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「Arc アーク」(2021)

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石川慶監督作ということで観ることにしました。原作は世界的人気SF作家ケン・リュウの短編小説「円弧」。未読です。

不老不死の技術が確立された近未来を舞台に、人類最初の不老不死の人間となった女性が、現実となった不老不死に様々な立場で向き合う人々との出会いを重ねていく中で、“生と死の意味”を自問していく姿を描くという物語。

美しく永遠に生きることは人類の夢かもしれない。しかし、これが可能となっても、きっと退屈するだろうと自分は選択しない!と思いながら鑑賞することにしました。(笑)

監督・脚本・編集:石川慶、脚本:澤井香織、撮影監督:ピオトル・ニエミイスキ、音楽:世武裕子

出演:芳根京子寺島しのぶ風吹ジュン岡田将生小林薫倍賞千恵子、清水くるみ、他。

あらすじ(ねたばれ):

リナ17歳、

生まれたばかりの赤ちゃんを残し、自由を求めて産まれ故郷の島を出た。

リナ19

場末の劇場。リナの操り人形のように踊り、最後に舌を出すというパフォーマンス。これが大手化粧品会社“エターニティ”の理事・黒田永眞(エマ)の目にとまり「若さに価値がある」とエマの下で働くことになった。

エマはプラスティネーションという技術で遺族の依頼を受け遺体のあり日の姿を永久保存するボディワークを施す第一人者だった

プラスティネーションとは遺体から血液を抜いて代わりに防腐剤を入れ遺体の最終ポーズを操り装置(糸)で決め、体内に“特殊な樹脂”を入れて固める作業。

遺体の生前の“痕跡”を探りながら操り糸でポーズを決めていエマのプラスティネーションは「遺体が生き返る!」と評判だった。

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リナのミラーニューロンは遺体によく共鳴するとエマから徹底的にプラスティネーション技術を叩き込まれた。「人がプラスティネーションを望むのは死が怖いから!遺体は徹底して物として扱うこと」と教えられたが、亡くなった赤子のプラスティネーションを依頼されたとき、泣き声が聞こえ、「捨てた子がどこかで生きていて欲しい」と施せなかった。

リナ30

エマの弟天音(岡田将生)の登場で理事を追われ、その後をリナが引き継ぎ、より美術品として愛されるボディワークスを世に送り出した。このときのリナの美しさ!

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天音は姉エマのプラスティネーション技術を応用して、樹脂の代わりに新しく開発されたテロメア初期化細胞を体内に注入し安全かつ安定的に細胞分裂を繰り返して、生きている人間の細胞を常に循環させ老化しない身体を造るという老化抑制技術を完成させた。

天音は役員会議で「人の劣化を止める技術ができ、死は不要になる」と発言。そこにエマが現れ「驕るな天音!生と死は両立しない!」と一喝して退出した。

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リナはエマを追って話を聞いた。エマは亡くなった仲間のボディワークスを示しながら、「20年やってもこの程度よ。死体は死体に過ぎない」「生きることの対局は死でなない。生きることの中に死がある」と。

天音はリナに不老不死の舟に一緒に乗って欲しいと求めてきたが、リナは師であるエマの言葉がひっかかり拒否した。

世間では老化抑制技術に対する強い反発が起こった。「貧乏人には関係ない!」と反対デモが発生。倫理や宗教からも問題視される。しかし、天音は「これらの問題は恐れない。舟に乗れるものと乗れないもの発生が問題だ」と話し、リナに同じ舟に乗って欲しいと再度求めたが、尚もリナは断った。

天音から求婚され、子供を作ることの同意を得て、「物として美しい遺体を作ってきたが、その向こうの世界で生きてみたい」と舟に乗ることにした。

リナは不老化処置を受けた時の記者会見で、記者から「死があるからこそ、人生に意味があるのでは?」と質問を受け、「私の人生で証明します」と不死の世界に入って行った。

リナ89歳、(モノクロ映像になります)

リナは30歳の姿のままで娘・ハル(5歳)と島の療養ホームで穏やかに過ごしていた。自殺が合法化され、出生率は0.2%という世界になっていた。

実は天音50歳のとき、遺伝子異常で不老化処置が作用しなくなり亡くなった。このようなことはないと思っていただけにリナは泣いた。この事故で40歳以上の者への不老化処置が禁止となった。しかし天音は冷凍遺伝子を残していたので、彼の死後40年経って娘・ハルをもうけた。(この部分はカラー)

