名作「市民ケーン」の影の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツの伝記を描いたNetflixオリジナル映画作品。第93回アカデミー賞で10部門にノミネートされ撮影、美術の2部門受賞というこの機会に、当地では一日一回の上映、やっと観ることができると駆けつけました。(笑)
「市民ケーン」(1941)は、
「アメリカの新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが自宅で息を引き取る直前につぶやいた「薔薇のつぼみ・・・」に彼の人生の糸口があると考えた記者が、ケーンの別れた妻などゆかりの人物たちに話を聞き、「薔薇のつぼみ」の謎を探るという物語。
監督・主演を務めたオーソン・ウェルズの功績と認識されているが、マンクがクレジットの権利を契約上破棄したことから、真の貢献者を誰かという議論があるという。この作品ではマンクの“執筆動機”をあぶりだし“彼の生き様”を明らかにしようというもの。
本作を観る前に「市民ケーン」を観ておくべきなんですが、いろいろありまして(笑)、あらすじだけ読んで観ることにしました。これは良くなかった、作品を観ておくべきだと反省です。😊
この作品を選んだ理由はデヴィッド・フィンチャー監督作ということでしたが、脚本が監督の父ジャック・フィンチャーの遺稿だと知り、何としても父の遺作を伝えたい、今の“ハリウッドへのメッセージ”ではないかと思いました。
脚本:ジャック・フィンチャー、監督:デヴィッド・フィンチャー、撮影:エリック・メッサーシュミット、美術:ドナルド・グレアム・バート、衣装:トリッシュ・サマービル。編集:カーク・バクスター、音楽:トレント・レズナー アティカス・ロス。
出演:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、リリー・コリンズ、アーリス・ハワード、トム・ペルフリー、チャールズ・ダンス、他。
あらすじ(ねたばれ):
1940年、新鋭の映画監督オーソン・ウエルズ(24歳)はRKOから何を書いてもよいという権利を得て、マンキーウィッツ(マンク)(ゲイリー・オールドマン)に新聞王ハースト(チャールズ・ダンス)をモデルにした脚本を依頼した。
マンクは自動車事故で入院していたが、差し向けた車でハリウッドの映画牧場ヴィクターヴィルに閉じこもって90日間で仕上げるというものであった。執筆のために秘書として英国人のリタ・アレクサンダー(リリー・コリンズ)、家政婦としてフリーダー、さらに俳優のハウスマンが付き添った。
ウェルズは電話で「週一度報告、権利は俺だ!」と電話で言ってくる。マンクは「24歳のくせに!」と。
マンクは映画業界で経験してきたことに思い出しながら口述、リタにタイプさせる。するとリタが「分かりました!誰がモデルか」と言い出す。
物語はマンクの執筆活動とその背景となるマンクの記憶が交互に描かれます。
1930年、ハリウッド撮影所。
マンクはパラマウント社で「天才が仕事中」と銘打った部屋で弟ジョセフ(ジョー)らライターと脚本作りをしていたが、不況で社は経営難に陥っていた。部屋で賭博をやるという状況でいい脚本が出て来ない。
マンクは酔払って隆盛を極めるMGM社の撮影セットに潜り込む。まさにインデアン西部劇の撮影中で、女優のマリオン(アマンダ・サイフレッド)に会った。マリオンとは「タバコ頂戴!」と言われる仲。彼女が「パパ(ハースト)に気に入られた」という。(笑)このシーンで、明るいライトが当てられます。これが「市民ケーン」のライティングらしい!
ここで監督のアーヴィング、社長のメイヤー(アーリス・ハワード)、ハーストに出会う。ハーストが「新しい時代が来るぞ!」と声を掛けて来たので「マックレーカーのあんたに言われてうれしい」と答えたのが気に入られ、つき合いが始まった。
マンクは妻サラからの電話にも出ず原稿を考えるが、つまらん冗談でリタを怒らせてしまった。仕事にならないと酒を飲んで寝た。そこにウェルズが「見舞いだ!」とやってきた。ハウスマンが「原稿が少なすぎる!60日間で書いてくれ」という。「2時間で男の人生は描けん!」と言い返す。ウェルズはマンクの作業進捗だけはしっかり管理している。(笑)
原稿をリタに読ませると「白い服で白いパラソルを持っている女性」のところで「これはあなたの記憶?」という。「そうかもしれん!」とマンク。
1934年、MGMの回想
弟ジョーもMGMに移った。「“ライオン”のボスだ!」と困惑する。(笑)メイヤーは組合員、俳優を一同に集めて「大不況を乗り切るために8週間の解雇」をいとも簡単に取り付ける。
これまでの原稿をジョーが目を通した。ジョーが電話で「相手はハーストだ、喧嘩するな!」と言って寄こした。
1934、ハーストの大邸宅でのメイヤー誕生祝い!
