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「黒い司法 0%からの奇跡」(2019) JUST MERCY

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黒人への冤罪と戦う実在の弁護士ブライアン・スティーブンソンの物語です。
差別に苦しむ黒人の映画は数多くあります。しかし、冤罪から救い出すという話は聞いたことがないと、この作品を観ることにしました。
原作は彼の著書「黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う」ですが、原題は「JUST MERCY」(公正な慈悲)です。
本作のラストでブライアントが上院公聴会で黒人裁判の現状について証言するシーンがあり、ここで彼が「正義よりも慈悲が大切だ!」と強調したことによるものだと思います。

この作品のなかで正義を争う裁判シーンはわずかで、こんなものは争わなくても明らかで、大半はブライアントの黒人を救おうとする志とその努力、囚人たち(9人Ⅰ人が冤罪だといわれている)が如何に彼のような人の出現を望んでいるかが描かれています。
差別と権力により、「犯人は黒人」とする裁判制度に唖然とさせられます。我々には理解しがたいところですが、ジャズ歌手の綾戸千絵さんの証言でも明らかです。

映画の結末は分かっていても、無罪判決には涙が出ます。

ブライアンは現在、この映画にも出てきますが、アラバマ州モントゴメリーを拠点に人種、貧困や障害で不当に収監された人々を支援するEJI(Equal Justice Initiative)を立ち上げで事務局長として活躍中です。彼の活動は、どこの国でも受け入れられるものではないでしょうか。そこに本作の意義があり、おそらく観る人が少ないと思いますが、公開されてよかったと思います。

監督はデスティン・ダニエル・クレットン。  出演者はマイケル・B・ジョーダン 、ジェイミー・フォックスブリー・ラーソン らで、名優たちの演技を楽しむことができます。

あらすじ:
一流大学を出た正義感に燃える若手弁護士のブライアン・スティーブンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、アラバマ州でウォルター・マクミリアン(ジェイミー・フォックス)という黒人男性が、証拠もないのに死刑判決を受けたとのニュースに接し、何としても彼の冤罪を晴らしたいと自ら弁護を買って出る。しかしそんなブライアンの前に、地域の根強い差別意識とそれに支えられた司法制度の闇が大きく立ちはだかっていくのだったが…。<allcinema>
                 
***(ねたばれ)
冒頭、1987年6月、パルプ林業者として成功したウォルターが仕事場からの帰り、突然警官らに包囲され、18歳の女子大生ロダン・モリソンがアルバイト先のクリーニング店で射殺された犯人として逮捕された。

ブライアントは司法修習生として死刑囚に接見し、「1年執行が伸びた!」と伝えただけで小躍りする死刑囚がそのあと無下に収監されていく姿にやり切れない気持ちになった。彼は幼いころTVを盗みに入った白人少年に伯父が殺され、その理不尽な裁判を見ていた。

こんな事情からハーバード・ロースクール卒業後、「最も困っている人のために闘う」と、立ち上げたばかりのアラバマ州モントゴメリーにあるEJIにやって来た。その道すがら、白人たちの住宅街が映し出され、黒人住宅街に比して、大きな貧富の差を感じさせてくれます。

ブライアンはここでEJIの運営部長エバアンスリーブリー・ラーソン)の出迎えを受けた。彼女はシングルマザーで子供を育てながら、死刑囚支援を行っている。もの静かですが強い心を持つ女性です!

朝、アラバマ川沿いにランニング。キング牧師が「われわれが悪いというなら、間違っているのは裁判所の方だ」と声を上げた有名なデクスター・アヴェニュー・バプティスト教会を目にする。

名高きアラバマ刑務所に急ぐ途上で黒人の囚人労働者を見る。刑囚人との接見に先立ち真っ裸になって身体検査。穴の穴まで調べられた。ブライアンが激しい怒りを覚えた。
接見は、
ハーバート・リチャードソン(ロブ・モーガン):ベトナム帰還兵でPTSDを患っている。恋人の気を引こうとして投げた小型爆弾で少女を死なせた罪で死刑を宣告され、まもなく執行だと意気消沈していた。
アンソニー・レイ・ヒントン(オシェア・ジャクソンjr):ファーストフード店で2人を射殺したと死刑を宣告されていた。

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ウォルター・マクミリアン:ロダン事件で逮捕され死刑を宣告されていた。

いずれも弁護士を信頼しないし、「ここでは黒人はダメなんだ」と再審請求など「馬鹿げている!」と取り合わない。

事務所に戻ったブライアンは裁判記録を精査し、ウォルターの記録のなかに証言者はひとりしかいないことを発見した。

翌日、モンロー群地方検事・トミー・チャップマン(レイフ・スポール)を訪ね、ウォルターの証言を糺すと、「マイヤーズの証言がある、俺は罪にするのが任務だ!」と取り合わない。「たった一人の証言でしかない!」と抗議したがダメだった。
ブライアンが外に出ると「余計なことをするな!」と言わんばかりにポリスに睨まれた!