ホームに末期ガンの女性・芙美風吹ジュン)が入所してきた。夫・利仁小林薫)が芙美に花を持って訪ねてくる。不老化処置が受けられたにもかかわらず受けなかったことを知った。

利仁はハルにちょっとしたオモチャを渡す。利仁はこの島に小さな家を構え、古い漁船を買った。利仁は芙美を見舞いにやってきてベットの側で絵を描く。

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しかし利仁はリナに会っても声を掛けない。リナとハルは利仁の小屋を訪れ、古い時計や船の道具を見た。利仁はリナの写真を撮った。リナは何で写真を撮られるのかが分からなかった。

リナは利仁がハルに描いた絵「岬の灯台を見て驚いた!会社の臨床医・佐々木(井之脇 海)を訪ね、今では利仁にも不死化処置が出来ることを確認した。利仁に勧めたが彼はこれを拒否した。

ある日、ハルがいなくなり大騒動になった。リナは必至で探したが見つからない。ところがハルは利仁のところにいた。

利仁は漁船に乗り「ギリシャで一度あんたを見た。いつか会いに来てくれると待っていたが来なかった。親は亡くなり自分はバカな人間だと落ち込んでいたときに出会ったのが芙美だ。これで世に出て人生を共に生きることができた。あんたもそろそろ自分の人生を生きたら!」と沖にでようとする。リナは船に飛び乗り、ふたりで岬の灯台を見た。ふたりが邂逅した瞬間だった。

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利仁は芙美の最期を看取り、ひとり海に出ていった。

リナ135歳(カラー映像に戻ります)

リナ(倍賞千恵子)は不死化処置を止めていた。ハル(中村ゆり)と孫・セリ(芳根京子)の三人で“海”を眺めながら、「やりたかったことを全部やったわけではないが、ひとりの人間としての経験をして死ねる。私の人生に始りと終わりが出来た」と話すと、セリが「ずっと生きれるのに死ぬなんて間違っている」と批判。ハルも「死んで欲しくない、それ神話だよ!」と言うが、「これが私の信じている神話よ!」とリナは天に手をかざした。

感想:

冒頭、17歳のリナが子供を残し、岬の灯台を望み、天に手をかざし自分の運命を掴もうとするシーンが135歳のリナにこのシーンが再現され、物語はカラー、モノクロ、カラー映像を継いで語られます。この描写は“命の循環”を意味し、とてもうまいと思いました!

この結末にカタルシス原作はアメリカが舞台でしょうが、これを日本に持ってきて、瀬戸内海の美しい風景のなかで、歳を重ねて寄り添う夫婦の話で「生きるとはどういうことか」を見つけるという物語、納得のいく結末でした。

不老不死の世界がくるという信憑性

エマのプラスティネーション技術がテロメア初期化細胞の発見で老化抑制技術が生まれるという科学進歩。今まで死の世界を美しくするための技術が不死の世界の技術に繋がるという話しの運び方に十分な信憑性を感じます!

リナの不死世界(アーク)

この世界は倫理や宗教等の大きな問題を抱え、どう作られていくか分からない。一気にこの世界に入ったリナは思いもしなかった天音の死に遭い、彼の残した冷凍遺伝子で娘ハルをもうけ、不死を受け入れなかった人たちと暮らし、エマの残した言葉「生きることの中に死がある」を確かめるように生きていた。

そこに、まさか会うとは思ってなかった捨てた息子・利仁に出会い、邂逅し、その生き様に「生きていることの意味」を知るという結末は泣けます。娘や孫たちは「そんなの神話よ!」というが、やりたいこと、欲しい物を求め続ける世界が永続するとは思えず、今を生きる私には理解できない。

モノクロ映像は「利仁とリナが島にいた時間」だけに用いられ、利仁と芙美がお互いを労わるちょっとした情愛にも、命に限りがあるからこそ生まれた“情愛”と感じさせられ、涙ものです。小林薫さんと風吹ジュンさんにこんな役を演じさせるのは違反です!(笑) 

SFを生きた物語にする演技。

エマ役の寺島しのぶさんの死に抗いプラスティネーションの糸を操り、「生の中に死がある」と生き様を見せる演技に魅せられます。

リナ役芳根京子さんのダンスに、プラスティネーションにと、その若さと生きる力全開のパフォーマンスに驚かされます!😊さらに30歳になって、永久にこの美を止め置きたい美しさ。迷いのなかで不死の世界に飛び込み年齢を重ねるにつれ落ち着いていく演技も見どころです。彼女の代表作になるでしょう!

そして死を受け入れることになんの疑念もない凛とした倍賞千恵子さんの佇まいは圧巻でした。

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