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「由宇子の天秤」(2020)

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「火口のふたり」の瀧内公美さんの演技が大変話題になっている作品。3年前に起きた女子高生いじめ事件を追うドキュメンタリーディレクラーを通して、情報化社会の抱える問題や矛盾を真正面からあぶり出していくドラマ。

「火口のふたり」の舞台挨拶で言葉を交わしたことがあり、その演技に注目していました。当地ではやっと公開され早速足を運びました。😊

監督・脚本・編集・プロデューサー:「かぞくへ」の春本雄二郎、初見の監督さんです。プロデューサー:松島哲也、片淵須直撮影:野口健司。

出演者:瀧内公美光石研、梅田誠弘、河合優実、丘みつ子和田光沙、川島陽太、他。

3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件の真相を追う木下由宇子(瀧内公美)は、ドキュメンタリーディレクターとして、世に問うべき問題に光を当てることに信念を持ち、製作サイドと衝突することもいとわずに活動をしている。その一方で、父が経営する学習塾を手伝い、父親の政志(光石研)と二人三脚で幸せに生きてきた。しかし、政志の思いもかけない行動により、由宇子は信念を揺るがす究極の選択を迫られる・・・。

作品のすばらしさは、3年前の事件と父政志が起こした事件のふたつの事件を見つめる中で、有宇子の正義を問う展開

前段で3年前の取材でディレクラーとしての正義を描きながら、父親の起こした事件にこの正義が守れるかという“天秤にかける展開”テンポよく描かれます。ミステリアスで、先の読めない巧みな展開はよかったですが、すこし冗長になりましたね!そして結末で、この問題の深さを思い知らされる演出が見事でした。

瀧内さん。ディレクラーとしての正義を貫く強さ、反面、父親の塾を手伝う親思いの娘。硬弱の感情表現が見事で、自然な演技がリアル感を醸し、“揺れる正義”をうまく見せてくれました。 

あらすじ:

冒頭、娘・広美が自殺した河原で父親・長谷部仁(松浦裕也)が娘を偲びリコーダーで“Greensleeves to ground”を演奏しながら、「娘は教師の矢野和弘(自殺)との関係が噂され、学校から退学を言い出され、それを苦に自殺した。教師の矢野が殺した!話合う機会を失った」と怒りを露わにするシーンをカメラに収めた。取材チームの相棒・富山(川瀬陽太)が「なにやってんだ、何回も撮る!」とクレームをつける。が、“この映像に真実はないか?”と一向に気にしない有宇子。

編集会議でTV局のプロデューサー・保土田(松本大輔)が、撮影された映像も見ず、シナリを見ながら「シナリオと違う、“矢野が殺した部分をカット”、構成変えて!」と審議打ち切った有宇子は“女高生・広美と男性教師・矢野を自殺に追い込んだのは学校側かメディアか”を明らかにしたかった。

教師だった矢野和弘の家族の証言収録にかかる。局が準備した矢野家族、母親の登志子(丘みつこ)のインタビューはカーテンで顔を隠して行うというものだった。有宇子は“目を見ないインタビュ-はない”と拒否、これでカーテンなしで行いことになったが、有宇子の和弘の自殺と学校の関りに関する質問に、登志子が答えられなくなり中止となった。登志子が「家にきて頂戴!」と申し出た。

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有宇子が自殺した矢野家、「矢野の遺体は姉によって発見され、自分は潔白だと学校に抗議したと書かれた遺書があった」、現場を検証した。近隣の女性から「報道の人は来るな!」と追い返された。激しい報道合戦があったことが伺われた。

有宇子は家に帰って、父の経営する学習塾講師として父を助けていた。新入生の小畑萌(河合優美)と出会った。テストで優美がカンニングする姿を見て、テストを止め、やさしく注意するという優しい、正義感のある教師。父との間もとても信頼し合う仲だった。

取材チームで矢野登志子のアパートを訪ねると、室内を暗くして自分がここに居ることが知られないようひっそりと生活していた。登志子が「誰が加害者かって、そのカメラが人を殺した」という。有宇子は「誰の味方にもなれないが、光を当てることはできます」と話すと、書き留めたノートを渡された。

 教室で騒ぎ!萌がトイレから戻らない!有宇子はトイレから萌を連れ出し病院に連れていった。医者から「妊娠!」と言われ、萌に「相手は?」と聞くと「木下先生!」。

ここからねたばれ(取り扱い注意)

有宇子は萌をアパートに送っていって、心配しないように諭し、そこで父親・哲也に出会った。娘に無関心なことを知った。

塾に戻り父・政志に“携帯(カメラ)を向けて”「萌と何があった」と迫った。政志は「萌と関係を持った!すまん」と謝った。政志は正直に生きてきた人。「しばらく考えさせて欲しい!」という。

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有宇子はどうするか?と思料!父の不祥事を隠すことにした。友人に相談し、闇で堕胎してくれる医者を紹介してもらった!

