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「望み」(2020)日々の互いの想いを大切にすることがいかに尊いか!

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原作は雫井脩介さんの同名ベストセラー小説、未読です。監督が「人魚の眠る家」の堤幸彦さん。出演者に清原果耶ちゃんの顔がある。深く人間心理を問い詰める作品だろうと挑戦してみました。

 とても洒落た邸宅に住む1級建築士の夫と小説の校正に勤しむ妻、高校1年生の男の子と中学3年の長女。ある日、長男がサッカー試合で負傷し、その後部活を辞め不可思議な行動をとる。そんなとき、長男の親友が殺害され、本人が所在不明となる。事件が報道やネットで話題になるなかで、長男は犯罪者なのか、そうでないのか。生きているのか死んでいるのか。父親は決して犯罪者でなないと念じ、妻はただ生きてさえいてくればと願う、長男に寄せる家族の“望み“をサスペンシフルに描いた物語。

 殺人という特異な事件になっていますが、今の世の中、交通事故でも、この物語のような家族が崩壊しかねない家族問題が起こります。他人ごとではない物語と、この夫婦の想いに自分を重ね、どういう結論になるかと魅入りました。

 家族の絆を試される究極の場に立たされると、「家族の絆もなんと脆いものか」と思いましたが、映画を観たあとで、もう一度思い起こすと、見えていなかった家族の想いが見えてきて、感動します。ラストで妻が吐く「長男に救われました」の言葉に、この家族が紡いできた絆を見ることができました。エンディングで見せてくれる家族写真に、映画「浅田家!」(2020)を連想し、「日々の互いの想いを大切にすること」がいかに尊いかと痛感しました。

 脚本:奥寺佐渡子、撮影:相馬大輔、音楽:山内達哉、主題歌「落日」:森山直太朗

出演者:堤真一石田ゆり子、岡田健史、清原果耶、加藤雅也市毛良枝松田翔太竜雷太

 あらすじ(ねたばれ)

冒頭、広く空撮で捉え、静寂な住宅街である洒落た石川邸。1級建築士の夫・石川一登(堤真一)が設計して建てたもので、本宅に事務所を連接した洒落た建物。

家を建てようと訪れた客に、「本宅をモデルハウス」といて見せる。1階は吹き抜けのリビングとキッチンが一体化。妻・貴代美(石田ゆり子)の小説校正のための書斎室もある。2階がそれぞれの部屋になっている。この建物でどんな家族の絆が出来上がったかという物語上の大切な設定です。

 12月17日、クリスマスのデコレーションで飾られる石川邸。

一登は訪れた客に子供たちの部屋に案内。子供たちのプライバシーはどうなるのと違和感を感じましたが、実はこのことが物語の大きな伏線でした。

長女の雅(清原果耶)はニコリと客に挨拶しとても快適ですと言わんばかりの笑顔を見せます。この笑顔に、社交的で自己顕示欲の強いキャラクターが全部含まれているという天才的な演技でした!

長男の規士(岡田健史)は寝そべっていて、父親の「サッカーで怪我をしていまして」の言葉に、不愛想な態度で応じた。

 その夜の食事で一登が「お客の時は愛想よくしてくれ!」と言えば「無理!」と規士。貴代美が「分かってくれるわ!」と言い、雅が「仕事がなくなりお父さんは儲けがなくなる」という。(笑)この際どい会話、家族の人間関係がよく出ています。

何もしないと何も出来ない男になる。何かして見ろ!未来は変わるぞ!」と言うと、規士は突然2階に駆け上がってしまった!

 12月19日、貴代美が規士の部屋を掃除していて小刀のパッケージを拾う、心配して一登に見せると規士の引き出しを調べ、小刀を発見。事務所で保管することにして、規士にはそのことを伝えた。このとき規士の顔の痣に「何があった?」と問うが「いろいろある」という規士。

 1月4日、規士は狭山神社に初もうでに出かけた。

 1月5日、貴代美が小説の校正をしていると規士からラインで「悪いけど帰らない」というメールが入った。

雅がゼミを終えて帰り、3人で夕食を食べているとことに、貴代美の母親扶美子(市毛良枝)から「近所で事件よ。男性が遺体で発見。TV観て!」と心配の電話があった。遺体は10代の男性でビニールが被されており、暴行されているというものだった。一登は「規士は何故帰らない」と心配し警察に聞き合わせをした。

