史実と空想で楊貴妃の死の真相に迫るという筋書き、とても面白かった。何よりも当時の栄華を極めた唐の息を飲むほどの美しさに、大味なストーリー展開もすべて許せるというもの。
監督は「さらば、わが愛/覇王別姫」「始皇帝暗殺」のチェン・カイコーさん。日中合作の歴史ファンタジー・ミステリー大作です。
物語は、唐の都・長安を舞台に、妖猫をめぐる怪事件の謎に挑む若き天才僧侶・空海と稀代の詩人・白楽天の活躍をファンタジックかつ壮大なスケールで描き出すというもの。主演は染谷将太とホアン・シュアン、共演にチャン・ロンロン、阿部寛。
冒頭、歴史的物語の背景説明があり、都の役人:陳雲樵(チン・ハオ)の妻:春琴(キテイ・チャン)が妖猫の魔術に取り憑かれるシーンに合わせて、3つのタイトルが表示されます。「空海―KU-KAI―美しき王妃の謎」、中国語題が「妖猫傳」で、英題が”Legend ofthe demon cat “です。
物語の90%は「妖猫傳」、空海は物語の狂言回し的役割に使われ、楊貴妃の死の原因を追うことで、空海の渡唐目的である密教の習得は本山青龍寺で修行しなくてもしっかり身についているとして「空海の物語」としています。
むしろ、当時世界最大の都市長安の街に集まる人・物、多彩な文化の交流、自由な社会仕組に憧れ、死を決して荒海を渡り、この街で生き学ぼうとした当時の日本人の心意気を、あまりにも美しい映像であるがゆえに、鮮明に気付かせてくれ、妖猫だけの物語ではない、このタイトルで十分だと思っています。
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宮廷で奇病に罹った皇帝の祟りを払うために急ぐ僧:空海(染谷将太)。馬車に乗った空海が揺られて通る千歩廊大街、その先にある壮大な大宮が現れるシーン、この物語の美しさ、壮大さに引き込まれていきます。伏せていた皇帝が立ち上がり狂い死にする。側役人は「風邪で亡くなった、他言無用」というが、床に猫の毛を見つけ死因に疑念を抱く。同席する、書記として死の記録をする白楽天(ホアン・シュアン)も異変に気付く。
剃髪の染谷さん、僧侶としての知恵者という感じと落ち着いた態度に、白楽天のホアン・シュアンに負けないオーラが見えます。目の輝き、時に見せる微笑がとても良い。この作品のなかではしっかりと存在感を残しています。
ふたりは、この出会いで、長安の里坊を歩き、遊郭顧玉楼を訪ね遊ぶ。この街並みの精巧さ、顧玉楼の豪華さに驚かされます。途中で西瓜売りの瓜翁(チェン・タイシェン)が西瓜を売るために妖術を使うのを見破り、顔見知りになる。この男には大きな謎が秘められており、最後に明かされます。
そこに陳雲樵が遊びに来ていて、妖猫が現れ大騒ぎとなり、彼のお気に入り
の芸生:玉連(チャン・テイエンアイ)にかぶり付き大けがを負わせる。空海がこれを治療したことで、妻の春琴も治療して欲しいと乞われる。陳雲樵家を訪ね、妖猫に取り憑かれた春琴から「自分は陛下の猫だった。ずっと一緒にいるはずであったが私を置いて逃げた。私は生きたまま埋められた。この恨みを伝えるために陳雲樵家に取り憑いた。私の運命はあの方(楊貴妃)と同じだから」と告白して亡くなる。
の芸生:玉連(チャン・テイエンアイ)にかぶり付き大けがを負わせる。空海がこれを治療したことで、妻の春琴も治療して欲しいと乞われる。陳雲樵家を訪ね、妖猫に取り憑かれた春琴から「自分は陛下の猫だった。ずっと一緒にいるはずであったが私を置いて逃げた。私は生きたまま埋められた。この恨みを伝えるために陳雲樵家に取り憑いた。私の運命はあの方(楊貴妃)と同じだから」と告白して亡くなる。
空海は「楊貴妃(チャン・ロンロン)は生き埋めにされたのか。君の作っている長恨歌は誤りか?」と問えば「ほらしい!猫の言葉など信じるな」と白楽天が怒り、ふたりは仲違いする。ここで、空海は何故唐にやって来たかを語り、仲を取り戻そうとする。白楽天が「私は李白には及ばんが、長恨歌は嘘とは言えんぞ!」と強く李伯を意識していることを告白する。
他玄宗帝が楊貴妃を熱愛していたこと、仲麻呂が楊貴妃に好意をもっていて倭国に逃げることを提案したこと。李伯(シン・バイチン)が玄宗帝の強い要請で楊貴妃に詩を作ったこと。そして妃が「大唐の誇り」と褒めたこと。玄宗帝が安禄山(ワン・デイ)のご機嫌をとり反乱を収めようとしたこと。幻術師横鶴(リウ・ペイチー)の弟子:白龍(リウ・ハオラン)と丹龍(オウ・ハオ)が幻術で鶴となり楊貴妃を慰め、白龍が妃に強く心を惹かれたこと。
阿部仲麻呂は唐で国家の試験に合格し唐朝において諸官を歴任して高官に登ったが、日本への帰国を果たせずに唐で客死したという史実から、この設定ありで面白い。しかし、楊貴妃に恋をして日本に連れ帰るという発想にびっくりです! 阿部寛さん、聡明でさわやか、恐らく女性にモテたのでは?なかなかの存在感でした。
この宴を契機として治の乱れを糺すと案禄山が謀反を起こし、事態収拾に楊貴妃の首を求めてくる。妃を失いたくない玄宗の気持ちを察した横鶴が「幻術で死なせてはどうか」と提案する。仲麻呂もこの場に参加していたが、どう実行されたかは分からないとし、墓所が記述されている。
妃の遺体をあらために墓所を訪れると、すでに棺は改められ、棺の蓋に楊貴妃が生きていた痕跡が残されている。そこに一匹の妖猫が現れる。妖猫は白龍の化身、白龍は隠された楊貴妃の死の真相を語ります。それは彼女に対する人々の愛と裏切りと悲しみが込められた物語でした。この場に、瓜翁が登場することで、白龍の悲しみが収まるという結末。
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