
物語はエリートサラリーマンとその妻、そして一人の子どもが何者かによって惨殺され、犯人不明のまま世間を騒然とさせた一家殺人事件から一年。週刊誌記者田中(妻夫木聡さん)が改めて事件の真相に迫ろうと取材を開始。関係者のインタビューを通してあぶり出されるのは理想的な夫婦の外見からはかけ離れた実像とインタビュイーの愚行。
インタビュイーはいずれも饒舌で、このことがすでに愚行ですが、語れば語るほどにボロが出て、実は相手のことを語っていて自分を語っていることに気付かされます。また、無自覚の愚行がいかに相手を傷つけているかに気付き戦慄を憶えます。愚行の背景に社会の階級化や差別化があることは、現在顕在化しつつある社会現象で、見逃せません。
当事者同士の会話が、現在と過去、関係者の行動とうまく組み合わされ、訴えたいことが平板なものとならず立体的にダイナミックに伝わる編集がすばらしい。また、映像は冷ややかで暗く、音響もいやな音源と“イヤミス”にふさわしいものになっています。
そしてキャステイングがすばらしい。みなさんがこの役のために生まれたのではないかと思っています。(#^.^#)
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物語は、
満員のバスのなか、座っている田中(妻夫木さん)が、立ってる男から「(妊婦に)席を譲ったら」と言われ、嫌々ながら譲って、次の停留所で下車し“びっこ”で歩いて乗客を挑発するという彼の愚行、心の闇を見せるという秀逸なシーンから始まります。

光子は独房で伏せていて、沢山の手が彼女の身体を撫でまわしている。この映像が何を意味するか、あとで分かりますが、いやな映像です。
田中は田向惨殺事件を取材する許可を得て、田向邸に向かいます。

雨の夜、居酒屋で飲みながら取材。「一緒に入社して彼は販売、自分は財務。彼は販売で客とのトラブルで苦しんでいたこともある」と言い「新人歓迎会で山本という女の子と出来て、これを別れさせるため自分が彼女に近づき関係を結んで、田向の名を出して脅し別れた」と饒舌に話す。

光子が精神科医(平田満さん)と向き会って「この玩具に触りたい。私も欲しかった。何も食べなかった。お兄ちゃんが作ってくれた。お兄ちゃんはそのままがいい。人生変わっても私は妹でいたい」と兄への気持ちを語っています。



しかし宮村は付き合っていた尾形孝之を夏原に取られ、ある日リゾートホテルに彼女を訪ね、ピンタして別れたと言う。理由は「夏原さんは私が内部生の尾形と付き合うことで、自分が下位になることが許せなかった」と語ります。
「私は夏原さんが嫌いではない。あそこまで女を出してくる人は珍しい。私の傷は浅かった。ひどい扱い方された人もいたから。夏原さんならどこで恨みを買ってもおかしくない」と語ります。彼女は夏原を貶しながら、実は夏原になりたかったという嫉妬心を持っていることが伝わります。ここでの臼田さんの美しく芯のある自立心が強そうな演技はすばらしいです。
〇宮村淳子の大学時代の元カレ、尾形孝之(中村倫也さん)の取材
晴れた日の川辺の縁で、殺された友季恵の大学時代の様子を聞こうと元カノの尾形を取材。

「演劇部で作業中に淳子がやってきていきなりピンタされた」と言い「リソートホテルで淳子が夏原さんにピンタするのを見て、ここで別れた」と語ります。淳子の見栄っ張りという愚行が明らかになり、尾形の軽さを見ることになります。
出来上がった記事「田向一家斬殺事件のその後」を読んでいるとき、「あの記事を書いた人に会いたい。田向さんはあんな人ではない」と電話あり、5年前に転居したという田舎町の保育園で稲村恵美を取材。
「大学の山岳部の先輩として付き合っていたが、彼の都合で別れた。就活の時期になり、彼は日本の社会は階級社会だと私の父のコネを借りたいと接触してきたので、彼氏がいたけれど付き合うことにした。

別れ際に「この子似てない?」と問うのでした。田向の就職のために女性を騙すことを厭わない愚行、そして稲村の惚れたがゆえに田向の愚行を知りながら付き合うという愚行を見ます。

田中は病院の育児室を訪れ千尋を見る。その後弁護士に会う。

弁護士が「千尋ちゃんの父親はだれか」と問うと「光子は僕に何も言っていない」と答える。
光子は精神科医に「父と関係をもった。お兄ちゃんは初めから知っていた。高校になってお兄ちゃんが父に抵抗したので父は家を出た」と告白。
〇第1の衝撃
思い出したと宮村から電話があり、田中は彼女の例の喫茶店に急ぐ。光子はまともな生活がしたいと頑張って文慶大に入学のだが、宮村が語る光子は夏原をみて憧れ、夏原に誘われ酒を飲み男と寝たことで次々と男と寝ることになったと聞かされる。
「光子さんの不幸は美人であったこと。そして野心が強かった。これを夏原さんが、自分が内部者に近づくために利用した。ああはなりたくない。私なら夏原を殺す」と言う。これを聞いた田中は宮村の背後から殴打し殺害する。殺害行動は、無音でスローモーションで描かれ、ついにやったかという感じ。実はこのことがこの作品で描きたかったことではないでしょうか。田中のとった殺人が愚行と見える!!彼は他人のタバコの吸い殻を残して去って行く。
田中は「カフェ殺人事件」を報ずる記事を目にして社に出勤すると電話があり、病院に駆けつける。
〇第2の衝撃
光子が拘置所診断室で「私はあかちゃんが欲しかった。思ってくれる人と暮らしたかった。が、あの子は笑わない。そんなとき町で夏原さんに会った。夏原さんは憧れの人、家までつけて幸せそうな親子を見てもう私は夏原さんにはなれないと思った。自分のなかでぷつんと切れた。簡単に殺せた」と呟いている。
〇第3の衝撃
弁護士が、母親の光子に対する虐待の実態を知ろうと、母親を尋ねると「内緒で産めるところはない?健康に産まれて欲しいと光子が訪ねて来た」と言う。これを聞いた弁護士は「実の親に犯された子でもそう思うの?」と問うと母親は「そうですか、知らなかったですか千尋の親を」と答える。弁護士は何故これを問うたのか、愚行です。まさか、田中が病院を訪ねた際に千尋ちゃんを殺したのではないでしょうね?
田中が光子の面会に訪れると、光子は面会の仕切りガラスに指を這わせながら「お兄ちゃんとこれだけの秘密を持てて、わたしは秘密が大好き。私はあの子に手を上げていない。お兄ちゃんがお父さんに何回も手を上げるのを見たから。ありがとうね。お兄ちゃん。お兄ちゃんだけが私の味方」と語るのでした。

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