人を食べてしまう衝動を抑えられない18歳と、同じ秘密を抱える青年(ティモシー・シャラメ)とも恋の行方を描く恋愛ホラー&ロードムービー作品。
人を喰うティモシー・シャラメ。いろいろな作品を観たがこれはないと、この作品を観ることにしました。第79回ベネチア国際映画祭(2022)コンペティション部門の最優秀監督賞受賞作品。これはちょっと危ないな!と思いながらの鑑賞でした。まさにその通りでした!(笑)
監督:ルカ・グァダニーノ、原作:カミーユ・デアンジェリス、脚本:デビッド・カイガニック、撮影:アルセニ・ハチャトゥラン、編集:マルコ・コスタ、音楽:トレント・レズナー アティカス・ロス。
出演者:ティモシー・シャラメ、テイラー・ラッセル、マイケル・スタールバーグ、アンドレ・ホランド、クロエ・セビニー、デビッド・ゴードン・グリーン、ジェシカ・ハーパー、ジェイク・ホロウィッツ、マーク・ライランス、他。
物語は、
人を食べてしまう衝動を抑えられない18歳の少女マレン(テイラー・ラッセル)は、同じ秘密を抱える青年リー(ティモシー・シャラメ)と出会う。自らの存在を無条件で受け入れてくれる相手を初めて見つけた2人は次第にひかれ合うが、同族は絶対に食べないと語る謎の男サリー(マーク・ライランス)の出現をきっかけに、危険な逃避行へと身を投じていく。
人を食べるということで強烈なホラー映画のイメージを受けますが、人を殺して食べる人は、監督がテーマとする社会から忌避された人々のメタファーと捉えて観ましたので、こちら系の作品ではない真っ当な純愛映画でした!迷える人に生きる指針を与える作品ではないかと思います。画像表現もいたって普通の作品でした。
あらすじ&感想(ねたばれあり:注意):
バージニアに父とふたりで住んでいるマレン。友人たちとのお泊り会に誘われ、厳重に監視されている父の目を盗んで参加。そこで友人が「手を見せて!」の差し出した手に“匂いを感じ”指を噛み砕いた。お泊り会は大騒ぎとなりこれを抜け出して父の元に戻ると、「警官が来る!」とメリーランド州に父と逃げた。
ここで父親は出生証明書とマレンの性向、幼いころ人を食べた、を録音したテープ、それにお金を残して、「もう会う気はない」とマレンが眠っている間に消えた。
マレンは出生証明書から母親ジャネル(クロエ・セビニー)に会って真実を明らかにしようとミネソタへ発つことにした。
バスの終着駅で下車、野宿しようとしているところに、「同じ匂いがする、お腹が空いているだろう」と初老の男サリーがやってきた。サリーは家には弱った女性がいた。サリーは「同族は食べない」と言い、この女性が亡くなったとき食べ始めた。「一緒に!」と勧められマレンも食べた。(食べたあとの口についた血痕を見せるぐらいの演出)。
このあと「祖父から引き継いでい積んだ」とこれまで食べた人の毛で編んだ綱を見せ「安全だからここにいれば!」と勧められたが、マレンは母に会うため(私は普通の人間になりたい)と逃げだした。
バスで移動。ある街でマレンがシャンプーを買うため(盗むため)立ち寄ったスーパーでもみ合うふたりの男を見た。匂いがするので追うと、口を真っ赤にした若い男・リーに会った。「食べるか?」と聞かれ、マレンは断った。しかし、彼の孤独さ、臭いに惹かれた。リーも同じだった。
リーはマレンを自宅に案内し妹のケイラを紹介した。リーはレコード「悪魔の回想」をかけて大声で歌い出す普通の人間を楽しんでいた。しかし、ケイラは家に寄り着かない兄を批難し、リーも「母には会いたくない、家を出る」と言い出す。
マレンは「母に会いにミネソタに行く」というとリーは「アメリカ中西部の雄大な風景が見れる旅だ」とトラックで送ってくれることになった。
マレンは人に話したこともない幼い頃の話をしたり、遊園地で遊びながら旅を続ける中で、ケンタッキー州の川原でふたりの男にあった。ひとりはジェイク(マイケル・スター)という人食い、もうひとりはブラッド(デビッド・ゴードン)という普通人で警官。(笑)
このふたりはゲイの関係だった。ジェイクが言う「なぜこの関係が続くか、人の骨まで食ったから。喰う前と後では感覚が全く違い。お前らの関係はお前さんに問題がある」という。マレンは「ばかばかしい」とトラックに逃げ込んだ。
マレンはアイオワのある遊園地でリーが的屋の男を誘って喰うのを目にし、追っていって自分も食べた!ふたりは共犯関係となったが、この男の車を返しに男の家を訪ねたところ、妻子がいることが分かった。マレンは大きな衝撃を覚えた。ミネソタへの道、マレンがハンドルを握った。
ミネソタで母の家を訪ねた。ここに母は居なかった。対面したのは伯母のバーバラ(ジェスカ・ハーバー)。彼女に「捨てられていた子を養子にした。大学2年で駆け落ちした。子供が出来たことは知らなかった。今、アーガスカの精神病院にいる」と追い出された。
精神病院を訪ねた。母親ジャネルはほとんど意識がない症状だった。15年前に書いたという手紙を看護師が渡した。「来ると思っていた。愛してやれずごめんなさい。殺す!」と書かれていた。そして、母親がマレンに襲い掛かった。そこにリーが駆け付け、救い出した。
マレンは「自分は人食いの遺伝子を継いでいる」と落胆したが「母のようにはならない」と泣いた。これをリーが慰めたが、マレンはリーと別れることにして失踪した。マレンは街を彷徨していてサリーに会い誘われたが「同じ気持ちにはなれない」と断った。サリーが激怒した。
マレンはリーなしでは生きられないと彼の元に戻った。リーも同じ思いだった。
ふたりは旅に出て大平原の中で過ごし、マレンは自分を取り戻し、リーが人食いになった話「暴れ出した父親を、家族を守るために殺し、骨まで食べ最高の気分になった」を聞き、「自分も同じことをした」と同情した。
ふたりはアパートを借り、マレンは大学に仕事を見つけ、普通の人として生きる生活を楽しんでいた。
穏やかな生活を楽しんでいるふたりの前に、マレンを誘い出そうとサリーが現れた。マレンとリーはふたりでサニーを殺害し、マレンがその肉を喰った。重症を負ったリーにマレンが救急車を呼ぼうとしたが、リーが止め「俺を喰って生きろ!」という。マレンは骨まで食べることにした。
まとめ:
マレンは自分のアイデンティティを確認し、「人喰いという運命は避けられないが、愛することは普通の人間と変わりない」という彼女の選択に共感できます。そしてサリーが現れたときの結末、これも運命。ここでふたりが採った決断、これを悲劇と思うかもしれないが、ふたりにとっては最高の結末ではないでしょうか。
マレン役のテイラー・ラッセルの表情がリーに会ってから変化していく演技はすばらしいですが、この作品が成立するのはティモシー・シャラメの気品だと感じました。監督のバイオグラフィーをしっかり捕まえて観るべき作品だと反省しています。(笑)
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