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「グエムル 漢江の怪物」(2006)韓国の闇が透けて見える怪獣物語!

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ポン・ジュノ監督が描く怪獣映画は?とWOWOWで観ました。驚きました!これまでに見たことのない怪獣物語でした。(笑)

アメリカ軍がソウルの中心を貫く漢江に垂れ流したホルムアルデヒトで変魚が誕生、成長して人を襲う。喰われた娘を取り戻そうと戦う一家を通して、その背後にある“韓国の大きな闇”を描くというパニック・エンタテインメント。

大きなテーマを持った怪獣映画です。怪獣物語としても楽しめますが、背後にある韓国社会に対する“監督のメッセージ”こそが見どころです。日本も同じような問題を抱えているだけに面白いです。

この作品を観るには韓国における反米軍感情やベトナム戦争に参加した韓国を知っているとよいと思います。

こんな作品を作っていて「パラサイト」(2019)で、よくぞポン・ジュノ監督はアメリカでアカデミィー賞を貰えたな!と(笑) アメリカも懐の大きな国だと思いました。

監督の描く作品ではお馴染みの、冒頭で描かれる主人公の顔がラストでどう変化したか、これがテーマです。

監督:ポン・ジュノ、脚本:ハ・ジョンウォン パク・チョルヒョン、、撮影:キム・ヒョング、音楽:イ・ビョンウ。

出演者:ソン・ガンホ、コ・アソン、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、キム・レハ、パク・ノシク、ヨン・ジェムン、イム・ピルソン、他。


『グエムル -漢江の怪物-』日本版劇場予告編

あらすじ(ねたばれ):

2000年2月9日、駐韓米軍第8部隊ヨンサン基地内慰安室。医官によってホルムアルデヒトの処分を命じられ、キム補佐官が漢江に通じる下水にこれを流した。

2000年6月、漢江で釣り人が小さな変異魚を見つけたがそのまま河に戻した。

2006年10月、漢江大橋で河に身を投げて自殺者の遺体が上半身の一部と左脚だけで発見された。

河原に遊びにくる客目当ての小さな店があった。店番は金髪に頭を染めトレーナー姿で気の利かない居眠りばかりのパク一家長男カンドゥ(ソン・ガンホ)。父親のヒボン(ピョン・ヒボン)に尻を叩かれて仕事、頭が弱そうな男です。今日も客に出す焼きスルメの脚を一本喰った!」と注意される始末。(笑)

ポン・ジュノ監督の作品では、いずれの作品でも“頭が弱そう”な人が重要人物で登場しますが、韓国人をオマージュしているようです。(笑)

そこにカンドゥの娘小学校1年生のヒョソン(コ・アソン)が授業を終えて帰宅、父と一緒に酒を飲みながらTVでカンドゥの妹・ナムジュ(ペ・ドゥナ)が優勝を掛け出場しているアーチェリー選手権を見ていた。

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橋桁に変なものが現れたと客たちが大騒ぎ。河を渡ってこちらの岸に上がり客たちを襲ってくる。

怪物はナマズのような形態で、牛の3~4倍はある。尾で物にぶら下がることができ、またこの尾で人を捕え口に入れることもできる。

カンドゥは米軍人のドナルドと共に観光客を救おうと怪物に挑み、帰り血を帯びた。遂に退避とヒョソンの手を取って逃げたが、実はその手は別の子のものだった。逃げ遅れたヒョソンが怪物に掴まり河の中に。泣き叫ぶヒョソンを助けようと河に飛び込んだが怪物は向う岸に消えた。

退去命令が出され、軍隊が出動し、河川敷は立入禁止となった。

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合同慰霊祭。そこに試合を終えたナムジュが銅メダルを持って駆け、ヒョソンの遺影に手向けた。さらにカンドゥの弟・ナミル(パク・ヘイル)が酒を飲みながらやってきた。ナミルが大学を出たが、学生運動をやっていて、未だに職に就けない。ヒボンは「ヒョソンのお陰で家族全員が集まった」というが、ナルミがカンドゥに「知らない人の手を引いて逃げるバカもの!」と罵声を浴びせて取っ組み合いになり、これを止めようとヒボンとナムジュが加わり、大騒ぎになった。(笑) ヒョソンの遺影はこの騒ぎを笑っているようだった!(笑)

