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「流浪の月」(2022)愛に形はない!「こうあるべきだ」と形を決めるから真の愛が見えてこない!

「怒り」(2016)の李相日監督作。前作にとても感動しましたので、本作もと期待しておりました。前作からの広瀬すずさんの成長も観たいという思いもあって・・。

女児誘拐事件の被害者と加害者として世間の注目を集め、その15年後に偶然の再会を果たした2人の揺れる心の軌跡と見出した愛の形を描き出すヒューマンドラマ。

原作:2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんのベストセラー小説。未読です。原作とはおそらく違っているのではないかと思うのですが、映画で感じた感想を書くと、あえて原作を読んでいません。

監督・脚本:李相日、撮影監督:「パラサイト」「バーニング」「母なる証明」など韓国映画史に残る作品を手掛けたホン・ギョンピョ照明:中村裕樹、美術:種田陽平 北川深幸、装飾:西尾共未 高畠一郎、編集:今井、剛、音楽:原摩利彦。

出演者広瀬すず松坂桃李横浜流星多部未華子趣里三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子柄本明、他。


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あらすじ(なたばれ:注意):

冒頭、10歳の更紗(白鳥玉季)は公園で、ブランコしてベンチで本を読んでいて、あちらのベンチで本を読む大学生・佐伯文(松坂桃李)が気になった。突然降りだした雨に、木々が激しく揺れる。そっと傘をさしてくれる大学生

「家に来る!」と誘われて、泥流が流れる川にかかる橋を渡って佐伯のパートに急いだ。15年先の不穏なふたりの出会いを暗示するような映像で物語はスタートです。

15年後、更紗は中瀬亮(横浜流星)と洒落たアパートで同棲していた。流星は田舎の親に更紗を紹介し結婚を望んでいた。亮は積極的に更紗を求める。これに更紗は「亮が思うほど可哀そうではないよ」と応じる。このセックス中のこの言葉は理解できないが、物語が進む中で分かってきます。ふたりが頑張ってくれますが、何を表現したいのか分からなかった。カーテンが風で揺れる!

更紗はファミレスでバイト。誘拐された更紗を蔑むような生徒に会話に笑顔で対応。親友にシングルマザーの足立加奈子(趣里)がいた。店が終って女性仲間と居酒屋に。そこでも更紗が被害女児であったことが話題になるが明るく対応していた。日本人はつまらないお節介好きですね!(笑)

飲み足りないと加奈子に誘われて古めかしいビルの2階にある夜カフェ・calicoに急いだ。Calicoとは更紗布の意味。更紗はこのことに気付かなかった!

1階のアンティーク店に魅かれ、入ってグラスを見る。店主さん(柄本明)に案内してもらった。柄本さんの出番はこれでお終い。(笑)しかし、店主はグラスを見る更紗に「器も人も同じ」という謎めいた言葉を贈ります。

薄暗いカフェに入った更紗は“文”似のマスターが気になった。水を運んできたマスターの顔を見て文と確認できた。しかし、文は何も話さなかった。更紗の胸に15年前の出来事が蘇った!

何故蘇ったか?今と過去を行ききしながら、過去の伏線をうまくつながっていくミステリアスな物語。

 15年前、更紗は文の部屋に来て、死んだように眠っていて、明るい光の中で目覚めた。生き返ったと思った。ここから文と更紗の交流が描かれます。

夕食にアイスを食べたこと、父が死に母が出て行って叔母さんに育てられたことを話し、本を交換して読み、こうしてふたりの距離が縮まっていった。叔母の子・高広に体を触られのが嫌だったと話すようになっていった。しかし、文との間に性の匂いは一切ないなかった!

