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「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(2012)サッチャーが最期に夫と交した言葉は?  

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爽やかな論理で論破し、男性以上に実行力のある女性イメージ。映画「21世紀の資本」(2019)では激しくこき下ろされる人。一体ご主人とはどんな関係だったのだろうかとNHKBSプレミアムで観賞。本作でマーガレット・サッチャーを演じたメリル・ストリープが第84回アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。

政治の表舞台から引退。貴族院議員を務めながら、長女キャロル、秘書、お手伝いさんの助けを借りて自伝を執筆。認知症で薄れる記憶のなかで、夫を偲びそのときどきの政治を語るという物語。

原題はThe Iron Lady。「鉄の女の涙」という邦題は「あなたは幸せだった?正直に言って!」とサッチャーさんが夫デニスに問う結末にふさわしいと思います。

サッチャーさんの若いころから認知症が始まった老後までを演じたメリル・ストリープの演技がとてもすばらしいので話題はこちらに行ってしまいますが、夫デニスによって政治の舞台に立ち、そのデニスによって舞台から降ろされたサッチャーが最期に交すふたりの言葉は何であったか?これも面白い!

監督は「マンマ・ミーア!」のフィリダ・ロイド。脚本:アビ・モーガン、撮影:

エリオット・デイビス

出演者:メリル・ストリープジム・ブロードベント、ハリー・ロイド、オリビア・コールマン、アレクサンドラ・ローチらです。


映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』予告編

あらすじ(ねたばれ):

年老いたサッチャーさん(メリル・ストリープ)が食糧品店でミルクを買い、レジで「ホテルで爆発!」の新聞見出しを目にして、自宅アパートに戻り、夫デニス(-ジム・ブロードベント)と朝食。パンにたっぷりとバターを乗せるデニスに「多すぎよ!」と注意し、ミルクが49ペンスになったと嘆く。デニスは「車を売るか下宿人を置くか?」と返事する。

お手伝いさんが「旦那様のクローゼットを整理するそうですよ」と秘書のスージに話すのを聞いたサッチャーさんがデニスのためにクローゼットからネクタイとスーツを選ぶ。(笑)

秘書スージーに自叙伝のサイン書きを勧められ、サッチャーさんがいつのまにかマーガレット・ロバーツになっている。彼女の旧姓はロバーツ。戦時、食料品雑貨店を営んでいた父から、空襲時「バターに覆いをしなさい!」と急かされ、「明日はどんな空襲がくるのか?」と怯えていた記憶が戻ってくる。戦争の怖さを知っていた。

戦争が終わって、娘さんたちが美しい装いに興味を持っても、彼女はひたすら勉強に励み、オックスフォード大に進学。父親は喜んだが、母親はそうではなかった。(笑)

娘のキャロル(オリヴィア・コールマン)がやってきて、着替えを手伝ってもらいながら、新聞で見た爆弾事故を思い出し、「哀悼の意を表す声明文を出さなくては。我々いかなることがあってもテロに屈してはなりません」と言い出す。秘書がびっくり!

親しい人との昼食会。「今日の爆弾、あなたが首相ならどうします?」と聞かれ、「人間はいつも悪と共存しています。でも現在の悪は根が深く血の匂いに飢えている。罪のない人を死に追いやる。西欧文明はこういう悪を裁き、徹底的に根絶させなければなりません。さもないと我々は核の時代にテロに屈してしまいます」と喋った。この毅然たる論理はどこから出てくるのでしょうか?

キャロルが「外出はしないでといったでしょう!」と注意すると「買い物ぐらいはできます。ガミガミ言わないで!」と、ふたりが言い合う。これを見たデニスが「9文字の言葉でB、T、Nが入る「方向を変えないという言葉」を知っているかと謎かけをする。唖然とするサッチャーさんに「OBSTINATE(頑固)」だと笑った。

この物語はサッチャーさんの“頑固”から始まる物語です!

