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「最後の決闘裁判」(2021)男性に!是非観て欲しい!

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強姦事件を巡り、中世フランスで実際に行われた決闘裁判を巨匠リドリー・スコット監督が映画化した歴史ミステリー。

原作:エリック・ジェイガー、訳本があるようですが未読。監督:ブレードランナー」(82)「オデッセイ」(15)のリドリー・スコットマット・デイモンのオファーを快諾して挑んだ作品とのこと。

脚本:オスカー脚本賞受賞の「グッドウィル・ハンティング/旅立ち」(97)脚本のデイモンとベン・アフレックと共同脚本を手がけ、男性目線による最初の2つの章を書き3章目の女性目線のパートはニコール・ホロフセナーにゆだねたものとのこと。女性ならはでの脚本です。撮影:「オデッセイ」(15)のダリウス・ウォルスキー美術:「オデッセイ」(15)のアーサー・マックス、衣装:ジャンティ・イェーツ、編集:クレア・シンプソン、音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ

出演者:主演はマット・デイモンアダム・ドライヴァー、共演にジョディ・カマー、ベン・アフレックデイモンとアフレックの役に注目です。😊

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騎士カルージュ(マット・デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友で従騎士ル・グリ(アダム・ドライヴァー)に乱暴されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。

勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになる。人々はカルージュとル・グリ、どちらが裁かれるべきかと意見が真っ二つに分かれる、その結末は・・。

実話に基づく物語。背景は14世紀、100年戦争時代のフランス。「妻を寝取られた」と決闘で勝敗を争う中世武士道物を背景に、犯された女性の意地を描き、これが現在に繋がる「性暴力への抗議」という時代を超えたテーマ性のある作品です。

黒澤監督の「羅生門」で用いたやり方で、決闘者ふたりと妻のそれぞれの言い分とその背景が描かれ、何が真実かと緊張感をもってその行方を見守るという、うまい脚本になっています。さらにドリー・スコット監督ならではの中世世界の再現映像に圧倒されます。

1386年12月29日、パリ。マルグリットが黒衣装で決闘場に。そこに勝負鎧に身を固めたカルージュとル・グリが騎馬で登場。二頭の騎馬が走り出す。物語は決闘にいたる経緯が描かれ、決闘を見届けることになります。

ここからはねたばれです(要注意)

〇カルージュの見方、証言。

1370年9月12日、ル・グリとともに出征。リュージュ戦線で、指揮官として敵の奇襲にすばやく反応して突撃したが成果は上がらない。ピエール伯爵(ベン・アフレック)の命令で帰還した。ピエールへの挨拶時、「もと近くへ!」と促されほどに、伯爵への忠誠心を強く持っていた。(これに対してル・グリは親しく伯爵に忠誠を誓っていた)。

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軍事出費が嵩み税を上げるとル・グリから要求されたが、払えず、融通してもらって「俺のせいでそうなったか」と戦場で頑張ると伝えた。

1380年ノルマンディーの戦で勝利。帰還してその祝の席で、資産家のロベールに土地付き娘マルグリットを嫁にと勧められ、結婚した。ところがル・グリを通してこの土地をピエールに召し上げられた。

長官であった父が死亡。「土地を返してもらい長官職を継ぐ」とピエール伯爵に掛け合うと「土地はすでに自分のものだ。長官はル・グリに決まった」と要求を退けられた。父の跡を継ぐと思っていただけに怒り心頭、ル・グリとは絶交した。妻には国王に願い出て返してもらうと説明した(伯爵に対して腰が引けていた)。

それから1年後、友人クレスパンからパーティーの招待状が届き、マルグリットを伴って参加。ここでル・グリとの絶交を解消し、ル・グリにマルグリットを紹介すると、いきなり妻の頬にキスするのに驚いた!その後のダンスパーティーで妻と踊っているとル・グリがじっと眺めていた。

1385年スコットランド戦場へ。大変な苦戦だった。帰還したときは熱病に犯されていた。無理を押して、パリに1週間の予定で、国王への戦況報告に向かった。そこで300枚の金貨を拝領し帰宅すると、妻か「ル・グリがやってきて、家には誰もおらず、抵抗したが犯された。ル・グリに罰を与えたい!」と訴えた。

