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「ヤクザと家族 The Family」(2021)ヤクザ映画だがヤクザ映画ではない、法規制で消えていく「ヤクザ家族」の物語!

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「新聞記者」「宇宙でいちばんあかるい屋根」の藤井道人監督作であること、綾野剛さんの出演に期待して本作を鑑賞することにしました。期待したとおりの現代社会の矛盾を突き、愛に溢れた作品でした。そして圧巻の綾野さんの演技を観ることができ、大満足の作品でした。

父親の麻薬で家族が崩壊し自暴自棄に過ごしていた少年。地元のヤクザ親分に手を差し伸べられ、親分と父子の契りを結び「ヤクザ家族」の一員となり、好きな女性に出会った。こうしていっちょまえのヤクザになったが、1999年地域のヤクザ抗争に巻き込まれ、「ヤクザ家族」を守るため、自ら身替りとなり14年間の刑を終えて世間に戻ると、暴力団排除条例の施行で、「ヤクザ家族」は崩壊寸前、再会した彼女との生活も世間から排斥され、自分の居場所がないことを知る。平成生まれのヤクザに出会い、彼が選んだ生き様は・・・というヒューマンエンターテイメント作品です。

古いヤクザ気質の人情仁義に熱い親分、平成ヤクザとして生きた男、平成生まれで令和に生きるヤクザ。三代にわたるヤクザの生き様を家族という視点からとらえた情感豊かなドラマです。ヤクザ抗争アクションも、これまでに観た作品に劣らない、こんな撮り方があるのかという迫力あるものに仕上がっていて楽しめます!

見どころは家族になっていく過程が、“これが家族だ!”と納得が出来るよう丁寧に描かれています。それだけに後段の居場所のない男の寂しさ、人生において何が大切かを考えさせてくれます。

暴力団排除条例は彼を追い込んでいった。14年の刑を終え、ヤクザを辞めても普通の人にはなれなかった!彼だけでない、妻も娘も追い込まれる。ここで選んだ決断はヤクザらしい愛に満ちたものであったと泣けます。

彼らが救われることはないのか!もっとやさしい社会であって欲しいと願わずにはいられない作品でした。この視点は現在のコロナ禍でも見られ、今の時点で公開してくれたことに意義があります。

監督・脚本:藤井道人、撮影:今村圭佑、音楽:岩代太郎、編集:古川達馬。

出演者:綾野剛館ひろし尾野真千子磯村勇斗寺島しのぶ北村有起哉市原隼人岩松了豊原功補駿河太郎、他。


映画『ヤクザと家族 The Family』予告篇

あらすじ(ねたばれ):

1999年、白いノースフェースの上下に白いナイキのスニーカーに金髪のチンピラ山本賢治綾野剛)が麻薬常習犯だった父の葬儀に駆けつけとけると、そこで県警組織犯罪対策本部刑事大迫(岩松了)から「お前も父親のようになるか!」と悪態を浴びせられる。チンピラ仲間の細野(市原隼人)に呼び出され、仲間の大原(二宮竜太郎)を加えて、父親を薬漬けにした新興の経済ヤクザ・侠葉会の薬売人の車を襲って薬を奪い金に還元。山本のチンピラいでたちに圧倒されます。

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山本ら3人は馴染みの中華店で焼肉を食っていた。そこに地元のヤクザ柴咲組の親分・柴咲博(館ひろし)と若頭の中村(北村有起哉)が飯を喰いにやってきた。女将の木村花子(寺島しのぶ)の夫は柴咲組の元若頭で侠葉会に殺されていた。柴咲は気さくで組員の世話をよく見る親分だった。そこにチンピラが駆け込んできて柴咲に拳銃を向ける。咄嗟に山本が蹴りを入れこの危機を救って、そのまま店を出た。

