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「ドライブ・マイ・カー」(2021)幾重にも伏線が繋がり緊張感が漲る、人としての生き方を描いた作品だった!

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寝ても覚めても」の濱口竜介監督作品カンヌ国際映画祭でみごと脚本賞に輝いた人間ドラマ。さて如何なる作品かと楽しみにしておりました。

原作は村上春樹さんの短編集小説「女のいない男たち」の一作目「ドライブ・マイ・カー」(妻を失った男の喪失と希望)、さらに「シュエラザード」「木野」のエピソード」が投影されているとのこと。いずれも未読です。これに「ワーニャ叔父さん」ゴドーを待ちながら」の演劇要素を加えて原作を大きく膨らませ、感動的な人間ドラマになっています。

監督濱口竜介脚本濱口竜介大江崇允撮影:四宮秀俊、音楽:石橋英子

出演者西島秀俊三浦透子霧島れいか岡田将生、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ、安部聡子。

舞台俳優で演出家の家福悠介(西島秀俊)は、妻の音(霧島れいか)と穏やかで満ち足りた日々を送っていた。しかしある日、思いつめた様子で“今晩話がしたい”と言っていた音は、家福が帰宅する前にくも膜下出血で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまう。

2年後、「ワーニャ伯父さん」の演出を任された演劇祭に参加するため愛車で広島へ向かう家福は、寡黙な女性みさき(三浦透子)を専属ドライバーとして雇うことに。やがて様々な国から集まったオーディション参加者の中に、かつて音から紹介されたことのある俳優・高槻耕史(岡田将暉)の姿を見つける家福だったが・・・という展開。

物語はこんなダイジェストでは語れない生々しいものになっています。😊

悠介は音の不倫現場を見たがこれを黙殺。これが原因で音の不慮の事故に立ち合えず死なせたという贖罪と高槻が音の不倫相手ではないかという猜疑心に苛まれるなかで、みさきに出会い、「ワーニャ叔父さん」を演じて、再生への“道”を見つけるという物語。

音が悠介とのセックス中につぶやくドラマシナリオから始まるというショッキングな出だし。このシナリオが高槻に絡むというミステリアスな展開。さらに「ワーニャ伯父さん」の舞台稽古での家福と高槻の一発触発の触れ合いがスリリングで、この舞台を演じることで再生れていくヒューマンドラマ、壮大な仕掛けの物語でした。映画の面白さは“脚本”と知らしめてくれ、3時間に及ぶ作品ですが精緻なセリフを聞き漏らすまいと時間は気にならずアッという間に過ぎて、2~3本分の映画を観た感覚でした。(笑)

あらすじ(ねたばれ):

セックスを終えた余韻の中で音がベラベラと喋る猥褻なドラマシナリオ、悠介が処々に意見を入れる。出勤時、赤い車・サーブ900スウェーデン製)の中で、音がシナリオを悠介に再確認する。音は思い出せない部分を携帯のメモを入れる。音はドラマ作家。この手で書いたドラマが評判になった。このシナリオは初恋の人・山賀の部屋に忍び込み、彼女と山賀の密事を描いたもの「山賀の物語」。

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悠介は芝居の演出者であり役者。出し物は「ゴドーを待ちながら」。なんと、スクリーンに映し出される4か国語のセリフを見ながら芝居を観るという“多言語芝居”でした。音と身体表現で観せる芝居、これがこの物語の奥に隠れたテーマ、伏線です。悠介は劇中で「俺たち別れたら破滅になるな!」とセリフを吐きます。このセリフに悠介と音の関係が見てとれ、ギョッとします。(笑)

悠介はサーブの中で、音が舞台劇「ワーニャ叔父さん」のセリフを吹き込んだテープで自分のセリフを暗記します。ここで吐く悠介のセリフが常に悠介と音の関係を暗示しているようで、このセリフ覚えシーンは大切な伏線です。これが面白いです。赤いサーブは音そのものだった!

舞台が終わったところに音が高槻を連れて来て紹介します。

悠介はウラジオストックからの招聘で空港に急ぐが、天候急変で航空機が飛ばない。家に戻り、ドアーのキイを外して中に入ると、大音響のクラシック音楽のなかで、裸の音と男が身体を重ねている姿を見た。男の顔は分からなかった。ドアーを閉めて?震える手でタバコを吸って空港ホテルに戻り、夜、ウラジオストックから話しているようにビデオ通話。音は「無事着いた!」と怪しむ風ではなかった!

2週間後、帰国。音に電話していて衝突事故を起こした。緑内症と医者に診断されたが、原因は・・・?

悠介と音は亡くした子供の命日に寺を訪れていた。帰りにサーブ運転中の音が「子供が欲しかった!あなたが好きだ」と告白。悠介はそと音の手を握りました。

その夜、音は激しく悠介に絡み、あのへんな「山賀の物語」の続きを語った。「山賀を訪ねた私は八つ目ウナギだった。ひたすらひらひらと岩に張りつき・・」と卑猥に話し続け(笑)、「その時、誰かが二階にやってきてこれでお終いと、前世からの因果から抜け新しい彼女になる」と喋って絶頂を迎えた。悠介はこの話に・・?

