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韓国映画「ビースト」(2019)競争心のあまり、不信や怒りで正義を踏み外す“人が持つ業”を問う!

猟奇殺人事件に運命を狂わされた2人の刑事を描いたノワールスリラーノワールスリラーと言われても、なんのことだか分からないですが、“韓国映画は面白い!”ということでWOWOWにて鑑賞。(笑)

フランス映画「あるいは裏切りという名の犬」(2004)を「さまよう刃」(2014)のイ・ジョンホ監督が大胆に翻案した作品とのこと。原作を観ていませんが、「すばらしい出来上がり!」だと思います。(笑)

監督・脚本イ・ジョンホ、撮影:ジュ・ソンリム、編集:シン・ミンギョン、音楽:モグ。

出演者:「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」のイ・ソンミン、ドラマ「梨泰院クラス」のユ・ジェミョン、チョン・ヘジン、チェ・ダニエル、他。

物語は

かつては互いを認め合い、正反対の性格ながらも相棒同士だった刑事ハンス(イ・ソンミン)とミンテ(ユ・ジェミョン)。仁川で猟奇殺人事件が発生し、捜査1班を率いるハンスと2班を率いるミンテが昇進をかけて捜査に乗り出す。やがてハンスは容疑者を逮捕するが、冤罪を確信したミンテが独断で釈放したことで捜査は混迷を極め、2人の溝はさらに深まっていく。

そんな中、情報屋のチュンベ(チョン・ヘジン)に呼び出されたハンスは、猟奇殺人事件の情報を提供する交換条件として、チュンベが起こした殺人の隠蔽工作に加担。チュンベからの情報を元に、容疑者のアジトを突き止めるハンスだったが……。

これは序盤!ふたりの関係が次第に崩れ、彼らが行き着く先は破滅か、それともという展開。

重層に伏線が絡み合いながら展開する物語に翻弄されながら、その結末を知ることのなりますが、恐らく「もう一度確認したい」となるスリラーを超えた、競争心のため不信や怒りで“正義を踏み外す”“人が持つ業”を描いた作品で、韓国映画の底力を突きつけられます!


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あらすじと感想(ねたばれ含む:注意):

冒頭、ハンスはバーのマダムから頼まれたナムチョルというチンピラ男が二度とマダムに近づかないよう痛めるため、車で山中に連れ込んでいるとき、途中で鹿にぶつかる。鹿を埋めて森に入り、顔に布を被せメッタ叩きした。つい、顔を背けたくなるシーン。このシーンがどう物語に絡んでくるのかと気になるところです。

仁川で猟奇殺人事件が発生し、殺人課は課を挙げての捜索。リン課長が栄転することになり、その後釜にとハンスとミンテを競わせる。

ハンスは積極進取、元妻・ユンは同じ署の検死医でバーのマダムという情報屋を持ち、強引な尋問で成績がいい。一方のミンテは慎重、しっかり証拠固めするタイプ。

仁川河川で発見した高校生・ユ・ミジンの遺体。

ユンの検死所見では性的暴行の跡がなし、薬物注射の痕跡ありメスを使って解体されているというもの。ハンスは女性犯罪歴のある助祭チョ・ピルギョを引っ張ってきて強引な尋問で犯行を吐かせたが、ミンテは検死所見を使ってこれを覆した。

ハンスはミンテに対抗するため、麻薬事件で拘置中のイム・チュンベの釈放処置を取った。チュンベは、自分を牢にぶち込んだ男チョ・ドウシクを殺害するため、「ミジンを知っている」とハンスを呼び出し、巧みにハンスの拳銃を持ち出し、待たせていたドウシクを殺害し遺体を彼の車ごと海に沈めた。

チュンベはその代償に「犯人は38歳の男チェ・チョルギ(36歳)とその父で脚の悪い廃品回収をしている男チェ・ワンシク(74歳)でアパートに住んでいる」と教えた。

ハンスはチュンベの情報に基づきチェのアパートを下見した。ふたりを確認したが薬関係者の出入りが多いので機動隊の支援が必要と課長に報告した。この際、ミンテが「誰の情報だ?」と疑念をはさんだが、ハンスは「水の使用量が月200トンだ」と利用量を示したことで、課長がハンスの指揮下で踏み込むことになり、ミンテは屈辱を味わうことになった

踏み込む当日。麻薬課が張り付いており「余計なことをするな」と警告を受けた。突入を控えていたところ、ミンテが単独でアパートに向かい、これにハンスが焦り突入を号令したためアパート全体が警察、薬密売者、売人、住民が入り乱れる大混乱となった。

ハンスとミンテは同時にチョルギの部屋に突入し逮捕しようとしたが、チョルギはハンスの部下と取っ組み合い、そのまま窓から転落してふたりは死亡。チョルギが奇形の大男!これが怖かった!

