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「偶然と想像」(2021)偶然には果てしない想像が存在する小宇宙だ!

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濱口竜介監督作「ドライブ・マイ・カー」(2021)が第79回ゴールデングローブ賞非英語映画賞にノミネートされ、アメリカでも批評家から絶賛の声が相次ぎ、次は「アカデミー賞」と期待される中で、「偶然と想像」公開となると、これは見逃せません!というわけで早速観てまいりました。

本作はそれぞれ「偶然」と「想像」という共通のテーマを持ちながら、異なる3編の物語から構成されるオムニバス映画

第71回ベルリン国際映画祭での審査員グランプリ銀熊賞)を受賞作です。

第1話:親友が「いま気になっている」と話題にした男が、2年前に別れた元カレだったと気づく「魔法(よりもっと不確か)」

第2話:50代にして芥川賞を受賞した大学教授に落第させられた男子学生が逆恨みから彼を陥れようと、女子学生を彼の研究室を訪ねさせる「扉は開けたままで」。

第3話:仙台で20年ぶりに再会した2人の女性が、高校時代の思い出話に花を咲かせながら、現在の置かれた環境の違いから会話が次第にすれ違っていく「もう一度」。

監督・脚本:濱口竜介撮影:飯岡幸子。

出演者:第1話に古川琴音、中島歩、玄里、第2話に渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、第3話に占部房子、河井青葉、他。

“偶然”に遭遇したものたちが、たわいもない“想像”で会話を交わし、その結果がとんでもない方向に発展するが、実は彼らの生きざまだという、人生にとっての味わい深い話でした。

会話、言葉の面白さ、予測不能で、大笑いして、「映画は脚本だ」と感じさせてくれる凄い作品でした!

あらすじと感想:

第1話「魔法(よりもっと不確か)」:

モデルの芽衣子(古川琴音)とヘアメイクのつぐみ(玄理)は撮影を終えて帰るタクシーの中で、つぐみが偶然出会った男性の話を、聞かせたくてしょうがないというように芽衣子に話しかける。つぐみの話を芽衣子は相槌をうつという感じで聞いていた。

「運命的な出会いで、会ってすぐなのに寝てもいいと感じだ。実は寝たのだが、彼は不能だった!それは2年前に別れた元カノへの愛だったのよ。次は魔法のような出会いを期待している」。玄理さんのノロケ話の話し方が芽衣子を刺激するようで面白い!(笑)

つぐみが下車すると、芽衣子は偶然につぐみが話した男・カズ(中島歩)のいるオフスに向かった。頭に角が生えたような勢いで居残りのカズに突っかかった。(笑)芽衣子はつぐみが話した「別れた元カノへの愛だった」をカズに試しに来たのだった。「あなたが傷ついているのは私が好きだから!」と言い寄る。(笑)が、カズが「お前は不倫をした、もういい、帰れ!」とせかす。「帰れ」というのがが分かるほどの芽衣子の悪態ぶり。(笑)

芽衣子が「私が傷ついた以上にあんたが傷ついていたことが分かった!魔法より不確かなものを信じてみる気はない!」という言葉に、カズはそっと肩を抱いて泣いた。そこに女性社員が入ってきたので、芽衣子は逃げるようにオフスを後にした。カズは追わなかった。

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3日後、芽衣子とつぐみはカフェで会っていた。そこに偶然、カズが通り掛かった。カズをカフェに呼び込み、つぐみが芽衣子をカズに紹介する。(すると芽衣子が「私の元カレ」と言いだした。つぐみは駆け出してカフェの外に。これをカズが追う。これは「最低!!」と)、芽衣子は「芽衣子です」と挨拶して、カフェを出て、携帯で変わりゆく街を撮った。

ここでは芽衣子とカズの言葉によるボクシングが見どころでした。しかし、「私が傷ついた以上にあんたが傷ついていた」はいい言葉でほろりとさせられ、カズの泣いたので、カフェでの芽衣子の行動は予想しなかった。(笑)恋にもビルドアップ、この面白さ!

第2話「扉は開けたままで」

瀬川教授(渋川清彦)はとても堅物で、小説家としてきわどい描写を描くことから、暴力やセクハラで疑われないよう教授室のドアを常に開いていた。その教授室で瀬川に「君は恥を知りなさい!」と一喝され、土下座して「お願いしまし」と単位を請願する学生・佐々木(甲斐翔真)。

5か月後、佐々木は自室で同じ部学生で不倫関係にある主婦・奈緒(森郁月)とセックス。偶然、TVで瀬川が芥川賞を受賞したことを知った。佐々木は奈緒に「瀬川は俺の人生を奪った人だ。瀬川をハニートラップで陥れてやりたい」と奈緒に懇願した。奈緒は瀬川の芥川賞作「アントロペへの道」の気にいっているページを佐々木に読ませ、セックスが終わって、佐々木の懇願を受け入れた。このページを読んだ佐々木の気分はどんなものだったかと思うと笑えます。(笑)