教会で神父にこの事実を告白した。「領地中に知られるのは拙い」と窘められたが、「陛下に訴えたい!」と告訴することにした。

裁判で「ル・グリは我が妻を邸内で犯した。決闘裁判を望む」と訴えた。

〇ル・グリの見方、証言

リュージュ戦線では、カルージュは頑固だった!しかし、「彼の力で勝つことができた」とピエールに報告したが、ピエール伯爵はそう思わなかったようだ。

ピエール伯爵に「女は数人の男に遊ばれることを好む」と誘われ、文学の素養を褒められ、乱交パーティーにつき合うようになった。これが縁で「財政が悪化して戦争が出来ない」と土地の没収を命じられた。

資産家ロベールの土地を差し出すよう要求したが「娘の持参金だ」と拒否された。そこで彼の娘をカルージュに嫁がせ、カルージュから取り上げた(すべてピエールの指示だ)。

カルージュが土地の件で訴えに来るとをピエールに報告すると「遊んで行け!」と誘われ、長官に任命された。カルージュが「土地を返せ!」とやってきたが、ピエールは拒否し、俺が長官であることを告げた。これに彼はすごすごと帰り、皆の嘲笑を買った。

パーティーでマルグリットを紹介され唇にキスした。彼女は拒否することはなかった。ダンスパーティーで、彼女と小説のことで会話をした。楽しい会話ができた。彼女が本当に美しい人だと思った。カルージュとマルグリットが仲良く踊るのを見ていた。その夜、オオカミの咆哮に怯えるマルグリットを抱き、キスする夢を見た。

カルージュがスコットランドの出征から帰還したとき、帰還歓迎会で会った。「勝って帰ったのに何の褒賞もない。お前は沢山の資金を持ち、ピエールに重用されている。(誰のお陰だ)俺をサーをつけて名前で呼べ!」と絡んできたので「サー・カルージュ、パリを満喫しなさい」と言ってやったら、帰っていった。あのように落ちぶれたカルージュでは俺の方がマルグリットに向いていると思った。

従僕を連れて馬でカルージュの屋敷を訪ねた。従僕が「休憩させて欲しい」と申し出ると、認められたので自分も一緒に入り、そこでマルル・グリットに出会った。マルグリットに自分が愛している想いを告げると、二階に上がるので、これを追い、関係を結んだ。十分に満足した。このことは秘密にしよう」と口止めをして去った。

教会で神父に「姦淫の罪を犯した、友の妻だ」と懺悔した。神父は「これであなたは許されるでしょう!」と言った。

ピエールに「神父は許した」と話した。ピエールがこの問題は領主である自分が解決すると決めたとき、カルージュが国王に告訴したことを知った。牧師の示唆で、聖職者特権で無罪を訴えることにした。

裁判で「強姦していない。カルージュが嘘ついている。神の力で無実を晴らす」と訴えた。

〇マルグリットの見方、証言

結婚した日、夫は父に「土地は私の物だ、男の子を作る」と約束し、その夜は荒々しく挑んできた。「気持ちは良かったか?」と聞いてきた。「今夜は受胎だ!」という夜が続いた。

パーティーのとき、ル・グリから頬にキスされた。夫と踊りながら、こちらを見ているル・グリに気付いた。周りの女性たちがル・グリのことを「美形だけど女たらしよ!」と話していた。

城を出て、義母と一緒に暮らすようになった。

馬の交尾を見せられて、その夜、夫が「あの快楽が・・」と言ったので「快楽が欲しい」と答えた。

夫は「数か月で戻るから決してひとりになるな!」の言葉を残して出征していった。自由な気持ちになって、友達と服地を買いにいっていて、ル・グリを見た。そのとき友達が「きれいな人」というから「美形だけど、いやな目つき!」と言ってやった。

義母が「あなたは義務を果たしてない」、「夫と同じ絶頂感がないと子供は出来ない、あるの?」と聞くので「経験しています」と答えた。不妊治療薬も飲んでみた。ニコール・ホロフセナーが女性目線でひつこく書いてきます。(笑)

