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「37セカンズ」(2019) 37 SECONDS

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出産の時37秒(セカンズ)間息しないで生まれ身体に障害を負い、車いすでの生活を送るヒロインが、過保護な母親から独立し自らの力で人生を切り開こうと奮闘する成長の軌跡を見つめるというはなし。

何故、37秒間息しないで生まれたのか?この秘密が明かされるラストシーン、ヒロインの“私でよかった!”の言葉に涙が止まらなかった。

大きな障害を負いながら{障害なんて関係ない!と多くの人に支えられながら前向きに生きる姿、彼女が発する「ありがとうございました」「ごめんなさい」の言葉が、こんなに人を強くし美しく見せるのかと感動しました!

劇場はガラ空。もったいないと思いました。

監督はHIKARIさん。長編デビュー作で、第69回ベルリン国際映画祭(2019)パノラマ部門で観客賞と国際アートシアター賞を受賞した作品です。監督は18才で単身留学し南カリフォルニア大学で映画を学んだという経歴がよく出ている作品だと思います。

主演はご自身が障害負っている佳山明さん。共演は神野三鈴・大東駿介・渡辺真紀子・熊篠慶彦・荻原みのり・芋生悠・板谷由夏さんらです。佳山さんをキャステイングしたとことにこの作品の意義があります。

あらすじ:
車いす生活を送る23歳の貴田ユマ(佳山明)は、親友の漫画家・サヤカ(荻原みのり)のアシスタントをしていたが、実態は完全なゴーストライター。そして家では過保護な母・親恭子(神野三鈴)によって必要以上に大事に扱われる日々。すっかり息苦しさを感じていたユマは、独り立ちしたいと願い、アダルト漫画専門誌に自作を持ち込む。しかし女性編集長・藤本(板谷由夏)からは“実体験がないといい作品は描けない”と一蹴されてしまう。その言葉に発奮し、自分の殻を突き破ろうと未知の世界に飛び込んでいくユマだったが…。<allcinema>   
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過保護なユマが性体験がないからアダルト漫画を描けないと新宿歌舞伎町にひとりで出掛け、デリヘル青年に出会うが大失敗(笑)。しかし、ここで障害者とデリヘル嬢らに出会い、ファッションやメイクに目覚め、街を闊歩し、遂に母親と衝突して家出。介護士のアパートに匿ってもらい自立。「お母さんはなんで別れたのか?」と幼くして別れた父親を訪ね、自分の出生の秘密を知り、なにものにもとらわれない自由な生き方を見出していく物語。笑いがあって、繋がる人の愛に泣き、最後に“タイトル”の意義が明かされるというすばらしい脚本です。

なかでもユマが歌舞伎町で性の世界に入っていくシーンは、ユマ成長物語の肝となる部分ですが、リアルでかつファンタスティックに描かれています。ここで、身障者のセクシュアリティに関する支援・啓発活動を行っている熊篠慶彦さんが出演することで説得力を持たせています。

この物語にはユマが幼くして別れた父の思い出を漫画で描くぐらいで回想シーンがない。前へ前へと進むユマの生き方を示しており、これにより物語のテンポがすごくいい。ユマの障害の度合いなど、車椅子での行動や絵を描く動作、衣類をとって風呂に入るシーンなど映像で示され、余計な説明は一切ない。映像を観て感情をくみ取る作品になっています。音量が大きく(彼女は大きな声が出せない)、カメラ位置は車椅子のユマ目線となり目に入るものや風景が大きく見えます。ワイド画面で撮る意味があります!

映像がとても美しい。都会の夜景や海、タイの農村や市場風景などユマの心が開かれていくように、またユマの障害など宇宙のなかで取るに足らないことだと感じられます。音楽がこれを後押し、雄大な未知への冒険が始まります。

****(ねたばれ)
冒頭、渋谷で電車に乗り、ある郊外の駅で駅員さんの介助に「ありがとうございます」と礼を言い、母により車に乗せられ帰宅。

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食事より先に“お風呂“と母の手を借りて脱衣し、ふたりでお風呂に。ここは佳山さん、神野さんともに完全ヌードで演じます。このあと食事。お母さんが本を読み聞かせながらの食事です。ユマがいかに母親に大切にされ、人気の少女コミック漫画家サヤカ(荻原みのり)のゴーストライターとしての生活かあるかが分かるよう描かれます。

しかし、ユマはサヤカのサイン会でのもてもてぶりを見て、自分の名で漫画を描いてみたくなる。サヤカとは違う作風の漫画をとアダルト漫画に挑戦しようと、未来を舞台にしたヒロインが優秀な遺伝子を求めて男性と交わるSF漫画を、エロビデオを参考に描き上げ、(笑)ある雑誌社に持ち込んだ。
編集長の藤本(板谷由夏)に「よくかけているが経験しなければ感情が描けない」と採用を断られた。(笑)
ユマは体験が必要と新宿の街に出た。ポン引きさん(渋川清彦)に世話になって、ラブホテルでデリヘル青年と“ことに及ぶ”が彼女の失禁で失敗。初めからうまく行くわけがない。(笑) 
しかしホレルを出る時、ここの常連客らしい能障害者(熊篠慶彦)とデリヘル嬢・舞(渡辺真紀子)に声を掛けられ、舞に「障害者と普通の人とSEXしてどこが違うの?」と聞くと「関係ない!」といわれて、この言葉でユマの世界は一変した。「自分で壁を作っていた」ことに気付いたのだった。舞が介護士の俊哉(大東駿介)を呼び、車で家まで送ってもらった。

