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「とんび」(2021)昭和、平成、令和、未来へとつながる家族の絆!

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原作は岡山県津山市出身の作家重松清さんの同名ベストセラー小説。ほとんどを県内金光街の商店街や倉敷市をはじめ、笠岡、玉野、瀬戸内、備前市美咲町で撮影されたという。同郷の者としてこれは欠かせない!ということで早朝出掛けました。なんとフロアーが老人で溢れているではありませんか!こんな光景は最近見たことがない!

すでに2度ドラマ化されており、内野・佐藤版を見ています。映画化は初めてで、監督が「明日の食卓」「護れなかった者たちへ」(2021 )で社会問題化している人と人との関係を描いてきた瀬々敬久さん、とんび親父を阿部寛さんが演じると、さてどんな作品になるか!

小林旭の歌「ダイナマイトが百五十トン」で繋がる父と子の絆、息子の名・アキラが旭からとった名とは知らなかった。(笑)雪の降る海辺で息子のために“海になれ”と説く和尚。この言葉に諭され自然に出てくる阿部さんの涙、幼くして別れた母親と娘の再会に阿部さんが歌うバタヤンの「十九の春」懐かしい昭和!ここから平成、令和へと続く家族の絆物語です。自分の人生を重ね、泣けます!!

脚本;港岳彦、撮影:斉藤幸一、美術:磯見俊裕 露木恵美子、編集;早野亮、音楽:村松崇継主題歌:ゆず。

出演者:阿部寛北村匠海薬師丸ひろ子、杏、安田顕大島優子麻生久美子麿赤兒濱田岳、他。

あらすじ

昭和37年、瀬戸内海に面する備後市(架空)。運送会社に勤めるヤスは武骨で人情に篤い不器用な男ヤス(阿部寛)。最愛の妻・美佐子(麻生久美子)の妊娠にも、上手に喜びを表すことができなかった。やがて愛らしい男の子アキラが生まれ、「トンビが鷹を産んだ」と言われ、幸せいっぱいのヤスだった。昭和40年、アキラが3歳の時、ヤスの働き場でアキラの不注意で荷崩れが起き、妻・美佐子が身を投げてアキラを救ったことで亡くなった。ヤスはこの事故を自分の不注意で妻を死なせたとアキラに嘘をつくことにした。

昭和43年、アキラ6歳。アキラは小学生となり母がいないことで友達と喧嘩になった。ヤスはアキラを一人で育てることへの戸惑いで途方に暮れた。が、檀家の和尚・海雲(麿赤兒)の「海が雪を溶かすように、お前は海になってアキラに降りかかる難儀を溶かせ!」という言葉を胸に、和尚の息子で親友・照雲(安田顕)とその妻(大島優子)、飲み屋“夕なぎ”の女将・たえ子(薬師丸ひろ子)ら町の人々の優しさと励ましに支えられ、何とか反抗期のアキラと折り合いをつけながら過ごしてきた。

昭和54年、アキラ17歳。アキラの受験勉強が始まった。ヤスはアキラをひとりで東京に行かせることが不安で酒びたりになり寝込むという状態。アキラは照雲に引き取られ寺で受験勉強。結果は合格!ヤスは「二度とここに帰ってくるな!」と、言いたいことも伝えず、不器用に送り出した。アキラはしっかり成長していてひとり暮らしになるヤスに注意事項をしたためて出発した。

昭和57年、アキラ20歳。照雲から送られてきた手紙で母の死の真相を知った。しかし、アキラが備後市に帰ることはなかった。大学を卒業して出版社の入社試験を受験。ここで書いた作文“父の想い出”がユニークと認められ入社が決まった。

昭和63年、アキラは7歳上で3歳の子持ちの由美(杏)に出会い愛し合うようになった。ヤスは義弟(田中哲司)の招きで自分を捨てた父に会いに東京に出てきた。父が自分のことを心配しいたという話を聞いて、アキラに会うことにした。

出版社を訪ねるとアキラは不在だったが、編集長(豊原功補)からアキラ入社の経緯を聞かされた。トラックで帰り始めたところにアキラが戻ってきて、「由美と結婚したいという。ヤスは物も言わず備後に帰った。

備後に戻ったヤスは酒に溺れ、入院するハメに。それを聞いたアキラと由美はヤスを見舞に居酒屋“夕なぎ”にやってきた。ヤスがふたりの結婚を認めそうでないと知った女将が、照雲と図ってヤスにふたりの結婚を認めさせようとするが、ヤスは家族とは何かを考えていた。

時代は平成となり、小説家となったアキラはふたり目の子・娘を持ち、ヤスの老後を考えて東京で暮らすことを勧めたが、「お前らが困ったときに故郷がいる」と備後でのひとり暮らしを選んだ。