萌の家を訪ね、勉強を教え、食事を作り、萌の生活を支援して、秘密裏に父の不祥事を解決したいと努力を続けた。萌はすっかり有宇子を信じるよういなり「大学に行きたい!」と言い出す。哲也もこの生活に口を挟むことはなかった。どちらかというと喜んでいるように感じられた。

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有宇子はドキュメンタリーに厚みをつけるため、自殺した矢野和弘の姉・志保(和田光沙)にインタビューしたい旨伝えたが、断わってきた。

原稿を見せて局プロの保土田の意見を聞くと「やめとけ、売れもしないものを作って!」という。登志子がインタビューで喋った「カメラが殺した!」という映像を見せて、(自殺に追い込んだのはメディアか?)志保さんに会って真実を掴むと走りだした。

有宇子はケーキを持って志帆を訪ねたが「家を出るのは反対だったが“娘愛理沙(大原結未)を守るため”にどんなに苦労したか!」とインタビューを断った。ふたりでケーキを食べて家に戻った。

家に戻ると父・政志が「萌の父親が訪ねてきた。もう話し合おうと思う」という。「告訴されたらどうするの。社会は許さない!ドキュメンタリーをやり遂げたい、でないとチームを失う、お父さんは楽になりたいだけ!」と父親を慰留した。

政志が駅前の遊歩道で哲也に会うと「女紹介します」と声を掛けられた。

有宇子は紹介された医師に萌を診断してもらった。「子宮外妊娠で手術が必要!このままにしておいたら死ぬよ!」と注意勧告された。

このようにドラマ進展に緊迫感があってとても面白い!

富山から「志保さんからアクションがあった」と連絡が入り、ふたりで様子見に出向いた。今の生活のことを話して、アルバイトに出て行った。

富山と別れ、遊んでいる愛理沙に声を掛けると「お前の家族は血筋が悪いと友達に虐められる」と話す。アパートに戻って愛理沙の勉強を教えながら、志保の帰りを待って“愛理沙の悩み“を話すと「あの子は分かっていたんだ!」と泣き崩れた。こんな志保を慰めて家に戻った。

編集会議で「矢島和之は学校側の被害者!」ということで、ドキュメンタリー構想が採用された。富山は大喜びだった。しかし、有宇子には問題が残っていた!「もうすぐ作品が放送されるから、待って!」と苛立つ父親を諫めた。

塾生のダイチから「萌は売りをやっている、信じるな!」と聞かされた。

有宇子は萌を病院に連れていくことにした。その途中で高山から「1分だけでいい、志保さんが話したいと言ってんだ!」と呼び出しが掛かった。

放送局の駐車場に萌を残して、部屋に入ると志保が「すいませんでした」と和之が女生徒を犯す映像を見せ、「遺言は自分が書いた!」と告白した。局プロの保土田が「登志子と志保をカット、編集やり直せ!」と求めてきたが、有宇子はこれを拒否した。「お前はどっち側だ!俺たちが繋いできたものが真実だ!」という富山を携帯で撮って、志保を庇って外に出た。

駐車場の車に戻って、病院に急ぐ車の中で萌に「あなたのお腹の中の子は誰の子?」と聞いた。萌が車を降りて走り出し、有宇子が追ったが見失った。萌は車両と衝突、大怪我を負い入院。

有宇子は病院で、「一命は取り留めた。萌は妊娠していた」と優しく見守る哲也に会った。お金の支援を申し出た。

病院から出て駐車場で「父が萌ちゃんを妊娠させた」と告白した。哲也が有宇子の首を絞めてきた。そこに富山からの携帯が鳴った、「構想なくなったじゃないか!」。

感想:

ドキュメンタリー・ディレクターとしての有宇子の正義が、父親の不義に直面して貫き通せるかを問いましたが、志保の告白を聞いて、自分のあるべき姿に辿り着けました。自分に直接降り掛かる問題には保身的になる!その正義を貫くことが如何に難しいか。

携帯で、父を、富山を、最後に“自分を写し”それぞれの正義を問うという演出が素晴らしかった!

ラストシーン、有宇子が哲也に首を絞められて“崩れ堕ち正気を戻すまでの間”、これが絶妙だった。この間、この親子の運命はどうなるんだ!と考えていた。有宇子の正義を問い直す演出が素晴らしい。

滝内さんの演技、完璧でした!「火口のふたり」のときと全く異なる演技、こんな人であったかとその変化に驚きました。

親子を演じた梅田誠弘さんと河合優実さんの演技がすばらしい。梅田さんの強面であるようで、決してそうではなかった。病院で傷ついた萌を優しく労わる柔らかい演技。河合さんの媚びることのない無垢な、自然な演技。この優しさが有宇子の正義を問う布石になりました。

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