをウィキペディアで調べた程度で、その内容をほとんど知りません。企画・脚本が庵野秀明さん、監督を樋口真嗣さんが務めた「シン・ゴジラ」(2018)が面白かったので、同じ脚本・監督による本作、「きっと面白しいぞ!」と劇場に駆けつけました。満席という盛況でした!

世界感を現代社会に置き換えて再構築したウルトラマン物語。どのような物語で、いかなるメッセージが発せられるかと楽しみにしていました。

企画・脚本:庵野秀明監督:樋口真嗣撮影:市川修 鈴木啓造、照明:吉角荘介、録音:田中博信、美術:林田裕至 佐久嶋依里、編集:栗原洋平 庵野秀明音楽:宮内國郎 鷺巣詩郎主題歌:米津玄師。

出演者:斎藤工長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり田中哲司西島秀俊山本耕史岩松了嶋田久作益岡徹長塚圭史山崎一和田聰宏、他。

本作のパンフレットには「ねたばれ注意という帯がついています。とても珍しいことです。(笑)厳禁ということではないので、注意しながら感想を述べたいと思います。


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あらすじ(ねたばれ:注意);

巨大不明生物、ゴメス、マンモスフラワー、ペギラ、ラルゲユウス、カイゲル、パゴスと6種の禍威獣の襲撃を受け、この間に政府は防災庁を設立。防災庁内に5名の専門家による禍威獣特設対策室を設置した。

そして現在、突然、首都圏郊外に電気を喰うというネロンガが出現

禍威獣特設対策班の構成は、班長:田村君男(西島秀俊)、作戦立案担当官:神永新二(斎藤工)、対粒子物理学者:滝明久(有岡大貴)、汎用生物学者;船縁由美(早見あかり)。分析官は現在欠員。

電気を喰って暴れまくる。自衛隊特科部隊?まだこんな名称で呼んでいるの?多連装ロケット部隊だった。効果なしで対策本部として打つ手がない。神永が「作戦地域に子供がいる!」と救出に出た。こんな時に作戦担当者がいなくなるとは、これはひどい!(笑)ねたばれです!まさにその時、空から正体不明の落下物が飛来し指揮所は激しい衝撃に見舞われた。落下物の正体は銀色の巨人で、巨人の放つ光線によってネガロンは葬りさられた。

この巨人の出現によって、分析官として浅見弘子(長澤まさみ)が公安調査庁から着任した。大柄な横柄な女性です。(笑)富永とバディを組んだ(組まされた)。彼女がこの事件で巨人をウルトラマン命名した。

監視網に地底を這う禍威獣が引っかかった。船縁がパゴスを言うが形態が違った。ガボラ命名原子力発電所を目標に地底を張っている。米軍に地中貫通型爆弾による攻撃を要請した。ステルス爆撃機で攻撃!神永がまたもや指揮所を抜け出し銀色の筒を取り出しスイッチを押す。すると地上から銀色の巨人・ウルトラマンが現れ、空に飛んでガボラの頭部・ドリル部を襲った。ガボラは頭部を開き、顔を出して放射線を放射した。ウルトラマンガボラが発する放射能をすべて胸で受けとめ、格闘の末ガボラを倒し、その体をホールドして空に飛び去り指揮所を守った。このとき浅見はウルトラマンとアイコンタクトでき「コミュニケーション可能!」と判断した。

ウルトラマンの存在は世界に知られることになった。が、神永の所在が分からない!(笑)

ここまでは従来のウルトラマンの活躍で描かれたものではないでしょうか。こここからオリジナルの脚本となります

対策室が突然停電!「バックアップとってない」と慌てる滝。大規模な電子機器システム障害が発生した。そこに外星人だという小さな男が現れた。名はザラブ。浅見が通訳に当たった。「友好のためにやってきた。総理に合わせろ!」と要求。ザラブは大熊総理(嶋田久作)に会い友好条約を締結した。

ザラブは神永を訪ね「地球人を戦わせて滅ぼす!君は身内だから・・」と神永をビルの一角に閉じ込め、神永がもつウルトラマン変身用点火装置を探す。

ウルトラマン横須賀市街地に現れ、基地を荒らす!対策班、自衛隊が出動したことでウルトラマンを抹殺すべきだ!」とザブラは政府に通告した。

船縁がSNSに神永がウルトラマンに変身する画像が載っているのを発見。メンバーがこれを見て驚いた。横須賀に現れたウルトラマンは本物が?と浅見。浅見は神永から渡されていたウルトラマン変身用点火器を持って、神永が床に残した足跡をたどり、神永のもとに走った。神永がウルトラマンに変身し、ザラブの偽ウルトラマンと戦った。偽ウルトラマンが巨大なザラブに変身した。ウルトラマンはこれを八つ裂き光輪で倒した。

神永と浅見が見つからない。対策班のメンバーが心配していると巨大な浅見が現れ、ビルを肘鉄砲で破壊する。(笑)自衛隊が出動し対戦車ミサイルを発射しようとする。そこに「これはデモです」と外星人のメフィラス(山本耕史)が現れた。「これで浅見を元に戻す!」とベーターボックスなる人体巨大化装置を見せる。「人類はこれで禍威獣に対処できる」と政府に貸与を勧めた。メフィラスは「この装置で人類をダメにする一緒にやろう」と神永を誘った。

神永はこれまでにない外星人からの地球破滅の誘いが入ってくる。神永はこれを拒否し、宇宙から狙われるようになっていく。ネタバレはここまでにして、感想に入ります。

感想

どこからとなくウルトラマンが現れ、恰好よく課威獣を退治して天に消えていく前段、特撮映像を楽しみました。まるでアニメを見るような感じでした。これをさっと切り上げて後段に。