恩義を感じた柴咲は配下に命じて山本を呼び出し、仲間に入らんかと誘った。薬は取り扱わないし、義理・人情のある男磨が出来ると誘ったが、山本は断った。

山本ら3人は薬を奪ったことで侠葉会に捕らわれ、徹底的に虐められ、香港へ売り飛ばすと港に着いたところで、山本のポケットから柴咲の名刺が侠葉会若頭の川山(駿河太郎)の目にとまり、柴咲組との取引に使われ、解放され柴咲の元に返された。ここでの柴咲の痛められ方、その傷の痛々しさ、絶望感がしっかり描かれ、柴咲に救ってもらったことへの恩義が伝わってきます。

 

柴咲は侠葉会との間で何があったかなど話さず、「よく頑張ったな!」とやさしい声で髪を撫でた!山本は泣いた!山本が俺の親父はこの人、何があっても守ると決めた瞬間だった。言葉でなくふたりの表情で読み取れ、親子になったという説得力のある描写で涙が出ます。

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山本は柴咲と親子の盃を交し、いっぱちのヤクザになった。

2005年、山本は背中に立派な彫り物を背負っていた。このころ侠葉会と柴咲組の戦争勃発が噂されるなかで、トラブル解消に駆けつけたクラブで侠葉会の若頭川山に出会った。川山が「時代遅れの老人は引退してくれ!取り残されるぞ!」と山本に吐いた言葉で、山本はビール瓶で川山の頭を殴った。これが引き金となって、対立が激化していった。それでも柴咲は山本を責めることはなく、まるで我が子のように接していた。

山本は川山を殴ったビール瓶の破片で怪我し、その手当てしたのがホステスの工藤由香(尾野真千子)だった。由香は学費稼でキャバレー務め、純粋で勝気で山本を寄せ付けなかった。由香も山本同様に両親を亡くして家族がなかった。しかし、由香は山本が真っすぐな男で、遊びでつき合っていないことを知り次第に心を開いていった。

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遂に柴咲の車が侠葉会により襲撃され、運転していた大原を失うという事態に陥った。同乗していた山本は負傷し、大原の死をまるで兄弟を失ったように悲しんだ。大原の葬儀に大迫刑事がやってきて柴咲に町の南部から手を引けという。柴咲は反対した。これを山本は聞いていた。大迫はこの地域に紛争が起きなければいい主義で侠葉会に肩入れしていた。

山本は拳銃を持って、女と寝ている侠葉会会長の加藤(豊原功補)を襲ったが、そこに兄貴の中村が現れ短刀で加藤を刺した。柴咲を支えられるのは兄貴だと山本は中村の短刀で何度も何度の加藤を刺した。

血飛沫を浴びた姿で由香のアパートに現れ、震えながら泣くという無様な姿を見せた!この姿を見た由香は山本の全てを受け入れた。柴咲は「親不孝者が!」と言いながらやさしく抱いて、警察に送り出した。

2019年、山本が中村の出迎えを受けて戻ってきた。しかし、柴咲組の事務所は閑古鳥が鳴く有様で、組員は辞めて行ったという。痩せ衰えた親分が「ごくろうさん!ごめんな!」と迎えてくれた。親分はガンを患っていた。

ヤクザの本義を守ってきた中村がヤクの売買で組を支え、薬使用者に堕ちていく。辞めた組員は密漁などの闇商売。細野は産廃事業所に職を得て家族を持っていた。山本を避けるような態度をとる。

暴力団排除条例が施行されたことで、携帯は持てない、銀行・保険証をもつまでに5年かかったという。家族は暴力員であったことがバレたら世間の非難に晒される。

愛子の中華店を訪ねると、昔面倒をみていた翼が昔の山本そっくりの金髪ヤクザになっていた。(笑) 愛子は昔のようにやさしく山本を迎えてくれた。

由香は市役所で働いていた。会うと、娘・綾(小宮山莉渚)がいると告げて、金を渡して「来ない!」でという。

山本は娘が居ることに驚き、ヤクサを辞め、細野のいる産廃事務所で働くことにして、由香の家に入れて貰った。

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翼のシノギはかっての山本らのやっていたものと変わらないが、“義理人情だけでは食えない。あんたたちとはやり方が違う”と侠葉会の誘いを断り、“開かれたヤクザ”を模索していた。こんな翼に大迫刑事が「親父と同じ目に遭うぞ!」と近ずく。翼が「俺は感謝している」と山本の写真を見せ、「あんたたちが町を壊した」と罵った。これに恨みを持った大迫が山本、細野の素性をネットに流し、2人が産廃場から追われ、由香も市役所を、娘綾は学校を辞めて家出。由香が「あなたは何故帰ってきたか」と山本に問うたが、何も答えず家を出た。

