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「デトロイト」(2017)

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ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督作品。1967年の“デトロイト暴動”のさなかに起きた衝撃の事件を再現化し、今なお続く銃社会の恐怖とその根底にある人種対立の闇を浮き彫りにした実録サスペンス。
本年度アカデミー賞最有力とのキャッチに鑑賞を楽しみにしていました。ところが、直前に、ノミネイトで落選、何故かと。理由はおそらく・・、分かります。(#^.^#)イメージ 3

観ての所見ですが、アカデミー賞が取れるかどうかというレベルの作品ではなく、遙かにこれを超えた大きなテーマへの挑戦で、いまの世界に求められるもの、よくぞ世に問うたと美しい女性監督の胆の大きさに感嘆です。観るべき映画です!

主演は「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」のジョン・ボイエガと「メイズ・ランナー」のウィル・ポールター、共演にアルジー・スミス、ジョン・クラシンスキー、アンソニー・マッキーらです。

物語は、

19677月、デトロイト。黒人たちによる暴動が激化し、鎮圧に乗り出した軍や地元警察との衝突で街はまるで戦場と化していた。そんな中、運悪く暴動に巻き込まれ身動きできなくなった人気バンド“ザ・ドラマティックス”のメンバー、ラリー(アルジー・スミス)が宿泊していたアルジェ・モーテルで銃声が鳴り響く。それは黒人宿泊客の一人がレース用のオモチャの銃をふざけて鳴らしたものだった。

しかし、それを狙撃手による発砲と思い込んだ大勢の警察官がモーテルになだれ込んでくる。やがて、偶然居合わせただけの若者たちが、白人警官のおぞましい尋問の餌食となっていくのだったが…。<allcinema


作品の中心にアルジェ・モーテル事件の真相解明に置き、「アルジェの戦い」(1966)のように詳細に資料を漁り、関係者を作品に参加させ、40分にわたりこの狂気の悍ましい惨殺劇を暴露することで、警察官を裁く法が必要だと見せつけます。しかし、この事件の発端となったなぜデトロイトで暴動が起きたか、これへの警察・軍・州の対応、警察官の意識。そして事件後の警察による問題警官の尋問、裁判を描くことで、その奥にある警察権力、軍隊、国家の罪を、さらに法では裁けない人種偏見の罪を問うています。事件の発端になったオモチャの銃が未だに発見されてないという(エンデイング)、これこそがこの作品を世に問う意味があるということでしょうか。

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冒頭で、アニメにより第一次大戦で大量の黒人が人権と仕事を求めてデトロイトに集まり、第二次大戦後白人は郊外に移り中心部に黒人が住み人口過密のなかで白人警察と対峙し、いつ暴動が発生するかという状況にあったという。イメージ 4

1967723日、この状況下で黒人のベトナム兵の帰還を祝うパーテイーが開かれるが、この店が無許可営業酒場であると警官が押し入り横暴な取り締まりを行う。これに反発した住民が警察と小競り合い、この騒動が大規模な略奪・放火に発展。下院議員が説得しても収まらない。2日目には州知事が州の警察・軍隊の出動要請イメージ 5

し、緊急事態宣言が出される。

出動した戦車が窓からのぞく子供を発見して発砲する。軍には発砲許可命令が出ている、これはもう内乱です! 法的根拠は分からない!

3日目には、フォード工場への出勤禁止。警察・州兵による大量逮捕者が出る。
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この状況下でパトロールしていた警官クラウス(ウィル・ポールター)が買い物袋をもって走っていた黒人を背後から撃ったと告られ、上司の取り調べを受ける。「そいつ逃げたから、だから人を殺したと思った。町は破壊されている。完全なカオス、町はどうなるんだ」と反発。上司は「殺人罪で報告するぞ」と注意を促すが、これを聞き入れる様子はない。武器使用できる警察権限は知っているが、権限など関係ないという態度。上司は彼の行動を制限すべきであったが見逃している。法はあって無しの状態。

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一方、警備員のデイスミュークス(ジョン・ボイエガは制服で食糧品店の警備をしていて、警官に追われる黒人を「わたしに任せてくれ」と引き取り逃がす。