ブライアンは黒人街にあるウォルターの住宅を訪ねた。「弁護士が来るなどめずらしい」と住民たちが集まった。ここまでやる弁護士はいなかった。現在の日本の弁護士はどうかな?

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集まった全員が「彼はやっていない」という。ウォルターの妻ミニー(カラン・ケンドリック)が「主人は白人女と浮気したから。本人に再審を説得するのは難しいよ」という。白人と関係したく黒人男性は白人の批判に晒され、陪審員の支持を得られないらしい。
夜になって、長男の友人だというダーネルが「証言したやつを知っている。が、警察と取引をしている」と訪ねてきた。

「ダーネルの証言で再審を申請しよう」とウォルターに伝えるが、信用しなかった。ブライアンは「あなたと同じ環境だった」と何故この仕事を選んだかを説明して再審に同意させた。

事務所に脅迫の電話があった。エバはこの脅迫に負けたところを子供に見られるのが嫌だと言い、ブライアンはエバと手分けして白人の証人を探すが、硬く口を閉じ協力してくれる者は現れなかった。
その後ダーネルは警察に脅され証人にはなれないというので、警察と交渉したがダメだった。

そこで、たったひとりの証言者マイヤーズ(ティム・ブレイク・ネルソン)に「偽証した」と証言してもらう他ないと刑務所を訪ねた。
彼はこの役を嫌がったが、ブライアンが話すウォルターの子供たちの話に興味を示し、「警察はロンダ殺しに興味はなかった、これだけだ!」と席を立った!ウォルターの家族を訪ね子供たちと話したことがここで生かされた。

ブライアンはマイヤーズの最初の証言テープを探し出して徹底的に調べた。そこには「無実を変えろというなら俺は嫌だ!」という声が遺されていた。彼は警察と取引していたことが分かった。

リチャードソンの再審を申請していたが受理されず死刑が執行されることになり、立会することになった。彼は「親身になって聞いてくれたのはあなただけだ」と感謝し「ベトナム戦争の方がよかった」と言葉を残し電気椅子で処刑された。これを目にしたブライアンは大きなショックを受け、泣いた。収監者皆が泣いた!

電気椅子による処刑現場を目にしましたが、こえはショックでした。

ブライアンは再度マイヤーズを訪ね警察と取引があったことを認めさせ、「ウォルターにとって最期の機会なんだ!」と法廷に立ってくれるよう申し入れした。ブライアンの熱意に、マイヤーズはこれを受けた。

1992年6月4日、マイヤーズの証言を巡る裁判が開かれた。マオヤーズは法廷に立ち、偽証を強要した保安官を指摘し「俺はどうでもいいからウォルターを子供たちのところに帰してやってくれ」と証言した。これに裁判長は「後で判決を示す」として閉廷した。

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ウォルターとその家族は「これで無罪!」と喜びを露わにした。しかしⅠか月後の法廷で裁判長は「マイヤーズの証言は偽証だ」と判決した。白人の陪審員評決によるものだった。この判決にウォルターの長男が法廷で暴れた。ウォルター自身も刑務所に戻り独房に収監されるさいに暴れた。

ブライアンはランニングしながら、家族を傷つけたことに泣いた。エバは「あなたのやり方は想像を超えているが、あなたが必要だ!」と労わった。親身になって支援するだけに敗訴のショックは大きかった。

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ブライアンは再審の失敗をウォルターに詫びた!しかし、ウォルターは「これまでは警察から犯人だと言われいつの間にかそうかもしれないと思っていたが、この再審で自分を取り戻せた。俺は戦う」と決意を見せた。ブライアンの熱意がウォルターの生き方を変えた。

ブライアンは家族に「州最高裁で戦う」と伝え、新証拠を提示して再審請求した。合わせ、世論を味方につけるためCBSの報道番組「60ミニッツ」の出演してウォルターの無罪を訴えた。
再調査のためと裁判時機の延期を申請するチャップマン検事には「あなたの任務は正義を問うことだ」と釘を刺しておいた。

1993年3月2日、州最高裁での裁判日。席がないと駆けつけた黒人たちの傍聴が妨害されたが、「立ち見席でいい」ということで入廷させた。裁判が始まると、チャップマン検事が裁判長に駆け寄り「困りました、よく調べると・・・」と告訴を取り下げ、あっけなく終わった。瞬間、ウォルターを始め皆が泣いた!

ブライアンとウォルターは上院公聴会に招かれ黒人の裁判について「正義よりも慈悲が必要だと分かった」と証言をした。

我が国にも隠れた冤罪が沢山あるのではないでしょうか。大杉漣さんが「教誨師」(2017)で、救えなかった冤罪を悔やむシーンがありますが、この作品を見ると、このシーンを思い出します。

 

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