この会話のなかに今のサッチャーさんの生活が描かれており、認知症ですでに亡くなっているデニスのことが忘れられない。そして、彼女の宗教心、父から学んだ「質素倹約」「自己責任・自助努力」の政治理念が入っています。

マーガレット(アレクサンドラ・ローチ)は、父が小さな町の市長であったこともあり、政治に興味を持っていて、政治クラブに顔を出し、そこでデニス(ハリー・ロイド)に出会い、「泣き言を言わず問題に取り組み、状況を変えねばならない」と語っていた。

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24歳で下院議員選挙に出馬して落選。がっかりするマーガレットにデニスが「ビジネスマンの妻になれば当選できる」と結婚を申し込んだ。彼女は「いいわ!」と受け入れ、「でもすばらしい妻にはなれない。料理とか掃除、子育てより大切なものは生き方よ!お茶碗洗うだけの人生なんて。」、これにデニスは「そういう君と結婚したいんだ!」と応えた。

結婚して双子の子、マークとキャロルが生まれ、子育てをしながら下院議員選挙に臨み1959年、当選を果たした。

当時議事堂には女性トイレもないという有様。エリア・ニーブに「狂乱の世界へようこそ!」と歓迎され、たったひとりの女性議員だった。

その後教育相となり議会答弁に立つ「ストで教育が出来ない。暖房や電気のないところで誰が生徒に教えますか?」と激しい論戦になるが、議員たちから「そう甲高いは止めてくれ!」とヤジが飛ぶ。

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公共事業のストで街の中はゴミだらけ。「ストは政府に責任がある」と責める野党に「炭鉱組合は軍隊に支援してくれと蜂起を求めている。こんな組合と調停なんかできません!」と激しく反論するマーガレット。妥協!妥協!妥協!とマーガレットはヒース首相の政治姿勢に疑問を持つようになっていった。

この弱腰態勢を糺すために党首選挙に出馬する」と夫デニスに意見を求めた。デニスは「党首は首相だ!野心だ!」と猛反対。マーガレットは「当選することはない!確かめてみたいだけ!」と応じた。

これを喜んだエリア・ニーブらの議員によって、勝つための戦術が練られ、ファッション、喋り方などが検討された。ネックレスは高価に見えるから外すという案に「双子が生まれたときに夫が贈ってくれたもの」とこれだけは拒否した。甲高い声をどうするかと問題になったが「これがあなたのいいところ!」と変えないことにした。

しっかりボイストレーニングを経て、遊説に出た。飾らない人柄と明快な話しぶりで一気に人気が出た。「サッチャーは次期首相候補だ!」とニュースで騒がれるようになったなかで、ニーブがIRAによる車両爆破で亡くなった!

1979年の総選挙で欧州における最初の女性首相となった。バーニングの官邸にデニスを伴った。

インタビューで「今に気持ちは?」と聞かれ「どんな“気持ち”というのはない。“どんな考え“で、アイデンティティーこそが面白い!私が何を考えているか分かりますか。考えるが言葉になり行動になる。それがやがて慣習になりそして人格になる。”考え“が人を作るのよ」と応じた。

サッチャーさんは、予算案が漏れる夢をみる。このときにはデニスがいない。(笑)

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議会から「失業率が1934年以来の最悪レベルだ、貧乏人を切り捨てるな!」と責められ、街頭では抗議の大衆が首相の車に押し寄せてくる。マスコミからの吊るし上げ。こんななかでサッチャー首相は「バターの値段は知っている。私は食料雑貨店の娘、国民から離れていない。支出を削減しないと国は破綻する。良薬は口に苦し!選挙に勝ったのはこの偉大な国を救うため。国民が経済を立て直してくれると信じている」と閣僚に「イエスマンはいらない。信念に従って意見を通すのがリーダー」と妥協案なんか受け入れない。この頑固さ!