更紗のカフェ通いが始まった。カフェで本を読む。文も本を読むがお互いに話しかけることはなかった。

亮が更紗の異変に気付き、アルバイト先に電話し更紗の所在を確認するようになった。そして、更紗をつけてカフェにやってきて文を見た。アパートに戻ると、亮がセックスを求めてきたが拒否した。

更紗の心は次第に亮から離れていき、15年前雨の中で傘を差しだしてもらったことが忘れられず、雨の夜、カフェを尋ねた。すると文が傘をさして女性・谷あゆみ(多部未華子)と一緒に帰るところだった。

後をつけ「あの・・」と声を掛けると「最近よく店によくきてくれますね!」と返事し、そのまま去って行った。更紗は後をつけてアパートに消えるふたりを見て、「これでよかった!ロリコンではなかった」と泣いた。15年前に文に「ロリコン?」と聞いた時、「ロリコンでなくても辛いよ!」と言った文の言葉を思い出していた。

亮に誘われ、亮の田舎の両親に会った。亮の妹が「両親はあなたが保護院にいたことを知っている。兄はあなたが保護院の子だから大切にしてくれると思っている」と話した。田舎から戻り、更紗はベッドに寝ていて、とめどなく涙が出てきた。

そんなとき、ファミレス仲間の中で、ネットで知ったと15年前の女児誘拐犯がカフェのマスターだと話題になった。写真を見て、亮が撮ったものだと分かった。更紗はアパートに戻り、「文が苦労して手に入れた幸せなのに!」と亮を責めた。亮は「おまえ可笑しいぞ!有名なロリコン。お前、俺を捨てる気か!」と襲い掛かってきた。

亮が激しくセックスを求めてきた。更紗が拒否した。ふたりはもみ合い、更紗は顔にを負いアパートを出た。雨の街を、湖の桟橋で警官に捕まったとき文が「更紗は更紗だけのものだ!誰にも好きにさせてはいけない」と手をしっかり握ってくれた記憶の中で、彷徨していた。

いつしか文のカフェ近くにいた。「更紗!大丈夫か!家に来る!」の声が聞こえた。声は文だった。更紗は文の「更紗!」の声で全てが府に落ちた

15年前、警察に捕まったとき高広による性暴力を話さなかったことで文に辛い思いをさせたと謝った。文は「あのとき死のうと思っていた」と髪を撫でてくれた。

更紗は亮のアパートを出て、文の部屋の隣に住むことに決めた。文がこれを許した。ベランダは衝立で仕切られていた。朝、ベランダから見る風景に癒された。

ピクニックで、更紗は「生き返った気分だ!人は見たいようにしか見ない!好きになった人に恋したが合わなかった」と文に伝えた。

更紗は佳菜子が所用でいない間、娘の梨花を預かることにした。隣の文も関わるようになってきた。

文は梨花に幼い記憶を語りはじめた。「家で何年も監視され、少年院に入って、出てきて部屋に閉じ込められた。母は決して許さなかった。今は自由だ!」と。小説には詳しく説明があるのでしょうか?

アパートに亮が訪ねてきた。亮が「文は病気だ、戻って来い!」という。更紗が断ると、亮が殴りかかり、キスを求めてきた。更紗は「好きになるよう努力したが駄目だった。ごめんなさい!」と謝った。泣いて亮は帰っていった。これをあゆみが見ていた。

更紗は文にあゆみとの関係を糺した。文は「あゆみには感謝している。彼女とはつながらない」と答えた。この表現ではわかり辛い。

週刊誌に文と更紗の今が掲載された。アパートやカフェにビラや落書きにより「ロリコン!」と文への嫌がらせが始まった。更紗がアルバイトを辞めた。

更紗が抗議に亮のアパートを訪ねた。亮は暗い部屋に荒れた姿でいた。「俺ではないぞ!文を悪く言うやつは腐るぐらいいる」と雑誌との関りを否定した。更紗が「今までありがとう」と礼を言って部屋を出でると、亮が部屋から出てきて、自分の手首を切った。更紗は救急車を呼んだ。ストレッチャーに載せられた亮は付き添っている更紗の手を離し、「もういいから」と救急車に消えていった。

「週刊誌で知った」とあゆみが文を訪ねてきた。文が謝った。あゆみは悔しがって、泣いてアパートを出て行った。

更紗は警察に呼ばれた。亮のことかと思ったら文のことだった。文と梨花が逮捕された。このとき、文は梨花の手を離そうとしなかった。

更紗は湖の桟橋を訪ね、文と別れたときの感触を思い出し、湖に入ってみた!