避難した人たちは体育館に収容され、そこに黄色い防護衣の男(キム・レハ)が「ヨンドに居た人、怪物に触れた人、手を挙げてください!」とやってきた。カンドゥが手を上げ「血を浴びた!」と叫んだ。

TVで「怪物は強力なヴィルスをも宿主動物の可能性が高い」というニュースが流れた。

パク一家は隔離病院に収容された。夜、「絶食!」と医者に言い渡されたにもかかわらず、(笑)缶詰を食っていたカンドゥの携帯に「助けて!大きな、深い、下水道溝にいる」とヒョソンの声が入ってきた。

河川道を消毒していた職員が怪物に捕捉され、ヒョソンがいる下水道溝に放り込んできた。亡くなっている人もいればまだ息のある人もいた。怪物は獲物を一時保管する習性があるらしい。ヒョソンはその人たちの携帯が使えないかと集めていた

ビニールで隔離された状態でカンドゥが家族立ち会いのもと警官に「ヒョソンが生存しているので救って欲しい!」と訴えたが、医者・警官が「精神病だ」と相手にしない。ヒボンが「大学卒のくせに警官ひとり説得できない!」とナミルを罵ると、探偵を頼もうというとになった。

探偵が準備した車で病院を脱出。廃品回収所でヒボンが彼らと交渉し、消毒車、猟銃、地下排水溝地図を得た。1140万ウオンを支払った。困ったときに頼れるのは裏組織らしい。(笑)

ニュースで隔離病院から脱走し追われているのはパク一家の4人だけだと知った。(笑) 立入禁止地域に入るために検問所で金を握らせ、下水道地域に入った。次から次へと、暗い陰鬱な下水道を見て回ったが、ヒョソンが居るという徴候は得られなかった。どの作品でもそうなんですが、闇を描くのが実にうまい。下水道の中を探索する映像が印象的でした。

道路を歩いていて、冷たい水滴が落ちてくる。「冷たい!」とカンドゥ。上の道路を歩く幼い兄弟が漏らした小便だった。(笑)

この兄弟は親を亡くして放浪生活をしていた。パクの店に入り食料品をかっぱらって逃げているところを、怪物に捕まり、ヒョソンがいる下水道溝に放り込まれた。ヒョソンが生死を確認すると兄はすでに息切れていたが、弟・セジュには脈があった。ふたりなら心強いと、ヒョソンがセジュを自分の隠れているドカンに匿った。

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カンドゥたちが自分の店に戻ってきた。カップ麺を食べたたら眠くなってきた。ヒボンがナムジュとナミルに「カンドゥは間抜けに見えるか?」とカンドゥの生い立ちを語った。「幼いころは頭がよかったが食べものがなくて人の畑を荒らし、よく寝た!頭がいかれたらしい。お前たちには子を失った親の気持ちが分かるか?だからカンドゥに優しくしてやれ!」と説くが、ふたりは舟を漕いでいた。(笑) このヒボンの話には涙が出ます!

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そのときカンドゥが目覚め、外に怪物が来ているという。覘くと怪物がいた!カンドゥとヒボンは猟銃をぶっ放した。怒り狂った怪獣が店に押し倒して河の方に走る。3人でこれを追って撃った。ナムジュがアーチェリーで矢を放った。が、怪獣の逆襲でヒボンが即死し、三人は逃げた。カンドゥは無念がった。カンドゥは警察に捕まり、感染者として病院に送られた。

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TVが「米軍兵士ドナルドの死。そして米軍とWHOは保菌者2人が逃亡中であり、謎の生物の捕獲に失敗したことで、“韓国に解決を任せられない”。このための解決策はエーズエント・イエローという細菌テロ対策用に開発した最新式化学剤、ウィルス汚染地域に散布すれば関係10km内の細菌が死滅、が有効である」と報じた。

これを機に韓国市民の間に、この薬品使用に反対運動が起こった。また、カンドゥへの同情が出始めた。

ナミルは携帯電話会社に勤める先輩(イム・ピルソン)に頼み、ヒョソンが発した電話位置情報を記録したパソコンを使わせてもらうが、先輩はパスワードを探してくると席を離れ、ナミルを掴まえて償金を得ようとしているやつらと取引をしていた。ナミルはパスワードの見つけその位置を把握した。が、やつらに追われ逃げ、「ウォニョ大橋」とカンドゥとナムジュにヒョソンの居場所を送って、気を失った。

