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「淵に立つ」(2016)

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深田晃司監督がメガホンをとり、第69カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した、今年度期待の作品です。こちらでの公開初日3回目の鑑賞でしたが、客の入りは極端に悪く、驚きました。

本作、平穏な日常だった中年夫婦と幼い娘の3人家族が、突然ある男が現れたことにより、崩壊してゆく過程が描かれている。ここでは、夫婦とは、家族とは何かを問うており深く考えさせられるドラマ。家庭崩壊の危機が叫ばれる今、見てよかったと思います。

物語は、中年夫婦と突然現れる男のキャラクターやお互いの関係に余白があり、ひとつひとつのセリフに意味を探り、展開が予期できずいらいらさせられ、突飛な出来事に息を呑むというサスペンスドラマになっていて、ラストまで気が抜けない。

キャラクターたちの行動は、繊細な精神状態を表現する必要があり、役者さんの演技力が問われますが、浅野忠信さん、古舘寛治さん、筒井真理子さんの演技はすばらしいものでした。
ねたばれ(感想):
物語は、オルガンを弾く女の子、メトロノームの音。母親章江(筒井真理子が早くと娘蛍(篠川桃音)テーブルに着くことを急かし、すでにテーブルについて新聞を丹念に読みながら飯を食う夫鈴岡利雄(古舘寛治。タイトルが出て、母と娘が「天にまします神に・・」とお祈りをして食事を始める。しかし、まったく夫婦の間に会話はない。これほどの無機質な家族の描き方をした映像にはあまり出会わない。結婚して十数年を経た家族の姿、見ていて息苦しさを覚える。
冒頭のシーンから不調和な感じの映像。この夫婦は、自家で夫婦と使用人一人という小さな金属加工工場「鈴岡金属」を経営している。食事中に、母と娘は「カバキコマチクモの子は母親を食べると言い、母親は食べられて天国に行けるのか」という話をしている。この話は一つの伏線になっているが、章江はプロテスタントで、教会の慈善活動に参加している。夫は無宗教です。

ある日、この工場に一人の男八坂草太郎(浅野忠信が訪ねてくる。真っ白いワイシャツに黒いパンツで立っている姿になぜか異様さを感じる。
草太郎が金岡夫婦に大きな影を落とすことで、この夫婦の亀裂を描くために、浅野さんの演技は強いイメージを残すものになっている。
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八坂は利雄の友人で、刑務所を出所したばかり。仕事を求めて八坂のところにやって来た。利雄は、章江に断りなく草太郎を雇った上に、彼に自宅の空き部屋を提供する。刑務所での厳しい生活て培われた礼儀正しさ、物の言い様には違和感がある。特に何度も出てくる粗雑な食事の仕方に、何かが起こると言う不気味さがある。
利雄には、時折高圧的な態度にでる。反面、章江には礼儀ただしく、丁寧な対応を見せる。いかなる罪状かわからないので観るものには不安感、不気味さを感じさせます。
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最初は迷惑そうにしていた章江だったが、娘蛍にオルガンを教えてくれることで、そして教会に寄付する衣類を届けた帰り喫茶店で聞かされた罪の告白と贖罪「ひとりの人間の命を奪うという重大さを、私は被害者と遺された者の絶望の深さを思い、実感した。これからは自分の人生は遺族の方に預けられたものです」に強く共感し、心を許し始める。
一方、利雄は妻から八坂が犯罪者であるとを話したことを聞き、実は自分もこの犯罪に関わっているだけに無関心ではいられなくなる。

夜、章江は蛍のオルガン演奏会に着せる赤いドレスを作っていて、これを持って八坂の部屋を訪れ「一緒に仕事をさせて欲しい」と願い出る。八坂は手紙を書いていて、それを見せてもらう。このような親しい関係になっていって、家族で行く川遊びに誘う。
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川遊びでは、利雄と八坂はつりを楽しんでいて、利雄が「章江に収監のことを章江に話したか」と触れると「お前の家でさ、なんでこの生活は俺でなくてお前なんだって、ぶち壊してやろうか」と乱暴な口の利き方で脅される。何も知らない章江は、夫と蛍が昼寝しているところに八坂を招き家族のように一緒に川の字になって寝そべる。この様子を自撮りする。