ここからは前段と異なって、ウルトラマンははるかに自分の能力を超えた外星人と対決しなければならなくなるというオリジナル部分。神代は外星人として生きるか、人類として生きるかの決断を迫られ、地球人として戦う意義を見出していく。また禍威獣特設対策班は何をすれば人類を救えるかが問われます。

禍威獣を使徒とすればこれは「エバンゲリオン」の世界。庵野さんの哲学が色濃く出た作品だと思います。が、例によって、物語はテンポよく進み、セリフが難解で早口、その内容が理解し難い!(笑)

地球は宇宙の中ではまだまだ若い。人類はいろいろな禍威獣に出会うが、国際社会とつながって、滝明久のような“科学おたく”によって問題が解決していく。科学技術で未来を切り開いていくというメッセージが伝わり、すがすがしい気分で観終わることになりました。「シン・ゴジラ」よりさらに大きな世界感に立った物語でした。

時代背景を現代におき、ウルトラマンが今の時代に生きるというのも面白い。政府の煮え切らない他人頼みの政策(笑)、自衛隊の編成装備、現地合同対策本部は現行自衛隊の指揮所?とても貧弱!(笑)、自衛隊のみなさんすいません。電力や原発の問題等と現在の危機管理体制の問題が提示されている。

また禍威獣は人類に立ち向かう自然や病原菌のメタファーで、ウクライナの問題、コロナ禍の問題に直結しており、今という時期にこの作品が公開されたことに意味があるように思います。

出演者の皆さんのお芝居が楽しかった!斎藤工さんのふんわりした演技は宇宙人そのものでした。(笑)これにしっかり者の長澤まさみさんとのバディは面白い。常に明るくユーモアをとばす早見あかりさんの演技、うまくなりましたね!真面目一辺倒の西島秀俊さん。そして“科学おたく”の有岡大貴さん、楽しかったです!

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「ダーティハリー」(1971)時代の匂いを嗅ぎ取ったイーストウッド刑事の正義!

映画監督ドン・シーゲルクリント・イーストウッドを世に送り出した作品。

憲法記念日にまさかの刑事の活躍を観るとは!超有名な作品ですが、一度も見たことがなかった!この休みを利用してゲオからの借用DVDで鑑賞しました。

法を無視してでも救いたい命があると、自分を投げ出し自らの正義に生きる刑事の物語。

これは受けますね!ベトナム戦争末期政府を信じてよいのか?戦場の兵士に問われたものは何んであったか?言われた通りに戦場で人を撃つことが正義であったか。時代が要求する正義!こんな時代背景に描かれる刑事物語だから大うけだったと思います。この問題は今の時代にも問われる問題で、ここで描かれるサスペンスドラマ、アクションは、今でも、全く色あせない作品だと思います。シリーズとして5作品ありますが、この作品が一番面白い!

 監督・製作:ドン・シーゲル脚本:ディーン・リーズナージョン・ミリアスリタ・M・フィンクハリー・ジュリアン・フィンク原作:リタ・M・フィンク 、ハリー・ジュリアン・フィン、撮影:ブルース・サーティーズ、音楽:ラロ・シフリン

出演者:クリント・イーストウッド、レニ・サントーニ、アンドリュー・ロビンソン、ハリー・ガーディノ、ジョン・バーノン、ジョン・ラーチ、他。


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あらすじ

サンフランシスコ。ビルの屋上プールで泳ぐ女性を別ビルから狙撃し刺殺するという事件が発生。市警殺人課の刑事ハリー・キャラハン(クリント・イーストウッド)が駆けつけ現場検証。射撃したビル屋上に「10万ドルを出せ!新聞広告で返事せよ!でないと牧師か黒人を殺す!さそり(スコルピオ)」と市長(あて殺人予告が残されていた。市長ジョン・バーノン)は金を集めるとして「しばらく待て!」と返事することに決したが、キャラハンは金で解決することに反対した。

市警はヘリで監視することにした。キャラハンは車で市内を巡邏中、ホットドッグを食っていて銀行強盗犯に遭遇し、44マグナムをぶっ放して逮捕。このとき「弾がいくら残っているか?腕が吹っ飛ぶが賭けてみるか!」の決めセリフで相手の射撃を誘ったが撃ってこなかった。キャラハンは笑って撃鉄を引いた。“空”だった!これがキャラハンのやり方。相手が拳銃に手をつければ、正当防衛で射殺する。

この事件で脚を負傷したため、チコ・ゴンザレス(レニ・サントーニ)が相棒として付くことになった。

へりがビル屋上で射撃準備するさそりを発見し、追ったが見失った。夜間、キャラハンとチコが車で巡邏し、さそりを捜索。そこにビルから飛び降り自殺を図る男を救えと指令がきた。昇降機に乗って、この男を救出!「こんな汚い仕事をしているからダーティ・ハリーと言われるんだ!」と名の由来をチコに話した。(笑)

ダーティといわれるのは“決めセリフで相手が銃を持てば射殺すること”だった。

 19歳の黒人の子が射殺され、聖ピーター教会を監視することになり、キャラハンとチコが配備についた。夜間、さそりを発見し、照明下の銃撃戦になったが、逃げられた。怒ったさそりは少女を誘拐し20万ドルを持ってヨットハーバーの公衆電話ボックスに来るよう指示してきた。

マッケイ署長(ジョン・ラーチ)の命令でキャラハンが運搬役を担うことになった。足にナイフを隠し、目的地に。チコが車ではなれてこれを追った。ふたりは簡易無線機で結ばれていた。公衆電話ボックスに着くと次の公衆電話場所を指示してくる。路面電車を使い、水上公園の十字架碑前で覆面のさそりに会った。拳銃を捨てさせられ、現金入りバックを奪った後に、さそりが「気が変わった!少女は殺す!」と殴ってきた。後をつけていたチコがさそりと銃撃戦になり受傷。キャラハンは隠していたナイフでさそりの左足を刺し、チコを援護した。さそりはバッグを残して逃げ去った。彼はサイコパスだった。