文は拘置所生活を終え、カフェに戻ってきた。文は「もう育たない!」と植木を引き抜く母(内田也哉子)の姿を思い出していた。「これでこういう運命になったんだ」と泣いた。

更紗がカフェを訪ねると、薄暗い中に文がいた。「自分のせいで文の人生を壊した。それでも変えたくない自分がいる。あの時の手の感触で生きてきた」と話しかけると、文が全裸になってこちらを向いた。「大人になったのにこれだ、繋がることはできない!」と自分の体の秘密を明かし、近づく更紗を拒否したが、更紗は近づき優しく文を抱いた!

更紗は文の横に寝そべって、橋から泥流が流れる川を見て、文が「俺といたらどこに流れる」と聞いたので「そしたらどこかに流れる」と答えた夢をみていた。更紗がそっと文の手を取った。三日月が輝いていた。

感想

同じ回想シーンが多くて、この尺は長かった!(笑)

 ラストシーン、文は誰にも明かせなかった秘密を更紗に明かす!これこそが最大の更紗への愛だった。更紗は「いつも側にいたい!」と受け入れた。

観た直後、感想は言えなかった!しばらくして、これで良いのだ!という結論に至りました。こういう体験はクリント・イーストウッドの「ミスティック・リバー」(2003)以来でした。

「愛に形はない!」、これが作品のテーマだと思います。この作品では水、風、雲、光など自然、特に「水」が愛のメタファーとして描かれ、「形がない!」ということを表現していると思います。

暗い重いストーリーのなかで、時折、川や湖、カーテンの揺れ、漏れる光、朝日など形のない何気ないシーンが挟まれ、ほっとするシーンが沢山あります。これは小説にはない!自然との関りがいかに大切かを教えてくれます!安曇野でのロケ!これがよかった!更紗が文の隣部屋に引っ越して、ベランダから望む朝日の中の常念岳

この愛の物語は活字やセリフではない、映像で感じる作品になっていました。撮影監督:ホン・ギョンピョの情感溢れる映像を楽しむことができました。

「愛に形はない!」は劇中話でも暗示されます。更紗は幼いころ夕食にアイスを食べる、アンティークの主人が更紗に聞かせる話、「このグラスはビールにもウイスキーにも焼酎にも合う。器も人も同じ!」「人は見たいようにしか見ない!」などと、このことを匂わせてくれます。

「こうあるべきだ」という形を決めることで、私たちは大きな苦を抱え込む、あるいはどんでもない中傷誹謗を産む、真実が見えないから

 多様性時代と言われる今、もっとも問われる問題ではないでしょうか?これに絡むSNSや雑誌メディアの問題、更紗と文の家庭問題。虐待、性虐待の問題が取り上がられたのはよかった。

更紗を愛する亮の過剰愛行動。普通男性の性行動だと認めるかどうか?自分が愛しているんだから許されると求めるセックス。横浜流星さんがうまく演じてくれました。行き過ぎていないか!これが許される男性優位社会の問題。ベストセラー小説だったということに、このことが含まれていないか?

広瀬すずさん、この役は大変だったでしょう。正解はない!望まずして広く世に知られ、「私は人が思っているほど可哀そうな女性ではない」と強い信念で、自分の非も認めながら自分の愛の形を探すという、成熟した女性を感じさせる演技でした。

松坂桃李さん、セリフではなく雰囲気で、屈折した心情を傳える演技はすばらしかった。

多部未華子さん、これは圧巻でした。わずかな出番でしたが、いかに文を愛していたか、それを裏切られた無念の感情がしっかり伝わりました。

子役の白鳥玉季ちゃん、成長した更紗に繋がるように文と一緒にいることがいかに自由で自分の居場所なのかと、のびやかな自然な演技がよかった!

1回で全てを理解するのは難しい、また・・・・。

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