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「ばるぼら」(2020)手塚治虫が作り上げた理想の女性?

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原作は手塚治虫さんが1970年代に発表した大人向け同名漫画。稲垣吾郎さんと二階堂ふみさんのダブル主演作ということで観ることにしました

人気作家の美倉(稲垣吾郎)がフーテン娘の“ばるぼら”(二階堂ふみ)に出会い、やがて彼女なしでは小説を書くことができなくなってしまう。はたして“ばるぼら”は創作意欲を掻き立てる女神なのかという表現者の葛藤を描いたファンタジードラマです。

この作品、すべてが手塚治虫さんの幻想で、手塚治虫さんの葛藤を美倉に投影して描かれたものと思え、そう考えて観たほうが面白い。

作家の倒錯した世界がこのような形で描かれた作品は幾つもあり、本作品に驚きはない。例えば「人間失格」(2019)。しかし、手塚治虫さん作品だから、どう描かれるかという興味があり、すべてばるぼらがその鍵を握っています。

都会が何千という人間を飲み込んで消化し、垂れ流したような女、それがばるぼら」、二階堂ふみさんがどうばらぼらを演じてくれるか。撮影をクリストファー・ドイル担当で手塚作品らしい気品のある“愛と狂気の世界”が美しく描かれています。

二階堂ふみさんは「蜜のあわれ」(2016)と「人間失格 太宰治と3人の女」(2019)で作家の妻を演じており、本作で持てる力を出し切った作品のように思います。美倉は手塚治虫さんの化身のような設定になっており、黒メガネの稲垣吾郎さんにとても合ったキャステイングでした。

監督・編集:手塚眞。撮影監督:クリストファー・ドイル、脚本:黒沢久子、美術総括:磯見俊裕、音楽:橋本一子

出演者:稲垣吾郎二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河、美波、大谷亮介、片山萌美、ISSAY、渡辺えり


2020年11月20日(金)「ばるぼら」本予告

あらすじ(ねたばれ):

冒頭、ニーチェの言葉が紹介される。「愛の中には常に幾分かの狂気がある。しかし、狂気の中にはつねにまた、幾分かの理性がある」と。

遠景の新宿の街が駅地下街に収れんし、人が去った地下階段にうずくまる女“ばらぼら”。この映像が美しい!そこにサングラスの美倉美倉(稲垣吾郎)が立ち止まって覘く。と、「ヴァイオロンのため息の、身に染みて・・」と呟く女。美倉は「君過ぎし日に何をかなせし・・」とヴェルレーヌの詩で返す。この女ただものではない!朝倉はワンルームのマンションに連れて帰った。

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部屋に入ると書棚を見る。美倉の作品ばかりだ。「売ったらいくらになる?」と聞いて来る。ソファーで酒を飲みだす。美倉が風呂に入れと勧めると真っ裸になって身体を見せびらかす!(笑)

風呂に入っている間に美倉はレコードをかけ、溜まっている原稿「・・まだ誰も見たこともない陰部を鏡に映し・・・」を書いた。風呂から出たばらぼらがこの原稿を見て「くだらん!」と一蹴。(笑) 美倉は怒ってばらぼらを部屋から追い出した。美倉は耽美小説のベストセラーを連発した小説家だが、今は異常性欲に駆られ、筆が止まっているらしい。

翌日喜多川賞授賞式に出席するが、作家仲間の四谷(渋川清彦)がベタ褒めされているのを耳にして、付き人・甲斐加奈子(石橋静河)の「スピーチがあります」の呼びかけを無視して街に出て、ブテイックの美しい女性(片山萌美)に見惚れて店に入る。女性に「先生好き、最高!先生の本、何にも考えずに読めるから好き!」と言われ「バカにするな!」とセックスを始めた。そこにばるぼらが現れ「先生なにやってる!」と女の首を飛ばし、脚をぶった切る。美倉が気づくとマネキンを抱いていたのだった!(笑)こんな美倉が立ち直れるのか?