 キャラハンが警察署でブレスラー警部補(ハリー・ガーディノ)に報告しているところに、医者から「左脚の治療にきた男がいた」と通報してきた。キャラハンが医者に会うと「フットボールスタジアムで観たことがある男、そこに住み込んでいる」という。フランク刑事(ジョン・ミッチャム)とスタジアムの管理室を尋ねた。さそりが逃げ出した直後だった!スタジアムのライトを点けて、びっこで逃げるさそりを逮捕した。

このとき彼が「弁護士もおらず、人権無視だ!」と抗議した。キャラハンは彼の痛めた脚を踏みつけ少女の居場所を聞いた!(笑)

少女がゴールデンブリッジを見下ろす丘に殺害されて埋められていた。

地方検察事務所に呼び出されたキャラハンは検察官(ジョセフ・ソマー)から「いきなり押し入って拷問するとは何事か!医者、弁護士を呼ばないのは人権無視!米国憲法修正5条違反で起訴できない。勝ち目がない裁判はやらない」と云い渡された。キャラハンは「この男はまた人を殺す!理由は異常者だ!」と嘯いて部屋を出た。

さそりは200ドルを払ってヤクザに顔を潰させて入院。報道陣に「キャラハンから少女殺しの濡れ衣を着せられ殴られた」と喋った。

キャラハンは署長から休暇を言い渡された。チコは「自分には向いてない」と刑事を辞めることになった。

さそりはストリップ劇場を塒に、酒屋を襲いピストルを入手。帰宅時の生徒が乗ったスクールバスをハイジャックし、ゴールデンブリッジからフランシス通りを経て空港に向かう。この間に金を届けろと市長に要求してきた。

キャラハンは署長から金の運搬を打診されたが断り、ひとりでスクールバスがフランシス通りに入ってくるのを道路橋で待ち伏せしていた。通過するバスの天井に飛び降り、さそりの精神をいたぶる。興奮したさそりはキャラハンを振るい落とそうと蛇行運転を繰り返す。ついに走行不能に陥り生徒ひとりを人質に採石場に逃走するが、溜池の淵でキャラハンの1発で生徒を放し拳銃を落として倒れた。キャラハンは「弾がいくら残っているか、俺にも分からん?大型拳銃で脳みそは吹っ飛ぶ、弾があるか?よく考えろ!この糞野郎!」と決めセリフを吐くと、さそりが拳銃を拾おうとする。キャラハンが1発ぶっ放すと池の中に落ちて行った。キャラハンは警察手帳から刑事章を取り外し池に投げ捨てた

感想

身代金支払い承諾の新聞広告、メディアを利用してキャラハン刑事の暴力を訴えるなどの劇場型犯罪。金銭授受場所を傳える公衆電話巡り。どこかで耳にしたような物語の展開がリアルでミステリアス、実に面白い!未解決事件のソディアック事件を参考したらしいが、原作・脚本がすばらしい。今の時代に観ても面白い。

ストーリーの核は、さそりを逮捕しても、検察官の決定「ミランダ警告(米国憲法修正第5条自己負罪拒否権)を無視しての逮捕では告訴できない!」に、キャラハン刑事がこれを受け入れられず、自らの進退を賭けて、さそりを追い、射殺するキャラハンの正義現場を見ていない自己保存の検察官に屈しない刑事の生き様に胸が熱くなります!

20日間拘置され、検事と刑事の取調べを受けてみると、検事と刑事の関係が妙に胸に入ってくる話でした!

当初キャラハンのキャステングはフランク・シナトラ。怪我していて出れないということでポール・ニューマンにお鉢が回ってきたが、彼はこれを断った。そこでイーストウッドに白羽の矢が。

これはイーストウッドでよかった!斬新な作品には、イメージがある人はダメ、新しい人が必要だということ。この役でのイーストウッドはダークというよりも意思の強い、若者の一徹さを感じる雰囲気で、イーストウッド人柄が出たキャステング、とても好感が持てます!この雰囲気はシナトラ、ニューマンにはないし、恐らく体力的にアクションが無理だった。(笑)

キャラハンの決意を正当づけるさそりの奇怪な行動、「こいつは殺人鬼だ!」と信じるに足るさそりを演じたアンディ・ロビンソンの演技がすばらしい!彼は、この後、同種の悪役ばかりを演じることになって一時役者を辞めたというのも頷けます!

物語の背景となるサンフランシスコ市を楽しませてもらいました。ゴールデンブリッジ、カポネも服役したアルカトラズ島。ケザースタジアム、マウント・デビット公園の十字架、路面電車(地下鉄部分)、市庁舎、ストリップ劇場等。特にストリップ劇場には思い出があります。(笑)

                                                          ****

「死刑にいたる病」(2022)「映画史に残る驚愕のラスト」というキャッチコピーは嘘ではなかった!

監督が白石和彌さん。「24人の殺人容疑で逮捕され、そのうち9件が立件・基礎され、すでに第1審で死刑判決が出ている男・榛原大和が、「1件は冤罪だ!」と昔、世話した子・筧雅也(大学生)に冤罪証明させようとするミステリー作品。「どうみてもこの男は死刑だろうに、なぜ冤罪証明が必要なの?」と駆けつけました!(笑)

感想は、

「映画史に残る驚愕のラスト」というキャッチコピーは「嘘ではなかった!」。すばらしい作品に仕上がっていました!

