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「万引き家族」(2018)

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是枝裕和監督作品。第71カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールを受賞、おめでとうございます。先行上映日の初回、予約を入れて駆けつけましたが、がら空き。() パルムドール作品は、敷居が高いですよね!()  

昨年の当該作品「ザ・スクエア 思いやりの聖域」と同様、現在社会の闇をあぶり出した作品になっています。キャッチコピーは「犯罪でしか繋がれなかった家族の物語」。その犯罪の背後にある格差社会の闇や人と人との繋がり、家族の在り方を問うていて、世界が直面している問題であり、これが高く評価されたのでしょう。日本では首相が祝いのコメントもしないとフランスの有力紙が批判しているそうですが、今の安倍首相には、コメントは出し難い作品でしょうね。()
 
キャストは、是枝組常連のリリーフランキー樹木希林さんに、安藤サクラ松岡茉優さんが加わり、子役として城桧吏佐々木みゆちゃんの出演です。このキャステイングは見事です。

あらすじ
東京の下町。高層マンションの谷間に取り残されたように建つ古い平屋に、家主である初枝(樹木希林)の年金を目当てに、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、10歳の息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)が暮らしていた。彼らは初枝の年金では足りない生活費を万引きで稼ぐという、社会の底辺にいるような一家だったが、いつも笑いが絶えない日々を送っている。
そんなある冬の日、近所の団地の廊下で震えていた5歳の女の子・ゆり(佐々木みゆ)を見かねた治が家に連れ帰り、信代が娘として育てることに。そして、ある事件をきっかけに仲の良かった家族はバラバラになっていき、それぞれが抱える秘密や願いが明らかになっていくという展開。(HPより引用)

寒い冬から始まる季節感のなかで、煮汁の浸みたお麩を入れ歯を外した初枝が、その熱さに耐えられずゆりの口にいれる食事風景。() ゆりの髪を切り、水着での入浴、音だけの花火見物、シーズン外れの海水浴、ゆりの歯抜けを祝う家族、素麺〇〇〇、父子で作る雪だるまなど、監督特有の丹念に集めたエピソードで描く日常。この疑似家族の暖かさを映像でしっかり感じさせる脚本・演出がすばらしい。

万引きも日常品や4万円の釣竿程度で、生活を補うための最小限。”すいません”程度のものです。() 夏の終わりに初枝が亡くなり、翔太が万引きで捕まり、この家族は崩壊しますが、そこで語られる結末は、「彼らはどうあるべきであったか、これからどうあるべきか」は描かれず、すべてを観客の判断を委ねられています。

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〇前半で、この家族は“何者”の集まりか、“何故”つながっているのかと、その暮らしぶりが、ドキュメンタリー風に、ミステリアスに描かれます。このつながりを追っていく過程は結構おもしろい。全員が、親のDV、犯罪で社会から捨てられた人たち。これを結びつけるものは何か?万引き、年金?と問いかけてきます。そうではない、お互いを思いやる愛情なんです! キャッチに偽りありです。タイトルが微妙ですね!

ゆりが万引きの手伝いをして家族の一員に育ってくることに、翔太が「うちの家族はスイミー(レオ・レオニ作、谷川俊太郎訳「ちいさなかしこいさかなのはなしだ」という。
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ビルの谷間に住む家族が、スイミーとなって、まるで暗い深海から水面に差し込む光を見上げるように、光の見えない墨田川の花火大会を耳で楽しむシーンは、どん底の家族がわずかな光を待っているようで、この作品が訴えていることを的確に表現したすばらしい映像です。 
 
治と信代夫婦。
治と信枝は、信枝に暴力を振るう夫を殺害して一緒になった夫婦。治は元犯罪者で仕事に就くことが難しく、たまに仕事に出て怪我するが労災が下りない。パチンコと万引き稼業になるわけです。信代もクリーニング店に勤めるがレオオフで、まともな仕事に就けない。
この貧しさがどこからくるのでしょうか?こんなふたりに家に来ないかと手を差し伸べたのが全く血縁のない初枝でした。

ふたりは、拾ってきた“ゆり”に、次第に母・父としての愛情を感じ始めます。
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特に、信代は、自分が母に捨てられたことから、境遇が同じであるゆりに“自分が産んだ子ではないが、自分が母親だ”と精一杯の愛情を注いでいる。サクラさんがゆりを抱擁するシーンは暖かい!
 
翔太と家族。
翔太は、車に放置されているのを治が助け出し、この家に連れて来られた。治は「学校は家で勉強できない者がいくところ」と教え、自分の子のように育てている。翔太は、いまだ、治を“お父さん”とは呼べない。が、治は呼んで欲しいと思っている。
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翔太は押し入れで自習し、万引きで治の相棒を務める。最近、治の車上荒らしを見て、自分は物として連れてこられたのではと治を疑い始め、万引きを
治と組まなくなる。

ゆりには、連れて来られた当初、ゆりが来たことで自分が捨てられるという不安があり、はやくゆりを家族の一員にと万引きを教えようとするが、これはよくないと教えるのをやめ可愛がる。ゆりも“お兄ちゃん”と呼ぶようになっている。
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初枝と治夫婦。
治夫婦は初枝の願いで一緒に住むことになった。年金を目当てに一緒に暮らし始めたのではない。初枝はこの関係を「保険」だと言う。海水浴で、浜辺で戯れる5人を見て、「この家族は“キズナ”(手をつないでいる)で結ばれている」と言い、手を合わせ「ありがとうございます」と感謝する。
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のちに信代は初枝の遺体を隠したことで刑事から「遺体遺棄は重罪」と問われ、「捨てたのではない。拾ったのだ」と証言します。老人に同居を求められ、血の繋がりはないが、一緒に暮らし家族になっただけ。だれが老人たちの面倒をみるの! 初枝はこの暮らしに満足して亡くなりました。その後がねえ!でも、きっと初枝を許したでしょう!
 