利雄と蛍が寝ている間にふたりは川辺を散策すると、突然八坂がキスを求め二人は抱き
合う。
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八坂は本性を見せ始める。帰ってくるふたりを目覚めた利雄が見る。
 
こんななかで、八坂は利雄が外に出た隙に章江に迫るが拒否され、外に出て歩いていると蛍に出会い、襲い掛かる。
利雄が帰ってくると章江は居間で横になっており、「蛍は赤いドレスを着てどこかに行った」と言うのを聞き、咄嗟に駆け出し蛍を探すと白いつなぎを腰イメージ 6
まで下ろし赤いシャツを着た八坂に会う。
この八坂の赤いシャツを着た姿は強烈な印象を与える。「何をやったんだ」と問うが八坂は逃げる。蛍は後頭部から大量の出血をしている。駆けつけた章江はこの状態に激しく動揺する。

蛍の事件は利雄と章江の夫婦関係に劇的な変化を与えることになる。洗面所で神経質に手を洗う(潔癖症)章江のシーンから事件の8年後の物語が始まる。章江は老け込みふっくらとして容態に、筒井さんの3週間で13キロの増量という過酷な役作りで、8年の歳月の経過を知ることになります。すごい演技、女優魂です。
蛍は脳に重い障害を持ち、章江はほとんど付きっ切りで介護。蛍の状態はモニターで工場でも居間でも確認できるようにしている。章江は信仰を放棄した。
この間、利雄と章江は共に秘密を持つこと、そして蛍への贖罪の気持ちからか、ふたりの緊張関係は一瞬“ガス抜き”ができたかのように穏やかに見える。
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利雄は新しく山上孝司(大賀)を雇うことにする。そしてこれまで続けてきた調査事務所に依頼している八坂の所在調査を章江は「もう止めたら、見つけてどうするの」と言う。利雄は「まだ早い」と思っている。
ある日、利雄が孝司に作業を教えていると、「父の手紙の住所を見て鈴岡金属にやってきた」と言い「川遊びで撮った写真」を見せる。これを見て、利雄が「誰にも言うな!」と激しく動揺する。
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章江は、あるとき、洗濯した白いシーツに八坂の視線を感じ、物干し竿からシーツを外し投げる。屋上から落ちてくるシーツを見る利雄の目がきつい。

孝司は、能障害者の蛍(麻広佳奈)に親しみを示し、絵を画くなどで近づき、章江は好意を持つが彼の持ち物に「川遊びで撮った写真」があり、彼が八坂の息子であることを知る。
彼の父の思い出「人を殺したみたいで、仲間がいたらしい」を聞き、章江は夫利雄に詰め寄る。
利雄は足のツメを切りながら、パチンパチンの音が不気味、「首を絞めたのはあいつ。俺は足を持っていただけだ」「蛍は、俺とお前への罪なんじゃないか。お前八坂とできていたろ、蛍があんなになってほっとしてる。お前もそう思ってるだろう」と一気はにこれまで貯めた感情を吐きだす。ここで、二人は「人生の崖っぷちに立つ」ことになる。

調査事務所から八坂らしき人物が見つかったという報告が入る。利雄は断ろうとしたが、章江の意見で孝司を伴い八坂探索の旅にでる。
車内で章江は「孝司君、あなたを一緒に連れていくのは、八坂が見つかったらあいつの目の前であんたを殺すため」と脅す。
かって八坂が蛍に教えた曲が聞こえ、その家を訪ねるが人違い。見つからないということで落胆した章江は正常者として育った蛍の夢を見る。章江は休憩中に蛍を連れ出し峡谷の橋の上に立つ。
車内に二人がいなくなったことに気付いた利雄と孝司は「章江」と叫びながら探し、橋の上の二人を発見。章江は、真っ赤な上着をつけた八坂の幻覚を見て、蛍とともに川に身を投げる。
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利雄は川に飛び込み章江を引き寄せるが、蛍は河底に消えていく。しかし蛍は途中から自力で水上に向かう。利雄が章江を背負って岸に上がると、そこには蛍と孝司が横たわっている。利雄は三人を並べ章江の人工呼吸を始める。章江は息を吹き返す。蛍と孝司の生死は、まだわからない。この先については観る者に託される。
鈴岡家族を家族として成立させていたものは何か。しょせん他人でしかない人間が一緒に暮らせば不条理なこともでてくる。信じる力が試される。
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