チャドウィック・ボーズマンに哀悼の意を表します!
コミックヒーロー映画として史上初めてアカデミー作品賞を含む7部門にノミネート、3部門で受賞を果たした「ブラックパンサー」(2018)の続編。主人公ティ・チャラ/ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年8月に死去したが、代役を立てずに製作されもの。
ブラックパンサーはオバマ前大統領のお気に入り作品とのこと。これで分かるようにコミック作品と言いながら、現実の世界情勢が皮肉っぽく描かれ、近未来の世界を見る思いがして、他のマーベリック作品とは一線を画くと、大好きな作品です。
本作では、安部総理を失った、その後の政局、コロナ、北朝鮮・・・の難問の来襲、さらに天皇制が絡んで、まるで我が国の世情を見ているようで、大満足でした。前作を凌駕した作品だと思います。
監督:ライアン・クーグラー、原案:ライアン・クーグラー、脚本:ライアン・クーグラー ジョー・ロバート・コール、撮影:オータム・デュラルド・アーカポー、編集:マイケル・P・ショーバー ケリー・ディクソン ジェニファー・レイム、音楽:ルドウィグ・ゴランソン。
出演者:レティーシャ・ライト、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、ウィンストン・デューク、ドミニク・ソーン、フローレンス・カスンバ、ミカエラ・コール、テノッチ・ウエルタ、マーティン・フリーマン、アンジェラ・バセット、他。
物語は、
国王ティ・チャラを失い、悲しみに包まれるワカンダ。先代の王ティ・チャカの妻であり、ティ・チャラの母でもあるラモンダ(アンジェラ・バセット)が玉座に座り、悲しみを乗り越えて新たな一歩を踏み出そうとしていた。そんな大きな岐路に立たされたワカンダに、新たな脅威が迫っていた。・・・
国王の死でどう世界のワカンダ感が変わるか、これにどう対処するか、国王の後継者は誰かという流れでストーリーが展開し、とても分かりやすい。前作同様に人種、性差別、資源問題などが皮肉っぽく描かれています。
これに絡め、マーベリック作品として欠かせない新ヒーローの登場、壮大なバトルアクションが描かれます。特に海洋バトルが面白いです。
ティ・チャラの存在が如何に大きかったか、その喪失感を埋めながら次のステップに進む苦しみを味わい、エンドロール後に“えっ!”と驚かされます。
ちょっと長めの尺ですが長いとは感じなかった。前作「ブラックパンサー」を観ておくと、より楽しめると思います。
あらすじ&感想(ねたばれ:注意):
ティ・チャラが危篤状況から物語が始まります。おろおろするシュリ(レティーシャ・ライト)、欲しい物はなんでも発見できるのに兄の治療薬を作れなかったことを悔やみます。実際にチャドウィック・ボーズマンが癌で亡くなっているので、このシーンは映画の中での出来事とは思えない。このことがラストまで続くというのが、この作品のすばらしさです。
ブラックパンサーの葬儀。
会葬者は全員白い喪服。エリザベス女王の葬儀を思い出すような厳粛で荘厳な葬儀でした。シュリは終始泣いていた。
混迷のワカンダ
1年後、スイスの国際会議に参加した女王ラモンダは米国代表から「約束したヴィプラニュウムの取引が守られてない」と抗議され、多くの国がこれに賛同する。ラモンダはオークランドのワカンダ支援センター(ティ・チャラの世界戦略拠点)が暴徒に襲撃された事件を例に「取引禁止こそが安全だ!」と主張した。
モランダは「女王だと、なめている!」とシュリの成長を促すように“ハート型ハープ”の開発状況を聞くが、シュリは「ハープより技術の時代、ブラックパンサーは過去の遺物」と取り合わない。
このころ米国は海軍とCIAが共同しての大西洋海底調査でヴィプラニュウム鉱を発見したが、何者か襲撃を受けて調査船が破壊されるという事件が発生していた。
強敵ネイモアの出現、
ティ・チャラの一周忌。ラモングはシュリを誘ってティ・チャラの墓詣。白い喪服を燃やしティ・チャラを失った傷を癒そうとするがシュリは燃やすことができなかった。
そこに、河から足に羽を持ち空を飛べる男が現れて「ククルカン人だ、ネイモアだ。米軍がヴィプラニュウムを見つけた。国が危険になる、探知機を発明した科学者を見つけてくれ!断ると、俺の兵力の方が大きい、攻めるぞ!」と脅して帰って行った。
ラモンダはジュリと親衛隊長のオコエ(ダナイ・グリラ)を、かって一緒に戦った仲間CIA捜査官・ロス(マーティン・フリーマン)の元に遣わした。ロスは探知機を発明できるのはMTIの天才女学生リリだろうと語った。
ふたりはMITを訪れリリに会って、製作工場(ガレージ)を見せてもらっているところにFBIがリリ(ドミニク・ソーン)逮捕にやってきた。
