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「スノーピアサー」(2013)閉ざされた階層社会をどう革命するか?

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ポン・ジュノ監督作に魅せられ、「パラサイト」「母なる証明」「殺人の追憶」に続く4作目の鑑賞となります。これらの作品の中で最も政治性が強く、「パラサイト」に直接繋がる作品でした。

氷河期となってしまった近未来の地球。生き残った人類を乗せて走り続ける列車「スノーピアサー」。列車の前方は一握りの上流階級が支配し、贅沢な生活を送る一方、後方車両には貧しい人々がひしめき、厳しい階層社会が形成されていた。そんな中、後方車両の中から自由を求める反乱が生起、その行き着く先はというSFドラマ。

先頭車両に位置する統治者を求めて革命隊が闇の車内を突進していく様が、何に遭遇するかわからないミスレリアスさと遭遇してからの狭い室内でのアクション、さらに隠された大きな罠に翻弄されるというエンターテイメント作品でありながら、“ラストシーンに決定的なメッセージを託す”という監督らしい作品です。

SF作品でよく分からない、突っ込みどころもありますが、そんなことより監督作ではめずらしい長いセリフに込められた現代資本主義社会へのメッセージが実に胸に刺さり、また隣国へのメッセージでもあるように思います。

 原作はフランスのグラフィックノベル「Le Transperceneige」。監督:ポン・ジュノ、原作:ジャック・ロブ、バンジャマン・ルグラン、ジャン=マルク・ロシェット、脚本:ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン。撮影:ホン・キュンピョ

編集:スティーブ・M・チェ。

出演者:クリス・エヴァンスソン・ガンホ、コ・アソン、オクタビア・スペンサー、ジェイミー・ベルジョン・ハートティルダ・スウィントンエド・ハリス、他。


鬼才ポン・ジュノが放つ近未来SF映画『スノーピアサー』予告編

あらすじ(ねたばれ):

2014年7月1日.大論争を続けてきた地球温暖化解決策として冷却剤CW-7が地球大気圏に散布された。が、散布直後から地球は氷つき、生物は死滅した。そして、走る方舟「スノーピアサー」に乗り込んだ人達が人類最後の生き残りとなった。

その17年後、2031年列車の最後尾の貧困層の人たち。食べ物はチョコレート状のプロライン・ブロックのみで、もう食べ飽きていた。食べ物だけでない、子供も列車内で生まれており、ここまでどうやって生きてきたか。貧困層のリーダー・ギリアム(ジョン・ハート)、彼を崇拝するカーチス(クリス・エヴァンス)、グレイ(ルーク・ペスカリーン)、カーチスを慕うエドガー(ジェイミー・ベル)らはもはや耐えうる限界と「先頭車両のエンジンを奪い支配者ウイルフォードを殺す」という革命を考えていた。そこにプロラインに隠されて「N-A-M-K」と書かれた赤紙が送られてきた。「ナムグン・ミンス」の略称、セキュリティのプロで、この貨車の前方“囚人監獄”セクションに収容されているという。誰がこの情報を誰に送っているのか?

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囚人監獄セクションへの突入準備として物資輸送用のドラム缶を連ねて扉を破壊する準備を整えていた。監視兵が扉を開く4秒間を狙って実行するというもの。カーチス自身は断ったが、ギリアムにより指揮官はカーテイスと決まった。ギリアムは片脚、片腕だった。

そこに「子供ふたりを供出せよ」と秘書クロードがやってきて、監視兵のもとで身長を計り、アンドリュー(ユエン・プレムナー)の子カーテイスと黒人女性ターニャの子ミディを連れ出す。これに抵抗するアンドリューは腕を冷凍してぶち切るという罰が課せられ7分間車外に腕を晒する。

この騒ぎを収めようとやってきた大統領メイソン(ティルダ・スウィントン)が威厳を正して演説を始めた。

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恐ろしい寒さから守ってくれるのは衣服でも車体でもない、ただひとつ秩序です!定められた場所です。私は前方車両、みなさんは最後尾です」。