原作はミステリー作家・櫛木理宇さんの同名小説。未読です。この映画を観たら、原作を読みたくなりますね!シリアルキラーの奥深い心理を知りたくなります。脚本が「そこのみにて光輝く」の高田亮さんでこれがまたすばらしい!撮影:池田直矢、編集:加藤ひとみ、音楽:大間々昂

出演者:阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、宮崎優、鈴木卓爾中山美穂音尾琢真、他。


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あらすじ(ねたばれあり:注意):

絶対にネタを知らないで見るべき作品です。未鑑賞の方は鑑賞後、お読みください!

冒頭、男が花びら?を撒き、水門を開けて流すシーンから物語が始まる。実はこのシーンがこの男の犯罪心理に最期まで絡むという秀逸な物語のスタートです。

雅也(岡田健史)はお祖母ちゃんの葬儀のため実家に戻っていた。葬儀が終ると、大和(阿部サダヲ)から「進学して嬉しかった!頼みたいことがある。会いにきてくれると嬉しい」という手紙が届いた!封筒に差出人の名はなかった。お祖母ちゃんの死で家族は父・和夫(鈴木卓爾)と母・衿子(中山美穂)の3人家族となった。母は父のいいなりの生活だったから、雅也はおばちゃんに育てられた。幼いころはパン屋“ロシェル”を営む大和のところに遊びに行き過ごすのが気休めだった。東京の三流大学に入ったが、父は気にいらないらしい。

大和の殺害に“ある決まり事”があった“ロシェル”にやってきた“若い子”にパンやジュースをそれとなくサーブスして近づき、気にいった子に目をつけ、眠らせて夜間車で自宅に運び燻製小屋でいたぶり、爪を剥がし目をくり抜き、絞め殺して炉で焼き、骨を庭に埋めてそこに木を植える。このシーンがすざましい!「凶悪」(13)を思い出します!でもうまく処理されていますから大丈夫です。(笑)

雅也は大学でも孤独だったが、中学時代によくしてくれたと加納灯理(宮崎優)が近づいてくるようになった。

第1回目の拘置所面談

雅也は大和の優しい文面に誘われるように拘置所に会いに行った。面会室で待っていると大和が入ってきた。弁護士以外の面会では事件について喋ってはいけない!にも拘わらず、大和は「僕の殺し方と違う。この街に別の殺人犯がいる。僕と君しか知らない秘密なんだ。探して欲しい(笑)」と必死に訴えた。大和の必死さとかっての優しい大和の姿を思い出し、この役を引き受けた。

拘置所からの帰り、信号のある交差点で立ち止まり、「面会に来たの?」「決められないんだ!僕はただ会いに来てみた。本気で会いに来たんではないんだ」と話しかける長髪で顔を隠した男に出会った。異様な風体だから記憶に残った。

雅也は大和の弁護士・佐村のアルバイト生にしてもらって、大和の裁判記録を手に入れ、自分のアパートで事件を整理し、事件を理解することにした。いかに大和がうまく高校生を取り込んでいくかが分かるよう、要領よく数件の犯罪を映像で見せてくれます。特にアルバイトの女性をものにする映像に迫力がありました。

雅也は灯理に誘いで居酒屋コンペにいったが、つまらんやつらだったので店を出るとこで酔った男に肩が触れたことで殴られたが、収まった!灯理が追ってきたが無視してアパートに帰った。

雅也は問題の女性・根津かおるの遺体が発見された人里離れた山の中を、発見したおばあちゃんに案内してもらった。おばあちゃんから「最近ここにきて泣いている女の子を見た」という証言を得た。

2回目の拘置所面談

雅也は事件を分析した結果、根津は年齢が26歳の女性で泥の中でいぶられ殺されている、高校生でないことそして爪がついていたことから、誰かにストーカーされていた形跡がある、殺人間隔が通常2カ月ぐらいだがこの事件は前の殺害のほぼ直後に殺していると大和が主張するように「大和のやり方ではない。別に犯人がいる」と報告した。「君は凄い、PLTOだ!(ダイゴ?)(笑)」と感激する(煽てる)大和だった。これが雅也のやる気を取り込んでいった

雅也は大和が犯した田舎の住み家、燻製小屋を訪れた。すでに焼けて廃屋になっていた。案内してくれた農家の年寄りは大和の人柄について「とても犯罪を犯すような人には見えない。匿ってくれと言われたらそうする」と話した。

雅也は根津が務めていた会社に出向いて、出てきた男性に話を聞いた。「何度も警察に聞かれたよ、なんの関係もない!」と素気ない返事だった。そのときつけられている気配を感じた・・・。

雅也はお祖母ちゃんのお別れ会で実家に帰った。そこで母と大和?が一緒に写っている学園の写真を見つけた。学園を知る滝内(音尾琢真)に会ってふたりの関係を聞いた。雅也は持参してきた学園の写真を滝内に見せて、“長髪の男”が大和か?と聞いた。大和だった。

学園は人権活動家・榛原桐江が経営する施設だった。大和は桐江の養子となりここで働いていた。とても子供たちを操るのがうまかった。桐江が亡くなりその資産でロシェルを持った。母は親に虐待され土塀の泥を食べるほどに病んでいたところを桐江に拾われた。妊娠したために施設を追われた。父親はわからない。雅也は本当の父親は大和ではないかと疑った!

映画を観るこちらは、雅也は大和にいたぶられ殺人者に堕ちると震えさせられた

第3回目の拘置所面談

雅也は滝内に聞いた話をもちだし「私の父親か?」と聞いた。大和は「君は父に可愛がられているか。父に殴られ傷つけて店にくる君が愛しかった!」と手を触れてきた。私の拘置所経験では(笑)手を触れることはできませんが、触れるようにうまく撮ってありました!雅也はすっかり大和の優しさに浸った!

雅也は実家に戻り、母に大和との関係を確認した。母は「結婚してくれたお父さんに感謝している。お父さんの子よ」と答えた。

大和の犯行と認められたのは「犯人を見た!」という証言があったからだった。弁護士の佐村に証言者・金山一輝が14歳以上であるにも関わらず、なぜ遮蔽証言を認めたのか?と抗議した。佐村は怒って、雅也を解雇した。国選弁護士でもないのにおかしいですよね!