ガレージにあるバイク(シュリ)、赤いスポーツカー(オコエ)、リリはアイアンマン・ハートスーツでど派手なカーチェイス。FBIの追跡を断とうとするが、バイクとスポーツカーが横転炎上。そこにククルカンの女性兵士・ナモーラ(マベル・カデナ)が現れ、オコエとの死闘が繰り返された。オコエが河に投げ捨てられ、シュリは連れ去られた。
CIA長官とロスが事件の現場を視察した。長官はリリ誘拐の犯人はワカンダと推定したが、ロスは「異国だ!」と思った。CIA長官はロスにワカンダ攻撃の可否意見を聞いた。ロスは「考えさせて欲しいく」と時間稼ぎしながら、この情報をラモンダに送った。こういうアメリカのやり口というのも現実的で面白い。
ラモンダはシュリが誘拐されたことに激怒し、帰還したオコエを親衛隊長の職から追放した。そしてタヒチで難民救済活動に当たっている信頼の厚い諜報員・ナキア(ルピタ・ニョンゴ)を尋ねてシュリ救出を訴えた。
シュリはククルカンにプリンセスとして迎えられ、国王のネイモアから海底王国タロカンの歴史とその使命を聞かされ、高度に発達した海底都市を見せられて、地上国家を焼き払うことに協力を求められた。
タロカンはスペイン人の侵略者に追われた古代マヤ文明の末裔で、深海に独自の文化を築いてきた。これまで地上の人々には気付かれぬよう生きてきたが、ヴィプラニュウムを巡る事件で王国が危機に晒されることを危惧して、ワカンダの前に姿を現したのだった。ネイモアは母を埋葬するため地上に上がったところで土人が白人に奴隷として働かせることに激怒し家屋を焼き払ったという。
タロカンの歴史的背景はメソアメリカンの歴史そのもので、ネイモアの正義は同情するところがあり、これが面白いところでワカンダと同じです。
シュリはワカンダも焼かれることを危惧して協力を断ったために、個室に抑留されることになった。
シュリの救出、
ナキアはシュリの居場所捜索を開始。海でシュリのミサンガを発見し、ロボットを使って海底を捜索して居場所を掴んだ。さらにネイモアがシュリに語る世界戦略を傍受した。
ナキアは密かにククルカンに侵入しシュリを救出し、タロン・ファイターに収容してワカンダに連れもどした。脱出時、シュリの監視役ネイモアの娘を射殺したことにネイモアは激怒しワカンダ攻撃を決心した。
ネイモアのワカンダ水攻め作戦、
ラモンダがシュリの帰還を大いに喜んだのも束の間、ネイモアによる水攻め作戦が始まった。宮殿が水没しになっていく。ネイモアが水中から姿を現し、ワカンダの猛将・エムバク(ウィンストン・デューク)を一撃で吹っ飛すという強豪だった。宮殿の一室にラモンダを追い詰め、シュリの目の前でラモンダを殺害し、引き上げて行った。このことがシュリの敵愾心に火を着けた。
タロカン誘致作戦、
シュリはワカンダに滞留しているリリとともに兄の遺伝子を組み込んだハート型ハープの開発を進めた。完成したハープを呑み棺に入りナキアに見送られて深層世界に入ったが、現れたのはネイモアだった。ネイモアは「俺に似ている!一緒にやろう!」という。シュリは目覚めて「祖先は現れなかった!」と失望した。国王として才覚はまだ不十分だった。
シュリはエムバクに「ネイモアを殺す!」と協力を求めると「殺せば永遠の戦争になる、ラモンダが戦争を好まなかった」と反対した。ナキアもシュリの暴走を諫めた。シュリは「目の前で母を殺した相手だ!」と再度協力を求めた。エムバクは協力を約束した。
シュリがナキアの勧めで、ブラックパンサースーツで会議室に現れると、“ブラックパンサー”の歓声が上がった。シュリは「遠くの海で、敵を陸に誘きよせて戦う!」と決戦構想を明かした。大西洋に決戦場を設け、ここに親衛隊ドーラ・ミラージを乗せた大型戦艦、空からタロン・ファイター、ドラゴン・ファイター、そしてアイアンハートを向わせた。
大西洋のとある場所。青い軍団タロカン軍が海面に姿を現した。ブラックパンサーが大型戦艦に爪をスライドされながら着艦、決戦の火蓋が開かれた。
大型戦艦に押し寄せる青い軍団を待ち構えて攻撃するワカンダ軍の攻撃。大型戦艦への魚雷攻撃、艦上での戦闘、水中での戦闘、陸の戦闘、上空でのアイアンハートとネイモアの戦闘、ドラゴン・ファイターとネイモアの戦闘等とても面白い戦闘シーンが見られます。
陸地でシュリとネイモアが対峙。ネイモア優位の戦闘が続く中で、ネイモアが呼吸困難になり、シュリにネイモアの首を取れるチャンスが訪れた。このときシュリの頭に母ラモンダの言葉が蘇り、降伏を条件に、ネイモアを生かすことにした。
“ワカンダ・フォーエバー”
大瀑布での国王戴冠式、大観衆の中に、タロン・ファイターが着陸。機から現れたのはエムバクだった。エムバクは「息子が王位に挑む!」と宣言、この場にシュリの姿はなかった。
シュリの姿はハイチの海辺にあった。やっと白衣の喪服を焼くことができた。燃える火を見ながら、在りし日のティ・チャラの姿を追い、とめどなく涙を流していた。