しかし、家に帰ってアダルト漫画を描いても“感じ”が分からない。舞に電話して舞と一緒に大人のオモチャ屋で男性を手にいれた。(笑) サヤカのところは仮病で飛び出し、舞や熊篠らと遊び酒を飲み、街を闊歩。もう宇宙の彼方に行った気分だった!ここで、ユマの気分がファンタスティックに描かれているのが心地よい!

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遂に母・恭子がユマの異変に気づいた。お母さんは「暴力で痛められるから!」とユマを人から遠ざけてきたが、ユマがお母さんより一歩先に早く社会に飛び出したようです。お母さんにも偏見があった。「精神は自由なんだ!」と障害者を特別視しないことの大切さを訴えています。

ユマは「こんなお母さんだからお父さんが出て行った」と家を出て、介護士の俊哉のアパートに匿ってもらう。彼は何も手を貸さず「冷蔵庫のもの食べて!」と仕事に出掛ける。帰れば一緒にラーメンを食べる。俊哉はこの手の障碍者の扱いに慣れている。「レモン入りのラーメンは親父の好み」という俊哉の父親の記憶にわずかな幼いころ貰った父の記憶が重なる。「どうしても会いたい!!」。

ユマは俊哉と一緒に車で海の家を営む父に会いに行ったが、5年前に亡くなり双子の姉がタイで先生をしていることを管理人(尾美としのり)から聞かされる。

ユマと俊哉はタイに姉を訪ねて飛んだ。“半分密林だった!”というタイの田園風景を見ながら、ユマの想いは国境を越えるまでに広がっていた。

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姉・由香(芋生悠)とふたりで、暮れ行く大きな太陽を眺めながら「お父さんはどんな人だった?」と聞くと「平和主義者で自由人。つらいことを苦にしない人。楽しい人」と教えられた。

ユマは「由香より先に生まれていたら障害はなかった。でも由香に障害が・・」と思い「自分が由香より後で生まれてよかった!」と思った。自分には障害があるがすばらしい才能を貰った。お父さんとお母さんが別れたのは私を生かすためだった。お母さんがしっかり育ててくれたと感謝するのでした。

障害者の人生旅立ちの物語で、障害者が抱える問題を知ることができましたが、“自分の壁”を越えてあたらしい自分を発見していくという誰にも必要な成長物語です。とても平易で楽しく、感動的で、人の暖かさを感じる作品でした。HIKARI監督の厳しい社会への目線を期待しています。
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映画「37セカンズ」予告編

20200420

「37セカンズ」HIKARI監督、ユニバーサルの新作映画でハリウッドに本格進出
4/19(日) 16:36配信
 [映画.com ニュース] 第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で2冠に輝いた「37セカンズ」で国内外から注目を集めるHIKARI監督が、米ユニバーサル・ピクチャーズの新作映画「Dan and Sam(原題)」でハリウッドに本格進出を果たすことがわかった。米ハリウッド・レポーターが独占で報じている。

 マーク・ワトソン作、オリバー・ハラッド画による同名グラフィックノベルを映画化する本作は、若いカップルの時空を超えた愛を描く超常現象ロマンス。人気レストランを営むダン&サム夫妻は、幸せいっぱいの新婚生活を満喫していた。だがある日、サムが不慮の事故で亡くなったことで人生が一変。最愛の妻を失い悲しみに暮れるダンのもとに、幽霊となって現れたサムは「あなたが再び恋におちるまで1年に1度会いにくる」と告げるが、サムへの思いから前に進むのをためらうダンは、究極の選択を前に苦悩する。

 「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」「シェイムレス 俺たちに恥はない」など、数々の人気ドラマを手がけてきたモリー・スミス・メッツラーが脚本を執筆。「アラジン」「ラ・ラ・ランド」のマーク・プラットとアダム・シーゲル(「2ガンズ」)、ブライアン・カバナー=ジョーンズ、フレッド・バーガー製作のもと、HIKARI監督がメガホンをとる。

 アメリカ屈指の名門校、南カリフォルニア大学(USC)の卒業制作として発表した短編「Tsuyako」(2011)が、世界各国の映画祭で50以上の賞を獲得。車椅子で生活する女性の自己発見と成長を描いた長編デビュー作「37セカンズ」が、ベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞と国際アートシアター連盟(CICAE)賞をダブル受賞したのち、トライベッカ映画祭やトロント国際映画祭でも上映されるなど、世界で高い評価を得ているHIKARI監督の今後の活躍から目を離すことができない。

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