映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「伊藤くんA to B」(2018)

イメージ 2自意識過剰で無神経などう見てもクズ男“伊藤くん”に振り回されてしまう5人の女たちの痛すぎる恋愛と成長物語、柚木麻子さんの同名小説の映画化です。監督は廣木隆一さん、主演は岡田将生木村文乃さん、共演に佐々木希志田未来池田エライザ夏帆さんです。監督と志田さん、夏帆さん狙いで観ることにしました。この作品は同名のドラマがNetflixにて公開されています。小説は未読、ドラマも観ないでの鑑賞です。

描かれる恋愛模様にこんなバカなと「驚き」でしたが、“恥をかきたくない”というこの男の言い分、弱い人の倫理で生きる彼の行動も理解でき、「驚き」が「これが実態だ」に変わり、現代恋愛劇を面白く鑑賞しました。(#^.^#)
さらに、ラストでドラマの主人公女性脚本家:矢崎莉桜が語る言葉のなかには、監督の想いが込められているようで、表現者の苦悩が察せられ、いろいろな批判にもめげることなくこの作品を世に問うているんだという思いを深くしました。(#^.^#)

キャステイングはとてもうまく出来ています。岡田さんのイケメン顔で女をひっかけ弄ぶゲス男ぶり、この人でなければという当たり役でしょう。() そして、注目した志田さんのすべてを諦めた女子力不足の女、夏帆さんの天然女子の演技も楽しめます。
主演の木村文乃さん、プライドが高い高慢な女性から傷つき自分を見失い、ここから立ち直るという変化のある演技を木村さんらしく自信をもって演じ切りました。この作品が代表作になるでしょう。

物語は、イメージ 5
一度はヒットを飛ばしたものの、今は売れないアラサー脚本家の矢崎莉桜(木村文乃)は、自身の講演会に参加した4人の女性たち【A】~【D】の恋愛相談を新作のネタにしようと企んでいた。【A】~【D】の話を聞いて、そんな男のどこがいいのかと思いながらも、ネタのためにと彼女たちを巧みにけしかけていく莉桜。そうして取材を重ねていくうちに莉桜の中で相手の人物像が一人の男へと集約されていく。なんとそれは、莉桜が講師を務めるシナリオスクールの生徒で、彼女がもっとも見下していた男:伊藤誠二郎(岡田将)だったのだが、やがて莉桜自身も「5番目の女=E」として伊藤に振り回されていく。<allcinemaから>
***

イメージ 3
ドラマ版では、伊藤に出会ってしまった【A】~【D】の女たちに何が起こったか、それぞれのエピソードを脚本家の莉桜が聞いていくという話。
A】好きな男に振り向いて欲しい女性:島原智美(佐々木希
【B】自分のやりたいことのために閉じこもる女性:野瀬修子(志田未来【C】親友の好きな人を寝取ってしまう誰とでも寝る女性:池田エライザ(相田聡子)
【D】好きな人をずっと追い求める処女の女性:新保未希(夏帆
この作品には「男性厳禁!女たちの『毒』を観て、幻滅恐れあり!」というコピーがついています。確かに男は美男子だが、自意識過剰、無神経、童貞の28歳フリーターに入れあげる女性は理解できない。この恋に秘めた女性たちの嫉妬、執着、苛立ち、優越感を間のあたりにします。()  柚木麻子さんならではの女性観察眼でしょう。 しかし、恋の結末は全員が目覚めこの男をふるという成長した姿を見せてくれ、ほっとしました。()

映画ではこの物語の先、伊藤と莉桜の関りに主体が置かれ、新たに【E】過去の栄光にすがり、仕事で模索してA~Dをあざ笑う女性矢崎莉桜の話が加わり、ラスト10分間でふたりが対立する見せ場になります。監督の持ち味である長回しで、岡田さんと木村さんの緊迫した心理演技を見ることになります。

ドラマを観た人には長々と【A】~【D】ドラマを見せられうんざりするところがあるのではないでしょうか、評判が悪い!() 初めての私には全く問題なしでしたが、描写不足でわからないところがあります。特に【B】の話。反面、莉桜が女性たちが同じ男と付き合っているとわかってからの【D】と【E】の話は、サスペンスフルで、まさかこんなことがと驚きます。() 莉桜の吐く毒の利いたセリフもよかった。
イメージ 4
伊藤が4人の女性ドラマを書くことを知り、自分が書くドラマと被ると知ってからの莉桜の怒り、恐怖、落胆。過去のヒット作にすがり虚勢を張って豪勢に事務所を構えわずかな経験にもとずく生噛りな恋愛講座を開くなどの生活態度を一変させるほどの衝撃を受け、必死に描く女性たちの物語。そこには彼女にしか書けない伊藤にいじられ立ち直った彼女たちのその後が、やさしい女性目線で描かれていました。
イメージ 1
ラスト10分の伊藤と莉桜の対決。ふたりが同じテーマでドラマを書くことで起きた対決。
伊藤は言う「あなたは私がドラマを書くと聞いて驚いたでしょう。私は書かない。人からどう思われるか、世間からどう評価されるか、あんなしんどいことをして書く意思はない。みっともない恥じを晒したくない。誰にも笑われない、傷つきたくない、作品ができたら非難される。だから土俵に上がらない」。
 
これに莉桜「私は負けたよ!これから何度も負ける。それで良い。あなたは自分のことばかり、自分、自分、自分!いつかむなしくなる。描いた彼女たちは全部わたしよ。見えない、傷つきたくない、面白くない、数字が取れない、あいつは過去の人、傷つくに決まっている。それでも書くよ!何度傷ついても書く」。

莉桜もまた、4人の女性とおなじように伊藤に関わることで、己の至らざるを知り主体性をもって、新たな気持ちで執筆活動に入ります。男に振り廻され、傷ついた女性たちが生き返る物語、さわやかな結末でした。(#^.^#)
***