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「アイネクライネナハトムジーク」(2019) “普通でいい、あなたに会えてよかった”

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「愛がなんだ」の今泉力哉監督作品ということで観ました。この作品は恋愛指南書としてとても評判が良かったですが、本作も前作同様、「出会いとは」をテーマに結婚生活の秘訣を説いてくれ、ユーモアたっぷりで、テンポよく描かれ、とても楽しめる作品でした。

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 原作は「アヒルと鴨のコインロッカー」などの映画作品で知られる伊坂幸太郎さんの同名連作短編集。伊坂さんにとっては初めての恋愛小説です。脚本は伊坂原作を多く手掛けてきた鈴木謙一さん、それだけに、井坂作品の疾走感や伏線の張り方の面白さ、印象的なセリフがあります。

主演は三浦春馬多部未華子さん。共演は矢本悠馬森絵梨佳恒松祐里・荻原利久・貫地谷しほり原田泰造さんらです。

仙台市を舞台に、いろいろな出会いで結婚した4組のカップルが、10年後、どのようなカップルになっていたか。“出会い”は幸せな結婚にどう関係あるのかを描く結婚指南書です。

10年後には、このカップルから生まれた子供たちのカップルをも加え、6カップルになるという登場人物の多い群像劇。これが、いくつかの伏線を介して見事に繋がり、出会いの奇跡と幸せな結婚の関係を解き明かしてくれます。( ^)o(^ )

10年後と区切りをつけたのは、前作「愛がなんだ」と同様、前半でいろいろな出会いを描き、後半で「何気ない日々の生活が、いろんな奇跡につながる」というテーマへの答えをしっかり描くという、とても分かりやすい編集になっています。

伏線のひとつが仙台駅前の大型ビジョンを望む“ペデストリアンデッキ”、もう一つがここでの弾き語り、“ストリートミュージシャン”です。仙台という街の空気感、斎藤和義さんの音楽、現地オールロケが、人と人の繋がりを爽やかに暖かくしてくれたように思います。

三浦さんが、ちょっと掴みどころのない男を演じるなど、キャステイングが面白い。特に後半、夫婦役の濱田マリさんと柳憂怜さんなんぞ、こんな夫婦にどんな出会いがあったと笑えます!

****(ねたばれ)
佐藤(三浦春馬)と本間紗季(多部未華子)の出会い:
佐藤の会社の上司・藤間(原田泰造)が、嫁が実家に帰ったと落ち込んで欠勤、そのためひとりで仙台駅前の大型ビジョンを望むペデストリアンデッキで街頭アンケートを行っていた。大型ビジョンにはヘビー級ボクシングの世界チャンピオン戦が映し出されていた。ウィンストン小野(成田瑛基)が相手の黒人選手に挑んでいた。近くでストリートミュージシャンの弾き語りに耳を傾けていた本間紗季が近付いてきたので、アンケートをお願いすると、「立ってるのは大変ですね。仕事欄は無職でもいいですか?」と声を掛けて応じてくれた。その手の甲に「“シャンプー”」と書いてあった。紗季のキラキラ感に佐藤は舞い上がった! このふたりの美男美女の出会いは奇跡でしょう。(笑)

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ここに出てくる、“ボクシング”が大きな伏線に加わります。

佐藤には大学時代からの親友・織田一真矢本悠馬)がいる。彼を訪ねると「お前、彼女ができたか?出会いはなんでいい。あとでこの人に会ってよかったと思えることだ」という。織田には美人妻・由美とふたりの子供がいる。いつ訪ねてもエロ本をほっぽり出し、子供と遊んでいる、一見その系の人に見える料理人。(笑) 

織田と妻・由美(森絵梨佳)の出会い:
大学時代、織田はある女性に会うことになっていたが、会ったのが由美。逢瀬を重ね、由美が妊娠した。躊躇することなく織田は大学を辞め、居酒屋で働き、家族を養う決心をした。口癖が「出会いなんてどうでもいい、・・・」だった。
由美は同級生・美奈子(貫地谷しほり)といまでも親しく付き合っている。

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美奈子と小野の出会い:

美奈子は美容師。常連客・板橋香澄(MEGUMI)から「良い男がいるから付き合ってみないか」と言われ、その気はないと答えたが、後日電話で「姉の板橋から聞きました・・」と電話があった。しかし、この電話の声にときめきを感じお付き合いをすることにするとなんとボクシング選手の小野だった。小野はチャンピオンになって、美奈子にプロポーズ。

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こんな調子で次から、次へと人の環が大きくなっていきます。

美奈子と小野は織田家族を訪ね、そこで佐藤に会い、織田と佐藤にサインの“色紙”を渡す。これが伏線になります。さらに、公園で出会った、同級生に虐められる視聴力障害少年に小野が、力をつけろ!と“枯れ木”を折って見せるシーンも伏線になります。

