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「博士と狂人」(2019)世界最高の辞書OEDの誕生秘話

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世界最大の英語辞典「オックスフォード英語辞典」誕生に隠された真実の物語をメル・ギブソンショーン・ペンの初共演で描くというもの。WOWOWプレミアム初放送で鑑賞しました。

原作はサイモン・ウィンチェスターによるノンフィクション「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」、未読です。

監督:P.B. シェムラン、脚本:トッド・コマーニキ、P.B. シェムラン、撮影:キャスパー・タクセン、編集:ディノ・ヨンサーテル、音楽:ベアー・マクレアリー・

出演者:メル・ギブソンショーン・ペン、ナタリー・ドーマー、エディ・マーサンジェニファー・イーリー、スティーブ・クーガン、他。

貧しい家庭に生まれ、学士号を持たない異端の学者マレー(メル・ギブソン)。エリートでありながら、精神を病んだアメリカ人の元軍医で殺人犯のマイナー(ショーン・ペン)。2人の天才は、辞典作りという壮大なロマンを共有し、固い絆で結ばれていく。しかし、犯罪者が大英帝国の威信をかけた辞典作りに協力していることが明るみとなり、時の内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んだ事態へと発展してしまう。

辞書編纂事業を描くというより二人の友情物語。言葉という大海の中で溺れかけたマレー。そこでのふたりの奇跡のような出会い。辞書編纂の行き先に灯を見つけた。犯罪者というマイナーの身分は何の差し障りがあろうか!マレーにとっては“神”にあった。

辞書編纂に没頭することで正気に戻ったマイナーが、犯した罪に向かい合うことで、自分が辞書に載せた語彙“Assythment”に苦悩する。この苦悩をどう解きほぐすか、「罪人の罪が許されるのを恐れるか」と救済に走るマレーの姿に心打たれます。辞書編纂者を追いやられたマレーと精神病院に追いやられたマイナーの行く末に内務大臣チャーチルが下した英断に感動しました。

メル・ギブソンの狂気の演技と賢者としてのショーン・ペンの重厚な演技、ふたりが対峙するシーンには、どちらが博士で狂人か分からない信頼と愛に溢れ、泪が出てきます。そして狂人へと落ちていくショーン・ベンの演技が凄い、圧巻でした。

あらすじ(ねたばれ):

1872年のロンドン。ウイリアム・チェスター・マイナー博士(48歳)は元軍医で、南北戦争時に脱走兵の頬にDの烙印を押した行為で、この兵に襲われるという強度の幻覚に陥る。このため安全な場所を求めてロンドンに生活の場を求めたが、ある夜夢に出てきたジョージ・メレットを街頭で、その妻イライザ(ナタリー・ドーマー)が見ている中で銃殺した。この裁判で精神病者の犯罪としてとして刑事犯精神病院に送られた。

このころ妻と6人の子供たちとで穏やかな日々を送っていた言語学者ジェームス・マレー(メル・ギブソン)はオックスフォード大学の英語辞典編纂委員会に呼び出され、理事のフレデリック・ジェームス・ファーニヴァル教授(スティーヴ・クーガン)の「辞書編纂を起こして20年、何の成果もない。優れた言語学論文実績者であるマレー氏は型破りな発想で問題を解決してくれる」という強い推薦で、編纂主任を引き受けることになった。しかし、この人事には「学歴のない、スコットランド訛りの男が!」と蔑む空気があった。

マレーは帰宅し妻エイダ(ジェニファー・イーリー)に「英語の全ての言葉を調べ定義する編集者になった。スコットランドの仕立屋の息子にチャンスがやってきた」と喜びを話すと、「迷いと怖れを捨てると約束をして!信念をもってやって欲しい」と激励をした。辞書作成には長い年月が求められる。家族に大きな犠牲を強いる。エイダはこれに耐えうる腹の座った女性でした。

マレーの辞書編纂の方針は「全ての単語を乗せる、古語も慎吾も、廃語も俗語も外来語、純粋な英語も。言葉のニュアンス、意味の変化や英語の著名な引用を収録する」というもので、この膨大な語彙集めにボランテイアを活用するというアイディアを取った。