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 1月6日、野田刑事(女性)と寺沼刑事(加藤雅也)が訪ねてきて、規士の所在と死亡した石倉与志彦の関係、携帯機種と電話番号を聞き、この事件に規士が関わっていることを話し、行方不明届を出すことを勧めた。

 一登は雅を学校に送り、自分の設計した建物の建築現場に向かった。一登が出かけたのを見計らったように週刊ジャパン誌の記者・内藤(松田翔太)が石田邸を訪れ、貴代美に記事に協力して欲しいと申し出て、「3人が関り、2人は逃げたが、もうひとりいる」と教えてきれた。

 雅はクラスで事件が話題になり、気分が悪くなる。一登が建設現場で建設会社の社長・高山(竜雷太)から「亡くなった石倉与志彦は左官の下請け花塚の孫だ。刺し傷が一杯だ!」と昨夜の事件を話す。一登は居たたまれなかった!規士が加害者でないことを祈るしかなかった。

 マスコミが石川邸前に集まり、大変なことになりだした。そこに一登が戻り、カーテンを引き、これまで明るかった石川邸は一気に暗い世界に。うずくまった貴代美から「関係者が3人いて、その一人は殺していない!」と聞かされた一登は、高山の話もあり、規士は加害者でないとこの話を信じた。

 隣家からの苦情で外に出てマスコミに攻められるが、うまくこれを交わし、家を訪ねてきていた女生徒・飯塚さんから「規士がサッカーの試合で先輩から生意気だと怪我させられた。その先輩はその後脚を折られた」と聞かされる。一登は夜間、車で街の中を走り規士を探したが、見つからなかった。

 夜、ゼミから帰ってきた雅が「ネットで、もうひとりは死んでいると書かれている」という。一登はネットの書き込みを調べた。

 1月7日、一登がリビングに降りてくると、貴代美がソワーでうたた寝していた。そっと毛布を被せた。外に出ると、壁や車にペンキで落書き。女生徒から缶を投げられる。一登はこの女生徒を携帯で撮った。

 野田、寺沼刑事がやってきて、「ナイフを持っていなかったか?」と聞く。「20日ほど前に、見たことある」と答えた。

 雅が「兄が悪く言われるから、学校に行きたくない。」と言い出し、貴代美が「殺されていると思っているの!」と叱責した。

一登と雅は車で出掛けた。雅が「兄が犯人なら人生終わり。犯人でないほうが良い」と言う。「雅は雅、責任は父さんにある」と言い聞かせた。貴代美の母・扶美子がやってきた。貴代美が「規士は殺されているかもしれない。一登は規士は被害者で、死んでいると思っている。私は生きていて欲しい」と訴えた。

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 一登は建設現場に顔を刺すと、高山社長から「花塚の孫はお前の息子に悪い仲間に引き入れられた!もうあんたとはつき合えない」と言われる。

 一登が家に帰り「規士を信じている」と言うと、貴代美が「どうして規士が死んでいると思えるの!仕事なんかどうでもいい。違う人生を生きます!」と食って掛かった。これで夫婦の関係は終わりになると思った!

 雅が「何でお兄ちゃんの犠牲にならなければならないの!お母さんがお兄ちゃんを可愛がるのは昔からよ」と貴代美に毒づき、二階に上がってしまった。一登が話そうと雅を追った。

 内藤記者から貴代美に情報を与えるので「母親のインタビューをさせてくれ」と申し入れてきた。貴代美はこれを受け入れた。「主犯は庄山。遺体は彼が運んだ。逃げたひとりはいまだ分からず、規士に似ているので警察が困惑している。自分の印象では被害者というより加害者!」と伝えた。

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 1月8日、塀に人殺しの落書き。車にも。マスコミから激しい言葉が投げ掛けられる。一登が小刀の保管箱を調べると小刀が消えていた。従業員の梅本に聞くと4日前に規士が持ち出したという。一登は顔色を失くした。

 TVニュースで「もうひとりの犯人が捕まった」が流れる。貴代美が留置場に差し入れをするためにと買い物に出かけた。一登は外に出てゴミを掃除し、空を見上げた。

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 夜、夕焼け。ニュースで石倉与志彦の葬儀予定と祖父のインタビュー、逮捕された庄山の映像が流れた。

