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「真実」(2019) 真実を確かめるより、もっと大切なことは!

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是枝裕和監督が、フランスの名優カトリーヌ・ドヌーブジュリエット・ビノシュ、さらにイーザン・フォークの参加を得てフランスで撮り、ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品として披露された作品です。どのような作品かと、楽しみにしておりました。
スッタフもキャステイングもみなさんフランス人。しかし、作品はこれまで是枝さんが描いてきた家族の絆の物語で、さらにドヌーブさんやビノシュさんによって押し上げられ、とてもハイセンスな物語になっています。

フランス国民的大女優の自伝本。そこに描かれなかった真実が、母と娘の心に影を露わにしていき、ふたりはどこに行き着くかという物語。

大女優が書く自伝に“真実”などあろうはずがありません。(笑) 都合がいいように書かれているのは自明です。にも拘わらずこの「タイトル」、フランス流の冗談でしょうか。重々しい予告編が大げさだと思っています!

“おかしい”と問うところに、絆ができて、それが大団円となって繋がっていく絆の物語です。この物語には、もうひとつ女優の女優魂に触れています。これに振り回される周囲の人々が、是枝監督特有のなにげない日常のなかにあるエピソードと名優たちのアドリブ演技で、とてもユーモラスに描かれています。晩秋の落葉が降るパリ郊外、これにドヌーブさんの映像が載れば、香りが匂うようで、その色彩に、音に、「おお、フランス映画!」という感じです。

賞には該当しませんでしたが、キャストが全員白人で、豪華な邸宅に住む女優さんの話、さらに政治色がないからでしょうか? 劇中で、ドヌーブさんが「女優が政治など語るようになったら、女優であることから逃げている」というセリフがありますが、まさにそのような作品です。
是枝さんの家族の絆の物語が、国際的な作品となっているということを喜びたいです。この物語は、どこの国でも受け入れられるでしょう。次回に大きな作品を期待したいです。

****(ねたばれ)
冒頭、大女優ファビアンヌ(カロリーヌ・ドヌーブ)がパリの洒落た自宅で、今撮影中の「母の記憶」について取材を受けていた。「大した映画じゃない」と言い、「女優として誰のDNAを受け継いでいますか?」と聞かれ「フランスにはいない!」というように気儘で不遜。この役のドヌーブがまさに大女優にふさわしくオーラがあります。しかし、この女優が、人気の若い女優と共演し、自分の演技を見失って落ち込むという弱いところもある。

自叙伝出版を祝ってニューヨークから出てきた娘・リミュール(ジュリエット・ビノシュ)には強い母親の顔を見せるが、再婚の夫で料理人でもあるジャック(クリステイン・クラエ)には甘えるという色々な顔を見せてくれます。是枝監督では書けない艶のあるセリフを吐き、おそらくアドリブでしょうか、とてもユーモアがあります。
日常が女優で、演じているのかそうでないのか、境目がわからない。真理なんぞくそくらえと演じますが、ドヌーブの素の姿かもしれませんね!

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脚本家のリミュールはTV俳優として売れ始めた夫・ハンク(イーサン・ホーク)と7歳になるシャルロット(クレモンティーヌグルニエ)を伴って訪ねてきます。
リミュールは妻として母親としてのやさしい顔を持ちながら、母親とは激しく対立する。母親の撮影に同行し、その芝居を観るまなざしには、深い演劇への情熱が滲みでています。
この映画の脚本は、是枝監督によって書かれたものに、ビノッシュさんが加わり出来上がったというだけに、彼女にとっての女優の顔は見せ場です。

ハンクはパリまで何しに妻に付いてきたのかと思われるのですが、(笑)、娘を可愛がり、ファビアンヌの女優魂に圧倒されるという役で、真実なんてものは見方を変えればどうにでも変わるんだという重要どころの役を、娘とともに演じます。陽気でやさしく、気の利いた、こういう人を夫に持ったら幸せと思えるよううまく演じます。