監視兵が点呼にきた。カーテイスが兵士の銃に弾がないことを確認して、監獄セクションに突入。収納箱に眠っているナムグン(ソン・ガンホ)を救出した。彼はクロノール依存で頭が朦朧としていた。クロノールは幻覚作用物質であるが可燃性物質で爆薬としても活用できる。

ナムグンに扉を開けるごとにクロノール2錠を与え、先頭車両まで同行させることにした。ナムグンは隣の収納箱に眠る娘・ヨナ(コ・アソン)を起こした。

ヨナが「から!」と声を出す。彼女は透視術という特所能力を持っていた。この車両を通過して次の車両に移動すると光が差し込んで来た。窓から氷ついた廃墟の町を見た。この車両はプロティン・ブロックを作る工場で、かって最後尾車にいたポールが働いていた。原料がゴキブリには驚いた。もうこれは食べられない!赤紙はここに送られてきてプロティンに混入されているという。

「水」という赤紙が送られてきた。ギリアムが「2~3車両前に水リサイクルセクションがある。水を支配してヴィルフォードとの交渉権を得よう。先頭車まで行かなくてもいい」と言い出す。

カーテイスがヨナに次の車両に「何が見えるか?」と聞くと、「扉を開けるな!」と叫ぶ!

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扉を開くと、そこは黒覆面を被り斧や刀をもつ男たち暗殺団の居場所だった。戦闘が始まるや否や「エカテリーナ橋を通過します」という車内アナウンスで、一時休戦。この橋を渡るときが新年だったのだ。

橋を通過中にナムグンがヨナに「よく見ておけ?」とある地点を指示した。そこではすでに解氷が始まっていた。

再びメイソンが現れ「給水セクションで暴力を振るうは下劣!きっちり75%殺してやる!」と宣言した。

ヨナが「前方にトンネル!」と報告。トンネルに入るや暗殺団が赤外線ゴーグルをつけて襲い掛かってきた。

ナムグンが子供のチャンに「火を点けて後方に走れ!」と指示。後方からやってくる革命隊がその火をかざしえ前進、赤外線ゴーグルがハレーションを起こして使用不能。この弱点に応じて、暗殺団と熾烈な格闘を続け、メイソンを確保した。しかしとても凄惨な戦いで被害も多かった。エドが命を落とした。ポン・ジュノ監督らしく集団の格闘シーンが実にうまく撮られている。

ギリアムが「身体を洗え!」と生存者に指示し、兵士を裸にしてその負傷状況から、事後の戦の難しさを判定。その結果、「ヴィルフォード(エド・ハリス)を呼べ!」とここでの取引をメイソンに求めたが「先頭車で氷を溶かして水にしている」と拒否された。

カーテイスは「メイソンを連れて先頭車に行きたい。あんたがリーダーとなってここで指揮を執ってくれ!」とギリアムに求めた。ギリアムは「リーダーはお前だ!先頭車のWの扉にヴィルフォードが居る。話をする時はやつの脚を切り落とせ!」と指南した。

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カーテイスはメイソンを伴って、温室、水族館、スシバーのある車両を通過して前進。スシバーでメイソンが「閉鎖生態系を維持するため厳密に個体数を管理していて魚は1月と7月しか食べられない」と自慢げに話す。カーテイスらはスシを食って、メイソンにはプロティンを食わせた。(笑)

食肉庫を経て、小学校車両に移動。ミディーとカーテイスの所在を確かめると先頭車の方に連れていかれたという。

女性教師(アリソン・ビル)によるヴィルフォードを讃える授業を聞く。ナムグンが「外を見ろ!」と指示し、かって脱走した7人の氷柱となった姿を見せた。「イヌイットだから外で生きれると思っていたんだ!」と。

バイオリン演奏のなか、スキンヘッドの男が篭でゆで卵を配る。その卵の中に「血」という赤紙があった。突然、自動銃による乱射が始まった。女性教師が篭からピストルを取り出しアンドリューを射殺した。車内は修羅場と化した。車内TVでギリアムが処刑されている映像が写し出された。

