ファイル共有ソフト「Winny」の開発者が著作権法違反ほう助の罪に問われた裁判で無罪を勝ち取った物語。この事件のことを、恥すかしながら、知らないので、後々のためにと観ることにしました。
監督:松本優作、原案:渡辺淳基、脚本:松本優作 岸建太朗、撮影:岸建太朗、編集:田巻源太、音楽:Teje 田井千里。
出演者:東出昌大、三浦貴大、皆川猿時、渡辺いっけい、吉田羊、吹越満、吉岡秀隆、他。
物語は、
2002年、データのやりとりが簡単にできるファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇(東出昌大)は、その試用版をインターネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」に公開する。公開後、瞬く間にシェアを伸ばすが、その裏では大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、次第に社会問題へ発展していく。違法コピーした者たちが逮捕される中、開発者の金子も著作権法違反ほう助の容疑で2004年に逮捕されてしまう。金子の弁護を引き受けることとなった弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、金子と共に警察の逮捕の不当性を裁判で主張するが、第一審では有罪判決を下されてしまい……。(映画COMから)
裁判劇です。原告は警察、被告が金子のWinny裁判。松本監督が原案を読んで映画にするために全裁判記録を読み直し、担当弁護士の檀弁護士が製作に参加しているという、弁護士サイドからみた裁判劇になっています。が、これを補うようにもうひとつの事件、警察署ぐるみの領収書偽造事件を絡ませることで、両サイドから見たWinny事件裁判の形をとっています。
あらすじ&感想(ねたばれあり:注意):
冒頭、2002年。金子が寝食を忘れてWinnyソフトを作り、2chにアップロードして、眠りにつくところから物語が始まります。ここでの金子役の東出さん、太って眼鏡を着けていて、本人とは分からなかった。
2003年11月26日、弁護士会はWinny事案に対応するために講習会を開催していた。これに檀弁護士も参加し「P2P技術は世界を変えるが、犯罪が起こる可能性がある」と考えていた。
11月27日、京都府・大坂府の若者の家宅捜索でWinnyによる著作権侵害犯としての逮捕者が出た。愛媛県警もWinnyを使っていた若者のパソコンを押収した。
2004年、金子勇は京都府警の北村刑事(渡辺いっけい)の家宅捜査を受け、Winny作成者として署に連行された。
大坂の弁護士事務所に地裁から金子弁護の要請があり、チーフの桂弁護士(皆川猿時)が檀を担当弁護士に指名した。
京都府警に連行された金子は、愛想のよい北村刑事の簡単な尋問後、「金儲けのため、著作権侵害を満延したwinnyの製作者だ、サインしてくれ!」と見本の誓約書を差し出され、金子はこれを見て誓約書を書いた。「協力しますが、違っているところがある」と言ったが、「変更できる」と促がされ、サインした。
檀は「ナイフで人殺しがあっても、ナイフを作ったものが逮捕されることはない」とたかをくくっていた。
ところが、金子は一度自宅アパートに戻ったが、裁判所の金子拘留許可で、京都府警拘置所に収容された。
檀は「金子は逃げも隠れもせず、秘密を隠すような人でない」とこれに激しい怒りを覚えた。
先ずは金子の拘留を解くことがら弁護活動を始めた。2ch使用者有志から「金子を支援したい」と資金提供の申出があった。弁護士事務所は金子弁護の弁護団を立ち上げた。
檀が拘置所で金子に接見した。金子は素朴で人のよさそうな人だが掴みどころのない人だと感じた。檀は「2chの応援団が裁判費用を工面してくれるから金の心配はするな、弁護団がついている!警察の取調べで納得できないものには印鑑を押すな!」と注意喚起した。
金子の取調べが始まった。
金子の取調べ情報がリークされる。これでは世間に「金子は悪人」のイメージが定着してしまう。金子弁護団に伝説の弁護士と謳われる秋田弁護士(吹越満)が加わることになった。
檀は検察に「金子の拘留は不当逮捕だ!」と申し出た。検察は「本人の発言だ!」と言い、裁判で争うと告げた。金子は釈放されホテルで起居し、弁護士団の指示で行動してもらうことにした。
金子を加えて、弁護団は裁判の策を練る。が、ここでの金子は純真そのものでパソコンがあれば過ごせるという子供のような男だった。
金子が、北村刑事が差し出した誓約書を見て書いた「著作権侵害を満延したwinnyの製作者だ」に印鑑を押したと話す。檀は「裁判で戦うしか方法はない。私は5年間あなたのために働く。あなたは日本の技術者のために戦って欲しい」と告げた。
問題は著作権ほう助罪で訴えられる“ほう助”の解釈だった。新しい革命的な技術出現で、現行法律では裁けない!