翌朝、音が「昨日の話を覚えている?」と聞くが「覚えてない!」と返事して出掛けようとすると「今晩帰ったら話せる?」と聞いてきた。

悠介はサーブの中で「ワーニャ叔父さん」のセリフ覚え。「そんな悪魔に憑りつかれた!今日もひどい!」とワーニャのセリフをしゃべっていた。(笑)しっかりセリフを覚えて、夜になってパークでソーニャの「ワーニャ叔父さん、生きていきましょう!運命の試練に耐えて・・」というセリッフを聞いて、部屋に戻ると音が倒れていた。病名はクモ膜下出血だった。悠介は「もう少し早く帰っていれば」と悔やんだ。音を失った喪失感と「打ち明けられなかった秘密」を苛まれながら2年が過ぎ、広島で上演される「ワーニャ叔父さん」の演出を引き受けた。

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家福はサーブで「真実は恐ろしくない、それを知らないでいることは・・」というテープを聞きながら、広島の劇場に着いた。プロデューサーの柚原(安部聡子)とユン・ユンス(ジン・デヨン)から「キャステイングはオーディションでお願いします。準備している運転手を使って欲しい」との申し出があった。家福は不安だったが誠実で口が堅い渡利いさきにサーブの運転を任せることにしました。

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オーディションで高槻に出会った。彼はアーストロフ(医者)役志望で、エレーナ役志望の台湾女優・ジェニス・チャン(北京語)と芝居をしてもらった。

高槻は感情的に芝居しチャンにキスした。ここで家福は「ありがとう」と止めた。

ソーニャ役を志望した韓国女優・イ・ユナ(パク・ユリム)は“聾”で韓国手話で演じたが、家福はこの演技に感動を覚えた!

翌日、キャステイングを発表。皆さんが志望通りだったが、高槻にはワーニャ役を振った。これに高槻が「年齢が合わない」とクレームをつけたが「嫌なら辞めていい」と突っぱねた。高槻はしぶしぶこれを受け入れました。何故、家福はこのキャステイングに拘ったのか?

ここから毎日、それぞれの言語での脚本読みが始まった。家福は徹底的にテキストを読ませ聞いていた。そして、みさきの運転するサーブで音のテープを聞きながら、宿と劇場を往復する毎日だった。

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ある日、高槻が「話したい!」というので高槻が宿泊しているホテルのバーで話を聞いた。高槻は「音さんの脚本が気にいってつき合うようになった」という。「売れていたのにバカだ!」と腐すと「身元も知らない人とフィーリングが合って・・」という。「セックスはしたしか?」と家福も感情的に話し出す。「否定はしないが、音さんは素敵な人で、家副さんに嫉妬している」と話す。これに家福が怒ったところで、高槻が写真を撮られ騒動になり、家福はサーブで宿に戻った。高槻というのは得体の知れない、直行性の男だった。

ユナの手話をうまくユンスが通訳するので「なぜだ!」と聞くと、「家に来れば分かる」と誘われたので、みさきも一緒にと訪れると、ふたりは夫婦だった。😊

ユナが「私は見ることも聞くこともできます。言葉以上に知ることができます。家福さんの言葉が私の中に入ってきて私を動かします」という。まさに家福が目指す演劇だった。ユンスが飼っている白い犬(ラブラドール)をみさきが気にいった。これを契機に、家福とみさきが会話を交わすようになった。

帰りのサーブの中でみさきに「テープの声は嫌いか?」と聞くと「好きだ!」という。そして彼女の運転が“なぜ心地良いか”を知った。「北海道にいたとき、水商売の母親の眠りを覚まさないよう送り迎えしていた」と語った。

立ち稽古の日。高槻は車両事故で遅れてやってきた。高槻にイ・ユナ(ソーニャ)との芝居を命じた。高槻のセリフに「ひどい!」とダメ出しをするとユナが「賛成!」とサインを送ってきた。高槻は「すいません」と謝ったが、家福はうんざりしていました。

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帰りにみさきに「好きなところに連れていってくれ」と頼むと、広島環境局の中工場“ごみ収集所”に案内して「母が山崩れで亡くなり、ここに流れついて運転手をしていました、この建物の廊下と平和公園を連る道路は真っすぐ伸びて海に繋がっている」と話します!ミサキを知る大きな伏線で、ラストシーンに繋がります。

公園で立ち稽古を行うことにした。チャン(エレーナ役)とロイ・ロセタ(セレブリャコフ役)の演技を「何かが起きている!」と褒めたあと、高槻(ワーニャ伯父)とユナ(ソーニャ)の芝居を観たが、何も言わなかった。

