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「蜜蜂と遠雷」(2019) あちらの音をこちらの音に映像化、すばらしい!

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監督は「愚行録」の石川慶さん。松岡茉優さん出演作ということで、楽しみにしていました。クラシック音楽などとは縁遠いですが、クラシック音楽ってこんなにすばらしいんだと感動させてくれました。( ^)o(^ )

 

原作は直木賞本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸さんの同名ベストセラー作品。未読です。本屋さんを覘いてみると上中下3冊からなるボリュームのある作品。これに石川監督が挑むという注目作です。

あらすじ:
3年に一度開催され、若手ピアニストの登竜門として世界から注目を集める芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む4人のピアニスト。かつて天才少女と称されたが7年前に母を亡くし表舞台から消えていた亜夜、亜夜の幼なじみで名門ジュリアード音楽院に在籍する優勝候補最右翼のマサル、楽器店勤めで年齢制限ギリギリのサラリーマン奏者高島明石、そして謎に包まれた無名の天才少年・風間塵。彼らはコンクールを通して刺激し合い、それぞれが自分の音を見出し、・・・。

4人が絡み、影響し合い、短期間だけど、ピアニストとしての成長を見せるという脚本がすばらしい。

文字で書かれた音楽作品をどう映像化して、観る人に“俺はクラシックフアンになるぞ”と思わせる作品にするか?これが本作のテーマです。
音楽コンクールで競う4人のピアニストの演奏を聞くことで、「音楽は一瞬一瞬で消えていくけど、その消えていく音符を通して、聞いている人たちは“永遠”に触れている」という音楽の本質に触れる演出がすばらしい。音の世界のすばらしさに導いてくれます。

主役亜夜に松岡茉優さん、共演に明石役・松坂桃李さん、マルサ役・森崎ウィンさん、塵役・鈴鹿央士さんを配し、皆さんの表情を見ていれば、キャラクターの心情が分かるよう、感情豊かに演じてくれます。
さらに超一流のピアニストを配し、それぞれのキャラクターに添った演奏を披露してくれます。亜夜には河村尚子さん、マサルには金子三勇士さん、明石に福間洗太郎さん、塵に藤田真央さん。すばらしい音が耳に入り、鍵盤を叩く指先に魅入り、これまでの音楽映画とは一線を画しています。

****(ねたばれ)
冒頭、亜夜がピアノで「雨」を弾くときの感じがわからないといつぶやき、一時審査ステージに上がる前の、亜夜の笑みから物語が始まる。このつぶやきと亜夜の微笑みの変化が、作品のテーマです。4人のピアニストは、いろいろなシーンで笑みを見せてくれ、この笑みが、彼らの心情を的確に表しており、その変化を楽しむことになります。

4人は一次審査を経て2次審査へ。2次審査は課題曲「春と修羅」です。作曲は藤倉大さん。この曲には、演奏者が妙技を発揮できるようカデンツァが挿入されている。これを聞くことで、キャラクターのバックグランドが分かるというもの。
課題曲にどう挑むか。準備段階とステージでの演奏で描かれます。

塵は、海辺でイメージを膨らませながら、ピアノではなく、板の鍵盤を激しく叩く。
マサルは、海辺でランニングしたのち、ピアノで練習。亜夜は楽譜をゴミ箱に捨ててしまい、「あの音がどこにいったのかな」とつぶやく。

明石は練習時間がないとこぼしながら課題曲のことを妻・智子(臼田あさ実)に話すと「曲名が宮澤賢治の小説のなかにある」と言う。彼は「音楽は生活のある」という考えを持っていて、いろいろな情景を描きながらピアノを弾き妻の意見を求めていた。

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ステージでマサルは弾き終わり、大喝采を得るが不安そう。審査委員の一人でマサルの師匠であるナサニエル(アンジェイ・ヒラ)に“やった”という態度で意見を求めると「オクターヴのパッセージは危険だ。偉くなったつもりか。もっと完璧にたたけ!」と注意される。素人の私には、見事だと思いましたが。(笑)

