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「男はつらいよ お帰り 寅さん」(2019)

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国民的映画「男はつらいよ」のシリーズ50作目。これは観なければと、“正月に観る”ことにしました。これも国民的習わしです!
全作を観続けたわけではありませんが、何よりも懐かしく、楽しくて、自然に涙が出てきます。日本に生まれてよかったと思える“人情の機微”が詰まった作品になっていました。虎さんって、こんなにモテたのかと、驚くほどのマドンナの登場に、改めて凄い作品だったんだと驚きました!

監督は山田洋次さん。長い間ご苦労様でした。

出演者のみなさん、22年ぶりにお会いしましたが、どこかに寅さんの匂いがあり、決して消えることのない虎さんへの想いが伝わってくる、演技とは思えない演技でした! 特に、新人の桜田ひよりちゃん、中澤準くんのなかに寅さんが生きている演出は、混沌とした現状の日本にあって、大きな希望を与えてくれました。

あらすじ:
寅さんが亡くなって22年、諏訪満男(吉岡秀隆)はサラリーマンを辞めて、念願の小説家になった。しかし、6年前に妻を亡くし、中学生の娘ユリ(桜田ひより)とマンションでふたり暮らし。最新作は評判が良いようだ。

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柴又の帝釈天の参道にかつてあった団子屋「くるまや」は、現在はカフェに生まれ変わっていた。母さくら(賠償千恵子)と父博(前田吟)は、その裏手にある住居で楽隠居? 満男の妻の7回忌の法事を実家で執り行い、そこに集まった人たちが昔話に花を咲かせる。

満男は編集担当の高野節子‘池脇千鶴)に勧められてサイン会を行っていて、満男の初恋の人で結婚の約束までしたイズミ(後藤久美子)と再会。イズミは現在、国連高等弁務官事務所の職員となり仕事で日本に来ていた。

満男は「会わせたい人がいる」とイズミを小さなジャズ喫茶「ジャズ喫茶リリー」に連れて行く。その店はかつて寅さんの恋人だったリリーが経営する喫茶店だった。
こうして、満男は “暇だけは沢山ある”という寅さんの口上のようにイズミの短い日本滞在に付き合うことになる。

****(ねたばれ)
物語の軸は満男とイズミの再会物語。まるで、後藤久美子さんの今を描いたように思えるのですが!(笑) 過去作の映像を張り付けながら、キャラクターたちの人生が語られて行くが、過去作を懐かしがる造りにはなっていないで、国際的避難民や老後、父子家庭などの視点を取り入れた22年後の“男はつらいよ”物語となっていて、寅さんの遺志を継ぎながら、新たな物語になっていました。
もちろん過去を追想でき、みごとです!!

冒頭、満男がイズミと恋に落ちて海岸を駆ける“夢落ちシーン”から始まります。これもフアンへのサービスですね!
妻の法事の日にこの夢はよくないが、満男が寅さんに最も可愛がられた子だったと許すことにします。(笑)

そして桑田佳祐さんによる主題歌と寅さんの“あの”口上。しっかり感情を込めての演技でしたが、やはり渥美さんには叶わない!
渥美さんの歌と口上で、「寅さんがここに生きている」という感じになります!

住職の御前様(笹野高史)の読経で法事が始まり、満男がこの夫婦の子に産まれてよかったとさくらと博を結び付けた寅さんのエピソード(第Ⅰ作)が挿入される。このシーンは落とせないないでしょうね。(笑) 賠償さんが美しい!

過去作はおよそ15シーンぐらいあったと思いますが、これだと民放のCM程度で、気にならない!寅さんはそれぞれのキャラクターの中に居るというように、とてもうまく物語の中に溶け込んでいます。

法事が終わって満男に再婚話が出てくる。タコ社長の娘・朱美(美保純)なんて「女の子には母親がいる」と罵る。(笑) こういう時には寅さんを思い出す。いろいろな顔を持った寅さんが映し出される。

幼い満男が「人は何のために生きているの?」と問うと「難しいな!生きていて良かったと思うことがなんべんもある。そういうときがあるよ!」と語る寅さんの表情が良い。(笑) こんなにゆったりと、自由に生きていける時代が懐かしい!
そして、いつも自分のことは放っておいて、相手の気持ちを優先させる寅さんの優しさが浮かび上がってくる。この作品のテーマです!

諏訪家にはみんなこの気持ちが一杯だ。だから、ドラマが暖かい!

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満男とイズミはリリーに会って、ふたりはなぜ結婚しなかったかわけが語られる。懐かしいリリーと寅さんの映像が出てくるので、フアンにはたまらないでしょう。

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このあと、イズミが諏訪家に挨拶にやってくる。さくらにメロンを食べてもらおうといくつにカットしようかと悩む。ここで思い出すのが、家族がメロンを食べているときに寅さんが旅から戻ってきて「おれにメロンはないのか!」、さくらが食べさしのメロンを渡すと「メロンは旅先で知った俺への御礼だ!俺に感謝していただくものだ。俺はこの家族のあり方について言っている!」という怒り。これに皆が一斉に食べさしのメロンを差し出す。(笑) このシーンは、家族とはなにかを問うていて、笑って、泣けます。

イズミは介護入院の父・及川(橋爪功)を見舞ってヨーロッパに帰ることになり、満男が車で同行する。病院にやって来ると、そこには別れた及川の妻・礼子(夏木マリ)が待っていた。
及川に面会しても及川と礼子は喧嘩別れ! 及川がイズミに面倒見てくれという。今の事情では出来ないというイズミに満男が「僕が力になります」と同情を示す。まるで寅さんだ!

及川が孫に絵本でもかってやれとイズミにⅠ万円札を渡す。イズミは耐えられず席を外すと、及川は満男に「1万円貸してくれ」と言い、さらに「香典の先渡しということでⅠ万円置いて行け」という。ここが一番の笑いでした。が、世知辛い世になりました!

帰りの車の中で、酔っぱらった礼子とイズミが及川の面倒を誰が観るかと大喧嘩をはじめ、イズミが無理ということに腹を立てた礼子が下車し歩いて帰り始めた。放っていて良いというイズミを「感情的」になってどうする。俺の叔父さんがいたら慰労するよ!行け!」とイズミに促す。礼子も及川と喧嘩しても、こうやって気にかけるというやさしさがいい!

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イズミの説得で礼子も感情が治まり、自分のやり方がイズミを苦しめてきたと後悔し、これを見た満男が大泣きをする。こういう人生の機微を説くところが良い!

満男はイズミの負担になってはいけないと妻が亡くしたことを言わなかった。さくらも博も口にしない。寅さんが夫を亡くした歌子を「くるまや」に連れ戻ったとき、皆に口封じしたことによるもの。(笑)
しかし、最期の最後、満男は成田空港で、イズミに妻を失ったことを告白した。イズミが「そんなあんたが好きなのよ」とそっと満男にキスしてくれた。こんなふたりの思いに涙が出ます。

相手を想う気持ちが一杯の作品。寅さんがどこかで応援してくれて、きっと幸せがくると感じさせる作品でした。渥美さんの可笑しみのある演技が絶品で、また寅さんに会いたいですね!
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映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』予告映像