雅也は一輝が務めていた会社に出向き、相馬(コージ・トクダ)という人に話を聞いた。有馬は顔に痣があってこれを隠すために長髪で化粧していて、会社でいじられ、キレて辞めた。鬱せつした孤独な男で暴発することがあった。父親もその気があった。

雅也は一輝が犯人ではないかと推論した

大学で灯理に会うと、「変わったね!」と声を掛けてきた。無視してスカッシュで汗を流した。

その夜、雨だった。暗い坑道を歩いていて中年男と肩が触れ、相手が謝らないので追っかけ殴り、男のネクタイで首を絞めた。しかし、我に戻り、殺せなかった。そこで灯理に出会った。彼女が怪我をした手を嘗めて介抱してくれた。雅也のアパートでふたりはむすばれた!そのとき相馬からメールで金田の写真が贈られてきた。長髪だった!

 雅也は根津の遺体が埋められた山中に出かけ、ここで泣いていた女性を見たというおばあちゃんに写真を見せた。ビンゴだった。女性は長髪の一輝(岩田剛典)だった。雅也は一輝に殺されると逃げた!ここでのカメラの動きがいい!怖さが伝わるようにぶれていた!

雅也は泥だらけになって、実家に戻り母に会った。ここで母から何を聞き出したか?一輝とはどう決着をつけたか?これを見せない演出がいい

第4回目の拘置所面談

雅也は「犯人が分かった。あなただ!」と伝え、そのカラクリを話した。

大和は幼い一輝に自分の命令で弟に当然のことのように傷つけさせるという、自分のいう通りに行動できるようコントロールしていた。大和は根津を殺す前に、成長した一輝を橋の上に呼び出し、根津を見せて殺せと指示し、トラウマを一輝に植え付けたうえで、自分が雨の日泥の中で根津を訝って殺した。一輝は大和から会いにくるよう手紙を貰って、自分が殺したのではとトラウマに嵌って、根津の遺体現場に謝罪に来ていた。

大和は観念したように「君の父親は自分でない、死産だった」という。雅也は「俺には人は殺せなかった」と言い返した。最後に「母親の爪はきれいだったか?」と聞くと「小さいときは」と呟いて、いつもは饒舌に話す大和が席を立って面接室を出て行った。

雅也と灯里は2人でスカッシュした。その後ふたりは雅也のアパートで抱き合った。雅也が「爪が綺麗だね」と褒めると、「剥がしたくなる?」と聞いてきた。雅也が驚きキスを辞めた。灯里が風呂に入ると立った時彼女のバッグが倒れ、沢山の榛村の手紙が出てきた。灯里は「私は分かるの、好きな人の体の一部を持っていたいの彼も雅也君がなら分かってくれるというの、分かってくれるよね」と聞いてきた!

感想

ちょいちょい顔を見せていた灯理が、実は、大和にマインドコントロールされていたというラスト怖い!怖い!映画そのものが観る人を取り込むような感覚に陥ります!

灯理と一輝がちょいちょい顔を出すが、雅也をつけていたと思うと、“ぎょっと”させられます。もう一度確認したいですね!

大和は逮捕された後もサイコパスとしての殺人計画を持ち楽しんでいた。冒頭の花びらは実は“爪”でした。冒頭で爪というのが分からないところが面白い!

爪を捨て水門を開ける行為は拘置所入りの決断の印。入所後、かって面倒を見てきた若者をコントロールして殺人を楽しむという計画だった。いや、違った方法でもっと沢山殺したかった!大和の死刑執行までにはまだ時間がある、何が起きるか?怖いですね!こんな終わり方をする作品を知りません。見事でした。

大和役阿部サダオさんの人たらしの演技が絶品で、誰もこの人を嫌にならない。そして表情を変えずいぶりながら殺人を楽しむ。この人ならシリアルキラーになれます。(笑)こういうやさしい人には注意が必要ですね!阿部さんはこの役はやりたくなかった?(笑)

これに対する雅也役の岡田健史さん、真面目ですんなりと大和に取り込まれていく。最後に自我を取り戻し、拘置所面接では、決して大和に取り込まれない頑固さ、正義感で真実を追求する演技はすばらしかった。大和は終始拘置所のなかで、動き回るのは雅也。雅也が実質の主演でした。岡田さんはこの作品で大きく成長したように見受けました。

灯理役の宮崎優さん。無色で存在感のない灯理が、ラストで存在感を画面一杯に出す演技で、観る人をどん底に引きずりこんだ!すばらしいですね!

雅也のお母さん役の中山美穂さん。まさかの役でしたが、終始暗くて謎めいた演技、これもよかった。

登場人物全員が大和にコントロールされているように見えてくる。怖い!

小説を超えた面白さがあるのではないでしょうか。難解だと思われる物語が簡潔にしてテンポよく展開する!阿部さんの人を取り込む話術や表情、殺害現場の生々しい映像やホラー演出。白石監督の最高傑作ではないでしょうか!

親の幼児虐待、虐めがシリアルキラーの一因であるという見方。この問題は今の時代に通じる問題で、それだけにこの作品の意義は大きい。

                                                           *****

「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」サム・ライミ色いっぱいのホラー感とアクション、映像美を・・!