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地元ボーカル・グループ、ザ・ドラステイックスのメンバーがフォックス劇場での公開を控え準備しているところに、公園中止の指示が出る。リードシンガーのラリー(アルジー・スミス)は友人のフレッド(ジェイコブ・ラテイモア)と混乱を避けるためにアルジェ・モーテルに宿泊する。そこで、ふたりの女性に出会う。ホテルには女性たちの友達黒人青年カール(ジャイソン・ミチェル)ら4人、ベトナム帰還兵グリーン(アンソニー・マッキー)が滞在していた。


彼らは簡単なパーテイーの後、自分たちの部屋に戻って休んでいた。カールがリー(ペイント・アフレックス・スミス)に「警官は黒人にいつも銃を突きつける」とオモチャの銃を向けて“警察ごっこ”でふざけているところに、ホテルの外に州兵が集まっているのを知り、2階からこの拳銃で空砲を撃つ。これに州兵が実弾で撃ち返す。


そこに、いわくつきの警官クラウスが他のふたりの警官とともに進入してきていきなりカールを背後から射殺し、遺体の傍にナイフを置き、正当防衛であったという証拠を残す。とんでもない悪ガキ警官です!

警官クラウス役のウィル・ポールター、子供っぽい風貌で、正義感を振りかざし、表情を変えず平然と殺害を犯す鬼気迫る演技はすばらしいです!
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全員を一階の廊下の壁に両手を挙げさせて立たせ、銃をちらつかせ、小突き「お前らは犯罪容疑者。銃はどこにあるか。撃ったのはだれか」と威嚇する。彼らはなぜ容疑者として逮捕連行しないのか、甚振るために部屋に留めているのか?

ここに警備員のデイスミュークスが何があったかと様子見にくるが、何もできない。恐怖で事態を観ているだけ。

異変に気付いたのか州兵の准尉は顔を見せるが「デトロイト市警は酷い」と上級部隊に報告して見てみないふりして去って行く。

警官らはひとりづつ別部屋に呼び銃で脅し尋問を続ける。クラウスの行動が他の警官に波及し、さらに1人が射殺される。この射殺をちらつかせて尋問を繰り返す、まさに「殺人ゲーム」だ。女の子は衣服を剥ぎ「黒人と寝たか」と脅す。ベトナム戦争映画の「デイア・ハンター」です。約40分間、警官たちの蛮行を観ることになり、吐き気がします。(映像は血を描くなどの目を覆いたくなるシーンはなく、うまく作られています)


ついに警官たちは、「だれにも話すな」と殺害がなかったことにし彼らを解放するが、フレッドがこれを拒否し3人目の犠牲者になる。


警察はクラウスら問題警察官を呼んで事情聴取する。クラウスは弁護士を通じて話すとこれを拒否。他の二人は事実を認める。警察は、一応、法に乗っ取った処置を見せます。

デイスミュークスは警察に呼ばれ、「お前は銃を持っていた。殺害現場にいた」という理由で拘留される。彼は、あのときは何もできなかったと涙を見イメージ 9

せます。ジョン・ボイエガは、スター・ウオーズのフィン役と違って、弱い立場の黒人で泣くことの多い役を演じますが、とても繊細にうまい演技を見せてくれます。びっくりです!


地方裁判所での裁判。デイスミュークス、ラリーともに証人として参加し、彼らが見たとおり証言しますが、全員白人で構成される陪審員判決で、警官が無罪となる。これを聞くデイスミュークスが「警官には、他の犯罪と同じように、法律が必要だ」と泣きます。


ラリーはボーカル・グループから誘いがあっても、「(会場に)警官がいるから」と断り、教会の聖歌隊に応募する。ラリーは、ここで「本来、人は皆平等であるはず。僕らのような人間にとっては、そうでないんだ。心が泣き叫んでる。僕らはいつ成長するのか」と歌っています。“僕らはいつ成長するのか”が問われています!

白人警官による黒人への暴行ニュースが伝え続けられている今、法律だけでは解決できない、根底にあるのは人種差別。監督は人権大国を標ぼうする自国を訴えたのです。この勇気に感動しました!

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