三池崇史監督の初恋物語、どんな物語になるのか?血を舐め合うバイオレンスな恋か、でもパンフレットに“さらばバイオレンス”とある、とにかく観ることにしました。(笑)
”さらがバイオレンス”の宣伝は嘘でした(笑)しかし、セックスシーンも女性を暴行するシーンもなく、血も吹き飛ばない、首は飛びますが、笑い一杯のテンポのよい、日本ヤクザの映画・コミックの集大成のようで、監督のバイオレンスセンスが最大限に生かされた、なつかしいヤクザ映画でした。(笑)
初恋は?「どこが初恋だったのか」と思い出すのですが、ヤクザの麻薬戦争に巻き込まれ、薬に墜ち幻覚に苦しむ女をひたすら守って、一夜で、生涯の女にするという、キスもセックスもない純愛映画でした。そこらに転がっている女々しい恋愛でない、こんな恋愛映画を最近目にしていない、三池監督にしか描けない男らしい恋愛物語に感動でした!
まさかこんな恋愛映画!とても気持ちのよい、さわやかな気分で劇場をあとにしましたが、麻薬の怖さなどもっと社会性を強調すればよかったと残念に思われます!
脚本は「DEAD OR ALIVE2逃亡者」の中村雅さん。主演は窪田正孝さん、共演に3000人の中から選ばれたという小西桜子さん、大森南朋・内野聖陽・染谷将太・村上淳・滝藤賢一・ベンガル・塩見三省さんらのベテランに、意外や意外のベッキーさんです。
このキャステイングがすばらしいです!それぞれの個性がしっかり生かされ、みごとでした。観てのお楽しみです!
あらすじ(ねたばれ)
麻薬でしのぐヤクザの組員・加瀬(染谷将太)は堕落した刑事・大伴(大森南朋)を巻き込み、チャイニーズマフィアにも手を廻し、組が隠し持っている薬を盗んでひと儲けしようしようと企む。
薬の隠しマンションには、薬の管理人ヤス(三浦貴大)とその恋人ジュリ(ベッキー)、警察に発覚したときの言い逃れに使う薬中毒女・モニカ(小西桜子)が住んでいた。モニカは源氏名で、親の借金の質にとられていた。
加瀬の計画は大伴にモニカを連れ出させ、ジュリはチャイニーズマフィアに拘束させ、マンションに侵入してヤスをスタンガンで行動不能にして薬を奪い、大伴と分け合うというもの。が、あまりにも杜撰で大きな破綻が生じる。(笑)
スタンガンで撃ったが、ヤスがショック死!犯人は誰だ!とジュリが怒り狂う。
大伴は嫌がるモニカを無理強いて新宿の歌舞伎町を彷徨しているところに天涯孤独な天才ボクサー・レオ(窪田正孝)に出会った。レオは試合でまさかのKO負けを喫し、病院にかつぎこまれ、「脳腫瘍」で余命わずかと告げられたばかりだった。
レオの正義感が炸裂し、大伴をノックアウトしたが、警官と知って警官手帳を盗んで路上に放置して逃げた。「なんであいつが俺を襲う、手帳を返せ」と大伴がレオとモニカを追う。
加瀬が組みに戻って薬がチャイニーズマフィアがからんで手に入らないと報告。これに怒った昔カタギでまさに今刑務所から帰ったばかりの権藤兄貴(内野聖陽)が乗り込むと言い出す。
これを知ったチャイニーズマフィアの頭・ワン(顔正國)が、日本ヤクザと逃げたレオとモニカを追えと乗り込んくる。さらに警察が動き出す。
レオは麻薬戦争など何もしらず知らず、行くところのないモニカのために付き合ってやる。
薬に絡む日本ヤクザとチャイニーズマフィアの戦争、ジュリの復讐、そしてレオとモニカの恋の行方は・・・。
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どこかで出会ったヤクザ映画やマンガ「ルパン」にもあったかなという平凡な物語ですが、レオとモニカの恋の行方がからむことで、生きいきとした、暴力、バイオレンスアクションだけでない、いままでの三池作品にはない柔らかい良い味が出た作品になっています!
冒頭、レオのボクシングジムでトレ-ニングシーン。その後、リングに上がりノックアウトされる、何故かここで“ごろり”と道路に首が転ぶというわけのわからない出だしにびっくりでしが、レオの真面目さ真剣さがストレートに感じられる窪田さんのボクシングシーンがすごく良かった。
そして、試合でこの相手にノックアウトされ医者に駆け込み、権藤兄貴が刑務所から出てくる。
カメラがよれたパンツを舐めるように写し出した女、男と寝ていたモニカが薬で朦朧とした状態で出て行く男を追う。4つの物語がテンポがよく描かれ、何かとんでもない物語が始まりそうで、久しぶりに邦画でワクワクして「パラサイト」を観ているような感じでした!
ここでの小西桜子さんのパンツ姿とうつろな表情を見て、自然な演技で度胸がある良い女優さんだなと思いました!
病院から出てきたレオがモニカの「助けて!」の声で、大伴を一発で沈めた。一方ジュリはチャイニーズマフィアの男に足止めされるが、パンツむぎ出しでこの男を足蹴りして倒し、頭を踏んずけて殺してしまう。
演じるベッキ―さんの形相とアクションに圧倒されました。セリフがあまりないですが、ベッキーさんの本気度の戦技が最期まで続き、ヤスを殺された恨みをぶつけるベッキーさんの目をひき剝いたラスト演技が凄すぎました。
窪田さんのパンチとベッキーさんのキック演技でもう三池映画に嵌りました!!
平気で嘘ついて痛みを感じない今風のヤクザ・加瀬。演じる染谷さんのタケシ作品には絶対に出て来ない!新しいヤクザ演技に大笑い、癒されました!(笑)
大森さんの演じるヘタレ刑事が、これまた味があって、大笑い!
レオとモニカを追う加瀬と大坪。加瀬を追う日本ヤクザ組。これを追うチャイニーズマフィア。この騒ぎに駆けつけた警察。全部がとある「ホームセンターに集まっての戦争、格闘、カーアクション」。もうここは三池さんの真骨頂ともいうべき迫力のあるアクション、バイオレンス、ユーモアに溢れていました。(笑)
追って来たチャイニーズマフィアの女・チアチー(藤岡麻美)とレオの対決、対決すると思いきやレオがモニカを庇う姿に“仁を見た”と孔子の国のヤクザらしく拳銃を与えて見逃すという泣かせる闘いでした。
加瀬とジュリの戦い。ジュリがバーベルを引っ提げて襲い掛かる形相が凄かった。飛ばされた片腕を「返せ!」と喚く加瀬の首を日本刀で飛ばすという結末、凄かった!
圧巻は権藤とワンの因縁の対決。日本刀での真向勝負、権藤が決を付けた。
レオが運転する車で権藤、モニカの3人が警察の包囲を破って、脱出を図る。アニメの描写でホームセンター外に飛び出し、数十台のパトカーを従えての東京湾アクワラインへの逃走劇。アニメによる描写のアイデアはよかったです。そして、加瀬から奪った薬を撒きながらの逃走劇は痛快だった。
騒動が治まってのレオとモニカ。追い詰められたふたりだから見出すことができた希望。レオはボクシングのトレーニングに励み、モニカは苦しみながら薬からの離脱を図る。これこそが純愛、この作品のなかで一番の感動シーンでした!!
“ボロ”アパートを画面いっぱいに映し出し、ふたりが部屋に消えていく姿。慎ましい若いふたりの生活が見てとれ、最近の映画にない、すがすがしい気分にしてくれました。こんな作品を作る監督とは知らなかった!!
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