路地裏の空き地。家具や廃材が散らばった空間で、ばるぼらと美倉が酒を飲みむ。「まともな小説を書きな!才能あるんだから」と促すばるぼら

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美倉は日課の水泳中。プールの中で「悪い女に邪悪な悪魔はいない。よい女ほど愚かな悪魔はいない」とばるぼらに興味を持つようになった。(笑)

美倉はばるぼらを部屋に連れてきて、小説を書き始めた。「コーヒー!」と言ってもばるぼらではコーヒーは出て来ない。(笑)台所も掃除もダメ。部屋がゴミだらけ!そんな部屋に加奈子が原稿を取にきた。

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加奈子は部屋の変化に気付く。ばるぼらはうまく部屋を抜け出し、「こんな女にはなれない!」と、酒を呷り街を彷徨していた。(笑)

美倉は代議士の里見(大谷亮介)に呼ばれ「都知事選に出馬するので手伝ってうれ」と要請される。つき合いのある里見の娘・志賀子(美波)にも勧められる。

乗り気でない美倉がトイレに出て志賀子に会って欲情。そこにばるぼらが現れ志賀子をぶった叩いた!志賀子ではなく里見家の犬“もふもふ”だった!(笑)

この一件で美倉はばるぼらの存在理由が明らかになり、気分が高揚し頭は冴えまくっていった。

ばるぼらが行きたいというバー。ばるぼるがひとりで踊り出す。ステージで歌っていた男・柴崎(ISSAY)が「お前がいないと!戻ってくれ」とばるぼらに言い寄る。美倉が柴崎を殴った。柴崎が「俺と同じ運命になるぞ!」という。このことがあって、美倉はばらぼらを主人公に小説を書くことにした。ばらぼらは万年筆を贈った。

四谷が訪ねてきて「あまえには献身的な加奈子が向いている」というが「谷崎曰く恋愛は血と肉で作られる最高の芸術である」とこれを無視した。

里見が心臓発作で倒れ、美倉が里見のための書いた原稿が不要となりゴミ箱に捨てた。するとそこに針に刺された人形があり、里見に似ている。ばるぼらに「これで政治家のコネが無くなった!」というとキスをしてくる。ここから延々とふたりのセックスが続く。そしてばらぼらが「結婚して!」と美倉に伝えた。

クリストファー・ドイルの腕の見せ処。実にきれいに撮っています!

加奈子が美倉のマンションを訪ねて詮索をする。「出ていけ!」と叱り飛ばした。加奈子は落ちていた針に刺された人形をバックにしまい、帰っていった。ばるぼらは台所に隠れこの騒ぎを聞いていた。

この帰りに加奈子は自動車事故の巻き込まれ入院した。ばらぼらの魔力!

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美倉がばらぼらと彼女の母ムネーモシュネ―(渡辺えり)が経営する骨とう品店に、結婚申し込みにやってきた。なんと土偶のように太った女で「小説家となにか?」と聞いて来る。「人生そのもの!ばらぼらは手の届かないミューズみたいなもの。美しく男を堕落させる」と答えた。ムネーモシュネ―が結婚契約書にサインせよと強引に血判させた!

里見代議士が亡くなり、娘志賀子は葬儀にも顔を見せない美倉の態度に怒り、秘書に「消せ!」と指示した。

美倉とばらぼらの結婚式。異様な雰囲気、薬を喫って美倉が全裸で祭壇で待つばらぼらの元へ。そのとき警察に踏み込まれ大麻使用容疑で逮捕された。

以後、ばるぼらが姿を消して会うことができない。加奈子がやってきて料理を作ったりしてくれるが、ばるぼらが忘れられない。

はじめてばらぼらに会った駅地下街の階段を訪れ、街を歩いていてばるぼららしき女に出会い、追っていくとばらぼだった。ふたりの結婚は母が許されないというので、車で別荘に逃げることにした。途中で車を停め、空を眺め、ばらぼらが「もう疲れた!」という。美倉が「このまま死んでしまって誰にも見つからん、身体が腐って溶けていく」とうと、ばるぼらが突然美倉の首を絞める。驚いた祐介がばるぼらを払うと、強く頭を打って血を流す。

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別荘に入って、ばるぼらが倒れた。美倉は懸命に心臓マッサージをするが反応がない。美倉はこんなばらぼらとセックスをし、胸の肉を食べるという幻覚に襲われる中で、ペンを取り出し「お前のことを書く!」と小説を書き始めた。

感想:

美倉が倒錯した世界に落ちていく様は、暗い猟奇な話であるが、手塚作品らしく、奇想天外で、ユーモアがあって、とても創造性に富んだ物語でした。

美倉とばるぼらの激しい性愛シーン。エログロに落ちることなく品格があって美しいと見ることが出来るのは稲垣さんと二階堂さんのキャラクターによるところが大きい。おふたりのすばらしい演技に何か賞をあげたいですね!

ばるぼら。おそらく手塚治虫さんが作り上げた理想の女性。こうして彼女を理想に仕上げることで自分を高みに上げたのだと思え、手塚治虫さんにこんな一面があったのかと驚きました。

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