ターニャの「先頭車に行って!」に応え、カーテイスがメイソンを殺して先頭車に向かった。渓谷沿いのカーブを走る列車。このカーブを利用して後方車両との撃ち合いが始まった。窓に開いた穴から雪の結晶が舞い込み、これをナムグンが指で触って確認した。

その先は上流階級の車両で、サロン・美容室、プールにサウナ室。彼らはパーティーを楽しんでいたが、こちらには無関心だった。ナムグンとヨナは衣装室から防寒衣を盗ませた。ヴィルフォードが放った側近と格闘をしながら先頭車両に急いだ。途中でターニャが命を落とした!

暗いコントロール室を抜け、Wの文字のある先頭車両に辿り着いた。ナムグンがクロノールを要求して、扉を開けようとしない。カーテイスは最後尾車両で暮らした経験を語り、革命を自分がやらねばならない必要性を訴えた。「人を食った。幼いエドガーを食おうとしてギリアムに止められ、彼がその片手を提供したこと。人々は手や足を提供したが自分にはそれをする勇気がなかった」と。

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ナムグンは「開けるのはこの扉でなく外界への扉だ!エカテリーナ橋を渡るときに10年間定点観測をしている場所の氷が溶けだしているのを確認した。舞い込んだ雪の結晶は溶ける徴候を示していた。」と車外に出ることを主張した。

カーテイスは「お前はクロノールで狂っている!」とナムグンを無視した。そこに先頭車から秘書クロードが「ヴィルフォードが晩餐に招待している」とカーテイスを迎えにきた。

ヴィルフォードは「閉鎖生態系の維持ではバランスとの闘いだ。このためにギリアムの協力を得て、頭数を調整している。トンネルで終わるところだったが、お前はやりすぎた」と言い、電話で74%殺害したことを確認した。カーテイスには信じられなかった。

ナムグンは押しかけてくる側近をナムグンが阻止しながら、ヨナに車外への脱出のための爆破準備していた。

ヴィルフォードが「今書いた!」と「列車」という赤紙を見せ、「俺は年取った、交代しよう!列車は世界で我々は人類だ!君が人類を率いるんだ」と言い出す。

ヨナが爆破点火のためのマッチを借りにカーテイスのところにやってきて異変に気付いた。床下のエンジンで子供たちが働いている。エンジンの不調に彼らを使って歯車を廻していた。カーテイスが救い出そうとするが彼らは持ち場を離れない。徹底的に洗脳されていた。カーテイスは自分の腕を犠牲にしてミディを引きずり出した。

このとき爆薬が破裂!氷雪の雪崩で列車は転覆、渓谷に落ちていく!防寒衣で脱出したヨナとミディは積雪の向こうに白熊を見た!

感想:

カーテイスはヴィルフォードを追い詰めたが、これがヴィルフォードとギリアムの賭けた罠で、逆に嵌められていたという結末。赤い紙、クロノール、子供の誘拐などの伏線が見事に繋がり、“あっ”といわせる、面白い物語でした。

閉鎖生態系としての生存しか許されない「スノーピアサー」。カーテイスは革命に成功したが、このシステムでしか生きることができない、貧困層がいなければ成立しない社会システムであることを知り、子供たち(未来)が犠牲になることを知って自分の腕を犠牲にすることした出来なかった。

一方のナムグンは車体を破壊し、「スノーピアサー」というシステムを捨てて生きる道を選んだが、その夢を若いヨナとミディ―に託すことになった。この道は富裕層には絶対に無理、そして車内で生まれ育った外を知らない人に任せるという結末。現在の行き詰まった資本主義にどう対処するかを問う作品になっています。

 99%が黒い画面。時に出てくる光と雪景色が美しかった。未来に託する雰囲気がよく出た色彩使いでした。

 キャプテン・アメリカクリス・エヴァンスの演技に、驚きました!

 コロナ禍で大きな社会変革が求められている今、ベーシックインカムを主張する李在明が次期韓国大統領の最有力候補といわれており、はたしてナムグンになりうるか!

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