そこにナキアが「息子のトゥーサンよ」と子供を連れて現れた。シュリが「ハイチの王!」と声を掛けると「ティ・チャラの息子だよ!」と答えた。
まとめ:
ストーリーがテンポよく、エピソードが上手くつながり流れるように展開して感動のエンデイングを迎える。これがいい。ここにチャドウィック・ボーズマンの死が現実味を与え、ワカンダの国王喪失から再生への道筋が見えてくる展開は感動的です。ティ・チャラの死に慟哭するするシュリがエンデイングで兄の意思を継ぐと誓い、新たな未来の王に会うという筋書きは見事でした。まさに「ワカンダ・フォーエバー」でした。恐らく前作を凌駕した作品だと思います。
ティ・チャラの国王としての重責が、彼が亡くなって、ひしひしと伝わってくる。女王ラモンダの落胆やシュリの涙、ヴィプラニュウム取引を巡る諸外国からの突き上げと、見ているだけで辛くなる。
功績の大きな人の後を継ぐ者には大きな痛みとなる。この痛みがよく描かれていました。まるで岸田政権を見ているようでした。(笑)
このような状況の中でワカンダの平和はラモンダとシュリに託された。この物語はラモンダとシュリの物語と言ってよい。これをシュリことレディーシャ・ライトが見事に演じてくれました。
モランダは女王の座につき、ティ・チャラの意思を継ぎワカンダの平和を願い武力での解決を望まなかった。そしてシュリの成長を期待しながらも、実はもっと先の王位継承の構想を持つという賢明で強い女王だった。
シュリは「ハート型のハープなんて過去の遺物だ!」という考えだったが、母親ラモンダが亡くなり、王家の重責が自分の肩に乗っかかってきて、ハープに助けを求めるという、国を統治するには見える力だけでなく見えないものの力が必要だと認識するまでに成長した。
タロカン誘き寄せ作戦で、ネイモアと対峙し「怒りは怒りを呼び、戦は戦を呼ぶ」と母を殺したネイモアに生きることを許すという決断。自分の都合だけで戦争しているわけでなく、民の立場を考え大きな視点で戦を考えるまでに成長していました。今日の世界に求められる大きなメッセージ、未来志向のドラマでした。
王位はどのように継がれるか。母ラモンダの深謀遠慮な配慮に驚きました。娘シュリの性格を知り尽くしていた。国を治めるには何が必要か。孔子の五常の徳「仁義礼智信」を知っていた。(笑) そこに血筋や性別の力が絡んでくるというのが面白い。
シュリは人工のハート型ハープで先祖に繋がれず、ワカンダの祖先からのメッセージが受け取れなかった。このため人工ハープの研究を止め、本物のハープ栽培に挑むようになった。
この作品ではワカンダもタロカン王国も徹底して女性が要職に就き、女性兵士軍団にまったく違和感がない。未来感があっていい。
ティ・チャラの意思を引き継ぎ、王室を支え続けたエムバクも忘れることができない。ナキアがワカンダに帰還しオコエへの挨拶「サノスとの戦闘で眠らされて、顔を見せられなかったよ」という言い訳。これが一番可笑しかった。(笑)ルピタ・ニョンゴもこれが最後の出演かなと思ったりします。
戦闘アクションはマサチューセッツでのカーアクション、ワカンダ水攻め作戦、タロカン誘致作戦において、個人戦技から団体戦といろいろなタイプのアクションを見せてくれました。
マサチューセッツのオコエとナモーラのアクションは見事でした。今回のオコエ役ダイナ・グリラはほぼ格闘演技に徹していましたが、軍ユニフォームを脱ぐと恰好いい、魅力的ですね!(笑)でもこれが最後の出演になるかもしれませんね!
水攻めというネイモアの奇襲作戦。ここでの水中での戦闘、ドラゴン・ファイターで攻撃するシュリとネイモアの戦いは面白かった。
海洋での誘致作戦。「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」(予告編)を先取りしたようなシーンがふんだんに出てくるし、戦闘シナリオもしっかりしていて、アイアンハートの参加もあり、はるかに前作より面白くなっています。
新ヒーロー登場としてのネイモアとアイアンハート。ネイモアはスペインに滅ぼされた民族出身者で、民の保全を正義とし陸空海で行動できハルクやソー並みの戦闘力を持つが、時に他民族と衝突する愛すべきキャラクターだと思います。演じるテノッチ・ウエルタ、聡明で慈愛深さがあり、期待しています。
“アイアンハートを着けて登場したドミニック・ソーンは、レティーシャ・ライトとジュリの役を争った仲だと言われ、聡明で敏捷、明るいキャラクターでとても期待できますね!しかし、スーツがダサかった。(笑)
深い悲しみの中から立ち上がる作品で、チャドウィック・ボーズマン追悼にふさわしい作品でした。
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