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東京暮色」(1957)

主役が有馬稲子さん。初めて目にした女優さんでした。美しいが生意気そうだなといった感じでした。先輩に「バカ、女優なんか見るんじゃない!」と叱られた記憶があり、そんな時代の作品です。この作品では有馬さん演じる明子はアプレ(ガール)と呼ばれるんです。

監督:小津安二郎脚本:野田高梧 小津安二郎撮影:厚田雄春というコンビ作。美術:浜田辰雄、音楽:斎藤高順編集:浜村義康。

出演者笠智衆有馬稲子、信欣三、原節子、森教子、中村伸郎山田五十鈴杉村春子山村聰、田浦正巳、須賀不二男、高橋貞二、他。

幼いころ母親が駆け落ちで家を出て、父親に育てられ成人した姉妹の母に対する激情を描くというもの。(笑)というか、母親に愛された記憶がなく、これで当時アプレと言われる、無軌道でモラルのない生き方をする次女と結婚したが夫に愛想つかして幼子を連れて父の元に戻った長女の母親を巡る物語。

次女・明子を主軸に家族に、家を出て行った母親とのかかわりが描かれ、家族の生き方が問われます。

この作品は、これまで監督が描いてきた上級階層の家族ではなく、庶民レベルの家族の物語。当時の社会事情、戦後12年にしてオリンピックや60年安保を目前に控え、社会は高度成長へと動き出し“よろめきが流行語となった時代の暗い物語です!

「お茶漬けの味」(1952)は上級階層のたわいもない夫婦危機の話でしたが、この作品は次女が主役で何をテーマに描きたいのかという戸惑いがあります。当時、この作品は受け入れられなかったらしいですが、今の時代に通じる大きなメッセージになっている


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あらすじ

銀行員の杉山周吉(笠智衆)は2歳の女の子を連れて実家に戻っている長女・孝子(原節子)と英文速記の学校に通う次女・明子と暮らしている。妻・喜久子(山田五十鈴)は戦前、満州にいたころ、知り合いの相馬栄(中村伸郎)と恋仲になり、幼いふたりの娘を置いて出て行った。

勇吉は飲み屋の主人(浦辺粂子)から「久しぶりに沼田先生が顔を出した」と聞き、孝子のことが心配になり、夫で大学教授の沼田康雄(信欣三)に会ってみた。沼田の口からは自分の仕事の話だけで妻・孝子の話なぞ出てこない。おまけに「孫が可愛いなどというのは愛情の本質でない。親子の愛などプリミティだ」と言う男だった。見合い結婚で孝子に強く勧めた男だったが、こんな男だったとは思わなかったという。

そこに「明子が借金に来た」と妹の竹内重子(杉村春子)から聞かされた。夜、帰宅した明子に問い質すと「友達が困っているから」と言う。父の周吉には話したくないらしい。

そんな明子は安アパートを訪ね、恋人の木村憲二(田浦正巳)を探していたが見つからない。憲二は逃げ回っているらしい。遊び友達の川口昇(高橋貞二)から「お前をよく知っている雀荘の女将がいる」と聞き、雀荘“壽”を訪ねて卓を囲んでいた。勝負勘のある明子だった。相当に遊んだようだ!そこに外から戻ってきた女将が「ちょっと話していかない」と明子の家族のことをいろいろと聞く。

明子は帰宅して姉・孝子に「お母さんらしい人に会った」と話すと、孝子は「会わない方がいい」と言う。

明子はやっと憲二を捕まえて、「子供が出来た、どうする?」と問うが明確な答えが返ってこない。「9時に喫茶エトアールで会って話す」というので待っていたが憲二は現れなかった。警察に売春婦と怪しまれ、交番で尋問を受けた。

前年、売春禁止法が成立したばかりだった。

これを知った父・周吉は「家に警察に厄介になるような者はいない。俺に話せないなら俺の子でない」と烈火のごとく怒った。周吉が寝たあと明子は姉・孝子に「私は余計な子!生まれてこなければよかった」と打ち明けた。

叔母の重子が明子の見合い写真を持ってきて、孝子に「喜久子さんに会った」と告げた。孝子は雀荘“壽”を訪ね、母・喜久子に「明子に母だと言ってほしくない!明子は何も知らない、お父さんが可哀そうだから」と申し入れし、これ以外何も話すことなく帰っていった。

明子は思い切って堕胎手術を受けた。帰宅すると「顔色が悪い」と孝子が床を延べたが妊娠していたことには気付かなかった。孝子が「見合いの話が来ている」とを話すと「行きたくない」という。孝子は「貴方には未来がある」と伝えた。明子は泣いた!

