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宮﨑あおいさんを応援します

「人間の時間」Human, Space, Time and Human

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狂才キム・ギドクが描くエィストピアを観てみようとこの作品に挑戦、監督作品は本作が初めてです。韓国ではいまだ公開されていない作品とのこと。「パラサイト」(2019)の先をいくような作品、受け入れることが出来なかったんですかね!
現代人を一度地獄に追い込み、その生き様を見てみようという試み、そして再生するためには何が必要かという問いかけは面白い。

R-18指定になっていますが、監督作特有の暴力、性描写によるものではなく、この作品には欠かせないカニバリズムによるものだと思います。しかし肉と血液を見せるだけで観る人への配慮は十分になされています。

出演日本から藤井美菜オダギリジョーチャン・グンソク、アン・ソンギ、イ・ソンジェ、リュ・スンポ、ソン・ギュンらです。


映画『人間の時間』予告編

あらすじ:
恋人タケシ(オダギリジョー)とともに旅行を楽しむ女性イヴ(藤井美菜)、次期大統領候補と言われる議員(イ・ソンジェ)とその息子アダム(チャン・グンソク)、そして謎の老人(アン・ソンギ)と、さまざまな人びとを乗せ、船は出航する。かつては軍艦でありながら退役後はクルーズ船となったその船が大海原へと出た頃、開放的になった乗客たちは酒、ドラック、セックスと、さまざまな顔を見せていった。

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狂乱の後、疲れ果てて眠りについた彼らが目を覚ますと、船は霧に包まれた未知の空間に突入していた。何が起こったのか理解できない現実を前に呆然とする人びと。やがて乗客たちは生き残りをかけた悲劇的な事件を次々と起こしていく。(映画.comより)
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物語は人間~空間~時間~人間のサイクルで描かれます。現在社会で生活する韓国人と若い日本人のカップルら乗客・乗員(人間)が船内で賭博・喧嘩、レイプ、殺人などと罪を犯したことに、老人が罰として船を異次元空間に放り出したため、食料を奪い合う生き残りを賭けた悲劇的な事件(空間)が生起し、その後人間として生きるための準備(時間)をして、再生された人間の姿が描かれます。キム・ギドク監督の描く創世記です!

〇人間
政治家が次期大統領候補と知るとその犬になるギャング団のボス(リュ・スンポ)。乗艦すると政治家とその息子アダムは特別室に入り、昼飯は豪華なものを食べる。低層客室はトイレもなく、乗客は甲板で駅弁を食べる。この落差に乗客からクレームが出ると、ギャングたちがこれを威圧する。ボスに「権力に媚びるな!」と抗議したタカシはギャングたちによって海に消された。

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これは映画「パラサイト」でお馴染みの韓国の2・5段階差構造です!この構造で食料が切れたらどうなるか?これが本作のテーマです。

出航に当たって船長(ソン・ギュン)が「1週間の大海原の旅に出ます。船内では私の指示に従ってください」と挨拶。

すぐに甲板では博打が始まり喧嘩、食堂では酒宴が始まり女を抱き始める。薬もあり商売女たちもいた。羽目を外した若物たちが部屋に押しかけイブを輪姦する。どうしようもない性暴力の連鎖。
政治家はボスに「イブを抱け!」と勧められ応じた。アダムもイブを抱いた。船長も同じ行動をしている。

なぜか老人(アン・ソンギ)が艦内のゴミを集め、厨房から芋を盗みその芽を育てていて、この騒ぎを見て見ぬ振りをしている。イブが話しかけても言葉を発することはない。イブは海に飛び込み死のうと思ったが老人に止められた。

〇空間
目を覚ますと下に海が見える!船は異次元に入ってしまった。船長は食糧を心配していた。乗客たちが「食べ物が無くなる!」と騒ぎ出す。
この状況に、政治家が「俺が管理する!」と、船長を差し置きギャング団の力を利用して食糧管理に乗り出す。武器庫を調べると手榴弾が大量に保管されていた。

ちびちびと食い繋ぎ、最期に共食いするか自殺するか?

政治家は配給を1/2、1/4、3日に1回と配給制限をしていく。制限がきつくなるに従い激しい食べ物の取り合いが始まる。
イブは老人に匿われ部屋で種を植え、孵化した鶏の世話をする。老人はこの船の運命を知っているらしい! イブは子供がお腹にいるが誰の子か分からず、産むかどうか迷っているとき老人に「産みなさい!」と励まされた。

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遂に暴走する乗客・乗員を拳銃で銃撃する事態に陥る。この段階でも政治家と息子アダム、ボスはビフテキを食っていた!アダムをそっとパンをイブの持っていく。

乗客はバナナを見せれば飛びついて喧嘩して食べる、すでに獣になっていた。

食糧が尽きる段階になり、政治家は食料を幾つもの部屋にばら撒き乗客・乗員をおびき寄せて自ら手榴弾を投げ入れて皆殺しを図った!そして、その肉を食った!

アダムはイブに犯した罪を詫びて近づいた。イブも子の親が誰か分からない状況で彼を受け入れた。老人はふたりが食べるには足らないと部屋の扉を閉じた。このころのイブは「誰の子でもよい、生きて欲しい」と考えるようになっていた。

身分も階層も関係ない、自分が生きるために動物になって行った。自殺はない。

〇時間
老人は死体を解体して肉を保管し、骨は砕いて土に混ぜ野菜を育てた。さらに死体に土を落としそこに種を蒔いた。

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最期に残ったのは政治家、ボス、イブとアダム、たったひとりの女性乗客。ボスが女性客を殺す前にセックスをやり始めてたが女に喰いつかれ、これに怒って銃殺した。あさましい!政治家は「自分の役割だ」と自分の腕を切ってアダムに渡したがアダムは「正義でない」とこれを拒否した。政治家はボスに銃殺された。
ボスはイブを狙ったが体力が弱って拳銃を落とした瞬間に、イブがそれを拾いボスを射殺した。

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イブとアダムは老人を頼って部屋に訪れると、老人は自分をふたりに提供して逝った。アダムは「自分は生まれてくる子のために犠牲になればいい」と言いながらも、鶏を食べたがった。イブは「卵を産まない段階では絶対にダメ」ときつくアダムを鶏に寄せつけなかった。しかし、アダムが鶏を追うようになり、斧で彼を斬殺し解体した。イブの「子供を生かしたい」という動物的な生きる目的がこういう行為に繋がった。イブはひとりで出産した。男の子だった!

〇再び人間
船の中は菜園となり、鶏も育ち、子供は大きくなっていった。ところがこの子が成長して、拳銃を手にし、母親の身体に触れてくる。
            
食べるものが無くなるという極限状態で、理性を失い動物と同じように暴力で食べ物を奪い、無くなれば共食い。子孫を残したいという老人の理性(神の摂理)と女性の動物本能が人類存続を支えるという結末に驚きはない。が再生された人間はどこに向かうのか?こんなことにならないと信じている。なんとならばこんな恐ろしい映像はないから。監督はよくぞこの恐ろしい人間を描きました!
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