キャッチコピーの「タダで起きないために転べ、」、これは何だ?前作「止められるか、俺たちを」の続編で、前作が若松孝二監督のはっちゃかめっちゃかな映画愛を描いた作品だったから本作もと観ることにしました。
前作は若松監督指導下に育つ日本初女性監督・吉積めぐみの物語でしたが、本作は「福田村事件」で活躍中の井上淳一監督の監督修行物語です。
「タダで起きないために転べ、」とは荒井晴彦さんの言葉で、当時予備校生だった井上純一氏が映画監督になる決心したときの言葉だった。「自分でことを起こして、失敗しても失敗にはさせない努力」という意味。
河合塾の宣伝映画を撮る井上監督を指導する若松監督の指導法、大傑作です。
これに加え今求められる映画、単館映画へのエールが描かれています。前作同様、井浦新さんの快演が観られます。
監督・脚本:井上淳一、撮影:蔦井孝洋、編集:蛭田智子、音楽:宮田岳。
出演者:井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟、田中要次、田中麗奈、竹中直人、他。
物語は、
熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代。ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、若松孝二はそんな時代に逆行するように名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる。支配人に抜てきされたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治で、木全は若松に振り回されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。そんなシネマスコーレには、金本法子、井上淳一ら映画に人生をジャックされた若者たちが吸い寄せられてくる。(映画COMより)
あらすじ&感想:
文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治(東出昌大)。
結婚して子供が出来ると役者では食っていけないとセールスマンに鞍替え、いずれと考えている映画好き。この人は役者には向いてない。(笑)そんな木全に目を付けた若松監督が「ピンクばかりでは駄目だ(笑)、自分の映画を上映したい」の思いで作った映画館「シネマスコーレ」。コーレはラテン語で学校という意味。
木全は「文芸作品を掛ける」を条件に支配人になった。
「テロルの季節」「赤い殺意」「濡れたふたり」の3本で営業開始。
金本法子(芋生悠)は映画ポスターを見て、「名古屋でこんな映画やるの」とチケット販売スタッフに加わった。金本は映研部で監督を夢見る学生だが脚本が書けない、女性である、もうひとつ誰にも話したくない三重苦で映画監督の夢を諦めかけていた。
1年経って、観客が増えない。
経営が危ない。ということでピンク作品を掛けることにした。3週間ピンクで稼ぎ、これで1週間文芸を掛けることにした。木全は「金元にはきつい仕事だな」と思っていた。
河井塾の予備校生・井上淳一(杉田雷麟)、若松監督作品を観て荒井晴彦の「タダで起きないために転べ、」を思い出し、若松監督の弟子になると直訴する決心をした。
井上は河合塾の人気講師を授業が気に入っていた。
ビールを飲みながら授業する講師。授業前に塾生が教卓に缶ビールを準備する。教卓はビールで埋まる。講師はまずビールを飲んでから語りかける。「予備校は時間、服装を気にしない。幻想としての自由を作ってもいい。だから俺は酒を呑む」とビールを飲みながら名講義を続けていた。講師は元全共闘の人だった。これは面白い、知らなかった。
滝田洋二郎の「下着どろぼう」を掛けた。
客が入る。金本が「黒沢清、廣木隆一とか自主映画を掛けて欲しい」と提案する。木全は「それはいいが、ピンクは才能の宝庫だ。この映画館が掛けた映画監督作が日本映画を席巻するかもしれない」と自主製作作品を掛けると返事した。
井上は若松監督の舞台挨拶のある日に映画を観にやってきた。
「天使の恍惚」「スクラップストーリー」の2本立て。ある男の質問「最近の監督作は足立さん・・」に若松は「君のような人に映画を作ってない」と答えて、憮然として舞台挨拶を終えた。井上は感動した。
井上は若松に「弟子にして欲しい」と申し出ると「飯でも食べるか」と木全と金本が加わり焼肉屋に入った。
井上が予備校生と知って、監督が「映画ビラを置かしてくれ」と言い出す。木全が「駄目でしょう」と言うと井上が「全共闘の人が講師だから大丈夫だ」と引き受けた。若松は「まず大学に入れ、それからうちの事務所に来い」と話した。
若松が新幹線で東京に帰るのを、駅ホームで3人で見送っていたところ、井上が列車に飛び乗り、再度若松に弟子を申し出た。若松は「給料はない、4年で貫禄にしてやる。まず大学に入り親の支援を受けて俺のところにこい!」。(笑)
井上が大学に合格し東京に出る日。金本は悔しがった。
井上が若松監督製作作品の助監督レヴュー。
