韓国映画には力強さがあると、できるだけ観るようにしています!
韓国プロ野球には女子はダメという規定はない。なのに誰もプロでやろうとしない。初めから女子は無理という風潮がある。でも私はリトルリーグから野球をやって賞も沢山もらって、高校3年で130kmの速球を投げられる。プロでやりたい!そんな少女がひとりのコーチに出会い、世界を変えていくはなしです。
本作もなんの変哲もない物語ですが、韓国の野球事情や苦しい生活環境のなかでプロ選手になることがいかに難しい夢であるかを知り、この夢を強い意思と努力で追い、これに触発されるように周囲が変わっていく人のやさしさを感じる作品でした。なんといっても主演の“イ・ジュヨン”のひた向きな演技、透明感に、自分を含めて4人の観賞でしたが、最後まで惹きつけられました!
エンデイングの主題歌「空の中で夢を見る」、とても爽やかで、ドラマに合っていました。
監督・脚本は本作が長編デビューとなるチェ・ユンテ。
出演:イ・ジョヨン、イ・ジュニック、ヨム・ハラン、ソン・ヨンギュ、クァク・ドンヨン、チュ・ヘウン。
あらすじ(ねたばれ):
高校3年生のチュ・スイン(イ・ジョヨン)はリトルリーグから高校まで野球づけの少女。すっと一緒だった球友がイ・ジョンホ(クァク・ドンヨン)。
父親(ソン・ヨンギュ)は失業中で土地建物取扱士取得の勉学中。家族の生活は母親(ヨム・ハラン)に頼っている。年の離れた妹がいる。スインはこのような生活環境のなかでプロ選手を目指して頑張っている。
3年生になってプロからの誘いは、同級生のなかでジョンホただ一人。中学まではスインの方が手も大きかったし球速もあった。高校になって逆転したが、決して今の力が限界だとは思っていない。
パク監督は「女性だからな!」とプロ行きを諦めている。韓国ではこれが一般風潮。しかし、韓国のプロ規定に選手の男女区分は存在しない。
学業の方は運動選手は特別扱いで、試験も居眠りして無回答でも単位は取れる。(笑)それだけに3年生での進路決定は大切だ。「いい加減に見切りをつけて勉強を始め就職に備えて欲しい」という母親の想いがあり、「もう見切りをつけて!」という母親と衝突する。
スインは諦めずトライアウトを受けようとするが、受付で女性だと知って、実技は受けられない。スインの女性友達、アイドル志望のバン・ハングル(チュ・ヘウン)に「ギター買って曲作る!」と話しかけ気休めをする。(笑)
パク監督は後輩のチェ・ジンテ(イ・ジュニック)をコーチに招聘した。というより、ジンテは独立リーグでプロを目指していたが叶わず、飲んだくれて妻子にも見放され、監督が見るに忍びず面倒を見ることにしたのだった。
監督は「プロを諦めて韓国ナショナルチームに入ってはどうか?」と指導するが、スインはあくまでもプロを志すと断った。ジンテも「無駄だ!」と思った。
ジンテは「野球部に何で女の子がいる?」と思った。スインはジンテに自分の力を見て欲しとグランドに誘い130kmの速球を投げたが、ジンテはスインを見向きもしないで、打てない打者にコーチする有様。スインはこれからの1年間をどう過ごすかと、自分のブースで考えた。このブースはトイレを改造したもので、スイン専用のものだった。(笑)
次の朝から、スインが早朝からランニングを始め、球速150kmを目指して、再出発を誓った!昼夜をとわずの練習で掌は血まみれ!それでも129kmの球速しか出ない!
ジンテはコーチにやりがいを感じはじめ、妻子と別れることにした。妻から「独立リーグでコーチになった人は成功している」と励まされた。
ジンテは自分の指導方針に従い、全員にグランド50周の特別メニューを課した。スインには「練習に出て来ないでよい」と指示したが出てくるので、ひとりで走れ!と命じた。スインの練習は相変わらず昼夜に及びボールに血が滲んでいった。
そんなボールを見たジンデの心が動いた!ジンテは「スインを怪我させてはいかん!」と監督に相談すると「気にするならテストを受けさせろ!あいつの利点はボールの回転数が多いことだ」という。ジンテは彼女の指導録を調べた。
部員の主力は合宿で学校を離れるが、スインは費用が出せないと居残りとなり、ジンテが面倒を見ることになった。訪ねてきたスカウトに「あの子を頼む!」とトライアウト招聘を打診すると「あの子が野球選手に見えるか?」の無碍なく断られた。これを見ていたスインは「バカどもめ!」と胸の中で叫んだ!