1月9日、雅が学校に行かなくなった。一登が規士の部屋に入り、置いて行ったバックを調べるとリハビリの教本が出てくる。一登が喋った「何も出来ない大人になるぞ」というメモがそれに挟まっていた。机の引き出しを開くと、小刀がある。

 一登は正装して「あいつはやっていない!」と貴代美に告げ、石倉の葬儀に駆け出した。寺沼が「着ているものから規士らしい」と貴代美を署に連れ出した。

葬儀場の一登は葬儀場に入れてもらえない。そこに貴代美の知らせて警察署に急いだ。

規士が棺に納められていた。警察から事件のあらましが語られ、規士は逃げた生徒のひとりに刺されたという。

 規士の葬儀が、多くの生徒たちが参列するなかで盛大に執り行われた。

  内藤記者がインタビューを止めると言ってきた。貴代美は「もし規士が加害者だとして生きていたら、その後の苦しさで押しつぶされていた。私たちは規士に救われた」と語った。

 一登がリハビリ教範を、センターに返しにいくと先生が「したいことが見つかったというので、この本を貸しました未来は変えられると言っていました」という。一登は何を見ても規士を思い出しますと言い添えた。

感想:

夫・一登が自分の努力で創った会社を守りたいと、規士の無罪を強く信じることに疑念はなかったが、報道やネットによる規士犯罪説にこの想いをぶつけ、真実が見えなくなり、妻喜代美の想いとぶつかるシーンには痛みを感じました。しかし、真相が明かされ、規士が正義の子であって、亡くなったことに号泣するシーンに決して規士の死など望んでいなかったと思います。もし規士が犯罪者であってもこの姿は変わらなかったと、ここでの堤さんの演技が見せ処でした。

 一方の妻清美の「規士が犯罪者でもあっても生きていて欲しい」という想いにも母親らしい想いで、疑念を持たなかった。

一登の規士が亡くなっているのではないかという態度に、時に、怒りをあらわにするのは当たり前。娘の雅に「お母さんはお兄ちゃんを可愛がりすぎで私をほったらかして」と言われ、これに怒りをあらわにするのも当たり前。むしろ、もっと激しく対応しないことに不満でした。が、

 一登となぜ激しく衝突しなかったのか。徹夜で規士が帰ってくるのではないかと待ち、ソファーにうたた寝したところに、一登がそっと毛布を掛けるシーン。日頃、何気なにところで、お互いを思い遣る夫婦であったのだと思いました。

2人目の犯人が見つかった際、それを規士であると受け入れ、警察への差し入れものを買いに出るシーンにも、母親は強い!と思いました。石田ゆりさんが事件当初、事件に巻き込まれ動揺しましたが、母親扶美子が訪れてからは腹の座ったお母さん役を見事に演じていました。母・扶美子の「何があっても受け入れること!覚悟しなさい!恐れる物はなにもない」と石川邸に泊まり続けた態度がとても心強かった!

 ラストで「規士に救われました」という述懐に、最初違和感がありましたが、貴代子が小説の校正という仕事で沢山の家族の物語を目にし、冷静な判断が出来たのではと思えた。沢山の映画を観ておくことが必要ですね!(笑)

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 雅がこれからの高校生活に希望を持ち、お兄ちゃんの行動に疑念をもつのは当たり前。これをはっきり口にするのも当たり前。これがあって父一登は「結果がどうであれ自分が責任をもつ」と言い、貴代子との関係も崩れなかったと思います。お兄ちゃんが無実で亡くなり、貰った高校受験合格祈願のお守りは生涯の大切なものになりました。

清原さんが明るく、はっきりと意思を表す中学生雅を、まったく違和感なく演じていて、これはひときわ光った演技でした。

 高校生の事件を取り扱う記者、TV、マスコミのあまりの報道の酷さ、そしてネットの無責任なつぶやきに怒りを覚えました。そして落書き。高校生たちが、ボタンのかけ間違いで起こした殺傷事件で、慎重に扱うべきです。このことがこの物語のなかで一番恐ろしいと感じました。

 離婚という悲劇に終わってもいい物語が、規士の家族を想う気持ちで、家族が救われるという結末に、美しい家族の物語であったと思います。

 洒落た石川邸の作り、夕日の陰りや雨など自然を一杯取り入れてその時々の家族の想いや感情を表現する映像が美しかった。そして、冷静に家族を見つめるよう配慮された自然な音響が見事でした。

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