太平洋戦争のターニングポイントとなったミッドウェイ海戦を描いた戦争ドラマ。監督が「インデペンデンス・デイ」「ホワイトハウス・ダウン」のローランド・エメリッヒということで、楽しみにしていました。
日本の真珠湾奇襲。ハワイ西方で訓練中であった米空母エンタープライズのパイロットが駆けつけ、その惨状を目にするところから物語が始まり、その後の日米海軍の戦略、作戦準備を経て、日米海軍の決戦ともいうべきミドウエイ海戦が時間単位で描かれます。
戦闘経過に沿って、史実を大切に、尺の都合でその深さには限度がありますが、丁寧に描かれています。特に日米どちらが善で、どちらが悪という視点ではなく、どういう戦略・目的で、いかに戦われたかに焦点を当てて描いています。
戦史だけの紹介ならドラマにならない!戦友や家族の絆や苦しみ・悩みを絡ませながら、近代の海戦がいかなるものであったかが浮き上がる、うまい演出であったと思います。
この作品のテーマは何か?今という時点で何を描きたかったのか、愛国心に多少疑問を持ちましたが、危機管理にあっての戦略の重要性、戦術ではカバーできないこと、そして情報の収集や分析、組織の在り方など、コロナウイルスの危機管理戦略はどうあるべきであったかと考えさせられます。
そして、描かれるのはCGを使っての圧倒的なリアルな戦場描写です。空母への離着陸の緊張感、敵艦への急降下爆撃時の恐怖感。矢のように飛んでくる銃弾のなかで戦う精神力など、軍人たちに敬意を表したくなるシーンが多く、戦場の痛みが感じ取れる描写がよかったです!
脚本:ウェス・トゥーク、撮影監督:ゴビー・バウムガルトナー、編集:アダム・ウルフ、音楽:トーマス・ワンカー&ハラルド・クローサー。
出演者:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンス、アーロン・エッカート、豊川悦司、浅野忠信、國村隼。
あらすじ(ねたばれ):
1937年12月4日。エドウイン・トレイトン少佐(パトリック・ウィルソン)が駐日大使館付き武官補として来日し、武官交流会で山本五十六(豊川悦司)と会話を交わすシーンから始まる。
これがこの物語の肝です。彼は日本文化・産業を知るエキスパートだった。山本は「日本は長期戦では勝てない!資源のないない国だから日本を追い詰めるなよ!」と注文していた。トレイトンは4年後、太平洋艦隊情報主任参謀の任に就いており、ミッドウエイ海戦の情報戦において山本サイドと競うことになる。こういうエキスパートが第一線の軍レベル参謀としているというのが凄い!(陸大出身だけでは戦争ができないことを示しています!)
1941年12月7日、エンタープライズはハワイ170哩西方で訓練中。ディック・ベスト大尉(エド・スクライン)は母艦への着陸訓練中だった。ふらつきながら着艦するシーンはリアル感がたっぷり。
急遽「ハワイに飛べ!」とウイリアム・ハルゼー(テニス・ウエイド)から命令される。
真珠湾ではロイ・ヒューズ大尉がまさに旗艦アリゾナから下船寸前。そこに日本海軍機の奇襲攻撃。
奇襲攻撃は、舐めるようにアリゾナに集中爆撃。炎上する真珠湾停泊艦船。血液が流れるアリゾナ甲板。燃えるアリゾナからハイラインで隣接艦に脱出する兵士。対空射撃。この惨状を描くなかでどのシーンにも苦しむ兵士が写し込んであるのがいい。
情報主任参謀のレイトン少佐は現場に駆け付け、惨状を確認し、予測し得なかった自分の責任を強く感じた。
ロイ・ヒューズ大尉の家族にはまったく空爆の影響はない!山本長官の「民間人を標的にするな!」の指示がよく守られていた。ハワイ急襲はうまい描写でした。この日本軍の奇襲に対する米国の怒り・罵声は、ほとんど描かれてない!
ディックはなすすべもなく爆弾を抱えたまま母艦に帰還。そしてハワイに戻り、アナポリス同期のヒューズの安否を尋ね、真っ黒こげの彼を発見した。同期生が集まり彼を送った。
山本長官はハワイの惨状を伝える米ニュースを見て、「眠った巨人を起こした。恐ろしい決断は避けられない!」と感じ、第2航空戦隊司令官・山口多聞少将(浅野忠信)を伴って海軍本部に赴き、「米空母は健在だ!」「米海軍の止めを刺すことの必要性」を訴えた。
最高戦争会議で、東条から出された「南方での資源確保のため海軍はこれを支援すべし」が決定されたが、山本は「ミッドウエイ決戦を計画せよ!」と山口に指示した。
一方、米海軍は、太平洋艦隊司令長官にチェスター・ニミッツ大将が着任。この人事システムも凄い!