「カードに単語と引用文を書いてもらう」と依頼文を読者に届けるために、出版本に挟んでもらうことにした。

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そして自宅の側に辞書編纂室(小屋)を建て、次々の贈られてくるカードの分析・整理作業が始まった。

精神病院のマイナー。囚人たちの散歩を終えて閉ざす鉄鋲の門扉が衛司の脚を貫いた。これを見たマイナーの応急手術が衛司を救うことになり、院長リチャード・ブライン博士(スティーヴン・ディレイン)から特別に2室が与えられ自宅の持ち物の持ち込みが認められた。マイナーは大量の書物と絵具を搬入してもらい院長に「被害者の妻イライザへ自分の軍人恩給を贈りたい」と申し出た。衛司のマンシー(エディ・マーサン)が手紙をもってイライザを訪ねたが、イライザは受け取らなかった。

辞書編纂室では問題が出ていた。17世紀と18世紀の引用文が集まらない。助手のホールとブラドリーが苛立っていた。マレーは「ミントを探せ!」と指示するが、なかなか進まない。部屋の灯が消えることはなかった。

精神病院。本が欲しいというマイナーにマンシーが一冊の本を贈った。その中にマレーの語彙募集のカード「英語という言語の壮大なる多様性の中でその全てを追い求め見つけあらゆる言葉を網羅する。全ての世紀の本を読むことでこの偉業を成し遂げる」が挟まれていた。マイナーは「本当に出来るか?お前のようないかれたやつに!」」と衛司にペンと紙を求めた。

そしてこの仕事で立ち直れると院長に本を求めた。

クリスマスイブ。マンシーに頼んでイザイラに塩漬け肉を届けさせた。6人の子供を抱えるイザイラは生活苦の中にあってこれをとても喜んだ。

イザイラは精神病院を訪ねてきて、マンシーの監視下でマイナーに会い、年金を受け取ることを伝えた。マイナーは「ありがとう」と感謝したが「決して許さない!」と素気なくイライザは帰って行った。マイナーはイライザの肖像画を描くようになった。

「謝罪1848年リー・ハンド」というカードを見たマレーはマイナーに「早速必要なのは17世紀と18世紀の文献を調べて欲しい」と手紙を送った。

マイナーは一心不乱にカードを書き、マンシーを部屋に呼んだときには床と壁はカードで埋まっていた。

マレーは大学の出版局長フィリップ・リッテルトン・ジュル(ローレンス・スワックス)、彼はマレーに反感をもつひとりだった、に呼び出され「編纂が遅れているので聖書を作れ!」と急かされる。「約束どおり作る!」と啖呵を切ったが、打つ手がない。「神よ来い!」と叫んだところに奇跡が起こった。マイナーのカードが「言葉の大海の中で網を張らせてください」という手紙とともに届いた。マレーは「神は救世主を使わせた。Artという単語の変遷・文例を送ってください」という返事を書き送った。このように交流しあいながら第1部AからANTまでを完成した。これを携えマレーは精神病院を訪ねた。

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ここでのふたり。初対面ではなく、にこやかに何年もつきあった仲間のように

単語を検討し合った。「鉄は鉄に鍛えられる。人は友に鍛えられる」と「死の谷を歩いている」というマイナーを友として支えることを誓った。

イライザが本「大いなる遺産」をもって精神暴飲を訪ね「年金は受け取れない」と申し出た。「私の命はあなたの手の中にある」とマイナーは悲しんだ。以後「本を読んでいるときは誰も追って来ない」と本でふたりは結ばれていった。

マレーが第1巻「AとB」を完成したところで、学位記が送られ、皆に祝ってもらえ、自らも喜んだ。

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イライザは子供を連れて精神病院にやってきてマイナに会わせた。マイナは喜んだが長女のクレアが嫌がった。これを謝るようにイライザは「愛があれば、その先は?」というメモを渡し、キスして帰った。マレーは「また彼を殺した!」と苦悩し、下部を傷つけ、病院内で大騒動になった。マレーは救済の手紙をマレーに送った。

マレーが精神病院を訪ねると、彼の部屋から図書は消えていた。マイナーは「神に厳しさを求められた。彼女がこれをくれた。理由はあなたに送ったAssythment(償い)だ!」と言い「二度と来るな!」と怒鳴った。