チョルギ事件は大量の麻薬の押収となったがワクシクは未逮捕、警官3名の死者を出すという結果で、世間から叩かれる結果となった。ハンスは評価されたが、ミンテの行動が批判され、第2班は連続殺人事件から外されることになった。

ハンスはワンシク逮捕に全力を挙げることになった。ナンスは元妻の検死医ユのところに出向いてチョルギの遺体解剖所見を聞きにきた。彼女は「チョルギには幼い頃虐待された跡あり、彼の利きて手は麻痺している。だから親父のワンシクが猟奇事件の真犯人。インシュリンを使用者だから薬局を見張っていれば見つかる」と状況を説明した。

ハンスは薬局にあたるが見つからない!

一方のミンテは海に落下した車の事件を追うことになった。ミンテの部下に麻薬課から転属してきた女性刑事ヨ・ミヨンが麻薬売人ドウシクと見破った。ドウシクは組織の親分の甥、彼女がチュンベだった。

ミンテが恋人と逃亡直前のチュンベを逮捕し尋問すると「アリバイがある、刑事さんと一緒にいた!」と陳述。ミンテにはハンスの顔が浮かんだ

第1班と第2班は同じ部屋で、アクリル板で仕切られているだけ。第2班の捜査状況がハンスに聞こえてくる。「撃たれた拳銃は38口径で特殊、線条痕で特定できる」と言う声がハンスの耳に入った。ハンスは怯えた!

本作には、ふたりが同じ画面に入る映像で、ヒヤヒヤ感はたっぷり味わえるように工夫している。カメラアングルグルに妙味がある!

ハンスは証拠物件室からワンシク逮捕時相手が使った拳銃を盗みだし、冒頭のシーン、山に入り鹿に銃弾を撃ち込み、銃弾に線条痕を作った。そしてチュンベに仁川から逃げるよう電話した。

ハンスは早朝、検死官室を尋ね、ユ検死官が席を立った隙に鹿を撃った銃弾とドウシクの体内にあった銃弾の交換中に、弾丸を床に落としそれを回収中にユ検死官が戻ってきた。1発が回収できていない。(笑)そこにミンテがユ検死官を訪ねてきてハンスを見つけて「何している、どこにいた」と聞く。ハンスは「令状もってこい!」と言って去った、幸いユ検死官がその銃弾を脚で踏んでくれていた。(笑)

ハンスが「チョルギ事件は販共犯者が捕まるまで謎のままだ」とTVで喋っているのをワンシクが観ていた

チュンベが組の親分に呼び出され「ドウシクは誰に殺された?お前、刑事と出来ているだろうが!」と警察が押収した薬の奪回を命じられた。

ハンスが車で出かけようとしているところにミンテがやってきて、「殺人の身代わりにいくらもらった?」と吹っ掛けた。ハンスは「それなりに」と答えた。ミンッテは「署に女を呼んだら来るか?」とハンスを誘った。

ハンスが署の顔出すとミンテは全く関係ない女性の尋問をしていた。ハンスは「ハメられた!」とミンテに殴りかかった。この時、第2班内では防犯カメラがとらえたワンシクの映像を見て騒ぎになっていた。

そこにチュンベが現れたので、ハンスは彼女を外に連れ出した。チュンベが「薬を持ってきて!」と言う。ハンスは激しく殴って「街を出ろ」と指示し帰ろうとしたところを、チュンベに背後からレンガで頭を殴られ、気を失った。

ミンテはバーの“マダムに電話した記録”をリン課長に提出し「ドウシク事件時ハンスが現場にいた」と報告すると、「ハンスはチョルギ事件でお前の責任を問う書類にサインしなかった。もうやめろ!」と一喝された。

