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「ある船頭の話」(2019)日本の美しい自然と、人を愛する生き方!

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オダギリジョーさんの長編初監督作品ということで、どういう作品を作るのかと楽しみにしていました。
“めちゃくちゃ”に美しい。映画が売ることなど考えず、思いの丈をぶちまけて、ちょっと分かり辛いところもありますが、監督レビュー作品ならこれくらいは当たり前、心に響く映画でした!

この映画の美しさは撮影監督が「ブエノスアイレス」「恋する惑星」のクリストファー・ドイルであることに触れないわけにはいきません。
主演は柄本明さん。共演に村上虹郎さん、川島鈴遙さん。橋爪功永瀬正敏さんら多くに映画界を代表する方々が顔を見せてくれ、オダジョーさんの人柄でしょうか。

明治も末の時代。心に傷をもつ年老いた男が、唯一村と町を繋ぐ船頭として人々と深く関りながら暮らしてきた。しかし、橋の建設が進められ、時代の変化が現れ始め、ある少女の出現で一変する船頭の運命が抒情的に描かれます。

テーマは「人間と自然」。時代とともに消えていく日本の美しい風景、人間らしい生き方が描かれています。オダギリさんがこのような考えをお持ちの方だとは知りませんでしたから、びっくりもし、すっかり魅せられました。

****(ねたばれ)
少女の出現まで、
天候・時間で変化する川の流れ、川を巡り森・岩場の自然。船頭・トイチ柄本明)と舟で渡る客との会話、小屋でくつろぐトイチの日常をじっくりとカメラが捕える。
川の色が朝夕の光で変化するさま、霧のなかの川。美しい色彩にうっとりでした。これが失われるのはもったいない!オダギリさんの憂うる気持ちが分かります!

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川に浮かぶ舟と船頭の映像は、なんとなく中国風のアンクルに見えましたが、撮影監督クリストファー・ドイルによるものでしょうか。

映像とともに、川の流れや鳥や動物の鳴き声など自然の音をしっかり捉え、映画館で観る映画という拘りがあります。

この段階にかなりの尺が割かれていますが、美しい自然の映像と音を聞いていて、尺の長さは気になりませんでした。時間の感覚が今の時代と違うことを強調し、自然を生きる人生を強調しているのではないでしょうか。

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舟で渡る人々。商人、牛を運ぶ客、奉公に出て成功し故郷に訪ねる老女、マタギ、妊婦、建設現場の労務者などと交す何気ない会話に、船頭・トイチが人と人の懸け橋になっており、それが自らの生きる励みになるという、「人のために生きる」という生き方が描かれています。柄本さんの演技に、人の話しに耳を傾け、和ませ、確実に対岸に届けるという、船頭の静かな意地を見ることができます。

トイチの唯一の話し相手は、村の若者・源三(村上虹郎)。町に使い走りさせられている。トイチと話すのが楽しみで、橋などいらないという男。

 

ある日、トイチが負傷し意識のない少女を救助。
トイチは源三の力を借りて、少女(川島鈴遙)を懸命に介抱して、健康を取り戻す。客の噂では、少女は一家皆殺しに遭った家族の娘らしい。少女が次第にトイチに馴染み、トイチの生き方に憧れるようになる。壊される自然を守る人が居て欲しいという監督の願いでしょうか!

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トイチの舟を使っていたマタギ細野晴臣)が亡くなり、自分の身体は森に戻して獣に食わしてくれという繋がる命の話。森に跳ぶホタルを見て「おやじさんが戻ってきた」というセリフに、胸を打たれます。美しいホタルの乱舞に魅入りしました。夜の森、ホタルの乱舞などの神秘性がしっかり描かれ、これを失ってはならないというメッセージはよく伝わります。

寄る辺のない少女をどうしようかと、昔を回想し自分のお守りにしている案山子と話しをするシーン、トイチの過去も含めてこのあたりはよく分からないし、その必要性があるのかと・・。

季節は冬となり、美しい冬景色。橋が完成し舟で渡る客はないが、トイチは朝起きれば、舟に溜まった水を掻き出し、清掃する。
船頭の仕事は無くなり、獣の皮をなめし生活するようになる。源三がこれ売りさばいていた。

トイチも歳。町医者(橋爪功)に診てもらうと、「人は何で生まれるのか?いくつもの人生を重ねないと成長しないからだ。あの世に行く前に何かを学び探すのが人生だ。次の人生を渡るために川を渡る」と言われる。医者のトイチへの餞別だったんですかね(笑) 完成した橋を渡って小屋に戻ると、スーツ姿の源三が血まみれで横たわり、小刀を持った少女が動転した顔で立っていた。

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トイチは小屋を焼き払い、少女を伴い雪の降りしきる川を下るラストシーン。時代の変化に取り残され、獣に手をかけた者の運命のように消えていった。自然を愛し少女を守り、何処かで生きていて欲しい。英語タイトルは「They say “Nothing stays the same”」、しかし残したいものがあるという意味ですかね!

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映画『ある船頭の話』予告篇| 9月13日(金)全国公開