令和元年、ヤスはアキラの家族と一緒に暮らす夢の中で亡くなった。アキラの家族が備後を訪れ葬儀。長男が「どんなおじいちゃんだったのかな」とヤスの写真を選んだ。ヤスの部屋はアキラの家族との思い出写真やアキラの小説で埋まっていた。

感想(ねたばれ:注意):

令和になり、コロナ禍の中で、人と人の関りが一層希薄になり、いじめ、幼児虐待、家庭内暴力などが増えている社会環境から、今、描かれねばならない“家族の絆物語”。時代が変わっても変わらない家族の絆を描くのが本作のテーマ。ここでは4代に繋がる父子の絆が描かれています。

このために、原作にない“ヤスの一一代記”となっています。時間を詰めるために、ヤスが昭和63年に上京して1日を過ごす時間軸と、昭和37年にヤスの息子アキラが生まれて大人になっていくまでの広い時間軸を交差させながら、ふたりの絆エピソードが感動的に浮かび上がるよう演出されています。しかし、時間軸に戸惑う人もいるかもしれませんね。

感動的な絆シーンについて触れておきます。

6歳のアキラ、小学校に上がり他の生徒と交わることで母親を恋しがる。ヤスは落ち込むが、住職・海雲が雪の降る寒い海辺に誘い「ヤスが抱いてやれば正面の寒さは防げるが、背中の寒さは防げない。これは母がいない子の宿命。誰かがそれを埋めてやる、埋めてくれる」という説教。

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これに照雲やその妻、夕なぎの女将が手を差し伸べるという“世間の温かさ”。地域で子供は育てられてきた。この暖かさがよくでた作品でした。麿赤兒さんの説得力、そして阿部さんの涙の演技に泣けます!

12歳のアキラ。小学校6年生。母の死の真相を知りたがる。ヤスが不器用だが決してこれを明かさない!(笑)ところが女将に、若いころ婚家に残した娘が成人して会いに来るというハプニング。娘に顔を合わせないで育ての母に感謝する女将に、ヤスは「19の春」を唄い、これに飲み客が合わせて歌う。元には戻れない女将の運命の悲しみを皆で共有するいいシーンだった。女将はこれで救われた!

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17歳のアキラ。高校の野球部員。下級生を自分もやられたとバットでしごく。これを見たヤスはアキラをぶん殴って、下級生が受ける痛みを思い知らせるシーン。ヤスは母親がいないためにアキラは愛情に欠けた人間に育っているのではないかと危惧しての行動。自分がやったことでの“他人の痛み”を分かろうとしない今の世情には、このことは極めて大切。父親に殴られた記憶(暴力ではない)は一生ものです!

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18歳のアキラ。大学生となり上京ヤスとアキラの親子離れ。ヤスはアキラの顔をみようとしない。立ち去るアキラを追うヤスにアキラは振り向かない。こうやって別れてもふたりはどこかで結ばれている。これが父子の絆。ここでは北村匠海さんの父親に対する優しさと毅然たる態度の演技が光っていた。

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描かれたエピソードのどれをとても感動的で泣かされます。親子の関係なんて、こっぱずかしくて話せないが、よく描かれた脚本でした!

平成元年、アキラ27歳。ヤスに由美との結婚について承諾を求める。ヤスは由美が7歳年上で、離婚者。3歳の子持ちであることで、思い悩んだ。ヤスは由美の元夫の両親は孫に会いたいだろうと考えた。そしてアキラがいう「血のつながらない子でも愛せる」という言葉。ヤスは自分を捨てた父親に会ってみて「産ませてくれてありがとう!」と感じたこと。何よりも自分が孤独で過ごしたことの寂しさを知っていた。

ヤスはこの結婚を受け入れた。そして家族の一員として加わることで形に捉われない、絆で結ばれる新しい家族を作っていった。

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ヤスはアキラに同居を勧められたが、故郷で過ごすと断り、常に家族の記憶の中に生き、亡くなった。瀬戸の海で遊ぶアキラの家族に、ヤスが妻と幼いアキラと海で遊んだ記憶が重なっていくラストシーン、未来へとつながる家族の絆でした。すこし描き方が雑になりましたね!

まとめ:

刑務所に入ると、犯した罪を悔い、誰が、自分にとって大切かが分かります。これまで誰から愛を受けてきたか。恐らく家族を思いだすでしょう。

ヤスの最期、思い出の中で亡くなったが、そういう人生は最高です。老人に一番大切なことは「ありがとうございました!」という感謝の言葉です。自分を捨てた父親にさえ、「生ませてもらってありがとう」と言うヤスの言葉に、真の家族の絆を見る思いでした! 

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