今年、「mellow メロウ」に続く今泉力哉監督作。不器用な男女の恋物語からLGBTQという形の変わった恋物語、社会派作品への初挑戦となりましたね。
この問題を「誰を好きになろうが勝手だ、好きに生きたらえぇ！」という切り口で家族や地域、法律と折り合いをつけていく優しい愛の物語に感動しました。すこしはLGBTQ問題を理解できたかなと思っています。
企画脚本はアサダアツシさん。メ～テレ連続ドラマ「his～恋するつもりなんてなかった」（2019）の後編、大人になった彼らが周囲と関わりながら自分たちの生き方を模索していくストーリー。
主演は宮沢氷魚さんと藤原季節さん。共演に松本若菜・松本穂香・外村紗玖良・鈴木慶一・根岸季衣・戸田惠子さんら。
あらすじ：
ゲイだと知られることを恐れて東京の会社を辞め、田舎の小さな村でひっそりと暮らしていた井川迅（宮沢氷魚）。そこへ突然、８年前に迅のもとから去っていった日比野渚（藤原季節）が、６歳の娘・空（外村紗玖良）を連れて現われる。居候させてほしいという渚に戸惑いつつも、一緒に暮らし始める３人。やがて渚は、離婚協議中の妻玲奈（松本若菜）と空の親権を巡って争っていることを打ち明けるのだったが…。はたして3人は一緒に住めるのでしょうか。
＊
物語は迅が渚を受け入れるかという恋愛物語を主軸に、LGBTQに対する地域の偏見、親権を争う法廷、シングルマザーの生き方などを描きながら、ゲイ家族の形を追って行きます。
「ひとりでは答えが出ない、他者の力をかりて前に進むことができる」「相手を想うことが、相手を追い込むことにもなる」と、前作「mellow メロウ」を引き継いで、ここでの告白というのも見どころです。
それぞれの心情を“繊細に写す映像”と含蓄のあるセリフで深堀し、愛情に溢れた人を想う物語になっています。
先が読めるラストの映像で、希望に繋がる終わり方がとてもよかったです。
この作品の成否はゲイを演じる宮沢氷魚さんと藤原季節さんにかかっている。透明感のある宮沢さんにほんのり色気のある藤原さんの組み合わせがとてもさわやか。清潔感があっていやみを感じさせない演技でした。
＊＊＊＊（ねたばれ）
冒頭、ベットで眠る迅の耳元で、渚が「三日月耳は、面倒見がよくて、協調性重視で、控え目な性格。自分を通すより他人に尽くすことを喜びを感じる」と囁き、息を吹きかける。そして、「別れよっか！」と迅に告げた。
美しい映像で、渚が迅を想っての別れであったが、こんな別れ方をしたふたりがどうやって元の関係に戻っていくのかと目が離せなくなります。
8年後、迅は自分がゲイであることを恐れ、岐阜県白川町に移住、移住者住宅に住み、わずかな畑に野菜を育て生計を立てていた。
そこに渚が空を連れて訪ねてきた。突然で迅は驚いたが、風呂を立て迎え入れた。
渚は迅と別れた後、オーストラリアに留学し、そこで通訳の仕事をしていた玲奈と知り合い結婚、空が生まれた。渚が家事と育児に専念してきたが、現在は離婚前提で別居中だという。
迅は渚が空と一緒に風呂に入ったり、本を読んで空を寝せる姿、料理をする姿に、「何で戻ったの」と言うが、次第にふらりのペースにはまっていき和むシーンが多い。特に渚を演じる藤原さんのコート、眼差しが女性っぽくなってくる。
町役場の移住サポート課職員の美里（松本穂香）が迅に惹かれているのが、渚には分かるが迅は一向に気付かない。
渚は上京して離婚調停委員から「男だけでは親権は難しい」と聞かされる。一方、迅は渚が不在になり、空と接することで、渚への想いが蘇ってくる。
夜遅く白川駅に戻り、美里の車で住宅まで送ってもらう。迎えにでた迅に美里が食事に誘うのを見て嫉妬し、彼女が帰ったあと迅にキスしようとするが、迅が受け付けない。(笑) 渚が迅への気持ちをはっきり示した初めての行動だった。
翌朝、迅は「調停がうまくいっていない」ことを知り「俺はどういう立場で子育てをするんだ！」と聞く。これに渚は答えられなかった。こうして、ふたりの関係がすこしずつ狭まっていく情景が実にうまく描かれています。
