大変評判の良い作品。NHKBSプレミアムで観賞しました。
1980年5月に韓国で起きた“光州事件”を背景に、厳しい取材規制の中で現地入りしたドイツ人記者と、彼を乗せることになった平凡なタクシー運転手の知られざる“真実”の物語。
評判どおりの作品でした。事件の原因などは描かれない、政府や国軍トップなど出てこない、現場に駆け付けた記者と彼を現場に運んだ運転手の目線で事件を目の当たりにし、「自由とは何か」を映像で知る作品になっていました。すばらしい!こんな悲惨な事件を、平凡な家族や仲間繋がりでコミカルに描き、それでいて涙なしでは見られないすばらしいエンタメ作品で、事件現場描写はハリウッドを越えていると思います。名作「アルジェの戦い」(1966)クラスです!😊
監督:チャン・フン、脚本:オム・ユナ、音楽:チョ・ヨンウク、撮影:ゴ・ナクソン、編集:キム・サンボム。
出演者:ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨル、パク・ヒョックォン、ダニエル・ジョーイ・オルブライト、他。
ソン・ガンホのため口がどんどん少なくなって、表情が変わっていくのが見どころ!こういう作品に出ると益々国民的俳優さんになっていきますね!😊
あらすじ(ねたばれ):
1979年朴正煕大統領暗殺で独裁政権は終焉を迎えたが、全斗煥将軍率いる軍部がクーデターにより実権を掌握。1980年民主化を望む国民は引き続きデモを行っていた。
サウジで個人タクシー運転手をやっていたというマンソプ。韓国には仕事がなかった。今では妻を亡くし、娘のウンジョンとふたり暮らし。政治などには関心なく、家賃を払うにも四苦八苦。そんななかでひたすら娘のためにとタクシー運転手をやっている。娘が大宅の息子に虐められるのが心配。(笑)まるで「グエムル漢口の怪獣」(2006)のカンドゥです。
こんなとき食堂で飯喰っていて仲間が「光州まで送って10万ウォンくれる客を待っている!」という話を耳にして、この運転手になりすましてこの客を乗せて光州に走った。
この客とは、日本在住のドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)。5月19日東京プレスセンターでBBCのジョンから「韓国は戒厳令下にありかない緊張した状況だ。野党の指導者が捕まり大学も閉鎖になっているが、昨夜から現地の知人と連絡が取れない」と聞かされ、こんな日本にいても大したニュースはないと、20日、牧師に化けてソウルに潜り込み、現地駐在員から「民主化運動を進めていた金大中は逮捕、金泳三は自宅軟禁された。政府の監視で外国記者は動けない!」と聞き、民主化運動の中心地・光州に向かうことにした。
ピーターが何者かを知らないマンソプは高速道路で光州に向かうが途中で国軍に通行を制され、裏道を走ってなんとか市内に入ることができた。市内で学生たちが乗ったトラックに遭う。ピーターがこれを撮影し始めた。こいつは何者だ?とマンソプ。「外国人記者だ!」ということでピーターは学生たちの車に乗って撮影開始。通訳はク・ジェシク(リュ・ジュンヨル)、歌が唄いたいと大学に入ったという。(笑)
マンソプはここまで報酬として5万ウォンを貰っていたので、これで“おさらば”とソウルに帰り始めた。(笑)
帰り始めたマンソプ。息子が軍人に殴られて怪我したと泣きつく母親を見捨てるわけにはいかない。(笑)母親を病院に届けるとそこにはたくさんの負傷者が運び込まれていた。
病院に「バッグがある」とマンソプの車を探していたピーターとシェシクがやってきた。「何で逃げた!」とマンソプが責められ、これを宥めたのが現地のタクシー運転手ファン・テスル(ユ・ヘジン)。
マンソプはピーターとジェンクを乗せて市民集会場に。沢山の市民が駆けつけていた。彼らに歓迎され、マンソプは英雄になったみたいだった。ピーターはあるビルの屋上から集会の状況を撮影することにした。現地のチェ記者(パク・ヒョックォン)も一緒だった。彼は「自分の記事は放送されないかもしれない」とピーターに期待を示した。
集会が大変なことに!錦南路の大群衆に軍隊がいきなり催涙弾を打ち込み、殴る、蹴るの暴力沙汰。ピーターは至近距離での撮影を求めて、ビルを出て群衆の中でカメラを回す。マンソプは危ないからやめろと止めに入った。「君には分からん」とピーター。このとき私服軍人が外国記者ピーターがいるのに気づいた!
