映画って人生!

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「マイ・ブロークン・マリコ」(2022)マリコは私の中で生きている。一緒なら辛い人生も生きられる。

親友が亡くなったことを知った主人公が、その魂を救うためにと遺骨を抱いて旅に出る物語。

このぶっ飛んだ物語!「ふがいない僕は空を見た」のタナダユキ監督作ということで観ることにしました。

原作:平庫ワカさんのコミック。2021年の文化庁主“催メディア芸術祭”マンガ部門新人賞受賞作とのこと。斬新なキャラクター設定と疾走感あふれるストーリー、読者に投げかける答えの見つからない問いかけが魅力らしい。未読です。

監督:タナダユキ脚本:向井康介 タナダユキ撮影:高木風太編集:宮島竜治、音楽:加藤久貴、主題歌:The ピーズ

出演者:永野芽郁奈緒窪田正孝尾美としのり、吉田羊、他。


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あらすじ:

ブラック企業に勤め、鬱屈した日々を送っていた会社員・シイノトモヨ(永野芽郁)は、親友のイカガワマリコ奈緒)が亡くなったことをテレビのニュースで知った。

小学生時代から実の父親(尾美としのり)からひどい虐待を受け、彼氏から暴力を振るわれていたマリコのために何かできることはないかと考えた末に、「今度こそは私が助ける!」と鞄に包丁を忍ばせ、マリコの父親と再婚相手のキョウコ(吉田羊)が暮らす家を訪れ、仏壇に安置された遺骨を強奪し、窓から飛び降りて、川の中を歩きアパートに戻った。

家に着いたシイノは押し入れの中からマリコから届いた手紙を取り出して、マリコの遺骨と手紙を抱き、ドクターマーティンを履いて旅にでることにした。行き先は中学生のころマリコが行きたがっていた“まりがおか岬”。

電車とバスの旅。出会った小学校のころから中学、高校、そして死の直前までの想い出に浸りながら、目的地に着いた。ほっとしたところにひったくにバッグを盗まれ、途方に暮れていた。そこでとても親切な男マキオ(窪田正孝)に出会った。

マキオが「返さないでいい」と渡してくれたお金で、その夜は酒場で飲んで、浜の船の中で野宿した。次の朝、浜でマキオに会い「やることがある!」と言い残してススキがそよぐ“まりがおか岬”に急いだ!・・・・・。

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目的地につくまでの思い出の中のシイノとマリコ。タバコをふかし、「ダチ!」とヤクザ言葉で喋るヤンキーのシイノ。「シーちゃん傍にいて!」と主体性がない、甘えっぱなしのマリコ若い女の子の次第に明かされていくふたりの関係を、これまで見たことない永野さんの演技に驚き、役に良く合っている奈緒さんの演技を楽しみながら見ることができます。

これが見どころでしょうか?

特に、シイノの過去、どのように育てられたかが描かれないので、マリコを通して考えることになり、観る人の思考力を問われ、これが“答えの見つからない問いかけ”になっており、マリコの気性がストレートだけに、テンポよく、疾走感のある作品になっています。

その結末は、“疾走感があり過ぎて物語に乗れない”ところもありますが(笑)、いい落としどころだと思います。コロナ禍で増え続ける孤独感、児童虐待、女性の自殺などの世情をしかり捉えた作品になっています。

感想(ねたばれあり)

冒頭の中華料理店で一人豪快にラーメンをすする、そのあと、パンツスーツで大股開きしてタバコをくゆらす、上司からの激しい叱責を受けても全く動じない、誰かにどう思われようが気にしない。上司の怒号を背中で浴びても我関せずでオフィスを飛び出し、マリコの実家に飛び込み「高校生のとき!実の娘を強姦したてめえ!」と包丁で父親を脅すシイノ。

シイノ役を演じる永野芽郁さん。これまでのイメージを覆し、強くストレートに彼女がもつ魂をぶつけてきます。これがとても気持ちがよく感情移入できます。

さてマリコの遺骨を抱いて飛び出したシイノが、ススキがそよぐ“まりがおか岬”までの旅路に中で出会う記憶のマリコ

小学生時はいつも体に傷を負っていたマリコ。中学生では学校では常にシイノと一緒にいたが、家では殴られて父親にいいなりに使われる子で「毎日、毎分、毎秒、いい子でいようと必死だった」。

高校生では父親に乱暴され、そのせいで母親が家を出たことで「自分のせいで世界が悪くなっている」と思いこんでいた。嫌悪感で自分の身体をカッターで傷つけ、シイノにそばにいて欲しいという子だった。

恋人ができても暴力を振るわれる子ですぐにシイノを呼ぶ。シイノには彼氏を作らないでと懇願する。それでいて自分は作る。ちょっと煩わしい子だった。

そんな彼氏に会っているマリコに注意するが守れない。「自分は壊れている。シーちゃんは来てくれるのがうれしい」という状態になっていった。

自分を壊すことでしか生きられないマリコ奈緒さんが見事に演じてくれます。

なんでシイノはこんな奈緒の面倒を見るのか?シイノも奈緒の側にいることが生きがいになっているのではないか?シイノが強くって男っぽいのはマリコの面倒を見るためではないか?。

“まりがおか岬”の酒屋でシイノが一人飲んでいるとき、記憶がどんどん消えていく中で「自分がマリコのところにいることで救われていた!」と気付き、「一緒に死んでくれと何故言わなかった!」とススキのそよぐ岬に走った。

マキオがシイノを追い、捕まえもみ合っていた

マキオはかってここで、海に飛び込んで死のうとして死ねなかった。生きる意味を知ったマキオは自分と同じことをする人を止めることに生きがいを見出していた。実際にこのような活動をしている人がいますので、この設定には何の違和感も持たなかった。窪田正孝の包容力のある暖か味のある演技に説得力がありました。

そこに男に追われて現れた女生徒。シイノにはマリコに見えた!シイノはマリコをいやこの子のために戦った!そのとき遺骨の収納箱が壊れ、遺灰がふわふわと空に舞った。

マキオが言う「もういない人に会うには、自分が生きるしかない!」と。シイノはマリコとともに、苦しいがこの世界に生きることにした

シイノは自分のアパートに戻ると、キョウコからマリコがシイノ宛てに残した手紙が送られてきた。シイノは涙を流しながら手紙を読んだ。何が書いてあったか?

自殺は残された人たちを永遠の自責の念に落とし入れ、彼らは救われることがない。破壊されたマリコではあったが、シイノの表情から自殺ではなかった!マリコはシイノの胸の中で生き続けるでしょう。

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