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「ミナリ」(2020)世代を継いでアメリカに逞しく根を張って行く韓国家族の物語!

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アカデミー賞有力候補作品ということで観て参りました。

農業で一山あてたいという父親に連れられ、アメリアーカンソーの高地に移住した韓国人家族が大自然の中で困難に立ち向かい生き抜く姿を描いた物語。

ミナリとは韓国語で香味野菜のセリ(芹)のことで、「逞しく根を張り2度目が美味しいということから、子供の世代の幸せのために、親の世代が一生懸命に生きるという意味が込められている」そうです。

監督はアメリカ生まれの韓国二世のリー・アイザック・チョン。出てくるエピソードはいずでも自らが体験したもので、これらをうまくアレンジして作られた物語だそうです。

それだけに異国異民族の中でどう暮らしていくかという生き方がリアルに描かれています。この話は移民に止まらず、これからの時代をどう生きるかに繋がる物語でもあります。

未知の自然を相手に、苦難を克服しながら家族が強く結ばれて、アメリカの中に溶け込んでいくという、気の遠くなるような時の流れのなかで、すばらしいエピソードで紡いでくれ、とても心癒される作品でした。

監督・脚本:リー・アイザック・チョン、撮影:ラクラン・ミルン、音楽:エミール・モッセリ。 

出演:主演に「バーニング劇場版(’18」のスティーヴン・ユァン、共演にハン・イェリ、アラン・キム、ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョン、ウイル・パットン、他


【公式】『ミナリ』3.19(金)公開/本予告

あらすじ(ねたばれ):

時代は1980年代。韓国人の一家、夫・ジェイコブは「アーカンソーの高地は韓国野菜を作るのに最適な土地だ」と妻・モニカ(ハン・イェリ)、長女・アン(ネイル・ケイト・チョー)、長男・デビッドを引き連れて、カリフォルニアから移住してきました。

カリフォルニアの韓国村?で孵卵業(ヒヨコの雌雄判定)に従事していたが、ジェイコブの一旗揚げたいという思いからの移住でした。彼はかなり農業には詳しいが、アメリカの土地・気候でやっていけるか?それにデビットは心臓欠陥のある子でした。モニカはデビットのことが不安だった。

農場に着くと住宅は車輪のついた平屋。これを見たモニカは夫に騙された!と言い、彼は「夢のためだ!」と家族に自分の夢を押し付けての移住だった。

孵卵の仕事をしながら、野菜作りを始めることにしました。孵卵場初出勤の日、場長が韓国から来た人と紹介し、歓迎の拍手を促しても誰も拍手しない。韓国人が嫌われているんですね。それでも韓国出身の女性がいて、モニカに声を掛けてくれます。

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野菜作りに当たって現地で白人の農夫・ポール(ウイル・パットン)を雇って水源を探るが、ポールはダウジングで探すというもので、ジェイコブはこれを信じず地形を観察し試掘して見つけます。ポールから耕運機を譲り受け、原っぱを耕すことから開始。この際、ポールが一緒に働きたいというので仲間に加えました。

ポールは朝鮮戦争に従軍した人のようです。韓国とアメリカ人の関係は日本にはないものがあります。この戦争を契機に米軍は韓国に駐屯し、以来ずっと人の交流があり、日本は知らないが韓国は知っているというアメリカ人が結構います。ジェイコブはいい人で、精神的にずいぶん助けられました。彼は教会には顔を出さない。礼拝の日には十字架を背負って苦行をする人。

ある日、トルネードに襲われた。家の中がびしょ濡れになるという被害。しかし、モニカには野菜作りが出来るのか?それ以上にデビットの心臓が心配だった。夫婦は大喧嘩を始め、ふたりの子供は「止めて!」と紙飛行機でサインを送った。(笑)

韓国からお婆ちゃん・スンジャ(ユン・ヨジョン)に来てもらい、子供たちの面倒を見てもらうことで妥協しました。

このお婆ちゃんが、デビットにとっては、とんでもないお婆ちゃんでした。(笑)