撮影を終えての帰り、60万km走ったというマンソプの車が故障。明日までには修理できるとレルスに誘われ、彼の家に泊まることになった。家族を挙げての歓迎で、シェシクが歌を唄うがそれがなんとも!(笑)そのとき大きな爆発音が聞こえ、外に出るとTV局が燃え、皆が集まっているという。
ピーターたちは現場MBC前に走った。照明灯の中で繰り広げられる軍隊と民衆の戦い。シェシクが私服軍人に追われていることに気付いた。ピーター、マンソプは、シェシクはビルで逃げ込んだが、撮ったフィルムを落とした。シェシクがそれを取に行って捕まった。しかし彼は絶対に“ピーターの居場所を明かさなかった”。マンソプはシェシクを助けようとして捕まったが、ピーターの機転で救出され、テルズ家に戻ってきた。
マンソプは娘ウンジョンのためにどうしてもソウルに帰らねばならないとピーターに訴えた。朝、ピーターに気付かれないように家をでたが、テルスに捕まり、ピータ^-からだと帰りの経費5万ウォンと代わりのナンバープレート、軍に気付かれない道のマップが渡された。
マンソプは上手く光州を脱出でき、途中で娘への土産に靴を買った。そこで遭う人々は普通の生活、光州とは余りにも違い過ぎる。食堂で見る新聞には「光州デモで軍人・警察官5名死亡。反社会的勢力と暴徒ら・・」というフェイクニュースだけ。完全に報道統制がなされていた。
マンソプはピーターたちのことを想い、顔の表情が変わった。娘ウンジョンに必ず帰ると宅束野電話をして光州に戻ってきた。
光州に戻ると、ピーターとテルスは病院でシェシクの遺体に付き添っていた。ピーターは放心状態!この惨状にマンソプはピーターに「撮ってくれ!約束したろう、世界中の人々に伝えるのがあんたの使命だ」と勧め、この惨状を撮った。テルスも加わってデモ現場に駆け付けた。そこで見る光景は、これまでとは比較にならない激しい銃撃を伴う国軍による攻撃だった。バタバタと撃たれるものたちの続出!負傷者が出ても相手の射撃で救出できない。現地のタクシー運転手たちがタクシーで近付き救出することになった。マンソプもこれに加わり、命をかけて救出にあたった。
チェ記者やテルスから「ここを脱出して実情を世界に報道して欲しい!」と促され、マンソプとピーターは車で現場を脱出した。しかし、軍が気づき追ってくる。山間道でもはや絶命を思ったところにテルスらタクシー組合が援助に駆けつけ、軍用車とタクシー車の激しいカーバトル。😊
警備の厳しい出国ターミナル。ピーターが「連絡は?」と聞くからマッチのラベルにあった名前「サボク」と書いて渡した。無事出国できるかとマンソプが見送るなかで、フィルムを収めたクッキー缶を手土産にピーターが仁川空港から飛び立った!
ピーターが持ち帰った光州の惨状映像が世界に流れた。ピーターはキム・サボクという名の運転手を探し続けたが見つからなかった。
2003年12月、ピーターの光州事件報道に対して韓国からの感謝状が贈られることになった。ピーターは受賞式の席で「運転手のお陰でこの賞を受けることができた。ぜひ会いたい!」と呼びかけた。
今でもタクシー運転手をやっているマンソプは新聞でこのことを知り「こちらこそお礼をしたい!」と呟いた。
ピーターはマンソプとの再会を果たせぬまま2016年1月にその生涯を終えた。
感想:
軍隊の民衆攻撃の描き方がこの作品の肝です。殴る蹴るの暴行、催涙弾攻撃、小銃弾の射撃。これらに迫力がありました。目の前で繰り広げられる惨状に、助けたいと駆け出し撃たれる市民。絶望しかない!この映像がすばらしい!
CGだったらダメ、実写だからの迫力。特に兵士が着けている特殊な防護面に迫力を感じました。
国軍の若者たち、彼らは命じられたとおりに忠実にやるしかない!
いまだに徴兵制度のある国の若者たち、戦闘服姿と銃の構え方、敬礼の仕方が違います!これを撮れるスタッフもすばらしい!
能天気なマンソプが自分の命を投げ出しても救ってやりたい気持ちが伝わってきます。唯一この場を救えるのは外国記者による世界に向けての情報発信だというのも分かります。光州事件についての難しいことはいらない、これで十分!
マンソプとピーター、そしてシェシクにテルスと繋がる絆が感動的に描かれ、とてもうまい脚本でした。
これを契機に韓国の歴史や光州事件を勉強してみたいと思います!
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