ニミッツ(ウディ・ハレルソン)はレイトン少佐を呼び「山本の動きを読め!」と指示した。この情報要求が凄い!彼は自国の戦略家マハーンをしっかり読んだ海洋国家としての戦略を心得た男だった。
レイトンは暗号解読の天才能力を有するジョセフ・ロシュフォード少佐(ブレナン・ブラウン)の助けを借りで、広大な情報収集分析室を運営。自分の山本五十六感と膨大な資料の中から山本の動きを追っていた。
1942年2月1日。エンタープライズのハルゼー中将に、「敵を騙す!マーシャル群島で暴れて、出来るだけ日本海軍に損害を与えろ!と指示した。デイックはこの作戦に参加し、新米パイロットを指導しながら、戦闘に参加し多大の戦果を上げた。ダグラスSBDドーントレスで空母から海面すれすれで飛び出し、日本軍ゼロ戦に追われると、ジェイムス・マレー(キーアン・ジョンソン)通信手に機関銃を撃たせて対応し、急降下での爆撃、スリリングな戦闘シーンでした。しかし、デイックのこの闘い方にマレーは怖れを抱くようになる。(笑) ディックは第6飛行中隊長を命じられた。
1942年4月18日。ディックがエンタープラズから見ると空母ホーネットにノースアメリカンB-52ミッセルが搭載されていた。ジミー・ドーリットル中佐(アーロン・エッカート)が荒天の中、この編隊で東京、名古屋、神戸、新潟等日本縦断の都市爆撃に飛び立った。この飛び立つシーン、一瞬、波に消えたように沈み飛び立つ映像は鳥肌ものでした。ドーリットルは日本爆撃のあと、海上に不時着し中国浙江省に脱出した。米海軍はドーリットルの戦果を潜水艦ノーチラスで日本の放送を傍受していた。
ドーリットルの空爆で陛下が防空壕に入るという事態が生じ、山本の戦略に決定的な影響を与えた。米海軍をミドウエイで撃つ!
1942年5月8日、米海軍は珊瑚海海戦で空母レキシントンを失い、稼働空母はエンタープライズとホーネットだけとなった。
山本、山口はミッドウエイ決戦を図上演習で、その構想を固めていた。
ニミッツはレイトン少佐に「日本の本当の狙いはなにか?」を問うた。レイトンは「ミッドウエイで数週間後!」と日本軍の作戦を予測した。決め手は作戦のコードネーム「AF」だった。
ニミッツの処置はすぐにエンタープライズを戻せ!そしてワシントンを説得せよというものだった。
1942年5月28日、フォード映画監督が戦意高揚映画を撮るとミッドウエイ島にカメラを設置した。日本軍がここに来るという情報に絶対的な確信を持っていた。(笑) 爆撃機、偵察機をミッドウエイ島に配備し作戦準備を促進していた。
ディックは激しい条件下の離着艦訓練を部下に課して死傷者を出し苦しんでいた。妻のアン(マイティ・ムーア)が「部下はあなたを信じています」と優しく寄り添っていた。
空母ヨークタウンが真珠湾で修理中であったが「72時間で完成させよ」とニミッツが厳命した。
レイトンのこの時点での予測は「6月4日0700ミッドウエイ島175哩に日本海軍進出」というものであった。
6月4日午前6時40分。日本軍のミッドウエイ島攻撃。フォード監督がこれを撮影。撃たれて負傷した。
午前7時10分、日本海軍第1機動艦隊への米軍航空攻撃が始まる。山口少将が「素人だな!」というほどに、米軍機は艦船に近づけない。
第1航空艦隊司令長官南雲忠一中将(國村隼)のもとに「敵空母発見」の報が入る。このとき空母搭載機はミッドウエイ島爆撃のための爆弾を抱えていた。南雲は「まさか?」と表情を曇らせた。彼はミッドウエイ島を奪取した段階で米海軍は出くると決め付けていた!
デイックは片翼を海水面に浸しながらエンタープライズを離れて敵空母に向かった。第2航空戦隊(山口少将)と米潜水艦ノーチラスの水雷作戦が始まった。
午前9時38分、エンタープライズの第6雷撃隊が戦闘加入して米軍に有利に戦況が変わり出す! 9時55分ホーネットから雷撃隊が出撃。
この状況に山口少将は南雲中将に「(装備の変更を辞めて爆弾のままで)そのままで戦闘機を発進させられたし!」と意見具申したが、南雲は「俺に何をやらせるか!」と無視した。これが日米航空決戦戦に決定的な影響を与えた!
空母が次々と火災。パイロットは帰る母艦がない!
午後4時30分。戦艦大和の山本長官のもとに「加賀、赤城、蒼龍が大火災!」の報が入る。山本は「米軍の罠に嵌った!現実を受け入れよう」と戦場離脱を命じた。その後、山口少将は「責任を取る」と部下に退艦を命じ、命を飛龍とともにした。
最後に:
米軍の動きが主体で、日本はこれに合わせるように描かれ、日本軍の多くは描かれない。それでも要領よくまとめられ、豊川、國村、浅野さんの雰囲気のある演技で、日本海軍の考えはよく表現されていました。
ミッドウエイの戦略目標は米海軍の撃滅と同島の占領だった。これが空戦に決定的な影響を与えた。戦略目標は単純明快でなければならない。これを戦術でカバーすることは出来なかった。
山口多聞少将が乗員を退却させ、自らは飛龍とともに沈み、最後の爆撃に出掛けたディックが生きて帰還するシーンで終わる“ミッドウエイ”海戦物語。「勝者も、敗者も、海に全てを捧げた」物語でした。
捕虜となった米軍パイロットを錨とともに海に落とすシーンは、本当にこんなことがあったのかといただけない。
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