周吉はパチンコをしていて戦友の関口(山村聰)に出会い、明子が関口の家内から5000円を借りたことを知った。

明子は雀荘“壽”を訪れると、男(相馬)から姉が訪ねてきたことを聞かされた帰宅した明子は姉に「誰に聞いたの?」と確認し「父は何故母と別れたの?私は誰の子?」と聞いた。そこに父が帰宅したので、父に聞こうとしたが止めて、家を出て雀荘“壽“に赴き、喜久子に直接「父親は誰か?貴方が母親か?」と聞いた。喜久子は「お父さんの子で、私が母」と答え「貴方顔色が悪い、子供でもできたの?」と聞いた。

明子は飛び出し、バーで飲んでいて「ずべこーだ」と言われ、次にラーメン屋で飲んでいたら憲二が現れ、「探していた、君のことを考えてよく寝れない」と能天気な言葉を吐く。明子は憲二をぶん殴って外に走り出た。しばらくして踏切の警報音が鳴るので店主が急いで店を出た。憲二は動かなかった。

周吉と孝子が病院に駆けつけると明子が「死にたくない!お父さん出直したい!初めからやり直した!」と訴え、亡くなった。

喜久子は花を持って訪ねてきてきたが、孝子は明子の仏間に上げなかった。喜久子は店を閉まって北海道に行くことと上野を発つ時間を伝えて去って行った。

上野駅で喜久子は孝子を待っていたが、現れることはなかった。

孝子は「自分の子を明子のようにはしたくない。お母さんが必要だ」と夫の元に戻ることを周吉に告げた。

感想

次女・明子は英文速記学校に通うとは名ばかりで、母親の愛を受けられなかったことを言い訳に、男友達をつくり、バーや飲み屋・雀荘で遊び、恋人・賢二に出会い妊娠したが、賢二は全く責任が取れない男だった。そんなときに母親・喜久子に出会い、父も姉も気づかなかった妊娠を見破られ、母の愛を知り、これまでの放縦な生活態度に嫌気がさして自殺を図ったが死に切れず、心配して駆けつけた父と姉に「死にたくない!もう一度初めからやり直したい!」と告げて亡くなった。「モラルのない、いい加減な生き方はするな!」と言いたかったのではないでしょうか。

姉の孝子は明子とは違って母親がいなくなって困る父親の姿を見ていたから、ひどく母親を憎み、直接母親に会い明子に会わないことを要求し、亡くなった明子の仏壇に母親を上げなかった。明子の死は母親の愛を受けられなかったからと結論づけ、子供のために夫の元に戻ることにした。自分本位で娘に愛情が示せない夫とうまくやっていけるとは思えず、自分を犠牲にした生き方を選んだ。ここは「苦労してでも自立して生きる道を探せ!」でしょうか。

銀行員の父親・周吉男権を重んじる古風な男だった。仕事熱心で出張も多く、妻への配慮を欠いた。これが原因で妻は家を出た。その後、ふたりの娘を精一杯の愛情で育てたが、彼の物言いでわかるように厳しい育て方をしたと思われる。

長女・孝子には見合い結婚を半ば強制したと思われ、次女・明子とは意思の疎通がない。「今の時代、男権主義では家族の絆は保たれない」と言いたかった。

これに対する元妻・喜久子の生き方。周吉と違って、気が休める相馬栄を生涯の相棒に選んだ。ふたりの娘を連れて家をでることは経済的にできなかった。しかし、娘たちを忘れる日はなく、娘たちの姿が見えるところに雀荘を構えてその成長を見届けたかった。夫の栄はそれを承知で自分のやりたいことを犠牲にしてでも喜久子に尽くす男だった。「喜久子の生き方は“よろめき“と言われる生き方だが、自立した女の生き方」だった。

周吉一家はばらばらになった。周吉は赤ちゃんのガラガラ玩具を鳴らし孫への想いを示すシーンで物語は終わります。この時代における生き方を問うた見どころのある作品だと思います。

いつものエピソードの合間に挟まれる風景に代って、雀荘、バー、喫茶店、居酒屋、ラーメン屋、おでん屋などの当時の風俗をしっかり見せてくれます。

家に誰が来たが分かるよう玄関の障子に大きな窓をつけ、ここに定点観測のようにカメラを据え付けて家の出入りを観測するという粋な演出。(笑)いつものように決してぶれないカメラワークでした。

そしてここで流れる音楽。マンボ、ルンバに民謡!なぜか周吉に家では時計の音だった。街の風景として、雑司ケ谷、五反田、新宿などの風景が見られ、これも楽しみのひとつです。

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