ケーキは作れないし男のパンツをはくし、中でもお婆ちゃんが作る薬湯が大嫌いだった。それでいて花札が好き!これには喜んでつき合う・・。

しかしスンジャが来たお陰で、モニカは孵卵仕事に精を出すことができ、ジェイコブの畑仕事も捗ります。今までの不仲がどこに行ったようでした。

いよいよ種まき。ポールが厄払いをと勧めるが、「そんなものはいらん」と韓国風に種を植え付けていきます。ジェイコブは無信仰で己の力を信じる人のようだ。予想できない天候気象や害虫で失敗したとき何に救いを求めるか、これは問題です!

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ジェイコブとモニカが孵卵工場に、アンが学校に行くと、家にはお婆ちゃんとデビットだけ。デビットはお婆ちゃんのお供で畑を通りこして、きれいな流れの小川を見つけた。あ婆ちゃんは“水か良い”と言い、ミナリの種を撒いた。その夜、お婆ちゃんは「ミナリを植えてみてはどうか?」と勧めたが、返事はなかった。

モニカは家計の足しにと家にひよこを持ち帰ってうまく判別が出来るようにと練習をする。そんなモニカにジェイコブが「寂しくないか?」と心配すると「友達が必要、教会に行こう」という。家族で教会に行くと、皆さんに歓迎され、アンにもデビットにも友達が寄って来る。デビットはジョニーという男の子に「遊びにいっていいか?」と問われる有様。あ婆ちゃんとジェイコブにとって教会は苦手のようだった。

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お婆ちゃんとデビットの関係に大変なことが起こった!TVのプロレスリング試合を、薬湯を飲みながら観戦するお婆ちゃんに、デビットがコーヒーを入れてあげると、小便をいれて飲ませた。(笑)

これを知った父母はデビットに棒で叩くという罰を与えるのですが、お婆ちゃんが「おしっこを飲むのも楽しかった!」と必死に止めた。デビットは7才になってもよく寝小便をする。お婆ちゃんは両親の厳しい躾けが原因であると読んでいた。よく出来たお婆ちゃんだった。このことがお婆ちゃんとデビットの関係を特別のものにあいていった。

しっかり野菜が育ってきたところで、ジェイコブは土地が乾いていることに気づき、モニカに「責任は自分が取る」と言い高価な水道水を使った。モニカには「夫は自分のことしか考えない、このようなことが続くと家族はどうなるの?」と心不安になってきた。夜には空に雲が広がる。自然を相手の野菜作り、難しいところです!後に彼はポールのダウジングを受け入れ土地を耕します。

こうして出来た野菜の出荷先を探すが、見つからない。ジェイコブは「韓国人を馬鹿にしている。水道代が無駄になった」と悔やむ。悪いことが重なり、水道が出なくなったり、モニカが孵卵の仕分けで失敗、デビットが足首を挫く。

お婆ちゃんがデビットの足を包帯で固定して「走ってみろ!」と連れ出し、ミナリの生育状況を確認に出掛けた。立派に成長していることを確認して大喜び。

デビットが「ヘビがいる」と石を投げるのを「やめなさい!見えるのが良い、危険を避けられるから!」と咎めた。とても理にかなった生き方を教えます。

お婆ちゃんはモニカにデビットはしっかり歩ける力があることを明かし、心配し過ぎを注意します。さらにデビットが就寝時教会で教わった通りに「夢の中で天国を見る」ということに「夢を見なくてよい」と教えます。病弱なデビットは天国を死んで行くところだと思っていると。お婆ちゃんはとても現実的な生き方をする人です。

こんなお婆ちゃんが脳梗塞で倒れた。モニカは「お婆ちゃんに二度と迷惑を掛けてはいけない!」と看病します。モニカはポールを食事に招いて、家の厄払いをしてもらった。ジェイコブは「必要ない!」というが、モニカは「ありがとう!」と感謝した。お婆ちゃんは完全にボケてしまった。デビットは「お婆ちゃんはここに来なければよかったのに!」とお婆ちゃんのベッド側で寝るようになった。