山本が中華店を訪ねた。翼が「父を殺したやつが分かった!親分が弱ってる」という。山本は「愛子さんを大切大事にしろ!」と翼に言い、親分の病床に駆けつけ柴咲に別れの挨拶をした。「愛子さん」に由香を重ねていた!

夜、山本は由香に電話したが不在なので留守電にメモを残した。「普通の自分になり、普通の生活をしたかった。それが傷つけた。綾を産んでくれてありがとう。愛している!」。

山本は、翼が復讐したいと漏らした相手を刺し、防波堤で海を見ているところを細野に「あんたが戻っていなければ・・」と刺され、「ごめんな!」の言葉を残し、海に落ち沈んだ。後日、翼と綾がこの防波堤を訪ね、花を手向けた!「あんたヤクザ?」「ヤクザなんて食っていけない!」「兄貴ってどんな人だった?」。

感想:

ヤクザ映画だがいわゆるヤクザ映画ではない、法規制で消えていく「ヤクザ家族」の物語りだった。

冒頭で海中に沈み山本の姿が、ラスト近くで大原に刺されて海に落ち沈む山本に繋がり、次に生まれてくるときは“ヤクザではない”という山本の強い想いが伝わってくる作品でした。この想いは令和のヤクザ・翼に、そして父の実像を知らない娘・綾に引き継がれるといううまい演出でした。山本の「普通の自分になり、普通に暮らし、家族を持ちたかった!」の言葉に泣けます。

海と煙突の見える街。遠方の山並みは駿河湾に落ちる伊豆の山並み。ロケ地が富士市、静岡清水区一帯?清水次郎長生誕の地、ナイスなロケ地選定でした!

時代が変化する度に出てくる煙突は富士市の製紙工場のもの? ここにしがみついてしか生きることが出来ないヤクザの宿命を表現しているようですが、ここはかって煙公害で苦しんだ地。いまではきれいな煙が流れています。ヤクザの移り変わりを暗示しているようで、翼がどのようなヤクザを目指すか、見ていたいですね。磯村勇斗さんの清々しい演技とともに!

綾野さんと館ひろしさんのヤクザ親子。持てるエネルギーを吐き出すやんちゃなチンピラから、ドスの利いた生気を漲らせ家を守るヤクザを経て、家を亡くし彷徨する山本へと変化する綾野さんの演技。そして、義理人情まるだしでだが、いざとなれば燃える狂気を秘め、時代を受け入れようとする枯れヤクザの館さんの演技。すばらしかった!時代に翻弄されながら、最後まで変わらなかったふたりの親子愛が堪らない

山本と由香の結びつきがとても丁寧に描かれ、家族を亡くしていた者同士の結ばれ方で、由香は山本がヤクザだからと聞いて“びくつく”女性ではなかった。ふたりの演技にその心情がよく表現されていた。

しかし、山本の素性がバレ、市役所を辞めさせられ娘を失ったことで、由香は「なぜ戻ってき来た?」と山本に言葉を投げたが返事がなく、「出て行って!」の言葉を発した。山本は何も言わずに家を出て行き、由香は家族を解消した。山本の由香への愛は透けて見えるが、言い出せなかった心情に泣けます。が、山本は弱すぎた!

映像が美しく迫力があった。前段のヤクザの抗争劇。激しい動きを捕えた迫力あるシーンが楽しめるよう画面をシネマスコープにして移動カメラを多用し、後段の消えゆくヤクザの姿を抒情的に描くためにビスタービジョンで撮る、またカメラアングルの面白いものが多見され、カメラマンの苦労が伺える映像でした。

強い法規制で一気に追い込めば、時流に乗れず、行き場を失う人が出てくる。基本的人権さえも奪ってしまう現況には、社会としてのやさしさが求められます。

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