藤間夫妻の出会い:
妻と子供が家から出て行ったと言い、本人は使った鋏を置きっぱなしにするなど些細なことが溜り積もって妻を不機嫌にしたのが原因だという。大人しい、気弱そうな人。出会いは、妻が落としたサイフを拾ったこと。いまでは、出会えたのが彼女でよかったと思っているという。藤間の妻は姿を見せず、観るものの想像に任せています。佐藤は子供さんにと、藤間に小野のサイン色紙を渡した。

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佐藤と織田が同級生の結婚式に参加する日、織田のタイトル防衛戦の日だった。会場には、藤間が娘さんと一緒に観戦していた。
披露宴が終わり、夜帰宅途中に渋滞に巻き込まれ、いらいらしているところで、警備員として誘導灯を振る紗季に出会った。佐藤は、まさに、奇跡の再会だと結婚式での引き出物“シャンプー”を渡し、ふたりで微笑んだ。

一方、ウィンストン小野が試合に敗れ、チャンピオンベルトを失った。

それから10年。
いきなり、ファミレスで食事する久留米家の会話から物語が始まります。夫・邦彦(柳憂怜)、妻マリ子(濱田マリ)、息子・和人(荻原利久)。この演出に、まずは驚きでした!
邦彦はウエイトレスが持ってきた料理が、注文したものと間違っていても、文句を言わず食べる人。これに「ペコペコする親父が嫌だ!」と怒る和人。「お父さんは、昔はお前と同じだった。偉そうにするな!」と母親が叱る。どんな出会いでこのふたりは夫婦になったのか、観る人に任されます。これが面白いところ!

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和人は織田の長女・美緒(恒松祐里)と同級生。

ここからは、織田と妻・由美(森絵梨佳)のその後は、美緒を通して語られる。
また、美奈子と小野のその後は、小野のTVインタビューを見て知ることになります。さらに、藤間夫妻については、藤間からの電話だけ。

佐藤と紗季のその後に焦点を合わせ、物語は展開されます。すばらしい脚本・演出です!

美緒はだらしない父親が大嫌い。ところが自転車トラブルの解決には、和人を呼び出す。理由があっち系で強そうだかだという。(笑) 
美緒は美しい母親がこんな男と結婚しているのが分からないというが、母親が父親に信頼するのを見て、父親の良さを知っている。
一方、和人も弱弱しい父親だと批判するが、父親のやり方を真似て、美緒がファミレスのアルバイトで客に絡まれているところを救う。(笑) 和人も美緒同様に、両親を見て、家族のよさを知っている。

佐藤と紗季。
佐藤は、同棲している紗季に、結婚指輪を渡し結婚したいと言いそびれている。こんな佐藤に嫌気が差して、紗季は家を出た。ふたりの関係は、佐藤のしゃべり方や気力のない風体から察することが出来ます。なぜ奇跡が起こらなかったのか。そうではない、奇跡を起こす努力をしなかったのです。

佐藤はシャンプーを買いにスパーに出かけ、美緒に会い、織田の家族の話を聞き、「出会いはなんでもいい。あとで、・・」と自慢げに話した織田を思い出す。
小野が妻やフアンのために、チャンピオン戦に再挑戦するというニュースを目にする。
藤間は電話で、サイフは妻がわざと落としたんだと、伝えてきた。これで藤間夫婦の今が分かります。

小野がチャンピオン戦に再挑戦する日。ストリートミュージシャンの歌が流れるなかで、佐藤がバスに乗る紗季を見る。バスを追っかけて、追っかけて仙台の街を走る。井坂作品ですから走る!(笑)
枯れ木を踏んでパッキンという音に紗季が振り向いた。バスが走り去ったので、
佐藤が戻ろうとすると、知覚障害のある子供が倒れており介抱しているところに紗季が現れた。
「あのとき紗季に会えてよかったと伝えたかった」と話し、紗季をバスに案内し笑顔で見送った。

小野もほとんどノックダウンされるところで、力をつけろとエールを送ったあの少年に助けられ、敗れはしたが、いい試合だった。
                *
和人が、仙台駅前の大型ビジョンを望むペデストリアンデッキで、ストリートミュージシャンの弾き語りに耳を傾けているところに美緒が近付いてくるというラストシーン、人の輪が未来に繋がっていく愛の物語、みごとでした!
                
過去は変えられない。しかし、未来は自分の努力でいかようにも変えられる。努力しだいで幸せになれる。「普通でいい、あなたに会えてよかった」という環境をつくりなさいと教えてくれています。すばらしい!!
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【公式】『アイネクライネナハトムジーク』9.20(金)公開/本予告