キューバ革命の歴史的英雄チェ・ゲバラの“意思”を継いだ男。ボリビア軍事政権との戦いにあたり、ゲバラから彼のファーストネーム“エルネスト”を授けられ、共に行動したボリビア日系二世フレデイ前村ウルタードがいたということを全く知らなかった。いかなる人かと興味を持ち、観ることに。
監督は坂本順治さん、日本・キューバ合作作品です。主演はフレデイ前村にオダギリジョーさん、日本人です。(笑) 共演に森記者・永山絢斗さん、キューバ側からチェ・ゲバラ役でホワン・ミゲル・バレロ・アコスタさん。
フレデイは1941年に鹿児島県出身の父とボリビア人の母の次男として生まれる。幼少時代から苦しんでいる人々に手を差し伸べる心やさしい少年で、長ずるや医師を志し、1962年キューバ国立ハバナ大学へ留学する。ここで、キューバ危機のさなか、ゲバラに出会い、人間的な深い魅力に心酔し、ボリビア軍事政権から祖国を解放すべくゲバラが組織するボリビア民族解放軍に参加。1966年10月ボリビアに潜入、山中で行動中政府軍に捕らわれ、1967年8月31日25歳の若さで生涯を終える。
描き方は、はっとするようなドラマがほとんどない、淡々と話が進む。当然フレデイが見たであろうゲバラのキューバ革命からカストロとの離別、アフリカでの活動を観る人に任せ、ゲバラの言葉を冒頭で掲げ、かなりの時間を割いてゲバラの広島訪問時の逸話を描き、革命家としてのゲバラのカリスマ性を見せつけて、フレデイの物語に入るという演出。
大学で交わすわずかな言葉と、ボビリア軍事解放戦士の選別面接でフレデイに贈るゲバラの言葉で、ゲバラの生き方がフレデイの生き方に重なるところがしっかり印象つけられ、とてもうまい演出です! オダギリさんの秘めた静かなる闘志、寡黙な演技にすべてが託された作品です。
冒頭、「もし我々を空想家のようだと言うなら、救いがたい理想主義だというなら、できもしないことを考えていると言うなら、我々は何千回でも答えよう。その通りだと」(エルネスト・チェ・ゲバラ)
広島平和公園で献花し、原爆ドーム、原爆資料館、原爆病院を訪れ数々の悲劇を目にします。原爆ドームでは碑文「安らかに眠ってください」を聞き「原爆を投下しないでも戦争は終わっていた。彼はなんと言ったのか?何で主語がないんだ!」と聞く。そして原爆資料館で焼け野原の広島の地図、無残な三輪車などを見て同行した森記者らの前で「君たちは、アメリカにこんなひどい目に遭わされて、どうして怒らないんだ」と感想を残します。この言葉が、60年近くの時を経て我々の胸に重く響きます。広島を去る際、もう一度平和公園を訪ね写真を撮り、記念はがきを買います。
1962年4月、フレデイたち24名のボリビア人学生がキューバの奨学金で、ハバナ大学の医学部を目指しハバナにやってきます。ハバナ大学に入校前にカストロにより創設されたヒロン浜勝利医学校で医学の予備課程を学ぶことになる。大学に入学して5日目、10月23日ケネデイー演説により米ソが一発触発状態に入る。
海岸配備の高射砲部隊に配属され毎日24時間、立ったままで飯を食べながら、対空監視を続ける。一度敵機を射撃するがそれ以降敵機を見ることがない。そのうち、理由も分からず停戦。「ソ連が止めた」と聞かされ「これではラテン全体がバカにされる」と怒りを露わにする。学業に戻り、医学の解剖学を学ぶ日々が続く。
去っていくゲバラを追って、フレデイが「あなたの自信はなんですか」と聞くと「そんなこと聞きたいのか、怒っているんだよ。憎しみではない。憎しみでは戦争は勝てない」と答えます。フレデイはこの言葉に深く感銘を覚えます。
フレデイが、ゲバラの勧める詩集を読んでいるとき、カストロが突然がやってきて学生の希望を聞き、バスケットゲームを楽しみ、「やるべきことなど聞くな!いつか君の心が教えてくれる」という言葉を残して帰ります。この言葉は、のちにフレデイの革命戦士となる決心を後押します。
1964になり、2学年に進級。おおらかな学生生活が続くなかで、密かに心を寄せていた女子学生ルイサ(ジゼル・ロミンチャル)が妊娠。その相手はかって同室で生活した男で、彼女を捨てたことを知ります。アルバイトで生活費を稼き支援するようになります。
11月に入り、ボリビアに軍事政権ができ、これで国民が苦しんでいる記事を目にし“ボリビヤに帰ろう”と校長に相談をします。「大革命気取りになるな!」と諫められるが「やるべきことは君らの心で決めろ」というカストロの言葉を伝えると許可が下りる。ボリビアに戻る日を夢みながら、フレディがバイクで村の往診に励む姿はゲバラの若き日々に重なります。
ゲバラが組織する訓練部隊で、8か月にわたる訓練を受ける。オダギリさんのM1ライフルの取り扱いが見事です。(笑)
フレデイが教室で「ボリビヤの住民が抑圧されて、医療が受けられない」と熱弁をふるっているとこがゲバラに重なります。
ゲバラはフレデイを自室に呼び「軍医を希望か?」と聞きます、「あなたのように」とフレデイ。「戦死したら誰に伝えるか?」「合格ですか?」。
「君の呼び名を決めるために呼んだ。本名は使わない、使うのは死ぬときだけ。呼び名は『エルネスト メデイコ』。君の名だ」。ゲバラは、医学校出身であり、ことのほか“メデイコ”に思い入れがあるように思います。
フレデイはルイサを訪ねボリビアに帰ることを正式に伝え、ふたりで最後の食事をします。ルイサは「あなたは小さな幸せを望む人ではないが、そばにいて欲しいのはあなただった」という言葉を贈ります。
休憩中に民家で食べ物を調達するが、ここに隠れていた政府軍に見つかる。渡河時待ち伏せに会い捕らわれ、ゲバラの所在を求めて厳しい尋問を受ける。彼は決してしゃべらない。何度も撃たれこと切れるところが、ゲバラの死様に重なります。ゲバラは11月27日捕らわれ、39歳で亡くなる。
2017年、チェ・ゲバラ没後50年。チェ・ゲバラ霊廟を訪れた3人のかっての学友が、この霊廟に眠るフレデイの碑に献花し、「君の生き方がラテンアメリカを押した。君の残したものは、あとに続く。世界は忘れない」という言葉を贈ります。
行進中の兵士に「エルネスト メデイコ」と呼ばれ、精悍な顔のオダギリさんが振り向きます!
オダギリさんは、スペイン語でしゃべり、“しずか”で知的、現地人と見間違うほどの風貌ですばらしい演技でした。見果てぬ夢を追い求めた男「エルネスト メデイコ」の純粋な心にサムライ魂を見る思いがします。
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