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「渇水」(2023)誰かを救いたいと思う気持ちが人には必要だと思わせてくれる!

「凶悪」「虎狼の血」の白石和彌監督が企画プロデュースということで、骨太の社会派映画?と観ることにしました。

原作:河林満さん(2008年没)の同名小説。1990年度文学界新人賞、第103回芥川賞候補作品。未読です。

監督:高橋正弥、脚本:及川章太郎撮影:袴田竜太郎、編集:栗谷川純、音楽:向井秀徳主題歌:向井秀徳

出演者:生田斗真門脇麦磯村勇斗、山崎七海、柚穂、宮藤官九郎、宮世琉弥、他。

物語は

心の渇きにもがく水道局職員の男が幼い姉妹との交流を通して生きる希望を取り戻していく姿を描く

 市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真は、水道料金を滞納している家庭や店舗を回り、料金徴収および水道を停止する「停水執行」の業務に就いていた。日照り続きの夏、市内に給水制限が発令される中、貧しい家庭を訪問しては忌み嫌われる日々を送る俊作。妻子との別居生活も長く続き、心の渇きは強くなるばかりだった。そんな折、業務中に育児放棄を受けている幼い姉妹と出会った彼は、その姉妹を自分の子どもと重ね合わせ、救いの手を差し伸べる。(映画COMより)


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

日照りが続く夏休み。父は失踪、夜の仕事の母親・小出有希(門脇麦)に育てられている姉妹、小学生の恵子(山崎七海)と幼い久美子(柚穂)。プールに泳ぎにやってくるが水がない!水のないプールで踊り戯れる姉妹。

岩切は相棒の木田(磯村勇斗)と水道料金滞納者宅を訪問し料金回収に当たるが、「支払いに応じない」と判断した場合は停水執行を行っていた。「応じない」の見極めは微妙だ。だから局員は「相手が自分に見える」という。(笑)こんな中で岩切は無表情で決められた手順に沿って粛々と業務を続けていた。

前段で、その業務の一端を描いてみせてくれる。失業中の伏見(宮藤官九郎)は電気代は払うが水道代は遅滞。「電気はすぐ切られるからだ。今金がない」という。(笑)水が生命維持に直接関係するので停水には時間的猶予(数度の勧告を無視して4か月滞納した場合)を与えている。期限が過ぎたと躊躇なく岩切は木田に「停水」を命じた。

傘屋の坂上(吉澤健)。「売り上げがないので金なしだ」と言う。せかせば女房がへそくりから払う。(笑) 居留守を使う女性もいる。

小出有希。「お金がないので払えない」という。スマホを使っているので「何とかならない」と言えば「これは商売に必要」と言う。そこにプールから幼い姉妹が戻ってくると、岩切は「1週間待ちます。お金作ってください」と引き下がった。

こういう業務が1日13件から19件と続く毎日課長の佐々木(池田成志)が「ひとつ締めるごとに変わっていく!」と岩切に注意する。確かにこれは大変な仕事だと思いますね!

小出家を訪ねると有希は不在だった岩切は風呂やバケツなどに水を一杯溜めて停水した。そのあと、アイスを買って4人で食べ、姉妹を励ました。

なかなか捕まえられない有希を捕まえて支払いを求めると「今、金は無い。今度は水の臭いのしない男に出会えた」と自慢し、「あんたは流れていってしまう水の臭いがする。家族どうなっているの?」と言われる始末。(笑)

金がなくて払えない男に変わって彼女(宮世琉弥)が払う。この男に「どうやったらうまく行くんだ!」と聞く体たらくの岩切。(笑)

木田と飲んで商店街を彷徨していて、少年に水鉄砲で撃たれた。岩切は「これが欲しかった」と子供のころを思い出し、「この拳銃でテロを起こしてダムを奪い、政府と交渉して必要なところに給水してやる」という。木田の「奥さんのところから給水したらいい」という言葉で、妻の実家を訪ねることにした。(笑)

岩切は仕事が終ると家に戻り、植木に水をやるのが日課。実は子供が出来ても相手せず、こうしていたらしい。停水という仕事で良心と任務の狭間で心を痛める他に、父親に愛されず育ち、我が子・タカシを愛せない、愛し方が分からないという心の傷を持っていた。この傷のため、妻の和美(尾野真千子)はタカシを連れて実家に戻っていた。家族がいないことで寂しさに引き込まれ、この寂しさが仕事に跳ね返ってくる。

岩切が実家にやってきても息子は近づいてこない。妻に「寂しいから帰って欲しい」と訴えるが「考えさせて!」と言われる。「海水浴に行かないか」と誘ったが「無理」と断られた。

その帰り、絶えることなく水を吐き出す滝を見た。「水はタダだ!流れを変える」と決心して戻った。

有希がいなくなり、恵子と柚穂姉妹への給水目途が立たない。姉妹は公園の共用水道から水を汲む。しかしこれが停水になり、隣家の水道から盗み始めた。自動販売機のおこぼれ金を捜す。恵子は不良高校生から誘いを受けるが断って、スーパーで盗みを働くようになった。

岩切がスーパーで買い物中に恵子が盗みで捕まった。岩切は金を渡して「これで払え!」と勧めるが恵子は「男が憎い!柚穂と一緒に生きていく!」と受け取らなかった。

岩切はテロを起こすと決めた。小出家の給水を始めた。次に市全域に給水すると公園の停水を解いた。これに驚いた水道局員が駆け付け大騒ぎとなった。

岩切は警察に逮捕され拘置されたが、課長の罪状取り下げで釈放された。刑事に姉妹の居場所を聞くと「教えられない」と断られた。しかし、岩切の表情は明るかった。

木田が迎えにきて「仕事は続けられる」と誘ったが、岩切は新しい生き方を捜すと断った。そこに息子のタカシから「海水浴に連れて行って!」と電話が入った。姉妹は福祉施設に収容されることになった。

まとめ

滞納水道料金を回収する役目の岩切。毎度繰り返す滞納者の言い訳・態度に心は冷え切っていた。これに連動するように妻子との心の交流も絶えていた。

そんな岩切が停水で苦しむ幼い姉妹の姿を見て心動かされ、冷え切った心に火が点き、「生への希望」を見出だしていく物語だった。貧困格差やネグレクトなどの社会背景はあるが、期待していたほどの社会派ドラマではなかった。

 原作とは大きく異なる視点ではないかと思った

 しかし、人と人の心の交流が希薄になっていく中で、社会の歪で苦しむ人に心寄せる視点は大切だ!岩切の起こした小さなテロ事件を胸に生きる気構えだけは失いたくないと思った!

生田さんの演技。滞納水道料金を回収する度にうつろになっていく目。「土竜の唄 シリーズ」とは真逆の男の姿。公園の水道栓を開け、駆けつけた職員に取り押さえられ、地面に顔を押し付け発狂したような顔。ここから警察の留置を終え穏やかな顔に戻ってくるという変化のある演技、大きな役者になったと思いました。

門脇さんの演技、「これでは母親になれない」と見事な演技でした。(笑)

子役の山崎七海ちゃんと柚穂ちゃん、「怪物」を観たあとだったけど、こちらもよかった。柚穂ちゃんの声がいい。(笑)

音楽担当の向井秀徳ん。岩切が滝に打たれ「流れを変える!」決心するのを促すギター演奏、エンドロールまでの心が満たされていく伴奏がよかった。

尺が100分程に収まっているのが良いのですが脚本・演出に物足りなさを感じました。

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