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夜、高槻が「地下のバーで飲みましょう」と家福を誘った。飲んだあと高木のホテルまでサーブで送ることにした。貴樹が「公園での稽古で、あのとき何が起こっていたのですか」と聞いてきた。家福は「テキストをしっかり読め!」と答えた。「なぜあなたがワーニャを演じないのですか、何故僕がワーニャなんですか?」と聞いてくる。「チェーホフは恐ろしい、魂を引き出されるから。君ならオーラで演じられる」と答えた。そして音がセックスをしながら小説を書くことを教えた。「音には別の男がいた、何人もいた。家にも連れてきた。それでも疑わなかった」と話すと「何故聞かない!聞いて欲しかったのではないですか?」と、八つ目ウナギの話を始めた。家福が「オナニーで終わっている!」と言うと、「その続きがある」と話し始めた。

「二階に来たのは空き巣で彼女はこの男を殺した。そして玄関に監視カメラをつけ、『私が殺したから玄関には鍵はなかった。カメラに向かって何度も何度も私が殺した』と話したと言った。これを聞いて音さんから大切なものを託され、素敵な女性だと思った。この人と20年暮らした家福さんは感謝しなければならない」と語った。そして「自分の心で折り合いをつけること。本当の他人を見たいなら自分を真っすぐに見つめることしかない、自分はそう思います」と言葉を残して下車しホテルの中に消えていった。家福は愕然とした!!

夜の高速道を走るバーブ。家福はみさきに「どう思うか?」と聞くと、「高槻さんは嘘を言ってるようには聞こえなかった!本当のことを言ったと思います。私は嘘ばかり言う人に中にいたから分かります」と返事した。高槻の声に真実があった!ふたりはサーブのルーフを開けタバコを天にかざしながら、喫った!😊

翌日の芝居稽古。高槻が暴行致死罪で逮捕された。柚木は「中止かあなたが演じてください」と言い、家福は「やらない!」と言ったが、エンスが「演じてください!」という。家福は「2日間待ってくれ!」と、みさきと彼女の生家・北海道の上十二滝村を訪ねることにした。昼夜を突いて、幾つものトンネルを赤いサーブが走り続け、フェリーで北海道に渡るとそこは雪だった。

上十二滝村の崩落地に崩壊した家屋を見た。みさきが「山崩れのとき母は精神病を患っていて救えたかもしれないが何もしなかった」と花を一本づつ廃屋に手向け泣いた。家福は「自分も同じだ、救えたかも知れないのに帰る時間が遅れ、妻を殺した。君と同じ罪だ」とみさきを抱擁した。

「俺は正しく気づくべきであった、妻を愛していたことに何の矛盾もない、自分自身に耳を傾けるべきであった」と後悔した。「死んだもののことを考え続けながら生きて行かねばならない。俺たちはきっと大丈夫だ!」と広島に引き返した。

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家福はワーニャ伯父として舞台に立ち、ソーニャに「何と辛いんだ!」と問うと「生きていくしかない!人の幸せのために・・・」とソーニャのユナの手話による熱演で大拍手の中で幕を閉じ、家福はこの舞台で救われました。

みさきは娘らしい小奇麗な服装で赤いサーブにラブラドールを乗せて、まっしぐらな道に走り出しました!

感想

得体の知れなかった高槻がサーブの中で語った八つ目ウナギの話。こう繋がってくるのかと脚本に驚きました。

悠介は「音は何も気づいていない」と思っていたが、こんなところに夫への愛を残していたんですね。この展開にアッと驚きました!渾身の力で高槻が説く「本当の他人を見たいなら自分を真っすぐに見つめることしかない」の言葉に、簡単な言葉ですが、自分を許すための力のある言葉だと気付かされました。これまでチャランポランだった高槻が豹変して熱っぽく語る、岡田さんの熱演が凄かった。これは高槻の家福への贖罪でもあった!

家福がみずきと上十二滝村を訪れ、罪を同じゅうする者として、「それでも生きていかなければならない」と気付き、舞台劇「ワーニャ叔父さん」でワーニャ伯父を演じて、人として普遍的に求められる生き方に到達するという、感動的な物語でした。

この脚本に引っ張られるように出演者皆さんの演技が凄かった。西島さんの誠実さや清潔さ、それでいて濡れ場もしっかり演じるという、すばらしい演技でした。渡利透子さんは“みさき”という大役を演じ大変だったでしょう。無口で思慮深い役を丁寧に演じ、クライマックスで泣きだすシーン、ラストの変化にびっくりしました。

音を演じた霧島れいかさん、しなやかな肢体で濡れ場を自然に大胆に演じましたが、全編にわたって出てくるテープの声の出演も柔らかい声でよかったと思います。イ・ユナ役のパク・ユリムさん、舞台劇「ワーニャ叔父さん」のラストシーンにおける手話と身体による感情表現は素晴らしかったです!

幾重にも伏線が繋がり緊張感が漲る人間の業を描いた作品、素晴らしかったです!!

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