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奈緒が瀬川教授を訪ね、「サインをください!」と「アントロペへの道」を持ち出し、一番気にいっているページにサインしてもらった。次いで、教授室を開けっ放して、このページの朗読をはじめた。ちょっとこのページは書けない!芥川賞というより単なるエロ小説に近い?(笑)

瀬川を誘うように読むか、一向に興奮する様子がなく、淡々と聞いている。読み終わって「自分は誘惑される弱い女、先生は?」と問うと「自分だけが知っている自分の価値を抱きしめなければいけない。そうして守られたものが、思いかけず誰かに繋がり励ますことがある」と励まされ、奈緒はこの言葉に感激して涙した。確かにこの言葉は人を感動させるよい言葉だ!

奈緒が「売るために朗読を録音した」と話すと「君の声がいい、興奮する。コピ-して送ってくれ!」と言われる。お互いに声を聴きオナニーすることで同意し、奈緒は録音をコピーして瀬川に送ることにした。

奈緒は自宅で朗読を終え、送り先に瀬川の名を入力するところに、夫と息子が帰ってきて「佐川急便からメールが来ているよ」の声を耳にしながら、瀬川を佐川として入力し、送信してしまった。本人は気づかなかった!(笑)これを受け取った大学側は瀬川を免職。奈緒が離婚することになった。シがサの間違いで、こんな結論になろうとは!瀬川が可哀そうです!(笑)

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5年後、バスの中で奈緒と佐々木が偶然、再会した。佐々木は「あの事件は自分には関係ない」としゃあしゃあとしゃべるが、奈緒は黙っていた。佐々木が結婚すると聞いて、奈緒が笑顔になって名刺を渡し「おめでとう!」と声をかけてバスを降りた。佐々木は暗いトンネルに入るバスの中にいて思い沈んでいた。女は恐ろしい!(笑)

まず会話がめちゃくちゃに面白い。朗読をまじめに聞き、たどたどしい言葉で話す瀬川と奈緒の会話が、芝居ではなく、成立するところが面白い。よくまあこんな脚本が書けたと驚きます。偶然に対するこんな結果は予測不能でした。

第3話「もう一度」

夏子(占部房子)は仙台で開かれた高校の同窓会に参加した。次の日、帰郷しようと仙台駅前のエスカレーターを上っていて偶然、ある女性あや(河井青葉)が目に留まり急いで下った。するとあやも見返して駆け寄ってきて再会を喜んだ。駅近くのあやの家でくつろぎながら話すと、出身校も学友のことも合わない。「幸せ!」と聞くと「考えたことがない」と言い、夏子の名も覚えてないという。

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これは人違いとお暇しようとすると「お茶飲んでいって」と誘われ、夏子が「昔特別な関係にあったミカを探していること」を話すと、「私がミカになるから話していって!」という。夏子がミカのことを詳しく話すと、あやも結婚した経緯をしっかり話し「平凡だが幸せだ!」という。

男の子が学校から帰ってきたので、お邪魔することにして、あやが仙台駅のエスカレーターで上ったところまで送ってきた。ここで別れて夏子が駅の方に歩いていると、一度エスカレーターで下ったあやが上り返して、夏子を追って「名前を思い出した!望み!」という。(笑)ふたりはしっかり抱擁して別れた!

夏子もあやも心に大きな空白があってそれを埋めるための出会いでした!ふたりが友人関係にあるように会話が続くところが凄かった! 占部さんと河合さんの演技力でしょうか!

偶然に会って「幸せ!」という言葉で、こんな感動的な物語が作れるのがすばらしい。

まとめ:

2~3人の会話劇。こんな簡単な設定で、とてつもない面白いドラマが作れる。これに感動しました。

3つの話は、偶然に起因する想像の結果を描いたものですが、実態は言葉です。

言葉の捉え方で、いくらでも想像は変わる。魔法、いや不確かさへの挑戦だと思います。またその言葉の中に、当たり前のことかもしれませんが、話す人の切り取られた一瞬の人生が見えるということに驚きでした。

言葉に人生を載せるのが俳優さんたちです。「ドライブ・マイ・カー」(2021)の中での、舞台劇「ワーニャ叔父さん」の練習風景。ここではひたすら俳優たちが感情をこめずに台詞を読み、俳優から「自動的に言葉が出てくる」まで繰り返す。この練習で自然に感情が出てきて、“想像”が作られたものではなくリアルなものとなる。「愛がなんだ」「寝ても覚めても」もこうして撮られたことに納得しました。

同じようにして演出された「ドライブ・マイ・カー」(2021)がアカデミー賞を受賞することを期待しています。しかし、濱口監督の作品はエロっぽいですね!(笑)

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