辞書編纂委員会で大問題が起こった。第1巻に日常語の“女奴隷”が載っていなかった。ウイーン大学から指摘されたもので、名門大学の名に関わることと厳しく追及され、責任を取って後ろ盾であったフレデリックが辞職した。

マレーは妻エイダにマイナーのことを話した。エイダは「正気でなければできない仕事になんで殺人者を!」と激怒した。マレーは「罪人の罪が許されるのを恐れるのか」と“許すことの大切さ”をミルトンの失楽園を引いて“先行する悩み“「神に誓約を誓えば堕落から救われる」と説き、イライザのメモを見せ、これに対するマイナーの答“「決して許されない!」と見せた。罪に厳しく向き合うマイナーの姿勢に「なぜ彼が狂ったか?」が分かりように思いました。

エイダは「試練を求められたときは屈しない覚悟が必要だ!」と返事した。

 マイナーには院長による新しい治療が始まった。マンシーには正視できなかった。完全に魂を抜かれていた。精神病院を訪ね「辞書の中の400年は彼のものだ!」とこの治療に抗議した。しかし、「偉業はアメリカ人の殺人者か」と新聞に載り、マレーは編集主任から降りることになった。

失意のマレーはフレデリックを訪ねた。彼は「言葉は生まれ続けている。君は偉大な土台を作り上げた。次の世代が君を道標に引き継ぐよ。終わりなき旅なんだ!」と励ました。

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妻のエイダがマレーのいない編集委員会に出向き「夫は病を抱え殺人犯と力を合わせすばらしい宝物をくれました。常識から外れた生き方も認めて欲しい。罰しないで欲しい」と訴えた。

エイダは「辞書は私たちのものでもある。愛があれば成し遂げられる」と言い、「未亡人の瞳を見て来て欲しい。もし赦しが、愛が見えたらマイナーを助けて欲しい!」と懇願した。

マレーはイライザを訪ねた。「私が許したのになぜ彼らは罰するの!」とマイナーに会えないことを嘆いた

マレーはイライザの精神病院に連れてきてマイナーに会わせ、「愛があれば、その先は・・」のその先を聞かせた。「愛があれば、愛と叫ぶ!」。これを聞いたマイナーは涙を零した。

これで勝訴できるとマイナーの再審に臨んだか、イザイラの証言が、娘クレアの出席で、「妻として申し訳なかった夫は不公平であると思っている」で終わり、「愛があれば、愛と叫ぶ!」に届かなかった。しかし、マイナーは満足だった。判決は敗訴だった。

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マレーはフレデリックと共に内務大臣チャーチルの執務室を訪れた。チャーチルは多くの人に囲まれ、話を聞いてもらえる状況ではなかった。マレーは「友人が痛ましい状態にあります。ひとつの人生、掛け替えのない人生です。全ての者の人生は尊重されるべきです」と訴え、室外で答えを待っていた。そこにチャーチルが現れ、「博士は釈放しないが手はある、君の辞書で見つけた“国外追放”だ、アメリカに処置を任せる。君は早く職務に戻れ!」と辞書編纂責任者としての辞令を渡した!

感想

物語は辞書編纂から、悩める殺人犯マイナーの救出物語になってしまいましたね!😊しかし、Assythment(償い)という単語の重みを感じさせてくれ、感動的な物語でした。

「オックスフォード英語辞典」は183万語の引用と41万語を収録し初版の12巻は1928年に完成。編纂を始めて70年という歳月を要しました。マレーが関わったのはTまで。彼は1915年脳膜炎で、マイナーは1920年自宅で肺炎を患い亡くなりました。

チャーチルの逸話があまりにも恰好良すぎます。😊しかし説明不足でしたね!

辞書編纂は世界の面積と人口の四分の一を占め、最大の自治領を誇る英国にとって、ここで貿易をするには“陛下の言葉を話す”必要があるという国家事業。この想いが感じられる作品でした。

辞書でAssythmentの解説を読んでみたい。字句から受けるよりもっと深い意味が読み取れるのではないでしょうか。辞書は見るのでなくその奥を読むことを教わった作品でした。「舟を編む(2013)」はとても役に立ちました!

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