裁判が始まった。検察の罪状は「著作権侵害法違反ほう助」だった。検察側は「罪状、提出書類のとおり!」と読み上げるのみで、論議のしようがない。
秋田弁護士の提案で「警察は何かを隠そうとしている」と、最初に金子を取り調べた北村刑事を証人喚問することにした。尋問はこちらから聞くのではなく相手が話すようにするとベテランの秋田弁護士が当たった。
金子がサインした誓約書の「満延」の満の文字に注目。この文字は金子が「字を知らず間違えたものだった。これで不当逮捕で金子は自供を強要されたとが立証した。
次に、「まん延とは誰の発想か、北村の発想か?」と問い詰めていくことにした。このシーンは緊張感のある空気のなかで見事な裁判劇として描かれます。北村から「警察内の発想」と分かる回答を引き出した。
次に、「金子は金儲けでWinnyを作るような男でない」ことを立証することにした。檀は「金子が話すプログラム言語でしか、裁判官に分かってもらえない」と金子が遊びで作ったAI搭載の二匹の猫の「ネコファイト」ソフトを裁判で展示した。金子は夢中になって展示した。(笑)法廷ではみんなあっけに取られ魅入るばかりだった。(笑)
金子は「人が3年掛かるソフトを2週間で出来る。Winnyを止めるために5分あればいい。2つのプログラムを書き換えるだけだ」と言うが、これを公表することが出来なかった。
檀はしっかり予行して金子の口から分りやすい言葉で「P2Pの凄さ、何が出来るか、著作権の保護、その将来」について語らせるが、裁判官、傍聴者にはちんぷんかんぷんだった。(笑)
もはや裁判所の内部資料がWinnyにより流出していると疑いたくなる雰囲気だった。
遂に政府から秘密漏洩はWinnyによるものだとして、禁止令が出た。
このころ愛媛県警では、仙波巡査部長(吉岡秀隆)が署内ぐるみの偽装領収書作成を公の場で明かし、この事件はニュースで流れた。県警は押収のパソコンを調べて、Winnyにより偽装領収書が公開されていることを知った。
夜間電話で、仙波は見えない相手から「何で記者会見した、許さない!」と攻撃され、「許されないのは俺のことか、それとも警察の犯罪か」と応じていた。
最後の法廷で検察から「情報元をおびやかした犯人は分かるか?」と質問され、金子は「誤作動、分散で攻撃を防げる」と答えた。裁判長はここで裁判を打ち切り、金子に「言いたいことはないか?」と聞いた。
金子は「科学技術はすばらしいものだと信じています。色々なソフトを作り、新しい技術を産み、表に出していくことこそが技術者としての自己表現であり、社会への貢献だと考えています。Winnyは問題があると言われていますが、技術的な解決が可能です。私はここに対策を施したWinnyを持ってきていますが、公開することができません。私にはそれが残念です」と述べ、深く頭を下げ涙した。
2006年京都地裁での判決は罰金刑150万円だった。
これから5年後最高裁で無罪判決。2013年、金子は42歳で亡くなった。
まとめ:
証言事実が生々しく、裁判シーンもリアルです。検察の黙秘を明かしていく弁護士サイドの仕掛けがミステリアスでエンタメ作品としても面白い。しかし、この作品の凄いところは、裁判の勝ち負けより、その背後にある裁判システム特に未来科学をどう裁くかと問題提起していることです。すばらしい社会派ドラマが出来上がったなと思いました。この裁判は「原告が金子で被告が警察であるべきだ!」と憤りを感じざるを得ませんでした。
この作品で、すばらしいのは金子さんのキャラクターを実物に照らししっかり作りあげているところです。純情無垢な性格で、一般社会人としては失格のような金子さんを、体重を18kg増やして東出さんが演じる。これがばらしい!
金子さんの姿・発言を見聞きして、「金子さんがこんなことをするはずがない」と感じ、そうしなかった裁判官、検察、さらにこれを傍聴するマスコミにどうしようもない無常観。「この国はどうしようもない」と無念でなりません。
その原因はなにか?この作品で描かれるように、先進技術に対する理解がないこと、裁判所、検察の自己保身。よく言われる、日本人の悪いところです。
金子さんを失ったことは日本のネット技術の大きな損失だったと残念でなりません。
裁判劇として、秋田弁護士役の吹越満さんと証人喚問された北村刑事役役の渡辺いっけいさんの対決。ふたりの絶妙なやりとりの中で警察内部の問題があきらかになってくるシーンはスリリングでした。そして、金子さんの実像を明かす姉を演じた吉田羊さんの涙の演技がよかった。この涙が無駄にならない裁判システムの改善を切に期待したい!
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