ジンテはスインに「現実を観ろ!」と話すと「高校では野球は出来ないと言われたが、こうやって出来ている。だからやる!トライアウトを受けられれば十分だ!」とコーチになって欲しいと申し入れした。
ジンテは球速に拘るスインを説得して回転数の高いボールを投げる練習をすることにした。スインはトライアウトに参加できることを信じて、当初は全くコントロールが悪かったが、徐々によくなってきた。ジンテは常にスインに付き添って練習した。これを見たジョンホも練習につき合うようになった。
スインの練習熱意がジンテ、ジョンホを動かすようになっていった。ジョンホ
が「中学時代、あいつがいたから俺は頑張れた!」とジンテに漏らした。シンテも同じ気持ちだった。
父親が不正受験で警察に捕まった。母親はグローブを焼いて仕事に就くことを勧め、スインは事務でなく現場で働くことになった。それでもスインのバックには燃えたグローブが入っているのを見た母親は娘の気持ちに耐えられなくなっていった。スインは仕事を続けながら練習に励んだ。
そんなある日、ジンテから練習の誘いがあった。ジンテはそこにスカウトを招いていた。スカウトはスインを見て「あの女の子が!男子並みだ!」と驚いた。
ジンテは焼肉を奢って、グローブを贈り、トライアウト参加を伝えた。ジョンホ
は爪を保護するようにとマニュキアを贈った。
スインはトライアウトの日に備えて、家でも職場でも暇を見つけてトレーニングした。父親にキャッチボールをしてもらった。
母親がトライアウトに反対したが父親が「部の部屋にいるだけでも苦しんだ!スインの苦しさを察してやれ!」と説得した。
トライアウトの日。スインはマウンドに立ち、ナックル投球で文句のない成績を挙げ、受験者たちから大声援を受けた。これを見た母親は「自分の考えが間違っていた!」とスインに詫びた。ジンテは母親に「スインが自分で辞めるというまで口を出さないように!」と伝えた。
学校で結果を待っているところに「来て欲しい!」という連絡が入った。
スインは球団事務所を訪ねた。オーナーから提案されたのは「プロになるにはボールの早さが必要だ。野球に女子が関わるのがいい、フロントで働いて欲しい」というものだった。スインは「自分のトライアウト映像観てくれましたか?野球は難しいスポーツです。ボールが速いかどうかだけでなく勝ことです!」と質問し、部屋を出た。「ちょっと待ってくれ!」と追いかけてきたスカウトに「私が野球選手に見えますか?」と問いかけて、去った。
この結果にシンテは「お前のお陰で、俺はここに居れた!」とスインに感謝した。
オーナーはトライアウトの映像を確認し、プロ2軍選手として採用され6000万ウオンで契約となった。母親はそれは払えないと言い・・・(笑)
スインが晴れてプロ球団のマウンドに上がり、スコアボードを見上げた!
感想:
韓国には女子独立リーグはない。1997年韓国プロ野球が主催する試合に先発登板したアン・ヒャンミ選手が唯一女子選手として参加した試合だそうで、監督はヒャンミ選手に触発される形で、脚本を作ったとのこと。
日本では2008年独立リーグで日本初のプロ野球選手となった吉田えりさんの記録があります。彼女はナックルで有名で、監督はこのエピソードを使ったと言っています。
女性の人権をテーマにした作品です。しかしこの作品は、主人公は誰にも文句を言わない、ひたすら自分で努力して、限界に挑戦していくところが特色。スインの「人生は自分が決める!」という言葉が人を勇気づけてくれます。
人の見方は変わる。監督、コーチ、仲間、家族、そして球団のオーナーさえもスインの生き方によって変わっていくところが見どころでした。夢を追うには、堅固な意思と血を吐くような努力が必要です!人はそれを見て変わる!
就職難、受験難やアイドル志望など細かいところに今の韓国事情が表現されていて、これを知るのも楽しみでした。
初監督作品にしてシネマスコープで撮る力がある。韓国の映画への情熱ではないでしょうか。
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