娘シャルロットは、感じたこと思いついたことを何でも口にする、“これぞ真実”というキャラクターです。グニニエが可憐にうまく演じます。この邸宅には大きな亀(名はピエール)が飼われていて、シャルロットはこれを見て「お婆ちゃん(フアビエンヌ)は怖い魔法使い。魔法でお爺ちゃんを亀に変えたの?」と問います。(笑) リミュールの母親への恨みがここまで徹底しているということです。(笑)

お爺ちゃんことファビアンヌの元夫・ピエール(ロジュ・ヴァン・オール)も出版祝いに、多少の恵みはあるだろうと訪ねてきます。人当たりのいい人で、どこかハンクに似ています。これもリミュールの母親への当てこすりというのが面白い。ピエールは自叙伝「真実」では亡くなっているが、何の恨みも感じていない。真実なんてこんなもんなんです!(笑)

フアビエンヌには夫として、料理人を兼務する元男優のジャックがいます。料理を一切しないという女優一筋の女です。是枝監督作品には必ず料理がでてきますので、こうなりますね。大女優でも希林さんとは大違いです。(笑)

ファビエンヌには昔から仕えているマネージャー・リュック(アラン・リボル)がいます。彼は小説「真実」でまったく無視されているという理由で、マネージャーを下りて、リュミールにその役を譲ります。本当の理由は謎?これが面白いところです。

このようにファビエンヌの周りにいる亀や犬も含めて、いろいろなおもしろい個性をもつキャラクターが小説の「真実」に関わってきます。

リュミールが小説「真実」が嘘だという理由は、子供のころ母親に掘っておかれて、母親の友人であるサラ叔母さんに育てられたということ。文化祭で演劇に出ても観に来てもらえなかったという恨み。女優という仕事がどういうものか分からない頃の記憶です!

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セザール賞を取ったというが、あの作品はサラ叔母さんの出演が決まっていたのに、お母さんが監督と寝て、役を奪ったからよ。それで叔母さんは自殺した」と責める。これに「力のない女優の運命よ。私はひどい役者、母だった。あんたが許さなくてもフアンが許すのよ!」。このやりとりのおふたりの演技は凄かった。

ところがサラの再来と評判の新進女優マノン(マノン・ヴァン・オール)と共演する映画「母の記憶」。SF作品で、2年の命しかないと分かって宇宙で暮らし、7年ごとに地球にやってくる母の記憶という物語。母・マノンを演じるマノン・ヴァン・オールは、オードリー・ヘプバーンのような瞳をもった人、とても魅力的です。将来が楽しみです! 娘役がフェビアン。(笑)

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「母の記憶」の母娘関係が、まったくフェビアンとリュミール母娘と真逆で、お互いを思い合う母娘になっている。さらに、フェビアンが演じる娘が73歳になったとき、マノン演じる母は、宇宙では歳をとらないので、34歳という設定です。もうフェビアンとリュミールをヒック返した設定です。大笑いです。

フェビアンはこの役を通してリュミールの子供のころの気持ちを思い、リュミールはファビアンヌの演技に母性を見るという、お互いを思いやります。リュミールは母親が役を投げ出すのではないかと心配するが、夫・ハンクの「大女優だ、大丈夫!」というアドバイスで母を見守ります。一方、フェビアンは母役・マノンの演技に対応できず、何回も撮り直しを求め、苦しみ、マノンの演技のなかにサラの記憶が戻り、サラとの過去の確執を乗り越えていきます。

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映画完成の打ち上げ会では、フェビアンの家族全員(ジャックもピエールも)が集まり、大通りで踊りまくるという盛り上がり、ひとつの絆に結ばれていました。が、家に戻るとフェビアンが大女優です。(笑)

リュミールは、娘シャルロットにお婆ちゃんに「女優になりたい」と言わせます。これに大いに喜ぶフェビアン。リュミ-ルの大嘘! 真実なんてこんなもの。しかし、そこにはしっかりした母と娘の絆が残りました!
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吹替版を演じたフェビアン役の宮本信子さん、リュミ-ル役の宮崎あおいさん。声が澄んでいて、複雑な感情をうまく表現され、心に届くものになっていました。


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是枝裕和『真実』予告編