期待していた作品の公開、朝一番で観ましたが、満席でした。MCU作品は映画作品のみの鑑賞で、前作を復習して望みました。予告記事も多少読んで、「ストレンジの敵が自分だ」というのも、未知部分の多いこの男の暗部を描き出してくれるものと、さらに監督が「死霊のはらわた」のサム・ライミならどんなおぞろおぞろしい物語にしてくれるかと楽しみにしていました。

監督:サム・ライミ製作:ケビン・ファイギ、撮影:ジョン・マシソン、美術:チャールズ・ウッド、衣装:グレアム・チャーチヤード、編集:ボブ・ムラウスキー ティア・ノーラン、音楽:ダニー・エルフマン

出演者:ベネディクト・カンバーバッチエリザベス・オルセンキウェテル・イジョフォーベネディクト・ウォンソーチー・ゴメス、マイケル・スタールバーグレイチェル・マクアダムス、他。


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あらすじ(ねたばれあり:注意):

ストレンジ?はどこか分からない世界でタコ系怪物と戦う少女を救おうと術を掛けたが利かず捕らえられた。そのとき少女が見つからない・・。

こんな夢を見て起床。正装して医者でかっての恋人クリスティーン(レイチェル・マクアダムス)の結婚式に参加した。クリスティーンに「犠牲を負わせるばっかりで御免!」と謝った。「あなたはメスが好きだから」と皮肉られたが、新郎に代りたいという気分だった。そんな時、街に緑色のひとつ目のタコのような巨大怪物が現れるという大事件が起きた。暴れまわる怪物、あの少女が降りてきて果敢に攻撃するが触手で振り払われる。そこに相棒の魔術師ウオン(ベネディクト・ウォン)が駆けつけ、ストレンジはふたりで怪獣に挑んで倒した。少女はアメリカ(ソーチー・ゴメス)と言い、ウオンのいるカマー・タージで預かることにした。

アメリカの話しは夢と同じで、夢ではなかった。アメリカは次元の間を移動できる特別な能力を持っていた。アメリカは夢の男と魔術書“ヴィシャンティ“を探していて悪霊に襲われたという。夢の中の男の死体を示され、この話を信じることにした。夢の男を葬り、未曾有の危機を感じたストレンジは、アベンジャーズの中で最強のマジックパワーを持つワンダに協力を求めることにした。

ワンダは双子の母親だったが、ある事件でこれを失い、今ではリンゴ園に身を隠して生活していた。「ワンダヴィジョン」(2021)を観ていないので、ことの経緯は全く分からない!これはいけませんね!

ストレンジがリンゴ園を訪ねると、彼女は「アメリカを連れてくれば守ってあげる。失った家族を取り戻すためにアメリカのパワーが必要。渡さないならスカーレット・ヴィッチとなって奪いに行く」という。

ストレンジは彼女の要求を拒否し、カマー・タージに戻った。ウオンは「ダークホールに取り付かれたスカーレットは宇宙を破壊する」と寺院の防備強化に乗りだした。他の寺院から多くの魔術師が駆けつけた。

暗黒の雲を張って、スカーレットがカマー・タージに現れた。ストレンジに「クリスティーンのいる世界と交換しよう」と交渉してきたが、ストレンジがこれを拒否した。スカーレットと寺院の魔術師たちとの激しい戦いが始まった。しかし、スk-レットは魔術師たちをマインドコントロールして寺院内に進入してきた。ストレンジは「君に子供たちはいない」と攻撃を止めるよう促すと「どのマルチバースにもいるの!アメリカの能力を使って、2人の息子がいる世界に行く」とその映像を見せて襲ってきた。ついにストレンジはアメリカの星形ポータルで、他のバースに飛び出した!

着いたのは花の街、ニューヨークだった

アメリカはまず腹ごしらえにとピザ店に立ち寄ると店主がストレンジの敗れた服装を貶す。ストレンジはこの親父に顔を叩き続ける魔法をかけた。この親父が「死霊のはらわた」の主演・ブルース・キャンベルだった。(笑)ほとんど笑いは起きなかった!ここからいよいよ死霊の世界へ入っていきます。

アメリカは幼いころ、蜂に刺される恐怖から父母を異次元にふっとばした記憶で、この能力を未だコントロールしきれないことを知った。「どこかで会える!」と励まし、このベースにあるストレンジ記念館前で銅像になっている自分を見た。アメリカが「あなたが死んでいるなら、マスターは誰?」と聞いてきた。こんな調子でふたりの間に友情が芽生え始めた。

サンタムを訪ねるとそこには兄弟子のモルド(キウェテル・イジョフォー)がいた。魔術書“ヴィシャンティ“を探していることを告げると「恐ろしい術だ!一瞬でも”ドリームウオーク“に取り付かれると抜けなくなる」という。スカーレットと子供たちの話しを持ち出すと「知っているが、お前らふたりの方が危険だ!」と睡眠入りのお茶を飲まされた。

ストレンジが目覚めると、四方が透明な壁で出来ている檻の中にふたりは閉じ込められていた。クリスティーンがやってきて「ここはバクスター研究所。他バースからやってきたあなたたちを検査する」という。

ストレンジはモルドに連れ出され、イルミナティという身元調査委員会?で審査されることになった。委員会のメンバーはモルドのほかにキャプテン・カーター、ブラックボルト、キャプテン・マーベルのマリア・ランボー、・・ら6人からなる組織だった。このあたりはよく分からなかった!(笑)

このころカ・マータージではスカーレットがウオンに魔術師たちをいたぶりながら“ダークホールド本“を出せと責めていた。ウオンは遂に「焼いてしまったが碑文が残っている」と、自らのポータルで、雪のワンダコアに案内した。スカーレットは現れたタコ怪獣とハグを交わし「ここは私の玉座だ!」と席に着いた。ウオンは結婚式の日、怪獣がニューヨークの街を襲ってきたのはスカーレットの指図だったと分かった。スカーレットはダークホールドを駆使してアメリカを連れだすことにした。

一方、ストレンジは調査委員会でサノスとの戦での活躍を褒める発言もあったが「君が来たことでベースが不安定になっている。これではどちらかのベースが潰れる。ストレンジはどのベースでも自分マル出しで、自分のものにしてしまう」と批判され、モルトと決闘する羽目になった。ストレンジはモルトを倒し、“ヴィシャンティの書”を手にするため、このベースのシニスターサンクタムに住む自分に会うことにした。ここはかなり端折っています!