サッチャー首相は組合を潰そうとしている、炭鉱夫と警官隊の衝突ニュース。サチャー首相は「政府に手を引けと言っても、1秒たりとも譲りません!硬い決意でこの国に再び繁栄をもたらします」と声明。これにも頑固に対応!

夜に声明原稿を書くマーガレットに「マグナカルタでもあるまいし寝たら!」とデニスが勧めていたところで、爆破事件が起こった。マーガレットは爆煙のなか「デイス!」と探し回った。(笑)

英国領のフォークランド諸島の首都ポートスタンリーがアルゼンチン軍に占領される。この紛争はミサイルなど近代兵器による戦闘の先駆けだった。

英軍劣勢のなかサッチャー首相は「アルゼンチンの軍事政権はファシストの集団!英国の占領を許さない!」と、米国の仲介も断って、戦費を心配する議員を戒め、48時間内の海軍出撃を命じた。まさに鐵の女にふさわしい決断だったと思います。戦死者家族には自ら慰めの手紙を書き送った。

戦争は勝利に終わった。「強く結ばれた国民の意志を叡智と力と勇気で確認しました。たとえ犠牲を伴っても最後は善が悪に勝つ」と演説。これで景気は史上最高に、ベルリンの壁は崩れ、数々の難問が解決に動き出した。

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国民全員に税というのはおかしい」と人気の首相に反対意見が出始めた。サッチャー首相は「この国に住むならその特権よ!」といかなる意見にも耳を貸さなかった。そしてポンドの持つ健全性を捨てる気はないと欧州連合に反対

これに反対する閣僚には「英仏海峡を渡ってベレー帽を被ったら!」と揶揄し、文章の誤字にまでつべこべいちゃもんを付ける。これはもうおしまいですね!

パリで開かれた14か国トップ会議の最中、党内に反乱が起き、首相選挙で過半数が得られず、夫デニスの勧めで、決戦投票を辞退した。官邸を去るにあたって「就任時よりよくなっていることを祈ります」と言葉を残して去った。

感想:

認知症サッチャーさんが「苦渋の決断だった。あれは何だったの?」のデニスに聞くと、「チャーチル以降の偉大な指導者を、骨抜きされた臆病者どもが追い出した。能なしのゴマスリたちだ!日和見主義者たちだ!」と言うので、ふたりで「腰抜けだ!腰抜けだ!」と声をあげた。(笑) 

苦渋の決断を下すとその時代は憎まれても、いつか感謝を受けます」と言えば「あるいは忘れられ、ゴミと一緒に捨てられるぞ!」とデニス。「私の願いは世界を良くしたいと思っただけ!」と言えば「君はそれを成し遂げた!」と妻を褒めた。

サッチャーさんが「あなたは幸せだった?正直に言って!」と聞くと、デヌスは笑った。サッチャーさんは、デニスの衣類などを整理してトランクに詰め彼に持たせて、あの世に送った。「ひとりぼっちにしないで!」と声を掛けたら「君はひとりで生きていけるよ!今までそうだった」と笑った。

サッチャーさんはひとりでコーヒーを飲み、茶わんを洗った。やっと、デニスから離れて、ひとりで生きる覚悟ができた。

認知症の斑記憶のなかでの回想という設定がよく効いて、とても面白い物語でした!

夫デニスからサッチャーさんに送られたメッセージは「君は頑固!」この頑固さで首相になって、頑固であるが故に終わった政治生活。すべてをデニスは知っていた。そしてその頑固を愛した。

夫を幸せにしてあげたかったが公務で出来なかった。それだけに亡くなった後もデニスのことが気になっていた。デニスの言葉を聞いてほっとしたサッチャーさんでした。

 非常に強硬な政治方針と信念からサッチャーさんの政策には批判があります。今後どう評価されていくのかと気になりますが、サッチャーさんは「世界がよくなってくれれば良い」と気にしないでしょう。

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