迅がお付き合いしてもらっている漁師の緒方さん（鈴木慶一）から猪鍋に誘われる。緒方さんは渚を見てすぐ理解した。猪鍋をつつきながら「どちらでも良い。誰かと会って好きになるのが人生の楽しみだ！」と話す。このことばのように、楽しそうに食べる緒方さんの顔をアップで見せてくれる。(笑) 緒方さんはいくつもの名言を吐きます。
緒方さんの言葉に押されたように、仲良くクリスマスツリーを作って楽しんでいるとろに渚の妻・玲奈が空を迎えにやってきた。迅と渚は涙で見送った。
その夜、渚が「俺はゲイで、求めているのは迅だ！」と伝え、迅は「俺はずっといたかったのに。今度は子どもを連れてきて、勝手すぎる。何であのとき一緒にいてくれなかった」となじり、これを受け入れた。朝、目覚めた迅がカーテンを開き、光を入れるシーンがいい。
空を引き取った玲奈は、キャリアの仕事を手放なせず、空の面倒を玲奈の母（中村久美）に見てもらい、これで親権を争うことにした。
しかし、空は渚を恋しがり家出した。渚が警察からつれもどして白川村で三人と過ごしている。
一方、渚は櫻井弁護士（戸田惠子）に会い「相手が男性でもしっかり世話してくれる人なら親権は取れる」と言われる。子供にかける愛情の問題に男女の性は関係ないという弁護士さんだった。この人で親権裁判を戦うことにした。
渚は無職では親権は難しいと職を探し、パイプオルガン製作工場に勤めることになった。
コミュニティの餅つき大会が終わって、迅は美里から「つき合って欲しい」と告白されたが、「ありがとう、でもごめんなさい！」ときっぱり断った。美里も「余計なことを、いままでどおりにさせてください」と爽やかに返しました。
不注意で迅と渚がキスしているところを空に満たれた。正月のコミュニティ新年会の席で空がそれを仲間の子に話、会場にこの話が広まった。渚は自分が勝手に離れて、勝手に戻ってきたことを詫びた。迅はここは正念場だなと感じていた。
昔、「お前がホモならヤッてもいいかな」と仲間に聞かれて、「そうではない」」と答えた無様な自分を想い出していた。
そのとき緒方さんに誘われ猪狩りに出かけた。緒方さんの耳には空の話が伝わっていた。森の中を歩きながら「白川の人は噂が好きだが悪人はいない。外からやってきた人にやさしい。放っとけ1大概のことは解決する。だれが好きになろうか勝手だ！好きに生きろ！」と声を掛けてきた。緒方さんの獲物に放った一発で、迅の心は決まった。
緒方さんの葬儀の日。葬儀に集まった人たちに「自分がゲイだ」と告白した。するとあばちゃんたちを仕切っている房子（根岸季衣）が「歳とると男も女も関係ない。」と声援してくれた。これで一気に会場が、迅がゲイだろうがなかろうが関係ないことになった。(笑) この夜、空を寝つかせた渚に、迅がそっとコーヒーを渡し「三人で生きていこう」というシーンがいい。
親権を巡る裁判が始まった。
玲奈の弁護士小野（堀部圭亮）はLGBTQの男性が養うなどバカバカしいし世間が認めず、空が不幸というもの。美里も証言に立った。渚の弁護士櫻井は玲奈と空の関係、生活力から攻め醜い夫婦の争いになり始めた。
渚は裁判の中止を求め、「自分の身勝手で人を傷付けた。妻や空に申し訳ない。育児に携わり空と沢山の時間を過ごしかけがえのない時間を持てたのは妻に努力です。自分のことばかりで妻の気持ちを理解してなかった。これからは空をお願いします」と玲奈に頭を下げた。玲奈は泣き崩れた！
玲奈は空を引き取りふたりでの生活を始めるが、空の好きな食べ物、好きな遊びが分からない。渚に電話して聞き出し、卵料理をし、自転車を買って練習に付き合うようになった。
玲奈と空は白川町を訪れ迅と渚に会い、空は広いグランドでうまくなった自転車乗りを披露する。「私は自転車に乗れないの！」と玲奈が迅に目線を送った、そのとき“あっつ“という空の声に駆け寄る玲奈、迅、渚。
出てくる人に悪い人がいない。触れ合うことで皆がやさしくなっていく。これを切り取ったすばらしい映像をぜひ劇場で観て欲しいと思います。
＊＊＊＊
