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「独裁者と小さな孫」(2015)

イメージ 1「独裁者と小さな孫」(2015
この作品、「圧政で国民から搾取した税金で贅沢な暮らしをし、罪なき国民を政権維持のため処刑にしてきた冷徹で無慈悲な独裁者が、クーデターの勃発で、幼い孫を連れて逃亡。そこで目のする独裁政治の実態と独裁者の心情変化、その結末は」という物語。
物語は、架空の独裁政権下の国を舞台にし、コミカルで寓話的に描かれているが、現実世界で起こっているイラクフセインやリビヤのカダフィを想起させ、また今、ヨーロッパで問題となっている増え続ける難民の問題とも繋がっておりリアリティを持って受け止められる。
大人と孫の二つの目線で描くことで、次々に起こる悲劇がより鮮明になり、孫が独裁者に質問することで、彼が人間性を取もどしてくる過程が分る。
圧巻は、ラストで、この独裁者が民衆に囚われ、どう処せられるか。この作品を観て、あなたはどう判断しますかと問うているところです。
 
物語は
ハイウエーを走る車のラジオから流れる「テロリスト7人が処刑された」というニュース、映像は一転、大統領(独裁者)が死刑認可をするシーンに。なかに16歳の子がいるという執事の指摘に、将来のことを考え全員死刑だという。彼は永遠のこの体制を夢みているようで、孫を呼び自分の権力を見せイメージ 2付ける。電話1本で街全体の灯を消したり点けたりと。孫に電話を渡すと1回目は成功するが、2回目はそうならない。ゲームのように権力を楽しむ独裁者。外を見ると銃声が・・・。
 
クーデターの発生を知り、夫人など家族は飛行機で脱出させるが、大統領はまだ事態が収集できると自国に残るつもり。そのとき、偶然、孫が幼なじみと遊びたい、ゲームをしたいと言って飛行機に乗り遅れてしまう。止むを得ず大統領は、孫と一緒に専用リムジンで宮殿に帰ろうとするが。リムジンはデモ勢力に囲まれ、シークレットサービスの発砲でデモは一気にエスカレート。これは生々しい映像で、革命は1発の銃声から始まる。身の危険を感じた大統領は、専用リムジンを捨て、全国民から追われる賞金首として、孫とともに、安全な地へ逃げるべき船の待つ海を目指す。
 
開発が中止になったさびれた街の床屋で主人を脅迫しながら髭を剃ってもらい、「税金を払え」などと独裁者ぶり、服を交換し変装するが、この軍服がストーブのなかに放り込まれ、自分の置かれた立場をすこしずつ理解しはじめる。
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可哀想な炭鉱婦の子供からギターを奪い、牛小屋に隠れて、孫に段ボールを被らせ踊る人形に仕立てて旅芸人になる。「二度と大統領と言うな、人間を見たら敵と思え」と孫に教え、夜は、孫の手をつないで寝る独裁者。
 
国内は体制派と反体制派による内乱で大混乱、多くの難民の発生で、自らもこのトラックに乗せられ、ここで聞く独裁者の悪評「アイツ(大統領)に兄弟を殺されたんだ」。「数多くの政治犯を処刑せよ」と命じた自らの罪に向かい合うことに。検問では、新婚の女を強姦する警察・軍隊の腐敗を見る。
この旅のなかで、自分が政治を司ってきたこの国の庶民の生活、その現実を思い知らされる。ここで小さな孫が目撃するのは、破壊的な内紛、悲痛な強姦、無残な死。
 
そんななかにあって、検問で、孫がある難民家族から一片のパンを貰うことで難民と見なされ命が助かるという市民の温かさを知る。
また、革命後、釈放されて徒歩で故郷へ向かう政治犯たちと遭遇し、拷問により歩けなくなった彼らを背負い、傷を洗ってやったり、家まで送っていくと妻に男ができていて悲観し自害する現場に立ち会い、彼の葬儀に参加するなど自分の犯した罪を向かうなかで、目の前に海が開けてくる。イメージ 4
 
このホットした瞬間に、反乱軍や民衆に見つかってしまう。そして、銃殺されそうになったとき、一人の女性が出てきて「銃殺なんて生ぬるい。私の目の前で一人の息子が殺された。独裁者の前で孫の首を吊って苦しませて」と叫ぶ。ここで、孫が殺されようとする瞬間に行きずりの政治犯が割って入り、子供の命を救う。「子供に責任はないだろう。お前らだって独裁者の兵士として、大量虐殺に加担したじゃあないか」と。
群れる群衆によって独裁者の首がいよいよ斧できられそうになったとき、あろうことか元政治犯が自らの首を差出し、「彼を殺す前に俺を殺せ」と叫ぶ。
「負の連鎖を止めないと同じことが繰り替え返される。独裁者を殺した後は国民同志で争いあうだろう」と。
斧を振り下ろすか、それとも・・・この結末は映し出されない。孫が浜辺で踊る姿を映しだし、そこで終わる。「あなたならどうするか」と問われている。
 
独裁者を倒して革命が成功したとしても、復讐の連鎖が断ち切られなければ何も解決しない。暴力にその力はなく、人々の意識を変えていかなければならないと訴えている。