ピンク映画の製作現場。監督は「ここから松葉くづし・・」と男優に演技指導。(笑)井上は居場所がなく照明の邪魔をする。「バカ!」と監督に一喝されて表の交通整理を任される。誘導に失敗して衝突事故。監督から「弁償どうなる、あっちに行け」と怒鳴られる。助監督とは何をする人なんですか?(笑)
井上は名古屋に戻った。
父親(田中要次)が「映画好きなのになぜ諦める!」と激励。田中要次さんの出番はこれだけ。若松映画らしい(笑)
若松は名古屋を訪れ、井上を呼び出し、木全、金本が加わり焼肉を食った。
若松が「助監督になって、何か1本、これというやつを見つけろ。殺したいやつだ、俺は警官だった。だから映画で殺した」と言い「井上にはいないのか?」と聞いた。木全が「それは監督です」と答えた。若松が「あの映画を東映が買わなかった、だからマンションを売る。引っ越すまでに顔見せろ」と言って帰っていった。
金本は「殺したいのはあんたみたいな人、運だけで生きている」と井上をこき下ろした。金本は「運がない」と嘆いた。
若松は「シネマスコーレ」の経営状況を確認して「大林なんかやるからダメだ。全部ピンクにする。3本も大林を掛けるバカ、大林を卒業しろ」と木全に伝えた。
若松はバーに呼ばれ、出て行くと牧が待っていた。
牧は「高校は受験勉強、大学は遊ぶところ、その隙間に予備校がある。そこに全共闘の優秀なのが入ってきた。敗者復活だ、貴方は映画、僕はやれなかったことをやる」と「河合塾の宣伝ビデオ(30分)を撮ってくれ」と依頼した。
若松は井上が謀ったなと感じ、監督は井上で撮ることで引き受けた。プロデューサーは木全と決まった。
井上が脚本を見せると「こんな脚本では河合塾は世の中を変えられない。牧の言うことなんかどうでもいい。参考になる映画をパクれ!ロッキーでやれ!」と示した。(笑)
井上は脚本がまとまらない。事務所の先輩・吉積めぐみさんの写真を見て書き始めた。若松は撮影、音楽、美術スタッフ、キャストを関係者に打診している。「足立は電話帳に載ってない、盗聴されるとまずいからな」と独り言。何故か分からないが赤塚不二夫の出演が決まった。(笑)
井上が脚本を渡すと「名古屋に行ってロケハンンしろ!脚本は読まなくても分かる」という。(笑)「偏差値30の女性が予備校をやめ東大を受験して失敗、河合塾で勉強して合格するという脚本」だった。(笑)
撮影が始まった。(笑)
「東大一本でやる」というシーンから撮る。カットのタイミングが悪いと指導し始めた若松。指導に熱が入り自分が映画監督になっていく。(笑)しらない間に担任先生役で竹中直人が出て来て「東大か」で終わり。あとは監督がペコペコ挨拶する。(笑)
木全が金本を撮影現場に誘い、撮影現場を見せる。
合格通知を待つシーン。12カットを1カットに修正しろと指導。合否の電報をと届ける役が赤塚不二夫。先に合格通知を渡して、間違っていたと「サクラチル」と持ってくる。(笑)
映画が出来上がり塾生に公開した。
若松は「お手伝いしただけで何もない。大学に入ってください、本当の勉強はずーと続く」と挨拶して席を外した。井上が監督として作品を紹介した。最年少映画監督になった瞬間だった。
木全が若松に「ピンクを止める。もはやピンクはアダルトになっている。もう映画でない」と訴えた。若松は「バカ!」という。木全が「長田さんの撮影した映画、これがいい。東京に単館映画館が出来ている。中国系もいい。生き残るためにはこれが一番いい。入るか入らないかより大切なものを見せる映画を映画館で見せる」と提案した。若松は「そんなこと分かってたまるか!」と答えた。木全は「ありがとうございました」と単館映画館となることにした。
井上が「シネマスコーレ」を訪ね金本に会った。
井上は「監督になったと親は喜ぶが、監督が監督だから(笑)」と話すと「私は最低だ」と嘆く。「私は在日韓国人。考えても見なかったが、16歳の妹が16歳になって指紋登録を断わったと昨日聞いて驚いている」という。井上は「それを撮れ!新藤兼人は人は一生で1本は取れる、それは自分のことだから。妹さんを撮るには金本さん自身を撮ることだ。あなたが撮らないなら私が撮る」と勧めた。金本は「取られたくせに」と云った。そして「あなたが監督になったら寝てあげる」と笑った。これで金本も映画監督の夢を捨てないかもしれませんね!
まとめ:
若松監督の教えは「視点を持て」「殺したいやつを映画で殺せ!」「やり方なんかどうでもよい(視点だ)」だった。若松監督は「福田村事件」(脚本で参加)のヒットを喜ぶでしょうね!これも単館映画だった。監督を殺したい思いだった井上監督、一矢報いましたね。
映画監督の名前や作品名が沢山出て来る。こんなことも知らずに映画を観ていて、日本の映画史を知る作品でした。若松さんは常に足立正生さんのことを気にしていたんですね。痛いように伝わる作品でした。
この作品を観て思うことは、映画を作ることの面白さ大変さ、さらにこれを売ることの難しさ。「劇場で映画を観る人が増えて欲しい」が伝わる作品でした。
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