夫がスコットランドから帰還してきた。とてもやつれていた。「俺は尊厳を失った」と言った。夕食時、パリに1週間行くというので「友達が来るから、ここに居て」とお願いしたが「金がない」と次の朝、出掛けた。母とメイドも買物で外出した。

男が窓から「馬蹄が壊れたので修理できるまで暖を取らせて」というのでドアーを開けたら、ル・グリが入って来て「何でもします。全てを捧げます。もう押さえようがない。カルージュは金もなくあなたを愛せない」と迫ってきたので、メイドの名を叫びながら二階部屋に逃げ込んだが、ここで犯された。彼は満足していた。私は泣いた!ル・グリは「悪く思うな!これが激情だ!」と言って去って行った。

帰ってきた夫に「ル・グリに首を絞められ犯された。法に訴えて欲しい」とお願いした。すると「お前をやつの最後の女にしたくない!」と挑んできた。

教会で告白し、皆さんに聞いてもらった。夫は「ピエールも訴える」と付け加えた。私が訴えることで、友達に証言をお願いしようとしたが断られ、義母は「一族の恥だ!私も若い頃犯された」と言い、反対した。

法廷では「妊娠6か月。誰と寝たかを隠すためか?」「快楽がないと妊娠しない!」「強姦では妊娠しない」「強姦でどうすれば喜べる」と声が飛んできた。「内面の問題!」と退け、「全ては事実です」と証言した。

シャルル6世が「決闘を認める」と宣言した。

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法廷を出て夫が「なぜル・グリが美形だという。恥をかかせるな!」と怒るので「私と子供のために犠牲を払って!」と励ましておいた。

〇決闘

国王の臨席、大観衆のなかでの決闘。カルージュとル・グリは馬上で3本の槍を交したが勝負がつかず、馬を降りて、剣と斧で格闘。カルージュが出血多量で一時不利な戦いであったが、剣でダルに止めを刺した。ダルは命絶えるまで「強姦してない、神の名において、無罪だ!」と叫んだ。ダルは裸にされ、市中を引き回され、刑場に晒された!

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数年後、カルージュは戦場に。庭で遊ぶ女の子を見て微笑むマルグリット。その顔が次第に曇っていく・・。

感想:

3人の見方、証言を長々と書きました。結果は男ふたりの証言がいかに自分本位か 、これがマルグリットの証言で浮かび上がってきます。

騎士のカルージュは「忠義に生きる」と恰好いいが、戦場を離れると社会性に欠け、からっきしのダメ人間。妻の扱いも馬と同じと思っていたのではないでしょうか。そういうシーンもありました。(笑)

一方のル・グリは処世術に長け、金と地位に溺れ、女などどうにでもなると思っている。ふたりはクソだ!と思いました。

ラストのマルグリットの表情の変化。本当にこの子の父親は誰れ?ではなかったかと。最後の決闘、激しい男の戦いがテーマと思いきや、とんでもない、その陰にいた女性の男性による性暴力・男子優位社会を訴えたことだったとは。700年を経て今の時代の問題へと繋がるところが凄い!

男性にぜひ観て欲しい作品です。

裁判中の性の卑猥な表現や最後の処刑後の姿を見せたのも、見るのがすこし嫌な気分になりますが、この問題の根の深さを示したかったのだろうと思っています。

100年戦争という時代を再現した、重々しい雰囲気がしっかりでた映像美術的に素晴らしい作品でした。決闘シーンがとてもよかった。勝敗が逆転するのではないかという、戦場で鍛え上げたカルージュが勝と思っていましたが、危なくなるという、デイモンとドライバーの真柏の剣技演技・演出がすばらしい。

結婚したばかりの幼い表情のマルグリットが最後には強い女性に変化していくとジョディ・カマーの演技が見事でした。

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ブレードランナー」監督のおふたり。ドゥニ・ヴィルヌーブ(「DUNE/デューン 砂の惑星」)とリドリー・スコットが遠い“未来“と”過去“を描くという決闘作品になりました。😊

どちらも見応えのあるすばらしい作品でした。が、テーマ性という視点で本作に軍配を挙げたいと思っています。リドリー・スコット監督、まだまだ衰えずです!

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