身を隠していたナムジュが捜索を開始してウォニョ大橋付近の地下水道を捜索中に怪物に出会い、尾で跳ね飛ばされて溝に落ちた。

カンドゥは病院で「ウォニョ大橋に娘が生きている」と大騒ぎし、米人医師の診断で「前頭葉にウィルスが侵している。いては困る、国家機密だ。亡くなったドナルド兵士にもウィルスはいなかった」と呟き、前頭葉の手術を指示した。(笑)

下水道の溝にいるヒョソンとセジュ。ヒョソンは怪獣が運んできた人たちの衣類を繋いでロープを作り、セジュに「警察と軍隊を連れて来るから待っていて!」とローブをつたって外に出ようとしていたところに怪獣が戻ってきた。ヒョソンは警察と軍隊が役立たないことを知らなかった!

カンドゥは包帯交換に来た看護師を、自分の血を採取した注射器で脅して、人質として病院を脱出し、ウォニョ大橋に走った。

ナミルは目覚めるとホームレスの男(ヨン・ジェムン)に匿われていた。ナミルはこの男と酒瓶とガソリンを持ってタクシーで火炎びんを作りながら、ウォニョ大橋に向かった。

そのころ、エーズエント・イエローに反対する市民デモ隊が漢江市民広場に集まっていた。

ヒョソンとセジュを飲み込んだ怪物が漢江市民広場に現れた。米軍がエーズエント・イエロー化学剤を散布した。市民の中には血を吐くものがでる。怪獣が弱って倒れたところで、カンドゥはヒョソンとセジュを怪物の口から引き出したが、ヒョソンが絶命していた。

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息を吹き返した怪物をナミルが火炎瓶で、ナムジュが火のついた矢をアーチェリーで射た。のたうちまわる怪物をカンドゥが止めを刺した

雪の降る漢江の川原。夜、小さな店に黒髪のカンドゥが外に異変を感じて猟銃を手に窓を開けて河を見るが何も居なかった。側でセジュが暖かそうに寝ていた。TVが「アメリカの調査委員会はウィルス事件の結果を発表したが、ウイススは発見されなかった」と報じていたが、カンドゥはこのニュースを聞くこともなくTVを切って、カンドゥがセジュを起こし、茶わんに大盛りのごはんを食べさせる。静かな夜が更けていった。

感想:

監督特有のハラハラドキドキ、それでいてユーモアたっぷりで、うまくエピソードを紬ながら物語が展開し、その先に大きな罠があるという物語。

怪獣に捕らわれた娘を取り戻そうと、当初はいいかげんなカンドゥに反発しながら、家族として力を合わせて怪物を倒すという、家族の強い絆を見ることになりました。家族が結ばれていくなかでヒボンの言葉、「子供を失った親の悲しみを知れ!」を寝た振りをして無視していましたが、ふたりはしっかり聞いていました。子供を失う話は「母としての追憶」(2009)に繋がるんですね!これを演じるピョン・ヒボンがとても良かった。ほろりとさせられました。

ここでも階層社会の矛盾が描かれていました。ナミルが「社会の民主化に役だったのに」と今、職がないことに嘆くシーン。“こね”が利く社会。ラストで見せる親の居ないセジュを引き取って過ごすカンドゥが、山盛りの飯を食べさせるシーン、貧しい人に飯の食える国にしてくれと訴えているようです。

パク一家はウィルス感染者としての嫌疑を掛けられ当局から追われながら、ヒョソンを取り戻そうと奔走するが、実は米軍が大量のホルムアルデヒトを漢江に放出したことを隠すために、怪物によるウィルス感染を持ち出し、エーズエント・イエロー化学剤で怪物を処分しようとした罠に翻弄されていたという結末。まさに米韓地域協定の矛盾、さらにベトナム戦争の枯れ葉作戦で苦しむ“韓国の実情”が描かれたように思われます。

カンドゥが脳の前頭葉の記憶を排除する手術を受けながら、こんなことしても無駄だぞ!と立ち上がり、怪物に止めを刺したことにこの作品の意味がありましたね!

銃を常に身近に置き、漢江を睨みながら生活するカンドゥ。今までとは違った自らの力で生きていく強い気迫が見られます。

怪物については日本ならもっと上手く作れるぞと思いましたが、このシナリオが凄い!日本映画の限界がここにあるように思いました。すばらしい作品でした。

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