リン課長が「課は全力でワンシクを追え!」と号令した。

ハンスは夜間に元妻ユの家を訪ね、彼女に「ドウシク事件に関与した。見のがす代わりに情報をくれ!」と切り出したが拒否され、チュンベから聞くことにした。

ハンスが帰った後に、ワンシクがユ検死官の家に侵入した。ラジオのジャアズ音楽の音を大きくしてユに近づき・・・。

ハンスは「麻薬を持って行く」とチュンベを呼び出し「誰の命令か?」と聞いたが、チュンベは「話したら殺される」と名を喋らずハンスを刺して逃げた。ハンスは撃とうとしたが撃てなかった。森に消える瞬間に3発射撃し、彼女の死亡を確認した。

動物薬局前をうろつく男。ウーバー男はこれを見て「手配中のワンシク」と確認しヤクザ仲間に知らせた。

組の親分がバーのマダムを呼び出し「女が消えた!押収された薬を取り戻せ!」と指示し、ワンシクの居場所を教えた。

夜、ハンスがバーのマダムのところにやってきて「あんたがチュンベに命令したか?」と聞いた。見のがして欲しいというマダムの首を絞めると「ミンテがチュンベを使って脅せ!」と言ったと電話記録を聞かせた。「ワンシクの居場所を教えろ!」と言うミンテに「アパートから押収した麻薬をチュンベが持ってきたらね!」とマダム。「麻薬!ふざけるな!」というミンテに「ハンスを陥れたくないの?」とマダム。

マダムは「ボーナスよ」とハンスにワンシクの居場所を教えた。

ハンスはワンシクを追うべきか悩んだ!そしてワンシクのいる動物薬局に急いだ。

「友人の薬剤師・チェ・ギョンシクが居なくなって、変な男が屋敷からでてきた」と警察に届け出た。ワンシクの写真を見せると「この男だ!」と証言。署を挙げて薬剤師の屋敷に急ぎ、殺害されたギョンシクの姿を発見した。ミンテは「ワンシクはギョンシクを殺して彼の薬局に居る」と急いだ。

ハンスは動物薬局でワンシクを発見。ワンシクは「俺の大切なものを奪ったお返しだ!」とユ検死官が悲鳴を上げるテープを流し挑発してきた。ハンスは拳銃で何発もワンシクにぶち込んで射殺した。しかし、格闘中にワンシクに筋肉萎縮剤を撃たれ、次第に身体が動かなくなっていた。

そこにミンテがやってきて二人が対峙することになった。ハンスが「いつ、どこで裏切った?」と聞くと「こじれてしまったな!」と応じた。ハンスは拳銃でミンテを狙い撃ったが空撃ちだった、何発も撃って、血を吐いて倒れた。ミンテは手を貸さず眺めていた。

まとめ

ハンスが闇に落ちていく、ミンテがそれを仕掛けた。が、本当にハンスを堕そうとしたのか?綿密に仕組まれたシナリオ、演出、編集、キャストの演技、闇をオマージュする映像に酔いました!

動物薬局でのラストシーン。ハンスが「いつ、どこで裏切った?」と聞くとミンテが「こじれてしまったな!」と応じた。ミンテはいつどこで裏切ったのかと何度も観て確認したくなります

ハンスがバックする機会はいくつもあった!しかし、彼にはそれを受け入れる理性がなくなっていた。ミンテはハンスの暴走を止めようとしたように思えて仕方がない。これが「こじれた」という彼の言葉だと思う。ハンスはミンテに拳銃の引き金を引いたのが、“空撃ち”であっても、闇に落ちた決定的な瞬間だった。

ミヨン刑事に「殺人課は特別、殺人犯より上だと思っていた。ハンス班長は手当すれば生きていた!」と言われ、これを聞いたミンテが洗面所で何度も手を洗うシーン、汚れた手を無念に思っていた。このように“思考の余白”をくれたのがよかった。

ドウシク事件関与否定のための弾丸の線条痕作製や弾丸の入れ替え、チュンベが要求する薬の持ち出しを「誰の指示か」と疑うシーンなどにはらはらドキドキ。そしてチョルギ事件や動物薬局の格闘シーンなど暴力・アクションシーンはリアリティがあり“痛さ”を感じる映像、うまくできていた。

イ・ソンミン、ユ・ジェミョン、チョン・ヘジンの演技に圧倒されました。イ・ソンミンがどんどん落ちていく姿、最期に見せる充血した目の演技は凄かった!

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