アメリカはクリスティーンによって檻から放たれた。ストレンジはアメリカ、クリスティーンを伴って、スカーレットの追撃を逃れようとしていたが彼女に捕まり、アメリカが連れ出された。

ストレンジはシニスターストレンジを訪ねた。シニスターは痩せ衰えていたが鋭い眼光を持っていた。ストレンジは凍った池で妹を死なせたことを反省していると身分を明かすと、シニスターが「そんなことはどうでもいい!なぜクリスティーンの愛を受け入れられなかった?」とストレンジの自分本位な性格を突き、「本はない!勝ったらダークホールドの術を渡す」という。ストレンジはシニスターに挑んだ。ストレンジがピアノに触れたことで、戦いは音符が飛び交うという格闘になった。(笑)ストレンジが勝利し、この格闘で”ドリームウオーク“術を習得した。

ストレンジは”ドリームウオーク“技でアメリカ救出に向かいたいが、クリスティーンに「生きていてはその術は使えない!」と言われ、夢に出たきた男の死体に化け、ゾンビ・ストレンジとしてワンダコアに乗り込んだ。

 

ここからは映画でゾンビ・ストレンジとスカーレットの戦い、その結末を楽しんでください!

感想

マルチバースが舞台というから、どのバースからいかなるキャラクターが飛びこんでくるのか?というのも楽しみでした。公開されているキャラクターでは、前作のものにワンダが加わっているのが目につくぐらい。何でここでワンダが脚光浴びるのかが分からなかった。

幕が開くと、あれ!というほどにストレンジの敵が違っていて、ワンダの“エンドゲーム”後の生き様を描いた「ワンダヴィジョン」(2021)を観ていないと物語について行けないという、慌てました!さらにX-MENにまで及ぶとお手上げでした。よく分からないというところも多々ありましたが、サム・ライミ色いっぱいの壮大なホラー感のあるストーリーとアクション、映像美を楽しみました

テーマは死霊で描かれる「最大の敵は自分だった!」ではないでしょうか。

ワンダの人生はあまりにも悲劇的だった。ヴィジョンとの出会いは最大の喜びであったが、自らの手で始末しなければならなかったという運命。それだけにふたりの間にできた子供は放せなかった!自分を犠牲にしても取り戻すという母親の心情。ポン・ジュノの「母なる証明」(2009)の母親イメージで観ることにしました!(笑)それだけにラストシーンはいいところに落としたという感じでした。

一方のストレンジ。アメリカとマルチバースを旅することで、自分ではどうにもしようもない自我に出会い、これにうまく付き合あう方法を見出していく。“謙虚“こそが自分の成長に繋がるという結末。これは「ドリームプラン」(2021)と同じ結末になりました。次作の紹介があり、ストレンジの成長を見届けたいと思います。

本作は人間心理を深く追求しようとするストーリー性に優れていて、アクションよりストーリーを楽しむ作品でした。ところが残念ながら、コアなフアンの方には絶品と評価されますが、マルチバースの描写も含めて、素人には分からない部分が多かった。これはつらい!!1回の鑑賞では無理ですかね!(笑)

他を圧するスケール感のある映像が楽しめる作品だけに、分かりやすい作品にして欲しい!

                                                          ****

「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014)怪獣映画ではない、“映画”でしか説けない人の生き方!

かつてヒーローだった「バードマン」を演じた男が、再び名声を取り戻そうと人生に翻弄される姿を描いた作品。第87回アカデミー賞で9部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本、撮影賞を受賞。

WOWOWアカデミー賞特集アンコール」として放送された作品。当時、全編1カット撮影作品として騒がれ、劇場で観ましたがよく分からず、感想も書きませんでしたので、いい機会と見直しました。

監督:「バベル」(2006)「レヴェナント: 蘇えりし者(2015)」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ニコラス・ヒアコボーネ、アレクサンダー・ディネラリス・Jr. アルマンド・ボー。撮影:「ゼログラビティ」のエマニュエル・ルベツキ美術:ケビン・トンプソン、衣装:アルバート・ウォルスキー、編集:ダグラス・クライズ、スティーブン・ミリオン。音楽:アントニオ・サンチェス。

出演者マイケル・キートンザック・ガリフィアナキスエドワード・ノートンアンドレア・ライズボロー、エイミー・ライアンエマ・ストーンナオミ・ワッツ、他。


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あらすじ

かつてスーパーヒーロー映画「バードマン」で世界的な人気を博しながらも、現在は失意の底にいる俳優リーガン・トムソン(マイケル・キートン)は、復活をかけたブロードウェイの舞台に挑むことした。レイモンド・カーバーの「愛について語るときに我々の語ること」を自ら脚色し、演出も主演も兼ねて一世一代の大舞台に挑もうというもの。

ところが相手役の男優ラルフ(ジェレミー・シェイモス)が大怪我をして降板。代役に実力派俳優マイク・シャイナー(エドワード・ノートン)を迎えるが、彼はリアルな芝居の標榜者でリーガンと共演して自分の芝居を見せつけてやろうと企んでいた。プレビュー舞台で、「セットが偽物だ!」と暴露するし、幕間で相手女優のレズリー(ナオミ・ワッツ)とセックスをやってそのまま本番の幕が開く。(笑)それでも舞台は大喝采で、彼の評判でキップが完売。マイクの行動にリーガンは精神的に追い詰められていった。

リーガンはこれまで映画に打ち込んできたために家族サービスを怠り、妻シルビア(エイミー・ライアン)とは離婚、娘サム(エマ・ストーン)は麻薬に走った。レーガンはこの舞台でサムとの仲を取り戻そうと自分の付き人とした参加させたが、薬を隠し持っていることを知って大喧嘩!

