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「15時17分、パリ行き」(2018)

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2015821日に起きたオランダとフランスを結ぶ高速国際列車タリスで起きた銃乱射テロ事件で犯人を勇敢に取り押さえて大惨事を阻止したアメリカ人青年3人の英雄的行為を映画化した実録ドラマです。監督はクリント・イーストウッド、どのようなドラマになるのかと期待一杯でした。
 
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物語は、男が大きなキャリーバッグを引き駅のコンコースを経てエレベーターでホームに上がり、この間足元しか写さない、列車に乗るところから物語が始まります。
何がこれから起きるのかと思いきや、時系列を無視した犯行現場カットをいくつか挟みながら、大部は犯行を阻止した青年たちのこれまでのエイソードを描き、事件現場に繋がるというもの。
さらに、3人の主人公のほか、事件が起きた列車に偶然乗り合わせていた乗客たちの多くが本人役として起用され、劇中で自らを演じるというこれまでにない演出です! 唖然とさせられました。
 
何を描こうとしたのか、何故本人たちに演じさせたのか、この作品のテーマに深く関係しています。
“どこにでも居そうな彼ら”が英雄になったことに監督は興味を持ったのでしょう。
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主人公のスペンサー・ストーンとアレク・スカラトスはともにシングルマザーに育てられ、小学校ではADD(注意欠陥障害)として公立中学は無理と宣告され、薬を飲ませるようにと担任から強要されるという問題児、落ちこぼれです。しかし、母親はこれを無視。自主性を重んじ、しっかり子供を守る人でした。
私立のキリスト教中学に進学。ここで、バスケの奨学生として転校してきたアンソニー・サドラに出会う。三人は素行が悪く校長から叱責されることで仲良くなる。スペンサーの家に集まり、オモチャの銃で戦争ゴッコに夢中になる。第二次大戦史を調べて戦うというオタクぶりです。しかし、就寝時には「僕を平和な道具にしてください」と祈る子でした。
学校はプロムを認めないとアンソニーが、そしてアレクが父親に引き取られるということで三人は別かれることになるが、常に連絡をとり合い励ます仲のよい友人でした。
 
その後、アレクは州兵となりアフガンに派遣される。アンソニーは大学に進学。主人公スペンサーは、アルバイトで偶然店にきた海兵隊員から空軍のパラレスキュウー部隊(パイロットの救出)に興味を持ち、体重を落とし自分で身体を鍛え、受験するが奥行知覚検査で不合格になる。しかし、空軍に入りEMT(緊急救命士)を目指し教育を受けますが、寝すぎて訓練に遅れるという、通常考えられないほどののんびり屋。覚えが悪いが、努力家で資格をものにします。テロ攻撃の警告(誤報であったが)では身を安全な場所に隠すというのがマニュアルですが、ご本人は部屋のドアに張り付き敵の進入を待ち受けるという少し人と変わった正義感の強いところがある。
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スペンサーの提案で、三人はヨーロッパの旅行に出ます。とりあえずスペンサーとアンソニーはイタリアに。アレクは親戚を訪ね第二次戦争の戦跡を見ようとドイツに出かけ、どこかで会って一緒に旅をすることにする。
スペンサーたちはローマ、ヴェニスを訪れ、女が美しいというホテルでの客の勧めでアムステルダムのダンスイベントに参加。ここでアレクと合流する。
ダンスイベントで飲み過ぎて、朝起きてこれからどこに行こうかと「俺たちに選択岐はない、大きな目標に向かって導かれているだけ」とパリ行きを決めます。
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偶然、アムステルダム1517分発パリ行きに乗車。WiFiが使えないと12号車に移動する。ここで犯人と出くわすわけでまたまた偶然です。
沢山の偶然の重なるなかで事件に遭遇。アレクはスペンサーに「行け~っ!」と叫ぶ。AK47を構える犯人にスペンサーが飛びつく。なんと不発射!薬莢詰まり。スペンサーはナイフで斬られるが致命傷ではない。三人で取り押さえる。スペンサーが技術を生かし、負傷者に応急救急処置を施します。こうして1人の死者も出さず、列車は次の停車駅まで疾走する。
 
高校を卒業後からの行動が当事者によって演じられますが、事件解決の決め手である育まれた性格特に主役スペンサーと彼らの友情、格闘技術が生々しく映し出されます。普通の人だと思え、彼らがこれだけのことができる、ここには何も嘘がないと納得です。当事者に演じさせるという試みは成功しています。

いくつもの偶然が重なり、英雄になるという奇跡が起きた。予測できるものは何もない。そこにあるのは、積み上げてきた人生経験だけです。

彼らのこれまでの人生になかで、この事件に対応できるものが出来ていた。そして偶然にこの事件に出会い、咄嗟に動いた、これが英雄行為につながったということ。監督がこれまで描いてきた英雄物語とは大きく異なるところです。
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「誰にでも起こり得る不測事態に対応できますか」と問うています。そこには、「心配ない! この若者たちと同じだから。勇気を出せ!」と教えてくれています。「人生なんてわからないものだ。人は常に理知的に論理的に生きることもできる。でも、それでは予測の範囲内のことしかできないんだ」という監督の人生感。年寄りの繰り言は、聞きずらいものですが()、蘊蓄があります。
記者が次作品の構想を聞くと、この質問は愚問、「分からない!」と答えていますので、大いに期待したいと思います。(#^.^#)
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