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明石は、亜夜や塵が口ずさむように弾く。大きな拍手を得た。同じ曲でも弾く人によって全く異なる曲になることに驚きです。
明石の曲を聞いた亜夜はピアノを弾きたくなり、その夜、明石に紹介された調律師宅を訪ねて課題曲を弾いていると、そこに塵も訪ねてくる。「あなたはステージを下りるとき寂しそうに見える。私は誰もいないでも、野原でも弾く」と、ふたりで、月の光を浴びながら、「月の光」「月光」を連弾する。素人のわたしにもこの曲のすばらしさが伝わりました。(笑) 亜夜の顔に変化が出てくる。

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塵は養蜂家の父とともにヨーロッパに渡りホフマン教授についてピアノを学び、教授から「世界は音に溢れている、そんな音を聞きなさい」と言われ、音を探していると話す。
作品のタイトル「蜜蜂」は、音を求めて旅する塵、そして彼に触発されるピアニストたちでしょうか!

調律師が語る明石のピアノ評「かどがとれてきた。コンクールだとぼんやりしているけど浸み込んだ音だ」には納得です。

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こんな塵が作ったカデンツァは、ガチャガチャのすざましい曲。楽譜は心情を表現しているような尖った波形だった。これを聞いた審査員たちはきょとんとしている。明石は微笑んだ。塵は「楽しかった!ホールで弾くのが・・」と感想を漏らす。

最後に亜夜がステージに上がり、母と一緒にピアノを弾く記憶のなかで、楽しくて仕方がないという状態で弾き終わった。楽譜は白紙でした。これにマサルが「信じられない」と驚く。

二次審査を終えたところで、明石は「生活者の音楽は敗北でした」とインタビューに応じ、悔し涙を見せた。

4人は、冬の海に出かける。塵が砂浜に足跡を作り、ベートーベンと言えば、亜夜がアイネクと応じ、マサルは凄いねという。明石は「悔しいけどおれには分からない、あっちの世界は・・」と漏らす。

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塵が「何かが聞こえる?」と言うと、亜夜が微笑む。しかし、マサルには何も聞こえない。塵が示す方向に遠雷が、そして海が光る。

コンクール参加の4人は、相戦うというより、お互いの音楽を交差させながら、リスペルトして、自分の音を探してて、天才とは遠雷を聞き取る能力ということになります。作品のタイトル「雷雲」とは、求めてやまない音ということでしょうか?

本選はオーケストラとの共演です。指揮者は世界最高峰のマエストロ・小野寺(鹿賀文史)。審査前演奏で、マサルはフツートが合わないと3度やり直しを求めた。小野寺から、これ以上のやり直しを断られる。また、亜夜は演奏の途中で、母の死のショックで失った音のために、演奏が中断してしまう。塵は板の鍵盤を叩いての練習で指から血が噴き出す。それぞれが問題を抱え本選に。

本選当日、不安を漏らすマルサに亜夜が「踊るような気分で、さらおうか」と連弾してやる。これでマサルは自信を持ってステージに立った。弾き終わると万雷の拍手。小野寺も満足そうで、満面の笑顔でステージを去った。

亜夜は審査委員長・嵯峨(斎藤由貴)から「辞め時」と忠告されて、会場を後にしようとしていると、塵が激しく弾くピアノ音が耳に入り、母と一緒に弾いた音を思い出し、ステージに立つことにした。演奏を終えると、小野寺が祝福してくれ、塵が「いい音を見つけた」と笑顔で声を掛けた。亜夜も満面の笑顔だった。

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明石は天才たちの音楽を聞いて、自分は音楽が好きだということが分かったと微笑む。

コンクールの順位、一瞬、発表シーンを見たように思うのですが、思い出せない。(笑)
               
脚本・映像・音楽がうまく噛み合い、クラシック音楽って、こんなに楽しいぞとしっかり伝わる作品でした。主演の松岡茉優さん、繊細な感情演技でしっかり頑張りましたね!
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映画『蜜蜂と遠雷』予告【10月4日(金)公開】