ハーストとメイヤーの蜜月関係をアピールしたものだった。女優さんたちも大勢参加。アーヴィングが英国から帰ってきたことでヒトラーや社会主義、共産主義が話題になり、カリフォルニア州知事選が話題に上がった。ハーストが推すのはメリアム、対抗馬は社会主義者で小説家のシンクレア。マリオンが席を外して庭に出た。これを追ってマンクも庭に。ふたりは麒麟や象のいる庭を散策。マリオンが「知事選の話は絶対にダメよ!私とパパとメイヤーだけ」という。マンクは「小説家だ!」と言うと「あんたは本当のことが分かってない」と。
マンクは原稿を書きながら寝てしまった。リタが「また酒を飲んでいる!」とカーテンを開けた。光が差し込む!ハウスマンの原稿が進むようにと酒を持ってきてくれた。ウェルズが電話で進捗状況を確認する。リタが「もう辞めたい!」と言い出すが、フリーダが「ユダヤ人を100人もこの国に入れてくれた人だから応援する」と言い、リタも思い止まった。
1934年、MGMの回想
マンクがMGMに顔を出す。ジョーから「組合に力を貸してくれ!」と言われたが断った。アーヴィングから「カリフォルニアはハーストの天下だぞ!」と選挙基金に寄付を求められたがこれも断った。街頭では選挙運動が始まり、ワーナーもMGMもメリアム支持だという。
マンクの原稿も進んで、リタが「間違いなく傑作だ!」と言い出す。ハウスマンが「327ページが気に入らない」。そして改めて「クレジットには名を載せない」と言う。「何故ハーストなんだ!」と聞くので「“オルガン弾きと猿”の話を聞いたことはないか」と言う。マンクがこれでハーストを書く動機になっていると思います!
1934年、MGMの回想(続)
マンクがMGMに出向くと「知事選ニュース」を見せられた。それはニュースと銘打ったメリアム候補宣伝映画だった。昵懇のシェリーが「メイヤーが監督にしてくれるというから撮った」という。「人は映画を観て信じるぞ」と諭した。メイヤーの命令には逆らえん!マンクはマリオンに止めて貰おうとおもったが、マリオンは10年に1本の当たった作品がないと首にされていた。マリオンが寂しくスタジオを去って行った。
選挙当日のトロカデロナイトクラブ。
マンクはここで選挙速報を見守っていた。このシーンは緊迫感が伝わるように票結果を映し出すスクリーン、マンクや観衆の表情などとても工夫された映像になっていた!結果はメリアムが当選。シュリーがこの結果に責任を感じて自殺した。
ヴィクターヴィルにジョーが訪ねてきて「脚本を読んだ。ハーストが読んだら破滅だ!マリオンが可哀そうだ。兄貴は雇われた道化だ!」と説教する。「ハーストの薔薇のつぼみは女のあそこか?」という。(笑)マンクは「俺は何年も前から終わっている!」とジョーの諫言を意に介しなかった。
次に、マリオンがやってきて「パパが弱っているから虐めないで!最初は親切にしてくれなかったが、今はお互いが大切なの」とマンクに訴えた。
ウェルズから「初稿を見た、直しが必要だ!」とクレームが付いた。ハーストからの圧力によるものだった。
1937年、サンメンスのハート邸食堂。
大勢の客を招いてのディナーパーティー。マンクはべろんべろんに酔って妻サラを伴って食堂に入り、ハーストに知事選挙での恨み辛みをぶつけた。「いかれた爺さんのあんたが理想を持って現代のドン・キホーテになり、大統領になって社会主義を成し遂げるんだ!ハーストどうだ!」と大騒ぎして、食べ物を吐いた!(笑)マリオンは怒って出て行き、メイヤーは「お前の給料の半分はハーストから出ている」と激怒した。(笑)
ウェルズがやってきて「10万ドル乗せでどうだ!」という。マンクは「俺の最高傑作だ!クレジットに乗せろ!」と引かなかった。それは、サンメントのディナーパーティーから追い出されるときにハーストに掛けられた言葉だった。
「オルガン弾きと猿。着飾った猿はオルガンで踊らされているのを忘れて、主人は自分でオルガン弾きは従者だと考えだす」。
ウェルズは「クレジットには乗せるがプロデュースは俺だ!」と帰っていった。脚本はウェルズと共同脚本となった。
1942年2月、ピルトモア劇場。
「市民ケーンはアカデミー賞に9部門ノミネートされながらも、脚本賞のみだった。そこにウェルズとマンクの姿はなかった。
スタジオでのインタビュー。記者が「脚本賞だけだったですね!」と言ったことに「それがハリウッド」と答えた。「ここにウェルズがいませんが?」に「映画の魔法だよ!」と。11年後マンクは55歳でアルコール依存症により亡くなった。
感想:
脚本を作ったのはマンク!ウェルズは脚本製作に物的面支援したのみでした。
映画館で観て正しいと思っていることがそうではない、ハーストの実像なんか分からない。が、クレジットだけは正しかった!😊
ハーストから投げられた!“オルガン弾き猿“の話しから自分を猿に置き換えクレジットを取り戻したマンクでしたが、それだけではなかった。「ハーストも猿、男の人生なんて2時間で描けない」とこの男を踊らせた。
「映画の真実とはなにか!」に苦悶したシュリーの死はハリウッドへのメッセージ!
「ソーシャル・ネットワーク」(2010)を撮った監督、映画をNetflixに期待しているでしょう。この作品はNetflixに適した作品でハリウッドへの挑戦状。
監督の“薔薇のつぼみ”は父ジャック・フィンチャー!監督が望んだと思われるアカデミー脚本賞、無念でしたね。主演男優賞のアンソニー・ホプキンスがこのとき眠っていて表彰式を欠席、まるでマンクでした。(笑)これがアカデミー賞です。😊
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