モニカはお婆ちゃんが工面してくれたお金でデビットの心臓疾患治療を受けるため、ジェイコブは韓国料理店に野菜を買ってもらおうと、お婆ちゃんを家に残して家族で韓国街の病院に出てきた。

デビットの診断が終わって結果を待つ間に、モニカが「喧嘩ばかりしたがあなたなしではダメだ。カリフォルニアに一緒に帰ろう」とジェイコブを誘うが、彼は「ここで頑張る」を拒否した。

診断結果は「水のせいで、手術は必要なく穴は埋まる」というものだった。モニカは喜びの声を上げた。

野菜を買ってもらう交渉は「来週から買いましょう!」という好結果だった。しかしモニカは「あなたは家族より仕事が大切な人。今、結果がよくても将来はない、別々に暮らす」と伝えた。

夜になって車が家に近づくと変な匂いがする。お婆ちゃんがゴミをドラム缶で燃やしていて、火が納屋に移って大火事になっていた。

ジェイコブは燃える納屋に飛び込み、収穫した野菜を運び出す。これを見たモニカも納屋に飛び込んだ。ふたりで精一杯野菜を運び出した。「風と共に去りぬ」の火災シーンのように何もかもが燃え尽きた。疲れ切ったモニカをジェイコブは抱いた。この間、姿が見えなくなったお婆ちゃんをアンとデビットが懸命に探した。デビットが走っていた。やっと見つけて「家に帰ろう!」と連れ戻した。

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5人は焼け残った家でぐっすり眠った。翌朝、ジェイコブはデビットの案内で小川に出向いて、お婆ちゃんの育てたミナリを見つけ「お婆ちゃんのお手柄だ!」と採取した。

感想:

「あれ!これでお終い」という感じで、もっと観ていたかった。終ってからじわりじわりと感動が出てくる物語、自然の映像が美しい作品でした。デビットのアラン・キムの愛らしさ、ユン・ヨジョンの破天荒な元気婆ちゃんぶりに大拍手です。

お婆ちゃんの撒いたミナリが移住家族の生活を支え、家族がアメリカの生活に根付いていく、まさにミナリの持つ意味どおりでした。うまいタイトルと、よくできた筋立てでした。

とても静謐で辛い物語でしたが、ユーモアたっぷりのお婆ちゃんとデビットのエピソードに笑い、生きたセリフと出演者の自然な演技で見せてくれる、家族の絆の深まりに感動しました。

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ジェイコブは仕事優先で家族は二の次、一方モニカは今の家族の幸せを大切にする人。ふたりの葛藤がラストの火事で吹っ飛び、家族が再生されていく様は圧巻でした。火災が発生し生産した野菜全部を失うときのジェイコブの死をも覚悟した姿を目にして、モニカは彼を放っておけなかった。実は苦難に遭うたびに家族は強くなっていた。

植物が火事で燃えてその後に新しい芽を出すように、火事で納屋が燃えて家族の中に新しい絆が芽生えたようです。異郷の地で生きるには「何度でも立ち上がる勇気」「孤独の克服」が大切であることを教えてくれました。このことはいかなる仕事、環境であっても同じです。

孤独を克服し社会に溶け込んでいくためには、「郷に入っては郷に従え」という諺があります。ポールを雇ったこと、キリスト教徒であったモニカが大きな役割を果たしました。未知の大自然に立ち向かうには神を信じる心が必要ですが、これが過ぎるとポールのようになってしまう。うまい描き方だったと思います。

お婆ちゃんの家族の生活を変えるほどのインパクトのある生き方は痛快でした!先の読めない状況で夢ばかり追っていてはとんでもないことになってしまう。現実をしっかり見る目が大切で、お年寄りの人生は役立つことを教えてくれました。これが一番かな!(笑)

東洋系に対する暴行事件が多発している今だからこそ、観るべき作品ではないでしょうか!

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