亜紀のこの家族のなかでの位置付け。
よくわからなかった。() 女子高校生の制服で、JK店で働いているが生活費を入れない。とても初枝に懐いている。
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ゆりを妹のように可愛がる。亜紀も家族から疎外視され、初枝に拾われた子で、ゆりと同じ境遇であることによるもの。
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茉優さんがマジックミラーに向かい、おっぱいを揺らし自慰して稼ぐ姿を見せます。同じ心の傷をもつ客4番さん(池松壮介)に触れ、傷をいやす演技はこれまでにない茉優さんの演技で、寂しさや優しさがよく出ていて、とてもよかったです!
 
〇後半、翔太がゆりの万引きが発見されるのを避けるため身代わりなり、万引きに失敗して警察沙汰になる。そして、ゆりの誘拐疑惑が、初枝が亡くなった後も年金の受給を受け続けたことが明らかとなる。
 
尋問のなかでこの家族のこれまでに分からなかった家族の結びつきや想いが明らかにされ、罪の奥にある社会のひずみ、人としての愛憎、母・父性があぶり出され、法や正義では解決できない、「幸せとは何か」を問われます。

亜紀は、刑事から、「初枝はあなたの親からお金を受け取っていた」と聞かされ、可愛がってくれたのはお金のためだったのかと初枝の遺体は床下に埋められていると自白する。しかし、初枝から受けた愛情は本物でお金には替えられない、あのとき初枝に拾ってもらわなかったら、もっと身を持ち崩していただろうと、初枝の屋敷を訪ねる。
 
実は、初枝には理由があった。夫を盗んだ女の孫が亜紀で、女への恨み・仕返し、慰謝料だったのです。() 
いつもは入れ歯を外し、襤褸を纏ってる初枝がしっかり着こなして出向き金を受け取るという変化のある希林さんの演技がおもしろい。
 
翔太は、刑事(高良健吾)から「治夫婦はお前を捨てて逃げた。ゆりは母親のもとに戻った」と聞かされ、刑事が勧める施設で生活することを選んだ。
 
ゆりは、刑事から「どんなひとと暮らしていたか」と聞かれ、海水浴で5人がジャンプする絵を描き、初枝がいたことを口にしなかった(口止めされていた)。佐々木みゆちゃんの名演技です! ゆりは5人で生活したかった。しかし「産みたくて、産んだんではない」という母親の元に戻された。法律的には正しいが、ゆりは幸せか?
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信代は、刑事(池脇千鶴)に「子供を産めないあなたは母親にはなれない!だから“ゆり”を盗んだの?」と問われ、自分は母親だと思って抱きしめてきたゆりのことを思い、泣きます。信代・サクラさんの“この泣き演技”を審査委員長・ケイト・ブランシェットさんが絶賛しました。
ここでは、血の繋がりのない母子は母子になれないのかと問うています。この子の幸せをだれが保証するのか?
 
信代は、前科のある治に罪を着せないようすべてを自分の罪にして服役中。刑務所に治と一緒に接見にやってきた翔太に「あなたは車中に捨てられていた。場所は松戸のパチンコ屋、車番は習志野。自分で探しなさい」と教え、笑顔で接見を打ち切る。しかし、翔太は信代の笑顔を見て、自分の親を探さないでしょう!
 
治は、初枝の保険金詐欺容疑を問われ、「あれは保険金だった」というが刑事には理解できない。「ちゃんと世話したんだからあたりまえ」というのが治の主張。
翔太の誘拐容疑について「なぜ万引きをさせた」と問われ、「ほかに教えるものがなかった」と応える。翔太はこれまで十分に幸せだった。翔太を保護した段階で、法に任せればよかったのか?
 
施設で生活する翔太を呼び出し、家に泊め、即席ラーメンを食べて、かっての万引き家族の生活を楽しむ。夜半降ってきた雪で、ふたりは雪ダルマを作る。そしてふたりで布団に入り親子のように眠る。
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次の朝、バスで施設に戻る翔太を見送るとき、翔太が「わざと捕まった(家庭を壊したのは自分だ)」と謝る。「そうか(嘘つけ)」と治。治はバスを追っかけ翔太に手を振るが、翔太は無視して振り向こうとしない。
翔太は、施設で生きようとするが、「あの家族はよかった」と思っているでしょう。無断で外泊し、治と一緒に過ごしたのですから。
 
実母のもとに戻ったゆりが、母に相手してもらえず、アパートのベランダでひとり遊ぶシーン、この子は今何を求めているか。
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もう形は無くなったが、「今もあの家族は存在している」と感じられ、秀逸なエンデイングでした。涙が止まらない!!
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