最後のプレステージ。

リーガンは「今回は上手くいってくれ!」と準備していると、あろうことかマイクとサムの仲を知った。「なんたること!」と劇場出口ドアーの外に出てタバコを吸ったが、ドアーに鍵が掛けられ、バスローブの裾がドアーに挟まれ、元に戻れない。しかたなくバスローブを脱いで下着姿になって街を歩き劇場の正面玄関から入って舞台に上がり、肌のままで演技を終えた。(笑)娘サムが「これよ、パパ!」と励ます。

ところが、裸で歩くリーガンの姿SNSにアップされ「あのバードマンが!」と大評判になった。(笑)

リーガンは舞台を止めようかと弱気になったが、バードマンが出てきて、「お前ならやれる」と元気づけてくれる。バーで飲んでいると高名な舞台評論家・タビタ(リンゼイ・ダンカン)に出会った。彼女に挨拶すると「観ないでも結果は分かっている。明日の上演でお仕舞!」と罵倒された。「あんたはレッテルを貼るだけの評論家!」と激しく反論した。

リーガンはウイスキーを買って飲みながら劇場に帰り始めると、バードマンが現れ、「飛べ!炎の中を奔れ!」と囁く。リーガンはバードマンになって悪と戦い、空を飛んだ。そして、ベンチで過ごして朝になって劇場に戻った。

公演初日、

劇場に戻ったリーガンは舞台を見届けにやってきた妻シルビアに励まされ、ラストシーンの呼び出しに、マイクに勧められたように実弾を拳銃に込めて、血のりのペイントを断って舞台に上がり、俺はいつも愛を願う側だ!君の望む男になりたがったが、今は俺以外の誰かになりたい!」と頭を撃った。この演技に観客はスタンデイングオベーションで答え、タビタの論評は「無知がもたらす予期せぬ奇跡」と書かれ、TVでは「リーガンが復活した」と報じられていた。

目覚めたレーガン、顔が包帯で覆われていた。これで妻と娘の見舞を受けた。プロデューサーのジェイクは「大成功だ!」と歓声を上げた。

レーガンはトイレットで自分の顔を見た!鼻がバードのように膨れ上がっていた。傍にいるバードマンが“しょぼん”としている。彼は部屋の外で鳥が飛ぶのを見て、俺は飛べるか?と飛んだ!(笑)

あとからやってきたサムが父が部屋にいないことに気付いた!外を見て、空を見上げ微笑んだ。(笑)

感想ねたばれ:注意):

映画と舞台の世界をブラックユーモア全開で見せながら、役者の名演技とノンストップ撮影でリアルに描き、「人生での、幸せとは何か」を問うという、監督の作風をたっぷりと楽しめる作品でした!

冒頭、「この人生で望みを果たせたか?」と聞かれ、「果たせたとも。“愛される者”と呼ばれ愛されると感じること」(レイモンド・カーヴァーの言葉)と答え、バードの生息地からバードマンが火の弾になってやってくるシーンから物語が始まります。そして、このシーンの逆が、リーガンが頭を拳銃で撃った直後に出てきます。「“愛される者”と呼ばれ、愛されると感じること」「本作のテーマ」です。

バードマンとして持て囃されたリーマンの20年後。「ひと旗上げたい!」とカーヴァーの短編小説「愛について語るときに我々の語ること」を引っ提げ、ブロードウエイで演出、自らが主演する。こんな無鉄砲なことは奇跡でもなければ出来っこない!

この小説のラストシーンのセリフ「俺はいつも愛を願う側だ!」と自分の頭を拳銃で撃って愛に目覚め、評論家から「これは奇跡!」と評価されたというエンデイング(笑)、これは上手い脚本でした!

今は冴えないバードマンに、初代バットマンでその後出番のないマイケル・キートンをキャステイングするという皮肉?いや名キャステイングの妙に脱帽です。キートンの演技がすばらしかった!

さらに、マイクに幕間でセックスを迫られ「初めてのブロードウェイでまだ認めてもらえない!」と泣くレズリー役のナオミ・ワッツ。彼女もなかなか売れない女優であっただけに、絶妙なキャステングでした。(笑)

キャステイングの妙を楽しめる作品でした。

リーガンは座禅を組み空間浮遊してからリハーサルに参加。リハーサル中に照明が落下してラルフが負傷する。リーガンは一連の行動に「自分には特別な力がある」と信じている。プロデューサーのジェイクは「馬鹿な!と笑う。この他にも特別な力を信じるリーガンの映画ならではの描写が続く。「映画でも可能だ」と言わんばかりに全編ワンカット描写、この作品にはこれが絶対に必要だった!そしてラストシーンこれが映画です!

これに対して、舞台俳優のマイクと舞台評論家のタビサが、ハリウッド映画への反旗を翻すかのように、かっての人気映画俳優リーガンをぼろくそに叩く。これにリーガンも反論する。尺の1/2はこれ!“両者ともに正しい”とリアルな演技を楽しみました!(笑)

「映画俳優である前に父親であって!」と娘サムの登場。「話題にもならないものやってどうするの?SNSを無視するようではダメ!」と父をくさし、父に殴られたマイクに恋して父のバカ夢を覚まさせようとする。父のパンツ姿がSNSにアップされると「これよ、パパ!」と励ます。

薬上がりの表情がよく出た大きな目、痩せた体、入れ墨、激しい父親とのやり取りがラストで意味深な笑みに変わり、この笑みに“作品のテーマが託される”というみごとなエマ・ストーンの演技でした!

誰しも過去の栄光に捉われ苦悩します。自分を失わず、家族を愛し、愛される道を選ぶことの大切さを教えられる作品でした!

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